221プレイ目 レイル
大きなイベントが進むという事で、椛のフレンドもクランのメンバーも帝都レイルに集まって来ていた。
中には駆け込み装備ゲットイベントをこなしに行って、鬼女たちに邪魔された!と怒る者もいた。
途中からインスタンスエリアに移って個別に進行するらしいが、《神殺しの塔》の前で13騎士の誰かが来るのを待たなければならない。
だがイベント発生前に他のプレイヤーが13騎士に声をかけたり進行の邪魔をすると、失敗判定になるらしい。
邪魔さえなければ何人イベント待ちをしていても個別に進行するので、1日1回のチャンスでも問題がないはずだったのだ。
邪魔されるとその日は発生しなくなるので、明確な妨害だった。
「なんで垢BANされてないの?ちゃんと通報した?」
「したよ!他の奴らだってしてるだろ!」
「直接的な妨害ではない判定か?」
「だったらイベント考えた奴に責任を問うべき。実際にイベントが失敗して迷惑してるんだから」
冒険者組合も大通りに近い店も、たいていプレイヤーでいっぱいなのでクラメンたちと穴場に集まっていた。
住宅街にある公園だ。住民を怖がらせないように武器防具は外している。
そして子供たちが来たらぽよちーを召喚して誤魔化した。絶妙に手が届かないので、みんなでぴょんぴょんして可愛い。
あまり興奮して大声を出さないように気をつけているが、つい怒ってしまう者もいた。
その時はアイドル様の出番だ。
「みゅっ!」
「なんだこの可愛い生き物…!」
「男にモテるのって、こういう可愛い生き物だよ」
「意味が違うが、それはそう」
「鬼女がモテる時代なんて来ねえよ…」
鬼女対策は椛も思いつかないが、怒りはとりあえず治まったようだ。思い出すたびに怒るだろうけど。
「それなら、クラマスは来ないんですか」
「知らねえ」
「雑談スレにも全く出て来ないし」
「ログインはしてるけど、迂闊に聞いて語られたくない…」
「まだ兎を追ってるんだろ」
「なんとなく兎獣人についてNPCに聞いたら、あの種族は常に異性との出会いを求める恋多き生き物だ、とか言われた。狐は商人気質だって」
狐も気になるが、兎もヤバいのではないか。
「犬は戦闘民族だし、猫はすぐ約束をすっぽかすし、エルフとドワーフは森や地下に引きこもってるしって、悪口しか言わないNPCだったけど」
「そいつ、ヒューマンだな」
「いや、狐」
「商人イコール転売屋が悪口だと思ってるの、わたしたちだけ…?」
狐獣人は商人気質を誇りに思っているのだろうか。
でもお客様になるかもしれない相手の悪口を言っている時点で駄目商人っぽい。
それはともかく頼闇は不参加みたいだが、本人の意思を尊重してそっとしておくことになった。
もともと転移プレート目当てのクランだし、結束力とかないし。
バニーちゃん狂に絡まれたくなかっただけではない。ということにしておいた。
イベントに参加するには、暗黒街で邪神教団の隠れ家にある邪神の像を発見する必要があった。
ここも一時は鬼女たちに入るのを邪魔されたという話だが、今はフリーパスだ。入口のゴロツキたちは『暗黒街の掟』をあっさりと売ってくれた。
「でもこの帝都は《神殺しの塔》の神聖な力で呪いと無縁じゃなかったっけ」
「このあたりまで来ると恩恵が届かないんじゃないか?」
椛は数人のクラメンと暗黒街にやって来た。残りは本日の13騎士ガチャの時間である。
鬼女が反応するイケメンは半分くらいなので、毎日確率は50%だ。
話しながらマップを見て、暗黒街は帝都の南東の端にあるが、邪神教団の隠れ家はその角のあたりだ。
塔から放射線状に恩恵が広がっているならば、ギリギリ届かないという設定なのかもしれない。
「他の街にもあるよね。というかPVの砂漠化した場所の中心って砦の街じゃなかった?」
「ああ、そういえば」
「小国群もそれで巻き込まれた形だったな」
イベントの発端も砦の街が怪しいという話だったはずだ。
椛は首をかしげる。
「誰もが帝都でイベントが進むのを待ってるけど、もしかして他の街はノータッチ…?」
「検証クランに聞こう」
「必要なら掲示板で周知してもらおう」
「その検証クランが他の街で神殿の聖法士が呪いがどうこう言い出したとか言ってなかったっけ?勝手にイベントが進んでたとか」
「ああ、なんで進んだのか分からないって言ってたような…」
検証クランもアテにならないが、うっかりは誰にでもある。椛は人より多いくらいだから言わないようにはしているのだが。
それでもつい思ってしまうし、特にイキりキッズどもは頭を使え!と言いたい。
「ドヤるならドヤるで、イベントの進行を予測して指示出しするくらいになれよ!そしたら指示待ちプレイヤーからは尊敬されるから!」
「そういうの好きそう…」
「理想に知能が追いついてない哀しいパターン」
「あいつら頭脳役の参謀とか喉から手が出るほど欲っしてそう」
「アホの下につく意味がないんだ、ご都合主義の世界と違って…」
「でもそれ、序盤でザマァされる小悪党じゃね?」
哀しい結論は気付かなかったことにしておいた。優秀な参謀がついていたって、駄目なものは駄目なんて。
「きっと自分より優秀な参謀が邪魔になって始末して、自滅するタイプとか、そんな…」
「やめよう。ほら見えて来たし」
話しているうちに邪神教団の隠れ家に着いた。二陣のやらかし連中が勝てた相手なので、椛たちもサクッと黒ローブの邪教徒たちを片付けて家探しした。
隠し部屋探しが1番時間がかかったものだ。
フラグを立てたので椛たちが騎士団の兵舎に向かうと、鬼女の群れがうごめいていた。
椛が思っていたより人数が多い。
「うわ、キモ」
「塔のイベントが終わるとこっち来るのかよ…」
ここでも邪魔されそうで不安である。
様子をうかがいながら、門番をしている騎士に声をかけた。
「こんにちは、お久しぶりです」
「おお、椛か。聞いたぞ、ミルク牛」
「騎士の人、食べるの好きだよね…」
知り合いなので気軽にあいさつしたら、言外に牛を無心された。
ここで渡すのもなんなので、椛は在庫を見て「3頭までだ!」と言っておいた。2日しか滞在していないので、そんなに残っていない。
門番は仲間の騎士を「ミルク牛ー!」の1言で呼んで、椛たちを中に招いた。
違うイベントが起きた…みたいな気分だったが、図々しい鬼女たちが「ワタシたち、その人の友達なんです!」と言って便乗しようとして来た。
今の「ミルク牛ー!」から何のイベントが始まると思ったのかは不明だが。
「知らねえよ、誰だよ。人違いじゃないの?」
「さっきまで射殺しそうな目で睨んでたくせに…」
「騎士の人が気付いてないとでも思ってんのか?」
真実、名前も知らない鬼女である。こんな連中の仲間だと思われたら、椛たちまで好感度が下げられそうだ。
騎士たちもピシャリと跳ね除けた。鬼女たちに向ける視線は険しい。
「前に来た時は見てるだけの移住者ばっかりだったのに、アレが悪化したの?それとも違う連中なの?」
「確かに以前は他の住民たちと一緒に見ているだけの移住者がいたな。それくらいなら可愛いものだったのに…」
騎士たちは鬼女どもの顔など覚えていないので区別がつかないらしい。興味のない連中に対する反応としては正しい。
ランスロット様しか眼中にない女なんて男の立場からしてもどうでもいいだろう。
「ところでミルク牛の訪問販売に来た訳じゃなくて」
「暗黒街の話なんだけど」
「アレの像があった。王都カナリアで見たのよりはマシだったけど、かなりの邪気がですね…」
「カナリアにもあったのか!?」
「聖女様がこっそり片付けて下さったけど、神法士じゃないと祓えないくらい酷かったって」
王太子は王都に戻った設定になっているが、聖女様が邪神の像を破壊して祓い清めた件は事実として理解されている。
どんなルートでクリアしても、齟齬が生じない部分だけイベントクリア後に採用されているようだ。
なので王都の邪神の像もイベントクリア後に行くと消えているそうだ。もちろん検証クランの調べたことである。
「どこの街にも教団の隠れ家があって、全部確認したほうがいいんじゃないかと」
「確かに…上に報告しておく」
これでイベントの参加条件はクリアのはずだ。報告するのは騎士団の誰でも良いらしい。
それから椛たちは厨房に行ってミルク牛を3頭渡した。騎士団はケチではないので、冒険者組合より高く買ってくれたものだ。
もちろんランスロット様どころか13騎士は誰も出て来なかった。
「あいつら、ランスロット様が直接買い付けに現われるとでも思ったのかな」
「そんなお暇じゃないぞ」
騎士たちは呆れながらも「思ってそう」とボヤいていたものだ。
□以前、頼闇が鬼女たち相手に散々煽ったので、あのオネエの仲間なんだから詫びをしろ、友達のフリしてイベントに噛ませろ、ランスロット様が出て来るんだろ、抜け駆けしてんじゃねえぞ!!──という事を考えていたのかもしれない…(ただの憶測)
□ランスロット様ファンにも初期にキャッキャしていた人たち(かなりマトモ)、有罪bot(怖い)、人気が高いと知って群がって来た鬼女(鬼女)などの派閥があります。
マトモなファンは離れましたが、有罪botは鬼女たちに便乗しています(おこぼれ狙い)




