219プレイ目 モーゲン
ミュウテラ国のガノスの街から、イグシオン王国の王都イグナまでの街道は平坦な地形が多かったので走りやすかった。
だが目的地は『高原』なので、当然山のほうである。高原の街モーゲンは良いところらしいが、山道はうねうねしていて走りにくかった。
「東と西は、どっちが走りにくい?」
「あんまり変わらないけど、東は西の何倍も長く続くよ、山道が」
「…ですよね。隣の国に入っても山だし」
モーゲンの街の南門の門番たちに聞いたところ、西回りのほうが距離が短くてマシだったことが判明した。
東から来なくて正解だったのだ。
マップを貰って街に入り、南の大通りを進んで組合前広場に着いた。
先に冒険者組合に入って冒険者カードの照合をしてもらい、ミルクベリーの採れるフィールドについて受付嬢に尋ねた。
「推奨レベル60ですが、椛さんなら大丈夫ですね。こちらは牧場フィールドになっていて、魔物たちも美味しいドロップアイテムが多いですよ。罠で捕える獲物のミルク牛は特におすすめです!」
椛のことをグルメハンターだと思っているかのような熱心さで語られたが、他のプレイヤーたちもおすすめされているらしい。
このモーゲンの街の特産品として、他の街から求められているそうだ。
この国にあるグルメの街でも扱っているので、力が入ってしまうとか。
「そういえばグルメの街って招待されなければ王侯貴族でも入れないって聞いたけど、街の門のところで門前払いされるの?」
「いえ、まさか。街の中の1区画が特別区としてグルメの街と呼ばれているんです。招待されなくても法外な入場料を払うか、オークションに出品できるほどのレアな食材を提示すれば招かれるそうです」
法外のあたりに寒気を感じるが、ちゃんと入れる場所だったらしい。
「レア食材か…何があるの?」
「そうですね。特定のボスからしかドロップしない、数量の限られる物などですね」
「なるほど」
苗で増やせる物は価値が下がるのだろう。グリーンベリーとか。
具体的には自分で調べろということのようだし、椛はグルメの街に行く予定はない。
目的はミルクベリーなのだ。
他の食材も集めたくなっていたが。
「ほら、これがミルクベリーだよ」
「みゅっみゅーう!」
牧場フィールドに来た椛は、まずミルクベリーの低木を見つけて、月詠を召喚してやった。
ひと粒渡して、伐採で残りをアイテムポーチへ。苗をリリースして完了だ。
ミルクベリーは白いイチゴに見えるが、イチゴミルク味らしい。椛と玄幽も味見してみた。
うむ。イチゴミルク。砂糖が入ってそうな甘さ。
月詠は月牙に乗せて、流星と玄幽には戦ってもらう。椛はせっせと罠の設置である。
おすすめのミルク牛を街で食べたが、どこがミルクなのか分からなかったものの美味しいことは分かった。
そして買い取り価格が高いことも。
他の推定グルメハンターたちも、牧場フィールドに何人も来ていた。今はアイドル様にたぶらかされてフラフラと集まって来ているが、そのうち正気に戻るだろう。
「みゅっみゅっ、みゅーうみゅっ」
月詠は食べもしないで、ご機嫌で歌っている。じっくりと眺めてから食べる派なので、そのうち満足したら食べて終わるはずだ。
「おお、本当に食材が落ちる。牛のドロップはミルクだよ、玄幽」
「ガウ」
「山羊はチーズだね」
そして羊は羊毛だ。
納得はするが、食材じゃないのかとツッコミたい。
羊肉はどこかのエリアボスが確定で落とすらしいので、後で回収に行きたいところだ。
「あ!掲示板に余計なこと書き込んでアイドル様目当ての連中を呼び寄せるなよ!プライバシーの侵害!」
椛が思いついて寄って来ていたプレイヤーたちに訴えると、有罪プレイヤーがギクリとして慌てて何か操作していた。
「消した!消したから!」
「有罪!」
「有罪!」
「少しは考えろよ、有罪!」
椛が注意するのが遅かったからとはいえ、掲示板を利用しているなら気付いて欲しかった。
椛の居場所が分かるような書き込みをするな。
「みゅう?みゅーう」
「あんただって、無遠慮な連中が群がって来てもみくちゃにして来るの嫌でしょ」
「みゅっ!?」
月詠はミルクベリーをぽろりと落とし、両前肢で頭を抱えて震え出した。
プレイヤーたちも顔色を変えてオロオロしている。
「ど、どうしたの!?何が!?」
「あれは、そう…ジェネリック鬼女たちの話をした時のこと…話だけで何かを思い出してしまったもよう」
「ジェネリック鬼女…」
「ああ、裁縫師の連中だっけ…」
「会わせてたらこれを見る羽目になってたんだ、その人たち…」
「相手の反応なんて気にしないでもみくちゃにしそうなタイプに見えたけどね」
そんな気遣いがあったらジェネリック鬼女なんて呼ばれていないだろう。呼んでいるのは椛だが。
椛ではなく玄幽が月詠を撫でて、ミルクベリーを拾って慰めていた。流星も元気出して、と舐めてやっている。
ハートフルな光景だった。
でも椛は「思い出させないであげて!」と怒られた。もっともなので大人しくうなづいたが、ひと言だけ言いたい。
「書き込んだ奴のせいで、そういうのが来るかもしれないって話だからね」
有罪プレイヤーが青くなって頭を抱えていたが、月詠の反応を見た後なので、他のプレイヤーたちもお通夜のような沈痛な空気になっていたものだ。
翌日、冒険者組合に来た椛は、女性グルメハンター(仮)たちと食材情報を交換していた。
行ったことのない街もそうだが、レベルが低い頃に少し寄った街にも見落としている食材はあるものだ。
食材以外にもクエストやイベントが残っているのは知っている。
話が一段落したので外のフィールドに行こうかなと思っていると、グルメハンターの1人が「あ」と声を上げた。
「どうかした?」
「帝都のイベントを先走った連中が進めたらしいって。後回しにしてて装備貰ってないのに…!」
「アホどももとうとう気付いてしまったのか…邪神の像を発見して報告する流れを」
「まあ、アンセムと同じだし…」
言わないだけで誰だって気付いていただろう。それだけのヒントは出されていたのだ。
隣のサーバーで帝国を滅ぼしたのがカースドラゴンで、カースドラゴンは邪神の遣いだと掲示板に書き込んである。
つまり邪神の像が起動されてしまったということなのだから、邪神の像が存在するのは確定である。
「今からでも装備獲得イベント間に合うかな」
「駆け込みが多そう…」
「インスタンスにならないの?」
「そこまで聞いてなかった」
椛には急ぐ理由はないので、今日は食材を集めて明日にでも転移門で行こうかなと思った。山道を走りたくなかった。
「あ、ランスロット様が活躍するイベントだよね。どんな格好いいシーンがあるかな」
「公式PVになるよね、きっと」
「戦うシーン?」
「指揮官じゃない?」
「行き遅れというか、嫁に行く気のない居座り妹との禁断の愛」
「ない」
「ないから」
「絶対にない」
妹とのルートは存在しないらしい。
椛もそんな気はしていた。
だが隣のサーバーで二回も失敗しているイベントだ。二回目はわざとやったらしいけど。
失敗するとどうなるのか知っているだけに失敗を許されないイベントに思えて、知らず知らずのうちに拳をぎゅっと握りしめていたのだった。
Q、なんで気付いていたのにイベントを進めてなかったの?
「抜け駆けって喚かれるし…」
「失敗したら戦犯扱いになりそうだし…」
「やりたい人がやれば良いよ」




