表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/154

第92話 代金と人助け

見てくれる人がいない、か。


アネッタの言葉は、どこか諦めの混じっている感じがした。


「ガルファット様は、奴隷を買ったことがありますか?」


アネッタの言葉に、俺は首を振った。


「ないですね」


あっ、フィーネは一旦奴隷になったんだっけ。


でも、フィーネはノーカウントだな。


今も奴隷扱いならまだしも、あの人はうちの家族の一人だ。


ジークやシルビアにとって娘みたいな存在だし、俺にとっても大切な人だ。


奴隷なんて言ったらぶっ殺される。


「私は元々奴隷で、ウィリアム様に買っていただきました。

そして、ウィリアム様専用のメイドとなりました」


「ウィリアムさん専用の?」


「はい。

ですが、メイドとなっても私はやはり奴隷でした」


「それは、さっきの背中の痣や怪我に関係が?」


俺が尋ねると、アネッタは俯くように頷いた。


「ウィリアム様はとても短気な方です。

少しでも自分の気にいらない事があれば、その日の夜に私はウィリアム様から様々な形で痛めつけられました」


「その日って、じゃあ何日もあんなことされる時もあるってことですか!?」


「・・・はい。

時には、無理矢理肌を合わせた事も」


「それは・・・」


俺は何も言えなかった。


たしかに貴族で奴隷を買う人はそういうの目的で買う事は多い。


俺だってそれ関係に関しては、口は出さない。


そういうのが当たり前の世界なんだここは。


「私も奴隷がどういうものかは知っているつもりでした。

何をされても私に口答えをする権利はありませんし、御主人様の命令は絶対ですから」


「だけど、さすがにアネッタさんの件はやり過ぎな気がしますよ。

あそこまで酷くなるのは、相当なやられ方をしないとならないですよ」


「・・・あの方は容赦のない方ですから。

ご自分が満足すればそれで良いと考えているかと」


完全に嫌な奴、ていうか危ない奴だな。


「今考えると、子どもが出来なかったのを不思議に思いますね」


「そんなにですか・・・」


そういえばウィリアムは女好きだったな。


まぁ、女好きなのにアネッタの扱いがそんな感じじゃ毒牙にかかった女性は可哀想だな。


「ところで、一つ尋ねてもいいですか?

アネッタさんはウィリアムさんからどういう命令を受けて僕の所に来たんですか?」


「私はウィリアム様からガルファット様に取り入ってこいと言われています。

それだけです」


「それって、エマさんとかも関係しているのですか?」


「いえ、ウィリアム様の独断かと。

直接聞いた訳ではないので正確な事は何とも言えませんが、ウィリアム様はガルファット様を自分の思うように動かしたいと考えていらっしゃるようです。

エマ・ダルネシア様はその事についてはご存知ではないかと」


なるほど、つまりエマに良いところ見せようとしたウィリアムが俺が獣人族に興味があるって知ってアネッタを俺の所に来させたのか。


・・・さて、どうするか。


多分、このままアネッタを帰したらウィリアムにまた酷いことをされるのは目に見えている。


だからと言って、ウィリアムは多分俺をエマの味方につけさせたいと考えている。


それは俺が嫌だしな。


・・・はぁ、偽善なんだろうな。


「アネッタさん」


名前を呼ばれて、アネッタが俺の顔を見る。


「あなたは、ウィリアムさんの奴隷を辞めたいですか?」


俺の言葉に、アネッタは諦めように笑いながら首を横に振った。


「それは出来ません。

私はウィリアム様のメイドであり奴隷です。

これは、契約上決まっているのですから」


「僕は、辞めたいかを訊いたんですよ?」


俺はアネッタの顔を真剣に見つめた。


「もう一度訊きます。

あなたは、ウィリアムさんの奴隷を辞めたいですか?」


俺の質問に、アネッタは顔を背けた。

そして、一粒、また一粒と涙を流しながらこちらをパッと見た。


「そんなの・・・辞めたいに決まっています!

暴力を受けて!したくもない相手と肌を重ねて!

理不尽な暴言を浴びせられて!

生きているだけで幸せなんて言葉は、今を生きているのが楽しい人が言うことです!

生きているのが地獄な私には、生きているだけで辛い!」


「・・・そうですか。

なら、代金はあなたの人生を貰いましょうか」


「えっ・・・」


先程までものすごい勢いで言葉を発していたアネッタが固まった。


「確実にとは言えませんが、あなたをウィリアムさんから解放することはできます。

ですが、その方法を使うと僕はあなたの人生を貰う事になります。

それでも、ウィリアムさんのもとから出ていきたいですか?」


「・・・どうせ、このままあの方の奴隷を続けていても良いことは無いでしょう。

それでしたら、ガルファット様にこの命を捧げます」


「分かりました。

それなら、こっちも善処しましょう」


とりあえず、俺とアネッタの契約は成立した。


あとは、上手くいくかどうかだな。


・・・人様の事に首つっこむ癖は直りそうにないな。


俺は、ベッドから降りて脱ぎっぱなしのメイド服をアネッタへ渡した。


「それと、早く服着ないと風邪ひきますよ」


「あ、ありがとうございます」


エマは俺から服を受けとると、部屋の隅でコソコソしながら着替え始めた。


「ガルファット様」


エマが着替えながら俺の名前を呼ぶ。


「どうしました?」


「なぜ、私のためにそこまでしてくださるのですか?」


「僕の知り合いには、元泥棒で今はちゃんと定職についた奴もいます。

あなただって、努力すればこれからどうにでもなるでしょう。

職につくことだって可能だし、結婚だって夢じゃないですよ」


「結婚だなんて、無理な話です。

私の体はもうとっくに汚されて・・・」


「まだ心は汚されていないでしょ」


俺はベッドに腰を降ろした。


「そりゃ、若いうちは性欲のある限りお互いの体を求めるとは思います。

だけど、歳とって爺さん婆さんになれば体を求めることは無くなって今度は心を求める事になります。

それに、あなたの体は充分綺麗ですよ」


さっき不可抗力とはいえ裸を見せてもらったからな、綺麗なのは俺が保証する。


「・・・ガルファット様は、お優しすぎます」


「優しすぎる、っていうよりはお人好しですけどね。

あ、そうだ今日のうちに荷物をまとめておいてください。

早ければ、明日にはあなたはウィリアムさんのもとを離れる事になりますから」


「そんなにお早いんですか!?」


「まぁ、やろうと思えば今日中に出来ないこともないですけどこっちも準備があるもので」


「しょ、承知しました」


「あと、今日はそのままあっちに戻ってもらうことになりますがウィリアムさん達には僕を抱き込めたとか適当にごまかしておいて下さい。

そうすれば、あなたも罰は受けないでしょう」


「よ、よろしいのですか?」


「まぁ、多分そっちのほうが僕にとっても都合は良いと思いますし」


その後、着替え終わったアネッタは俺の部屋を出た。


さてと、こっちも準備を始めるか。








次の日の朝、俺は皆を集めて屋上へと来ていた。


「それでガル、僕たちに話したい事って?」


シガラに尋ねられて、俺は皆のほうを見た。


「実は今日、僕はある人と決闘する事になります。

その事について、皆にお願いがあります」


「その前に、一つ訊いてもいいですか?」


俺にそう言ってきたのはイヴァンだった。


「その決闘相手というのはどなたですか?」


イヴァンがいつになく、真剣な顔で俺に尋ねてきた。


「相手は、現生徒会役員のウィリアムさんです」


「・・・彼ですか」


イヴァンが少し驚いた表情で呟く。


そうか、イヴァンは俺があの番長二人と決闘するって思ってたのか。


「ウィリアムさんって、誰?」


「ほら、入学式の日に俺を生徒会室に連れていった人だよ」


首を傾げるロミアに俺が説明すると、思い出しのだろう。


「あー」と言いながら頷いた。


「でも、何でそんな人と決闘を?」


ヘレナの質問に、頭をかきながら答えた。


「まぁ何ていうか、そのー、色々とあって」


「色々?」


「えーっと、ちょっとある一人の女性を賭けて決闘を申し込もうかと」


「えっ!?」


俺の言葉に反応して誰よりもまず初めに声を出したのはロミアだった。


そして、ものすごく疑っているような恐い目で俺の顔を見た。


「ガルー」


「は、はい、何でしょうか?」


「・・・ガルはその人の事好き?」


「えっ、いや、嫌いではないけど」


「じゃあ、何でその人を賭けて闘うの?」


「・・・毎度の事ながらお人好しな所が出てしまいまして」


「本当にそれだけ?」


「はい、それだけです」


俺が答えると、ロミアは少しの間何かを考えていた。


そして、笑顔で頷いた。


「じゃあ、頑張ってきて!」


「え?

えっと、何か言うことは無いんですか?」


「うん、だってガルがその人を助けたいんでしょ?

それなら、私はガルを応援するよ」


ロミアの予想外の反応に俺は驚いていた。


ロミアは何故か知らないが、俺の女性関係には結構敏感だ。


だから、ロミアにはもしかしたら反対されるかもしれないと思っていたのだが許しが出て良かった。


「それで、僕たちにお願いっていうのは?」


「まず初めにシガラに頼みたいんだが、もし俺がその決闘に勝ったらその女性が来るんだが俺達の部屋に何日か泊めさせてほしいんだ」


「えっと、その人女性なんだよね?

男子寮に女性は入れないことになってるんだけど」


「あー、悪い言ってなかったな。

その人メイドなんだよ。

だから、俺が許可の申請をすれば男子寮でも入れるんだよ」


「そういう事だったんだ。

それなら僕は構わないけど、そのあとはどうするの?」


シガラに尋ねられて、俺はロミアとヘレナの方を見た。


「ロミア、ヘレナ、悪いが二人の部屋に泊めてあげてくれないか?」


「そのメイドさんを?」


「あぁ、その人男から色々嫌がらせされている人だからさ。

俺とシガラが良くても、女子と一緒の部屋のほうが落ち着くかなと思って」


「そうなんだ。

うーん、私は大丈夫だけどヘレナちゃんはどう?」


「・・・初対面の人はちょっと」


ロミアから尋ねられて、ヘレナは少し困ったように返した。


「まぁ、そうだよな。

一応、最初は俺達の部屋に泊まってもらうからその間に考えてみてくれ。

もしそれでもダメそうだったら、言ってくれればいいからさ」


「うん、ゴメンね」


申し訳なそうに謝るヘレナに、俺は首を横に沸点返した。


「いや、いきなり初対面の人と一緒の部屋で過ごしてくれって言われたら誰だって戸惑うさ」


「僕は慣れてるけど、慣れてない人だとやっぱり最初は抵抗あるしね」


「シガラ、経験あるの?」


俺が尋ねると、シガラが頷いて返してきた。


「うん、働いていた頃夜勤とかで宿で他の従業員の人と泊まったりしてたし」


あーなるほど、仕事で慣れたのか。


「それでガルファット君、君の頼みというのはそれだけですか?」


俺は尋ねられて、イヴァンの方を見た。


「いえ、実はもう一つあります。

ただ、こっちは基本的にはロミアに頼むことになりますが」


「ん?私に?」


「あぁ、昔俺が寝込んだ事覚えてるか?

もしかしたら、もう一回あれと同じことが起きるかもしれない」


「・・・え?

だ、ダメだよ!あれやったらガルが死んじゃうよ!」


「いや、死にはしないよ」


まぁ、死にかけはするけどな。


「それに、あれを使うのは本当に非常時だよ。

俺がどうやってもウィリアムさんに勝てなかった時の最終手段にとっておくから心配するな」


「う、うん、分かった・・・」


と、ロミアはとりあえずは頷いてくれたが少し心配そうな顔をしている。


なるべく不安にさせないように努めよう。


「あ、そうだイヴァン先輩。

僕とウィリアムさんが決闘するときの審判をしてもらえますか?

僕も信頼できる人が審判してくれると安心できるんで」


「分かりました。

私も責任をもって審判をしましょう」


「ありがとうございます」


これで、俺の方の準備は整った。


あとは、この後の運次第だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ