177プレイ目 ハトロワ
アンセムで聖女様から紹介状をもらった椛は、予定通りハトロワの街に来た。
食べ物の話だと記憶力が良くなる不思議。
「あ、タグに確認メッセージを送っておくか」
ちょっと忘れていたが、タグに頼んだカボチャの苗は買えたかとメッセージを送る。
思い出したら買ってくれるだろう。
東門から街に入った。商店街が近いのでプレイヤーたちの屋台や露天が出ている通りも近い。
最後の思い出が鬼女だった気がしないこともないが、ほとぼりが冷めているはず。きっと。たぶん。
あれはなんで鬼女化したんだったかな…と恐々と近付いたが、通りに異変は感じない。NPCたちが買いに来ているなと、あまり見ない光景に驚いた。
「あ、栗きんとん!」
「最近アンセムのほうで買えるようになったからな、栗」
「なるほど。ところで住民も買いに来るようになったんだね」
栗きんとんを買いながら尋ねる。数量限定なのが残念だ。
「最初は品質10のクッキーがあるって聞いてとか言ってたけど、他の物も買って行ってくれるようになってさ。口コミで広まったのか前よりずっと増えたよ」
椛が見ていなかっただけで、前から少しは住民も買いに来ていたそうだ。だが目に見えて増えたのは数カ月前からだそうだ。
美味しいと思われたからなのだろう。
「あと、その、鬼女化してたアレは…」
「え?…あー、アレ。俺は屋台番じゃなかったから見てないけど、しばらくはピリピリしてたな。とっくに元に戻ったけど」
「チョコを買いたいんだけど大丈夫かな…」
「だと思う…あ、バレンタインか」
イベント近いもんなと納得している栗きんとん屋…和食メインの屋台を離れ、椛は様子をうかがいながらスイーツの屋台に近付く。
今のところ異常は見られない。
「品質の高いチョコレートはある?」
「あるわよ。今日は売り切れちゃったけど品質10も作れるようになったの」
「8とか9でもいいから下さい」
10が作れるなら残っているのはそのあたりだろう。根こそぎとは言わないが、いくつか買い込む。
店員はあくまでにこやかだ。
あの日の店番ではないのか、鬼女ウィルスが消えたのか。
余計なことは言わずに次の店に行く。
つい男性プレイヤーが店番をしているところに来てしまう。
「なんかあったの?やけに警戒してたけど」
「バレバレか!?…ううん、鬼女化の記憶がちょっとね…」
「…あー、あんた通り魔…じゃなくて、うん。それは警戒する」
ここではすっかり有名な気がする。
それはともかく、改めて売り物を見た。
「ううん、何の店?」
「こっちは茶葉。この辺はドライフルーツ。紅茶の専門店とかやりたい奴らが集まったクランだよ」
「茶葉はさ、料理スキルないとお茶にならずに消えるから…」
「…まあ、うん。水筒とかあれば淹れるから」
「それはいいね」
料理スキルが低いと良い茶葉を買っても美味しく淹れられないのだ。だが淹れてもらえるなら美味しく飲めるだろう。
隣の屋台は珈琲専門店を開きたいプレイヤーのクランだそうで、そちらも豆を売っていた。ロウガイが好きそうだ。
水筒を探して買って来ようと椛は思ったが、屋台で売っていたら買う人もいるのではなかろうか。
あとティーカップやマグカップでも、その場で1杯注文しやすいだろう。
とはいえゆっくり座って飲みたいものなので、店がないと売りにくいのは仕方がなかった。
商店街のNPCの雑貨屋で水筒を探した。
探してみると冒険に必要のない雑貨もたくさん売っていることに気付く。
家を建てたら欲しくなるやつである。
「紅茶とか緑茶もあるのかな。あとコーヒーは別に欲しいな」
ここまで来ないと淹れてもらえないが、将来性を感じるので水筒はふたつ買った。早くゼロイスの街で開店して欲しいものである。
ティーカップなどは食器の専門店があるそうなのでそちらで探すとして、他の商品を見比べた。ノートや筆記用具、子供たちが使いそうな文房具など。
キッチンで使いそうな小物やリビングなどに飾りたい置き物など。
可愛いハンカチやタオルもある。実用するかどうかではなく、棚に並べて生活感を出せそうだ。
使わないのに見ているだけで楽しいし、無駄に買いたくなってしまう。錬金術の店にもあったが、あちらは面白グッズで、こっちは可愛いグッズなのだ。
これも一種の沼なので、水筒だけ買って店を出た。
食器専門店も似たような沼だったが、こちらも「フ、フレンドと使うかもだから!」と言い訳して5客組のカップ&ソーサーだけにした。
水筒には2、3杯分しか入らないのは、見なかった振りをして。
ハトロワに泊まってプレイヤーたちの屋台通りを再訪した。
栗きんとんを追加で買って、チョコレートのことで緊張していたせいで見ていなかった他のものも買っておく。
油断はしていないが、今日も警戒しながらチョコレートを買った。品質10も3個買えたものだ。
他の屋台も見る余裕が出来たので比較的ゆっくり歩き、お茶屋と珈琲屋に来た。先日とは違う店番だったが、水筒を出せば淹れてもらえた。
「お茶請けのお菓子は作らないの?」
「まだ他に割く余裕がないけど、スコーンとか作りたいな。その前にジャムの品質上げしてる」
「紅茶にはスコーンだよね、そんなに食べたことないけど」
「定番だよね、紅茶が好きなだけで菓子はどうでもいいんだけど」
甘い物が嫌いな訳ではないが、そんなに興味がないらしい。もちろん他のクランメンバーには甘党もいるそうだ。
紅茶の飲み方もストレート派やミルクと砂糖たっぷり派など個人で違う。ケンカにならないなら良いのではないかと椛は思う。
「緑茶なら和菓子…芋ようかんなら作れる?」
「あー、そんなのもあったね。ぼくは栗最中が食べたい」
「栗ならあるけどね」
和菓子はヤマト国解禁までおあずけだ。
珈琲屋のほうも「クッキーとかビスケットかな」くらいで、あまりお菓子に興味がなさそうだった。
あくまで飲み物がメインの店なのだ。
そんな話をして紅茶と珈琲が完成するのを待ってから、椛は屋台通りをあとにした。
時間を確認して、ここからゼロイスまで一気に移動するぞ!と気合いを入れる。
いつもよりリアルの時間で1時間ほど追加すれば、たどり着くはずだ。平日でもそのくらいなら許容範囲だろう。
「ランスロット様…」
「アイドル様…」
「警戒されすぎてて何も言えなかった…」
「いつになったら警戒が解かれるの?」
「でも、でも買い物はしてくれたわ…!」
「そうね!待つのよ、その日が来ることを!」
「そして自然と仲良くなるの!」
「「アイドル様に会いたいっておねだりできる関係になってみせるわ!」」
「あれ、下心ありすぎて駄目そう…」
「駄目だよ、聞こえちゃうよ!」
□鬼女はともかく、アンセムはβテストで拠点だったので、いまだに特別な街という認識があるようで、アンセム以外の街でも商品リストを増やせると気付いていないプレイヤーもいます
ハトロワでも苗木を売れば、栗などが買えるようになります




