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第84話 震えとドレス

俺とアルマにとって大事な日、幸いな事に俺はその日一日受けたい授業がなく朝からベッドに座って気持ちを落ち着けていた。


「じゃあ、そういうことだからシガラ。

今夜はもしかしたら、帰ってこれないかもしれない」


俺がそう言うと、シガラは椅子に座ったままこちらを向き頷いた。


「うん、分かった。

こっちも何かあったら、先生達には僕から上手く言っておくよ」


「あぁ、頼んだ」


「それより、大丈夫なの?

今日行くところ、危険な所なんでしょ?」


俺はシガラに、あまり詳しいことは説明せず今日は貴族の悪事を暴きに行くとだけ言ってあった。


「まぁ、行く場所よりも行く理由のほうが少し危険かもな。

下手したら、口封じに殺されちまうかもしれないし」


「そんなに危険なの!?

今さらだけど、僕止める側になろうかな」


「そこまで心配しなくても大丈夫だよ。

いざとなったら、尻尾巻いて逃げ帰ってくる方法くらい何個かあるし」


「それなら良いけど・・・」


「なぁ、シガラ」


俺はこちらを心配そうに見ているシガラに、ある質問をした。


「お前に訊くのは失礼かもしれないけど、もしお前の両親を殺した奴が分かったって言われたらお前ならどうする?」


「急にどうしたの?」


俺が尋ねると、シガラは首を傾げた。


「まぁ、あくまで仮の話だよ」


「うーん、綺麗事で片付ける事になるかもしれないけど、別にその人を殺したとしても父さんと母さんが帰ってくる訳じゃないし何もしないかもしれない。

そりゃ、ものすごく恨んではいるだろうけどさ。

ただ、何で殺したのかぐらいは訊きたいかな」


何で殺したのか、か。


そういえば、この前のオリビアの話だと何でアルマの母親が殺されたかは言ってなかったな。


何か特別な理由があったのか、はたまた偶然だったのか。


・・・分からないな。


まぁ、今日の夜問い詰めて訊けば分かることか。


あとは、俺とアルマのやり方次第だ。


「そっか、悪かったな変な事訊いちまって」


俺が謝ると、シガラは首を横に振った。


「別に気にしてないよ。

それより、今日の事他の皆に伝えなくていいの?

特にロミアちゃんに」


俺はシガラに尋ねられて苦笑いをした。


「ロミアに伝えたら、あいつの事だから絶対に付いていくって言いかねないからな。

そんな危険なマネはさすがにさせられないさ」


「それもそうだね。

僕だって付いていけるなら付いていきたいよ。

ただ、ガルを守れるような力は僕にはないから諦めるけど」


「その気持ちだけで充分ありがたいよ。

それに、無償で死ぬかもしれない所に行くようなお人好しのバカは俺くらいなものだよ」


俺はそう言った後、シガラと少し雑談して約束の時間まで潰した。








上流階級の入口、そこで待っていると少し早めにアルマは来た。


「よぉ、無事に休みは取れたんだな」


「・・・あぁ、そっちも休めたんだな」


アルマは少し不機嫌そうに返してきた。


「それじゃあ、行くか」


「・・・」


俺はアルマに合流し、一緒に歩き出した。


二人並んで歩く俺とアルマの間に、沈黙と共に重い空気が漂う。


いや、正確にいえばアルマからそういう空気が出ているんだが。


うーん、このままは少し危険かもな。


俺はアルマの手を握った。


「なっ、何すんだよ!?」


アルマはこちらを見て、少し顔を赤くしたまま叫んだ。


「気を張りすぎだ」


俺がそう言うと、アルマはその場で足を止めて固まった。


「そりゃ、今からお前の母さんの仇かもしれない人物に会うんだから気持ちは分からなくもないかどさ。

あんまり気を張りすぎてると成功するものも成功しないぞ」


俺がそう言うと、アルマは俯いてボソリと言った。


「・・・何でお前は、そうやって冷静でいられるんだよ」


「これのどこが冷静だって?」


俺は手を握っていないほうの手をアルマに見せた。


その手は、小刻みに震えていた。


その手を驚いた表情で見ているアルマに、俺は少し笑いながら言った。


「俺だって、死ぬかもしれないって言われたら怖いさ。

でも、だからって冷静さを失ったらその分死ぬ可能性が高くなるだけだ」


「お前、そこまでして何でこの話に乗ったんだよ」


「さぁな・・・多分、お前が信じてくれているからかな」


俺がそう言うと、アルマは少し笑って前を向いて歩き出した。


俺も、それに合わせて歩き出す。


「・・・ガルファット」


「どうした?」


「・・・いや、何でもない」








「はぁ、やっぱりこういう服は慣れないな」


俺は自分の手足を少し動かしながらそう呟いた。


ボニータ家の屋敷に来て、オリビアから言われさっそく貴族の正装に着替えたのだがどうもこういう服は合わないんだよな。


見た感じは、中世ヨーロッパの貴族の服に似ている。


“コンコン”


「ガルファット、入るわよ」


部屋の扉がノックされて、オリビアの声が聞こえた。


「はい、どうぞ」


俺がそう言うと、扉が開かれてオリビアが中へ入ってきた。


「あら、似合ってるじゃない」


オリビアは俺の姿を見ると、嬉しそうに言った。


「似合ってはいるかもしれませんが、やはり慣れない服は落ち着かないですね」


「動きにくいというのはありますか?」


俺はオリビアに尋ねられて、武術の型を何個かやってみた。


「大丈夫そうです。

まぁ、その時になって動きにくかったら服を破り捨てるかもしれませんけど」


「それは構わないわ。

洋服の一枚や二枚、好きにしなさい」


「あ、そうだオリビアさん。

何個か質問したかった事があるんですけど、良いですか?」


「何でしょうか?」


俺は首を傾げるオリビアに質問をした。


「まず、仮にライナスがアルマの母さんを殺すように依頼したのが事実だとして、それが公に知れた場合ライナスは社会的にどうなりますか?」


「そればっかりはなってみない事には分かりませんが、大きく分けて二つの意見を持った人達が出てきますね。

一つは特に何も思わない人達、そしてもう一つはライナスが危険な人物と判断する人達。

前者は特に関係ありませんが、後者はライナスを危険な人物だと認識して実質レイキュア家の格が下がりますね」


「なるほど、ではもう一つ。

オリビアさんはライナスの屋敷の位置を知っていますか?」


「屋敷の位置ですか?

一応知っていますが、それが何か?」


「じゃあ、その屋敷の近くにボニータ家の騎士を待機させといてください。

もしかしたら、活躍してもらう事になるかもしれないので」


俺の言葉に、オリビアの表情が変わった。


「そうなると思った理由は?」


「まず初めに、僕はパーティー会場でライナスに接触した時に、ライナスが何でも屋を雇って下流階級のエリアに火を放った事を知っていると言います。

しかし、ライナスも子どもの言葉だと思いはぐらかすでしょう。

そこで僕は自分がボニータ家の血筋だと明かします。

そして、もしこのままライナスが明確な事を言わず知らぬ存ぜぬを通すのであれば、先程の事を噂で流すと脅します。

子どもの言葉といえ、ボニータ家の力は大きい。

あっという間に噂は広まります。

しかもそれは、実際にあった事として。

ライナスもそれは避けたい所でしょう。

そこで僕は、ちゃんと話を訊きたいと言ってライナスの屋敷で話をしようと提案します。

あちらとしては願ったり叶ったりの条件でしょう。

なので、何かあった時の為に兵士を待機してもらい合図をしたらすぐに駆け付けられるようにしてもらいたいんです」


俺が説明すると、オリビアはゆっくりと目を閉じて考え込むと少ししてボソリと言った。


「・・・七歳の子どもが考えたとは思えない発想ね」


その言葉に、俺も苦笑いしながら返す。


「僕も、こんな子どもは正直気持ち悪いと思います」


そう言うと、オリビアは目を開いた。


「だけど、だからこそ腑に落ちないわね。

なぜわざわざパーティ会場からライナスの屋敷へ移動したのかしら?

それだと、ライナスに口封じしてくださいと言っているようなものじゃないかしら?」


「だからですよ。

だから、ライナスの屋敷へ行くんです」


「・・・どういう事かしら?」


「ライナスだって、パーティー会場で誰かに聞かれたくない話を聞かれるかもしれないと思ったら仮に自分が犯人でもやったとは言えないでしょう。

しかし、自分の屋敷ならいざとなれば自分の兵士を使えば良い。

そういう安心した空間なら、ポロっと真実を言う可能性もあるでしょう」


「なるほど、そこまで考えての誘導という事ね。

それにしても、よくそこまで考えられるものね」


「まぁ、やれる事はやっておくにこした事はないですから」


個人的には七歳の子どもがさっきの作戦を考えたっていうならすごい事かもしれないけど、30超えたおっさんが考えたのがさっきの作戦だって言ったらすごくないだろうからな。


言ってみれば、あれが俺の限界だ。


「オリビア様、アルマ様のご準備が整いました」


扉をノックした音の後にイルカの声が聞こえた。


「入ってきていいわよ」


オリビアがそう言うと、扉がゆっくりと開かれる。


待てよ、パーティーって事はアルマは女の子だからドレスを着ているって事だよな。


マジか、アルマのドレス姿が見れるのか。


ワクワクするな、ちゃんとこの目に焼き付けておかねば。


俺はその姿を見逃さない為に、扉の方を見つめた。


「・・・あれ?」


扉が開かれるとそこにはイルカと数人のメイド、そして俺と同じ服を着ているが明らかに俺よりカッコいい男の子がいた。


あれ?おかしいな、アルマの姿がない。


俺がそう思いキョロキョロしていると、男の子がこちらに向かって歩いてきた。


そして、俺の前で足を止めるとボソリと言った。


「俺の恰好、変か?」


あれ?この声どこかで聞いた事がある。


「あの、もしかしてアルマさんですか?」


「・・・そうだよ、他に誰がいるんだよ」


アルマは少しふてくされた顔をしている。


「あのー、アルマ一つ訊いていいか?」


「・・・何だよ」


「お前、男だったのか?」


「そんなわけないだろ!」


「イテッ!」


俺はアルマに殴られた頭を擦る。


「うん間違いない、お前はアルマだ」


「どこで納得してるんだよ!」


「いやだってお前、何で少し残っていた女の子な部分全部取っ払って男の子になっちゃうんだよ。

姿見ただけじゃ分からないよ、そして何よりなんで俺よりカッコいいんだよ」


「知らねえよそんなこと!

・・・それに俺だって、出来ることならド、ドレスとか、着てみたかったよ」


アルマが少し残念そうに言うと、アルマの後ろにいたイルカが一歩出てきて頭を下げた。


「申し訳ありません。

私達も色々試してみたのですが、アルマ様の口調や態度などを考慮するとこの恰好のほうが何かと良さそうでございましたので」


あー、そういうことなら納得だ。


アルマは普段男口調で、女らしさは少し欠けているからな。


さすがに、一人称が俺のお姫様は無理があるか。


「・・・なんか、この口調で初めて損した気分になったよ」


俺はそういうアルマに、笑顔で言った。


「まぁ、いいじゃねえか。

その姿も、似合っててカッコいいぞ」


「お前、それ褒めてるのか?」


「当たり前だろ、むしろ俺よりカッコよくて少し嫉妬してるくらいだよ」


「・・・はぁ、まぁ褒められているならいいや」


どうやら、アルマの機嫌も悪くないみたいだ。


あ、そうだ。


俺はイルカの元へ向かった。


「イルカさん」


「はい、どうなされましたか?」


俺が近寄ると、イルカはしゃがみこんで俺の身長に合わせてくれた。


俺はそんなイルカに耳打ちをした。


「アルマって本当に女の子でしたか?」


俺がそう尋ねると、イルカは笑いながら俺に耳打ちをしてきた。


「はい、紛れもなく女性でしたよ」


おぉ、そうか良かった良かった。


あまりにも男装が似合っていたから、疑ってしまった。


「なんで確認してるんだよ!」


「イテッ!」


後ろからアルマに殴られた。


何はともあれ、準備を済ませた俺たちはパーティー会場へ出発した。

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