229プレイ目 フォンシャン
メイファ国の東の国境近くの街フォンシャンは、建物の雰囲気から中華風だった。
西の大陸は中東からインド、アラビアがごっちゃになった上で、でもまだ洋風ファンタジー世界というラインだったのに、一気に中華である。
門番も通行人も中華ファンタジーの雰囲気の衣装だ。唐突すぎて椛は思わず後ろを振り返ってしまった。
きっとヤマト国も唐突に日本なのだろう。それも時代劇の雰囲気の。
だが少し大通りを歩けば、いつもの街と同じ造りだと分かる。東門から入ったので先に中央の聖堂に着いた。
デザインはモスクっぽいのにカラーリングが赤と緑で中華である。なんか迷走している感じ。
きらきらエフェクトの転移門もあんまり馴染んでいないが、変更不可能だったのだろう。たぶん。
登録を済ませて南の大通りを南下し、組合前広場にやって来た。組合の建物の外観はともかく、中はいつもの内装だった。カラーリング以外。
商業組合は元から銀座の高級店っぽい内装だったから違和感が少ないが、冒険者組合はこげ茶の木の内装だったのに、全体的に赤い。
暗めの赤だからまだマシだが、目が痛くなりそうである。
「なんか落ち着かない…」
「他国からいらした方は皆さん、そうおっしゃいますね」
「だろうね」
受付嬢に冒険者カードを照合してもらいながら、軽く話す。衣装もそうだが、この国の住民は東洋人の容姿がベースのようだ。
髪や目の色はカラフルだが、顔立ちでそう感じた。
種族は獣人もエルフもドワーフも多いのだが。
ここでは目的は口にせずに、椛は2階の資料室に向かった。
何故か?組合内に生産職に見えるプレイヤーたちがゴロゴロしていたからだ。
タグの言っていた、パンダ目当てで連れて行けと言い出す寄生虫たちだろう。
推奨レベル70のフィールドにまともに戦えない戦闘レベルの低い連中なんて連れて行ける訳がないのに。
護衛クエストを出す金もないのに寄生しようとしている連中だ。
連れて行くだけなら良い。死に戻るだけだろうが、自己責任だ。
なのにタダで守れとか慰謝料払えとか意味の分からない事を言い出すのだ。
この街には長居は無用だった。
街の周辺のマップをある程度は手に入れたので、椛は資料室を出てすぐに組合も出た。
時計を見れば外に探索に行くほどの時間もないし、もうひとつの目的を果たしたい。
中華料理である。
商業組合にちょっと寄ってお店の情報をもらい、商店街へ。すぐに良い匂いがして来た。
食堂やレストランも気になるが、手軽に食べられる屋台のほうに向かう。
「あ、ラーメン…いや、あとにしよう」
ラーメンはやはり座って食べたいが、1杯食べたら満足してしまうだろう。
今日はいろんな物を少しずつ味見したいのだ。
ゼディルバの街でも多少は入って来ていたが、本場に来たのだから美味しい物がたくさんあるはず。
屋台通りまで来たので、今回は玄幽も召喚した。ここは長居をしないので、今呼ばないと食べ損なうだろう。
「ガウ…ガウ!」
玄幽は周囲をちょっと見回すと、特に良い匂いのしている屋台を指差した。
「うん、焼き餃子。ニンニクだね」
本場の餃子はあんまり焼いて食べない、みたいな話を聞いた覚えがあるが、日本人が日本人向けに作ったゲームなのだ。だから餃子があったら焼くのだ。きっと。
ワンタンと水餃子の違いが分からない日本人には、焼いた餃子が人気なのだ。たぶん。
などと心の中で謎の言い訳をしながら餃子を2皿買って玄幽と食べる。餃子だけでもイケる美味しい物だった。
さらに焼売、小籠包、肉まんなどをつまむように食べて歩く。春巻きも美味しかった。
ワンタンスープもあったので食べたが、餃子とは全然違うことに気付いた。似てるのは形くらいというか。
「ワンタン、あんまり食べないからだな、うん」
「ガウ」
そういうことにして、やがて2人は最後のシメに1軒の店に入った。もちろんラーメン屋だ。
醤油も味噌もないが、塩と豚骨はある。あと担々麺。他にもあったが、このあたりも日本人が日本人向けに作ったゲームらしい設定なのだろう。
「玄幽はあのこってり濃厚そうなのが気になるの?わたしは塩がいいかな」
こうして『リアース オンライン』初のラーメンを食べた。
リアルでけっこう食べる物だろうと、ゲーム内で食べると謎の達成感があるものだった。
翌日は推奨レベル70の竹林フィールドに来ていた。
見た目通りに竹が伐採できるし、タケノコも手に入る。竹を伐採するとタケノコが手に入るので、タケノコは掘るものではなく、竹を伐るものだった。
そしてこの竹林にはパンダが生息していた。
魔物のパンダである。こちらは親パンダなのか羆のような巨体と迫力だった。
「幻獣の子パンダとかぶせなくてもいいのに…」
中華な国の竹林にはパンダがいないと駄目だったのか。
他にはどこにでもいるラット系とかキャットがいた。キャットテイルではなく、モンスター化して可愛さを失った猫の魔物だ。
騎獣の狼は格好いいのに魔物のオオカミは凶悪なツラで可愛げがないのと同じである。
森の主どんクラスだと格好いいのに。
「でも猫は初めて見たかも」
「あんっ」
流星が「ボクも初めて見た!」と言うように鳴いた。キャットテイルとは全く似ていないので、あれと同じとは思わなかったようだ。
そんな話をしつつ、罠を仕掛けたり竹取りおばさんになったり、魔物たちを倒して回る。
「…幻獣のパンダはどこかな。また星影を呼ぶべきか…」
気付けば2時間経っていた。
幻獣を探して歩いていたつもりでも、片手間になっていたのは確かである。積極的に探さないと駄目かもしれない。
流星が「ボクもかくれんぼ師匠と行きたい」という様子だが、ここはレベル70フィールドなのだ。椛たちもレベル70である。
隠れるスキル持ちの星影はともかく、流星は危ないだろう。
がっかりしていたが今まで戦っていた魔物を思えば、流星も納得したようだ。
星影に「幻獣の可愛いパンダだよ!」と念を押して探しに行ってもらった。
それから40分くらい経って、出現率が低いのかなと思い始めていたら、星影が子パンダに乗って戻って来た。
マサカリを担いだ金太郎みたいな絵面だった。パンダとハムスターだが。
「見つけてくれたんだ!」
問題は契約してくれるかどうかだが、尋ねたらすぐに契約が成立していた。星影と仲良くなったらしく、星影を抱きしめようとして逃げられていた。
「えーと、種族名は【笹竹熊】…聞いてた通りだけど、笹と竹って違うものじゃ…まあ、いいか」
種族名はパンダではないのだ。誰もがパンダとしか呼ばないが。
「男の子?あ、男の子なんだ。名前はポラリスか北斗か…え、ヤダ?」
頑張って考えたのに拒否された。他に代案などない。
頭を抱えそうになったが、召喚獣を入れ替えて天狐を呼んだ。
「戦闘かにゃ」
「ううん、その子の名前が決まらない…」
「…妾の仕事ではないにゃ。其方、何が不満にゃ!…にゃ、星影とおそろいが良いにゃ」
「おそろい、とは…霧影もおそろいって言えるかな」
「ズルいにゃ。影は嫌にゃ。星が良いにゃ。忍者になるにゃ」
天狐がイラッとする事を言っているように聴こえるが、天狐の声は平坦である。
パンダが片足でダンダンッと地団駄を踏んでいる。
後ろ肢で立ち上がってコミカルに動く姿は、可愛いような面倒臭い系のような…
星影はいつの間にか流星の頭の上で「ふー、ヤレヤレ」と肩を竦めている。
「面倒くさいからセブンスターの刑に処したい…」
「やめるにゃ。絶対逃げるにゃ」
「七つの星と書いて七星」
ドラゴンのボールを連想させるな…とか古い名作コミックを思い出していたら、パンダが喜んでいた。
ぴょこぴょこ飛び跳ねて星影を抱き締めようとしては逃げられている。
パンダは星影が好きすぎるが、忍者は孤高の存在なのだ。腕組みをしてドヤっている星影の台詞を天狐が通訳中だ。
「…新たな愛憎劇が生まれてしまった…」
「アレは可愛いものが好きなだけにゃ。可愛い召喚獣ならきっとみんな抱き締めに行くにゃ…妾には分かるにゃ!」
「天狐の小狐姿にも誑かされるの?」
「ミーティアでもオトリにすれば良いにゃ!」
月詠は……頭を抱えて震える姿が浮かんだので、やめておいた。過激派ファンのような反応をされたら困る。
機を見てパンダ…七星の反応を確認しようと思った椛だった。
□飲茶(お茶と点心を楽しむこと)ではなく、色んなお店を食べ歩きたい派の主人公
(もちろん人気店なら行ってみたい)




