220プレイ目 レイル
花蜜で稼いだとはいえ、転移代は懐に響く。
転移門を利用して高原の街モーゲンからハイレオン帝国の帝都レイルに移動して来た椛はため息をつきそうになった。
家の代金が数百万Rだったので、そんなに貯金が残っている訳ではない。ついオプションで散財したのは内緒だ。
神殿を出て冒険者組合に向かう。イベントが進んでいると聞いてプレイヤーが集まって来ているので、神殿前広場から大通りを歩くだけでけっこうな数のプレイヤーが目についた。
椛はアイコンを表示して区別している訳ではないのでプレイヤーっぽい装備やファッションの者だけで判断しているが、それでもたくさんいるなと思ったのだ。
冒険者組合に入ってもプレイヤーが多い。
受付カウンターは空いていたので、まずは冒険者カードを照合してもらった。
「何かあるんですか?移住者の方がいつになくいらしてますが」
「儲け話の匂いがした…としか」
「なるほど」
邪神教団がどうこうと言えないが、受付嬢もそれだけでなんとなく察したようだ。
何かあるが、大きな声では言えないと。
それから椛は酒場のマスターに声をかけた。
「さっきまで高原の街モーゲンにいたんだ」
「…なるほど。何が食べたい?」
「ミルク牛のミルク煮込み」
「だったら出してもらおうか」
「ふふふ、安くはないぜ」
「茶番は終わったのか?ミルク牛があるんだな?」
「美味しいミルクもあります」
買い取り窓口の職員がせっかちなので話が終わってしまったが、椛はミルク牛とドロップ品のミルクとチーズもいくつか出した。
転売屋に流れないので食材は安心だ。
プレイヤーたちはともかく、冒険者NPCと職員たちはにっこにこで買い取り風景を眺めていた。
「レベル70になったから行けるフィールドが増えたんだけど、おすすめはある?」
「それなら東の渓谷のイーグル系の魔物だな。卵を落とすんだが、これが濃厚で絶品なんだ」
「…魔物のタマゴじゃない、食材の卵?」
「ああ…たまにタマゴも落とすんじゃないか?」
魔物のタマゴはどうでも良さそうだ。椛もそっちのタマゴは求めていない。
とりあえず2階の資料室で調べてから、卵狩りに出掛けたのだった。
イーグル系の魔物は鳥である。
鳥の魔物は雷属性が弱点である。
つまりサンダー・エレメントの出番だ。
「飛んでて面倒くさいのに、雷玉が1番弱い魔法を当てるだけで落ちて来るからな…」
「あんっ」
「ガウッ」
流星と玄幽は攻撃が届くところまで落としてもらえるので、楽しそうに狩っていた。
レベル70なので椛も攻撃するし、他の召喚獣たちも順番に参加していた。
確定ドロップではなかったが卵は高確率で落ちるので、そこそこの数は集まった。
いくつ売るか悩ましいくらいには面倒だったが。
他の魔物は食材を落とさないが、罠を仕掛けておいたら大蜥蜴がかかっていた。
「月牙、聞くまでもないけど、食べないよね」
月牙が無言でうなづく。無言の時はこんな物いらないという意思表示である。
「珍味かな…蛇よりマシ…どうかな…」
椛は美味しいものは好きだが、珍味やゲテモノは興味がない。蜥蜴も守備範囲外だ。
買い取り拒否はされないだろうし、全部売ってしまおうと思った椛だった。
卵は半分くらい自分用に確保したが、それでも買い取り窓口で喜ばれた。
大蜥蜴にも喜んでいた。
「蜥蜴って食べたことないんだけど…」
「こいつはぶつ切りにして揚げるだけでも美味いぞ。酒が進む」
「揚げ物が1番美味いな」
爬虫類や両生類は酒の肴という設定なのか、たいていそのオチだ。
椛はやっぱりいらないなと思った。
他にオススメの獲物の話を聞いて、次からはそちらに罠を仕掛けることにした。
代わりに完成していたミルク牛のミルク煮込みをひと皿注文して受け取る。
モーゲンの街でも食べたが、お肉が蕩けるくらいに柔らかく、ミルクの甘さが染みる。味付けが違うのも食べ歩きの醍醐味だ。
今日は混んでいるので(ミルク牛のせい)空いていたカウンター席で食べていたが、不快な視線を感じて顔をあげた。
見ればいかにもイキりキッズというアバターの連中が椛を睨んでいた。
「…飯が不味くなるからあいつら出禁で良くない?」
「それが出来たらスッキリするんだがな」
さっそく大蜥蜴の揚げ物を作る準備をしているマスターが同意していた。
みんな美味しいものを食べて良い雰囲気なのに、その空気をぶち壊しにしているのだ。好感度が下がって当然である。
そもそも組合に居座って何をしているのか不明だ。人が多い時に用もないのに居座るとか、他人に迷惑がかかると思わないのか。
椛は食事をするためにいるので奴らとは違うハズ。長居するつもりもなかった。
「何か妬まれることでもしたのか?」
「えー…何を妬むのか分からん」
他の街で睨まれた思い出を掘り返してみる。なんで赤の他人に睨まれた思い出が複数あるんだろう…
魔神シリーズが欲しいなら召喚士に転職して自力でどうにかしろ、以外に言うことなどない。
勇者に会いたいならエルフの英雄に認められて来い、以外に言うことがない。
イベントの話なら今回は椛は何もしていない。
伝説のミーティアなら運の問題なので、そんなことで睨んでんじゃねえクソガキ、以外に言うことがない。
それ以外と言えば…
「女にモテないのはわたしのせいじゃない!」
「…ああ、受付嬢に冷たくあしらわれてたな。受付嬢には気障ったらしい態度だった」
「…マジで冤罪だった!」
外から帰って来て椛は買い取り窓口のほうに直行したが、隣の受付カウンターにいた受付嬢は「お帰りなさい」と笑顔であいさつしてくれた。
きっとそれが気に食わなかったのだろう(ただの憶測)。
仲の良い他人を妬むだけで、自分のどこが駄目なのか省みないから駄目なのだ。椛の見たところ、全てが駄目駄目で手遅れだが(偏見)。
などと考えながら食べていたら、味わうのを忘れて完食していた。
「…ゆっくり堪能するはずのお肉が!」
「また持って来れば作ってやる」
「次に来たら完売してるってことッスね」
「他のレストランなんかにも回すからな」
限定メニューとして出るのだろう。高級レストランっぽい。
椛は在庫を見て、また今度と言っておいた。
今売ったら、椛が次にログインする前に完売してしまいそうだから。




