222プレイ目 レイル
帝都以外の街で邪神の像を発見したら、イベントのクエストが発生したらしい。
ワールドアナウンスが流れて、全プレイヤーにクエストが発生した。
椛がログアウトしている間の出来事だったので、ログインしたら突然クエストのウインドウが現われたのでびっくりしたものだ。
「クエスト『邪神教団・ハイレオン帝国編』…いくらでも関連イベントが湧いて出そうなタイトル」
クエストの内容は邪神の像を全て発見しよう、と書かれている。発見者がワールドアナウンスで告知されるので、イキりキッズどもが張り切って探し回っているらしい。
すでに残り1個になっていた。
「こんなアホでも出来る内容でワールドアナウンスが流れるくらいで、何が自慢になるんだろう…」
どうでも良くて聞き流していたが、ダンジョンの初クリアでもワールドアナウンスは流れるのだ。椛も魔神シリーズと契約する時などに何度も聞いている。
たまに地味すぎて見向きもされていない低レベルのダンジョンクリアでも流れるので、たいていの人は「へー、1番乗りなんだ」くらいのテンションで聞いているはずだ。
ダンジョンの数が多すぎて感動が薄れてしまったというか。
だが猿でも分かる邪神の像探しより、ダンジョンクリアのほうがまだ「すごい」と思える。どこのどんなダンジョンだろうと制覇したのだから。
そんなイキりキッズ心理はともかく、掲示板では全ての街を回ったのに足りないと話題になっていた。
そもそも街の数と邪神の像の数が合っていなかったのだ。最初から分かっていた結果だろう。
[シラベさんへ。マップで邪神の像がある街を見てみると、素敵な魔法陣が浮かび上がって来ると思います。前から怪しいと思ってたんだ!古代の超文明の遺産とか巨大神造兵器が現われる気がしてた!]
ということで、椛の推察を検証クランにメールで送った。こんな序盤で使ってしまうのはもったいない魔法陣だった。
帝都のプレイヤーの姿がだいぶ減っていた。
邪神の像探しで出て行ったようである。
宿を出た椛が通りを見てスッキリした気分で冒険者組合に行くと、鬼女の群れが待ち構えていた。
ランスロット様に何を言ったんだとか、訂正しろとか、抜け駆けするなとか、意味不明なことを喚いていた。
椛はさっさと運営に通報した。
それで何人かは悲鳴を上げて消え、他の鬼女たちは悲鳴を上げて逃げて行った。
「何あれ。わたしはランスロット様なんて会ってないのに」
「何が起きたか分からねえが、入口ふさがれて困ってたんだ」
「業務が滞ってしまいました」
冒険者たちも入れなかったらしく、職員以外はほぼ無人だ。出られなくて隅にいた冒険者NPCたちが「仕事にならねえ」「今から行くのダルい」とボヤきながら出て行った。
本当に他人に気を使わない連中だった。
「そうでした、騎士団からクエストが出てますよ」
「なんのクエスト?」
「共闘依頼のようです。詳細は騎士団のほうで説明するとありますね」
受付嬢の説明に、邪神の像の破壊クエストかなと思う。《神殺しの塔》装備を入手していれば発生、という条件だったら邪魔されたプレイヤーは連中をもっと怒っていい。
今日だって連中のせいでクエストに気付く余地がなかっただろう。組合に入れなくて。
椛はクエストを受けてからちょっと考えた。
今から騎士団に行くと、また一番乗りしたい連中に抜け駆けだと喚かれるだろうから、他のことをしようと思う。
大蜥蜴ではない美味しいお肉の調達だ。
美味しい鶏の魔物がいるらしいのだ。見上げるような巨体と言っていたから、森の主どんサイズかもしれない。
そんな巨大鶏が闊歩する場所がある訳ではなく、エリアボスである。推奨レベル50なのでたくさん周回して集めて来たい。
「待ってろチキンカツ!」
「焼いても美味いぞ」
酒場のマスターからツッコミが入ったが、大蜥蜴の揚げ物を見ていたら揚げ物を食べたくなったのだ。大蜥蜴は食べる気がしなかったけど。
もちろん唐揚げだってWelcome!
行ってきますと組合を出たところでシラベから返事が来ていた。
[魔法陣は分かったけど、これがどうしたの?]
何も分かっていなかった。
ロウガイにも同じメッセージを送って、シラベにはロウガイに聞いてと返す。
外から帰って来ても分かっていなかったら教えてあげよう。忘れてなかったら、と自分の忘れっぽい性格を忘れて思ったのだった。
翌日、椛はシラベに呼ばれて冒険者組合に来ていた。ロウガイもいる。
「この魔法陣が何なの!」
「…あー、ロウガイなら分かったでしょ」
「ワシは知らんのじゃ」
「秘蔵の品質10チョコ」
「うむ、魔法陣といえば中心が怪しいのう。魔法陣に欠けがあるならそこが最後の像の在り処じゃったかもしれんが」
確かバレンタインの時にハトロワで買ったチョコレートだ。渡したらロウガイの口が滑らかになった。
シラベはマップを見直して、今ごろ「あ」と声を上げている。
マップを見れば、魔法陣の中心あたりにちょうど怪しい山があるのだ。いかにも魔王軍の拠点になっていそうな険しい山が。
「2階の資料室に行くと、その山に怪しい洞窟があることも分かるよ」
「なんと。それはいかにもじゃな」
「洞窟の奥に古代の魔法で封じられた扉とかあったら胸熱だった」
「SFテイストの超科学の遺産で、管理AIのホログラムが現われるんじゃろ」
「そうそう。それも良い」
まあ、イベント的に邪神の像しかないはずだが。
「隣のPVとは違うのか、場所が帝国の中央なのは気になるけど。遣いのアレ、砦の街あたりから出てたのに」
「あちらは失敗パターンじゃからの。魔法陣があるのじゃ。1か所像が破壊されたことにより魔法陣が正しく発動しなかった代わりに、本来中央に集められるはずの邪気が砦の街の像に向かってしまったのかもしれん」
「そういうパターンもあるよね」
滑らかに推察するロウガイに、シラベが恨めしげな目を向けていた。昨日は聞いてもはぐらかされて、散々からかわれて、結局何も教えてもらえなかったそうだ。
椛も遊んだのなら最後でいいから教えてやれよと思った。
「検証クランで見つけたらと思ったけど、こんなところで話すと盗み聞きイキりキッズがな」
「あれが噂の盗み聞きイキりキッズじゃったか」
「早い者勝ちだぁ!ってイキってる時、どんな気持ちなんだろう」
「他人の褌で相撲を取るという言葉がある」
「え〜、他人の使用済み下着とか絶対に使いたくないんだけど」
「注目ポイントはそこではないのじゃ…!」
椛も意味は知っているが、聞くたびに思うのだ。気持ち悪い、と。
イキりキッズたちが気持ち悪いのも当然である。
2階に駆け上がった連中は、競うようにして出て行った。
「これで推測がハズレていたら、騙したな!って喚くんだよ」
「盗み聞きしておいて…」
「待ってろよ、そのうちワタシは盗み聞きして他人のアイデアを我が事のように自慢する性根の腐った無能です!ってワールドアナウンスが流れるからよ」
「歴史的瞬間じゃな。掲示板でも周知しておかねば。聞き逃し厳禁じゃよ」
「この人たち、タチ悪い…」
「わたし被害者なんですけど?」
「良かれと思って多くの移住者に真実を伝えておるだけなのじゃ」
早い者勝ちだと言うなら、椛は昨日のうちに行って確認しておけたのだ。ロウガイも気付いていたなら、抜け駆けも可能だった。
何もしていなかったのは、ワールドアナウンスで名前が出ることに興味がなかったからである。
椛もロウガイも匿名設定だから意味がないし。
「それよりクエスト受けた?もう騎士団行った?抜け駆けだって喚かれない?」
「何のクエスト?」
「…共闘依頼って言ってたけど、受付嬢から言われなかった?」
「ワシは受けたが、まだ行っておらん」
シラベは慌てて受付嬢のところに行って、聞く前に「騎士団からクエストが出てますよ」と教えられていた。受付に行かないと気付けないようだ。
「いじめすぎるから…」
「マップを見ながらあからさまなアレに気付かん様子が面白くてついの。マップを見てるのに」
「…それはまあ、うん」
魔法陣が確認出来る縮尺のマップにすると、その中央にとんがった山がデデンとそびえて目立っているのだ。たぶん、だいぶ分かりやすい。
視点が違うとそれに気付けないものらしい。
「クエストは分かりやすいし、もう抜け駆けだとか言われないよね」
「すでに行った者の話では、説明を受けるだけじゃそうだのう」
それならシラベを慰めながら行ってみようかなと思う。シラベにも秘蔵の品質10チョコレートを渡すべきか悩むところだった。
□二陣は帝都しか確認していなかったので、ワールドアナウンスがなかった
□独占してクリアできるつもりだったので、仲間たちだけで挑戦した
□そのため他のプレイヤーたちは邪神の像の話も知らないままだった
…矛盾してない、ハズ(たぶん…)
□以前、椛が神殿の聖法士の人事についてランスロットに話した後、シラベが「勝手にイベントが進んだ…」とぼやいていたと思いますが、帝都だけのイベントではない、という伏線のつもりでした(前話でもちょっと補足した)
□二陣の人たち、そこの手順も知らなかったので…(一陣の人たちも未だに知らんままだけど)そこを飛ばしても邪神の像を発見して報告すればイベントは進むので大丈夫です
□一応、設定資料(ネタバレ有り)に手描きの分かりにくい地図はありますが、描いた人も「魔法陣なんて見えて来ないな…」と思ってます。ついでにアレは「なんとなくおおまかな位置関係が分かる気がする」だけの地図なので、下手に見やすくすると矛盾が浮き彫りになるだけって言うか…(言い訳)
□運営に通報される⇨運営から垢BANのお知らせ⇨悲鳴をあげる⇨強制退去
□垢BANに至らなかったプレイヤーたちも「ここにいたら垢BAN!」と慌てて逃げた、という感じかと




