227プレイ目 ゼディルバ
椛が掲示板に葉精のスクショを上げてから5日ほど過ぎた。
どんな感じかなと掲示板を見たら、阿鼻叫喚地獄だった。
召喚士にしか見えないタイプだったらしい。
召喚士たちは無事に契約できたと喜んでいる者もいたが、悲劇のほうが席巻中である。
「葉精ちゃんスレがジェラシーストームで大揺れ…」
ズルい酷いなんでこんな設定にしやがった自慢してんじゃねえ、という書き込みが目につく。
当分見ないほうが良さそうだ。
地獄は見なかったことにして、椛は冒険者組合にやって来た。いまだゼディルバの街で食材探しと美味しいもの探しをしている。
プレイヤーの作る高品質のメニューは確かに美味しいのだが、NPCの作る品質4固定の料理だって美味しい。味付けなどで変わるし、好みもあるからだ。
食堂やレストランを残らず食べ比べて歩きたいくらいである。
「今日はどこ行こうかな。はー、マスターの煮込み料理、マジ美味しい…」
でも椛がハマっているのは、冒険者組合の酒場のマスターの作る煮込み料理だった。秘伝のスパイスとやらが椛の好みすぎて、毎日ログイン直後に何も食べずに来て、真っ先に注文しているくらいだ。
レア鹿は特に美味しかったが、他も美味しい。
「やっぱり鹿だろ」
「あれは毎日は食べられない値段だが、10日に1度くらいなら奮発して食べたい」
「高級レストランで入荷しましたって広告出したらあっと言う間に予約でいっぱいになったらしいぞ」
「領主様が一家総出でいらしてたって噂もあった」
「そんなに…」
椛が本日のおすすめの野菜たっぷりシチューを食べる横で、冒険者NPCたちが語る。
力説されたレア鹿は、ほとんど捕まえて来る者がいないらしい。
推奨レベルが高いし、トラウマ製造機たちが生息してるし。
「でも罠20個で1頭くらいの割合みたいだし、運が悪いと1頭も捕まえられない奴だよ、アレ。猪がいっぱい捕まるからいいけど」
「あの猪肉も美味いからな」
「鹿より安いから食べやすいし」
鹿よりは安いが、推奨レベルの関係で高級品ではある。残りをまとめて売ったので、けっこう多くの店に流れて行ったとは聞いている。
椛もまた行こうと思ったから売り払ったので、森に行くのは構わなかった。
でもレア鹿の在庫を確保しにくいなあ、というのが正直な感想だった。
森に罠を50個も仕掛けて来た椛は、森の横の草原フィールドで休んでいた。ここも推奨レベル65なのでのんびり出来る訳ではないが、森の中よりマシだ。
少し余裕があるので、新入りの葉精のクルルのレベル上げもしていた。小妖精と同じく魔法アタッカーで、空は飛べないが他の仲間にくっついて移動している。
1番相性が良いのはブリリアントホースだろう。忍者仲間だし。
「スキルブックで他の属性を覚えさせるのもアリなんだよな。高くて買えなかったけど、花蜜の代金を注ぎ込めば…!」
ユーザーアンケートで1番強い属性ランキング堂々の1位に輝きそうな雷属性は、全魔法アタッカーに覚えさせたいくらいだ。
1番高かったけど。
召喚獣の育成計画を考えながら、魔物が現われたので戦って倒す。流星と玄幽が今日も張り切っていた。
「そうだ、伝説の幻獣の専用アイテム…!」
「あんっ」
流星に「楽しみ!」という顔で見られたが、ちゃんと調べていなかった。どうせまだ手に入らないと思っていたので。
調べなくては…!とやる事リストが増えて行く。メモはしているが、またすぐに忘れそうだ。
掲示板はしばらく見たくなかったが、まとめスレに情報がまとまっていないかなと思う椛だった。
罠は20個仕掛けたことにして、残りは在庫にするぞ!とレア鹿が3頭も捕まったので機嫌よく月牙に乗って走っていた椛は、羊がたくさんいる牧場の側まで来てふと止まった。
「羊…羊毛があったな。あれもランクの高い素材だった」
羊を見て売り忘れていた素材を思い出しただけだった。裁縫師に渡して何か作ってもらおうにも、今は特に思いつかない。
玄幽の衣装もずっと変えていなかった。でも軍服のイメージはすっかり消えていた。
「忍者…いや、誰が着るんだ。玄幽も忍者はないなあ」
「あんっ!あんあんっ!」
「どうしたの、流星?」
まさか流星も忍者衣装が欲しい!?と装備できないのに思ってしまったが、流星は牧場の羊たちに向かって吠えている。牧羊犬の血が目覚めた…訳ではないだろう。狼だし。
羊たちも牧羊犬なら追い立てられるはずだが、仔犬だ可愛いという様子でのんびりしたままだ。
流星は騎獣サイズだが可愛いので仕方がない。
そして通訳して欲しいので、仕方なく天狐を召喚した。魔神を呼ぶには街に近くてプレイヤーの姿が気になる。
牧場の見物なのかクエストでもあるのか、何人かプレイヤーっぽい人影があったのだ。
「にゃ!何の用にゃ」
「流星がなんで牧場に向かって吠えてるのか分からなくて」
「美味しそうな羊にゃ…」
「それはあんたの感想でしょ」
羊肉ではないが、串焼きを出して渡す。天狐は喜んでかぶりつきながら答えた。
「あそこに幻獣がいるにゃ」
「え、どこ?羊しか見えないけど」
「かくれんぼ!と銀狼も言っているにゃ。羊に化けているにゃ。忍者羊にゃ」
「羊も忍者なのか…」
言われて見比べたが、椛には区別がつかなかった。
流星は「ボクは分かったよ!」と得意満面である。可愛いのでモフって褒め称えてしまった。
「でもどうしよう。勝手に牧場に入る訳にも行かないし」
「呼べばいいにゃ。見つけたにゃ!お前の負けにゃ!」
「あんっ」
天狐が柵にしがみついて大声を出せば、流星も吠える。
少し待ったら、羊が1頭進み出て来た。
「…どこが幻獣か分からない…」
「影がないにゃ」
「…本当だ!」
立派な羊なのに影がなかった。
指摘されると羊はポワンと変身した。
「こ、これは…ぽよぽよの新バージョンもこもこ…?」
「もこもこにゃ」
「えーと、わたしと契約してくれる?」
「負けたからには仕方がないにゃ」
椛は全く勝っていないが、流星が勝ったので良いらしい。あっさりと契約が成立した。
「種族名は【夢羊】…忍者どこ…?」
「忍者を名乗るのは三流にゃ!」
忍んでなんぼなので、忍者は忍者とは名乗らないそうだ。幻獣(忍者)なのかもしれない。
「うーん、名前…もこもこ…ぽよちー…もこっち…」
「もこっちで良いって言ってるにゃ」
「いいんだ…」
ぽよぽよや雪の子と同じくらいのサイズで、羊の毛の塊みたいなもこもこっぷりだが、良く見ると目と口はある。埋もれ気味だが。
そして最初から覚えているスキルは『夢喰い』だった。状態異常系のデバフの盛り合わせをプレゼントするスキルのようだ。
「獏じゃないのか、羊…」
眠れない時に羊を数える話は良く聞くが、この羊は悪夢を見せて来るタイプだ。呼んではいけない奴である。
夢羊を呼べば呼ぶほど、デバフ盛り盛り。
なんでこんな設定にした運営…!いや、開発!どっちだか知らんけど。
複雑な気分になったが仲間が増えたのだ。
とりあえずそこは喜んでおこうと思った椛だった。
目撃していたプレイヤーたちが寄って来たが、自分で探せと言って逃げた。
召喚獣たちなら見つけてくれる、かもしれない。
《炎の溶岩洞》のクソボス特攻の召喚獣が仲間になった!(という事実に気付いていない)
良く燃えそうですが無属性なので大丈夫




