231プレイ目 アンセム
とりあえず金策金策ぅ!とエルフの国で花蜜集めをしてからアンセムの街に戻って来た椛は、掲示板が知らない話で盛り上がっていたので雑談スレで聞いてみた。
椛が忘れきっていたネタをシラベに投げたのが原因だったらしい。
なんで他の人、疑問にも思わなかったの!と思ったが、椛もきっとなんとなく聞いただけだったはずだ。そのまま忘れていたくらいだし。
「西の大陸に封印都市とか名前を聞いただけでテンションの上がる場所があるって、移住者たちの間で大盛り上がりしてるらしいよ」
「それで聞いて来たのか、あの連中。椛から聞いたって嘘までついて」
「どの連中か知らんけど、わたしは今知った」
冒険者組合の買い取り窓口のおっさんに聞けば、誰かが椛の名前を勝手に利用しようとしたらしい。
通報してもいいだろうか。
「うちのクランの連中はだいたい行けるようになったらしいけど、なんか条件あるの?」
「あそこは手強いボスと連戦になるからな。実力のない奴を入れる訳にはいかないんだよ」
「移住者なんだし、好きなだけ死にまくればいいんじゃないかな」
「封印都市のダンジョンも死なずに済む特殊なダンジョンなんだよ。だからこそ死に慣れないように制限してんだってよ」
「《神殺しの塔》は」
「危険度Sって聞いて誰が入るんだ…」
確かに、プレイヤーだって危険度を聞いただけで入りたがらなかった。
ハイレオン帝国の騎士たちがおかしいだけである。
「ヤマト国にも似たダンジョンがあるって聞いたけど」
「そこも死なずに済む特殊なダンジョンのはずだ。神問ダンジョンって名前じゃなかったか?」
おっさんが受付嬢に確認すると、そうだと思いますと肯定した。組合の職員たちはけっこう情報通である。
「でも対象者よりレベルが高い敵ばかり出て来るので、とても難しいと聞きますよ」
「そいつはヘビーだ…」
エンドコンテンツに近いミニゲームっぽいのは同じなのだろう。素材が欲しいなら迷宮都市だけで充分そうである。
椛は鍛冶師と皮革師に改めて必要素材数を尋ねたら、主どん素材まで足りなかったので回収しているところだ。
忘れきっていたボス素材の付与スキルの件も慌てて調べて、回収の旅に出ることも決まっている。
幻のワニ革を求めていた頃は検証クランにちょっと貢献していたのに、いつの間にか忘れていた。
シラベには期待されていなかったらしい。
そんな気はしていた。
新たに入手した果樹の苗を神殿に寄付して、自分のレンタル畑にも持って行った。
そろそろ借りられる畑が上限になりそうである。
「何か減らさなければならなくなる…そう、黄金のさつま芋を手に入れたなら!」
「本当にあるんですか?」
「あと餡子の材料になる豆類」
「それは是非手に入れて欲しいです!」
椛のレンタル畑で作る必要はないが、アンセムでも流通して欲しいものだ。
きっと和菓子が増える。
なんて話をレンタル畑のある村でしてから、椛はアンセムに戻って来た。
商業組合に受け取り忘れていた収穫物を取りに行く。
「こういうのも家が出来たら自宅に届くんだっけ」
「ポストの設置は必要ですけど、そうなりますね」
「家…いつ完成するんだっけ…」
「まあ、とうとう家をご注文になられたんですね!宿屋暮らしともお別れですね」
「面倒だったら宿に泊まる気がするなあ」
大金を払ったので椛も家を注文したことは覚えていた。ただ完成日が分からなかっただけだ。
あとで引き取りに行かなくては。
「そうだ。神殿前広場の近くのアップルパイの美味しいお店、この青りんごで作って欲しいなあって直接頼みに行ってもいいものなの?」
「そういう交渉こそ我々にお任せ下さい!」
「…たくさんは出せない。あと少し味が落ちるほうなら、そのうち売られると思うよ」
「もちろんすでに情報は得ておりますとも」
商人の耳の早さは驚異的である。
いつものことだから驚きはないのだが。
「椛様なら同じ森で捕獲できる猪をたくさんお持ちだろうな、と思うのですよ」
「…じゃあ3頭ね」
「毎度ありがとうございます!」
どこに売るのか知らないが、よほど儲けが出るのだろう。受付嬢の美女の目が金貨になっていたものだ。
商業組合から冒険者組合に移動した椛は、酒場のテーブルに座って焼き芋を取り出した。
アンセムに戻ってすぐに補充したので、今はたくさん在庫がある。
焼き芋を食べながらメニュー画面で素材の再チェックをした。主どん素材は防具となると自分用、玄幽用と2倍必要になる。5×2で防具10個分だ。
アンセムに来るたびに集めていたのだが、あと10日くらいかかりそうだ。
10日で済むのだから、けっこう集めてあったとも言える。
「なあ、今度はシンモンダンジョン?ってのが話題だけど、何の話だ?」
「ヤマト国にあるらしいよ。そこのおっさんに聞いた」
たいていアンセムの組合にいる受付嬢のファンたちだが、ずっといる訳ではないのでどこかに出ていたようだ。
戻って来て椛に尋ねて来たので答えておく。
買い取り窓口のおっさんのほうを見て、なるほどと納得していた。
「話をしてた時、何人かプレイヤーがいたから、その人たちじゃない?わたしは誰にも言ってないよ」
検証クランに知らせるのも忘れていたが、どこかで聞いただろう。たぶん。
「でもそんな行くアテもないダンジョンより、封印都市は実力のない奴は行かせられないって言われたことでもマジメに検討するべきじゃないかと思う」
「そんな話も出たのか」
「昇格石の欠片は、やっぱ追加素材と一緒に集められる迷宮都市で充分そうだからなあ」
アンセムを離れる時間を短くしたい派なので、封印都市にはあまり興味がなさそうだ。
椛は行ってみたいが、その前に装備!また忘れる!と目をそらしているだけだ。
闘技場などが好きならたぶん好きなコンテンツである。
「迷宮都市のダンジョンもコースが分かれて行って、目当てのボスのところに行くのが大変なんだって?」
「情報があんまり出てなくて」
「組合に情報提供すれば貢献度が増える気がするんだけど」
「あ、だろうな」
「もう貢献度の流行りは終わったって忘れてそう」
椛も忘れっぽいのであまり言えないが、一時的に騒いですぐに忘れる連中が多いというか、そういう奴に限ってやかましい。
騒いで他人に迷惑をかけたなら、きっちり貢献度集めをしておけよ、と思う。
途中で他のことに気を取られて忘れて、再度必要になってから喚くのだから。
確かに地味で面白くないだろうけど。
「迷宮都市で貢献度稼ぐのなら、わたしは先にボス素材を集めに行こうかな。楽できるし」
「いや、行くとは言ってない」
「必要だから行こうとは思ってるけど」
「こういうところで話したら、盗み聞きした連中が先に行くだろ」
「それでも良いよ。楽できるし」
むしろ積極的に掲示板で宣伝してけしかけてもいいくらいだ。
ただ貢献度の話が出ても反応するプレイヤーが少なそうだなと思うだけだ。
「それに2周年が来たらボスより雑魚狩りになる気がするし」
「あ、そろそろだよな」
「紅白家具はいらないけど、ぬいぐるみの復刻はあってもいいな」
「1周年戦争、再び…?」
「…忘れてたのに!」
思い出させた者は「なんで忘れられるんだ!」と言うが、覚えていていい事などないからだ。
なかったことにしたいくらいである。
2周年は平和なイベントにして欲しかった。
「あ、そうだ。召喚獣も増えたんだろ?スクショじゃなくて本物が見たかったんだよ、コウモリ!」
「…パンダしか増えてませんが?あともこもこ」
「まだ手に入れてなかったのか」
「……忘れてた!どっちが先だ!?装備の新調!?召喚獣!?」
「レベル70になったのなら、上位職は?召喚士の上位職も気になってた」
椛も救援クエストで増えた召喚獣は掲示板でひと通りチェックしていた。可愛い子が多いので、パンダの後で探しに行くつもりもあった。
忘れていただけで。
上位職の話も掲示板で見て確認しようと思ったのだ。ちょっと前に。
なのにもう忘れていた。
「記憶力、記憶力が欲しいィ〜…」
「紙に順番に書いて、持って歩いたほうが良いんじゃねえの…」
「召喚獣探しをした後、装備のことを忘れる流れだよな」
「装備を優先させたら召喚獣のことを忘れるんだな」
椛もそんな気がした。
そしてまずは、神殿で召喚士の上位職について尋ねて来ることにしたのだった。
□神問は『かみとい』とか『かむとい』のほうが和風かなと思いましたが、『しんもん』と読みます(意味は特にない)
□すでに自宅のことを忘れかけている気配…
□ボス素材で付与できるスキルの情報が集まってから防具作ろう!と思って忘れたようです(猫の街にいた頃の話)




