218プレイ目 ヴィスタからガノス
ログインした椛は宿の1室で満腹度を満たすための食事をしながら、運営からのお知らせメールを読んでいた。
まだアルヴィーナ王国の王都ヴィスタに滞在中である。
三陣のユーザー様を募集しています、公式PVを作りました、という既存プレイヤーにはあまり関係ないお知らせだ。
宣伝用のPVは気になるが。
という訳でさっそくPVを視聴した。
そちらも目新しい映像はなかった。あくまで新規向けの宣伝用なのだろう。
その分、特に人気の高そうなシーンが集められているので、見応えはあった。
人気のアイドル様もたくさん採用されていたので、月詠を召喚してモフってしまった。
「そういえばイベントがなかった…まあ、いらんけど」
忘れていたがウエディング衣装が手に入るジューンブライドのイベントの話だ。
PVの反応はどんなものかな、と雑談スレをちょっと覗いて思い出しただけである。
復刻する限定アイテムが欲しいのは隣のサーバーの二陣たちで、新規アイテムが追加されていても椛はいらないなあとしか思わない。
結局ウェディングドレスなんて必要になる場面が皆無だった。
椛が魔神集めに集中している間に検証クランが邪神教団のイベントを進めて、《神殺しの塔》装備が入手可能なクエストを発見して、公開していた。
報告は聞いていたのだが、帝都の鬼女被害は初耳だった。
いや、オーフォロ王国のイベントの時に検証クランのメンバーが被害を受けていたはずだ。悪化しているようである。
前から鬼女呼ばわりされる連中だから、だろうなという納得しかなかった。
「救援クエストも気になるけど、パンダを探しに行こうかな…でもパンダが1番遠いような…」
「みゅうみゅう!」
「どこか行きたいの?」
帝都レイルは当分行かないことにして椛が予定を考えていると、抱いたままだった月詠が何か主張し始めた。
第二回ジェスチャークイズっぽいが、全く分からないので通訳を呼んでしまった。
「ふむ。ミルクベリーはいつになったら探すんだ!と言っているぞ」
魔神の中で1番マトモだと判明してしまった炎獄である。暑苦しいが余計なことを言わず、文句ばかり言わずに通訳くらいはしてくれる。
そして通訳の内容に、椛はそっと目をそらした。忘れていたが、わざわざ手に入れに行くような物とも思えない。
確か山道がツラくて断念した国にあるはずだ。行くのが面倒くさい。
「みゅ!?みゅっみゅう!」
「騙したな!?と怒っているぞ」
「騙したつもりはない…山道がツラいだけで…」
「早くレベルを上げて、空の騎獣と契約することだな」
炎獄に言われて思い出した。空の騎獣はレベル80くらいから契約できるはずだ。
椛はレベル70になっているので、あと少しではある。何週間かかるのかはともかく。
月詠が怒るので、椛もマップを確認して検討してみた。
「うーん、ここから行くとすると、キールファン王国は山ばっかりでロクな道もないらしいし、ミュウテラ国を通ってイグシオン王国に行くルートかな」
「みゅ!」
前回は目的地の高原のあるイグシオン王国の東側のブリュマルク共和国には行ったのだ。
東回りより西回りのほうがマシに見えた。
マップと実際の地形には落差があるため、行ってみたら酷い山道かもしれないが。
それでも何故かミルクベリー探しに行くことになっていた。断ったら月詠が契約を解除して幻獣界に帰ってしまいそうだ。
「あ、でもストロベリーは買いに行くからね」
「みゅっ!?」
「いらないの?わたしの分もあるから行くけど。隣街だから往復で1日だし」
「みゅーっ!」
「ストロベリーが毎日食べられたらミルクベリーはいらないそうだ」
「…買える数に限りがあるから、毎日は無理だな…」
ストロベリーが食べられる限りは、実家に帰らないでいてくれそうだ。
椛は王都ヴィスタの周辺に黒兎目当てでたくさんの罠を仕掛けてから、南のルヴィスの街に向かった。
急ぐ理由もないのでルヴィスで気楽な街歩きを堪能し、ストロベリーを買えるだけ買って1泊した。
翌日は王都の近くで罠にかかった獲物だけ回収して、王都には寄らずに街道をそのまま進んでカレルの街まで行った。
ここから北上してキールファン王国に入り、いったん西へ向かってミュウテラ国に渡り、再び北上すればイグシオン王国に着くはずだ。
数日でミュウテラ国の三都のひとつ、北のガノスの街に到着した。
芸術の国と呼ばれるミュウテラ国は、三都それぞれに生産職のプレイヤーが拠点として常駐していた。
「ここにも変な生産職がいた…」
「素材を安く買い叩こうとする連中か?」
「モデルにするから召喚獣を見せろって言う連中か?」
「金の斧、銀の斧みたいな聞き方やめて…別に絡まれてないけど、門前広場でNPC相手に喚いてるのがいただけ」
ガノスの冒険者組合に入って椛がボヤくと、プレイヤーらしき冒険者たちが反応した。椛が目撃した生産職以外にも変なプレイヤーがいるらしい。
立ち寄っただけの椛は関わることはないと思うが、要注意人物たちなら聞いておきたい。
「工芸とか陶工って言うのか?あと木工師の中でも、フィギュア作りがメインのクランがあってさ」
「モデルがどうこう言ってるほうな」
「もうひとつはただの守銭奴クラン」
フィギュア作りクランは面倒そうだがまだ分かる。礼儀があるならスクショの撮影くらいは椛だって許可するが、迷惑プレイヤー扱いの時点で論外の気配がしていた。
守銭奴クランは聞く気も起きなかった。
「それなら、戦闘職においしいダンジョンでもあるの、ここ」
「レベル上げしやすいダンジョンはあるな」
「エリアボスの熊の毛皮が高級なファッション用品になるって、高価買い取りしてくれるんだ」
「レアドロだけどな。むしろプレゼント用に手に入れたいんだ…」
なるほど、と椛は納得した。どこぞの幻のワニ皮みたいな物だろう。
NPCの女性へのプレゼントに最適らしい。
そんな他愛もない話をして、少し情報交換をしてから椛は街の探索に出た。
まともなプレイヤーの比率のほうが高いので、ちょっと話すくらいなら普通に対応してくれるものだ。
話しかけないでオーラを出している人には椛も近付かないが、現実よりも同じ趣味の人だと感じるからか、話しかけやすいくらいだ。
「NPCよりプレイヤーのほうが多いMMOも多かったけど、システムが充実してたというか、ドライだったというか…」
ブロック機能の充実したゲームなら、不快な連中は片っ端からブロックしてやれば済んだものだ。あの機能が欲しい。
相手も垢BANの可能性が減るのでWin-Winだった。たぶん。
しかし『交流』をテーマにしているっぽいので、プレイヤー同士で交流をさせたいのかもしれない。
他人の人付き合いに口出しすんじゃねえよ!というのが、椛の意見なのだが。
ソリの合わない相手は顔を見るのも苦痛なのだ。
ゲームの中でまで嫌いな相手に付き合わされたくなかった。
□ガノスは以前、栗の苗木を手に入れるために来た(という経過報告しか書いていない)街
□熊の毛皮は主どんの尻尾くらいのドロップ率なので、ワニ皮より現実的です(どうでもいい豆知識)
□
「Win-Winの奴、最近見かけないよな」
「まさか、あいつ、死語の世界に…?」
「あっちに行く奴ら、みんな黙ってフェードアウトするから知らないうちに消えてんだよ。水臭いじゃねぇか」
「まあ、言いにくいのは分かるけど…」
「向こうに行ったら言ってやれよ」
Win-Win君は影が薄くなっただけで現役なのか、旅立ってしまったのか、分からないまま書いています




