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第83話 お守りと何でも屋

オリビアにアルマを連れてこいと言われた数日後、俺はアルマと一緒にボニータ家の屋敷へと向かっていた。


「悪いな、せっかくの休みに呼び出しちまって」


俺が謝ると、隣を歩くアルマはこちらを見ずに返した。


「別に気にするなよ。

休みの日だからって特にやりたいこともなかったし。

それにしても、お前だけならともかくなんで俺も呼び出されたんだ?」


「さぁな。

ただ、オリビアさんの様子がいつもと違ったし何か大事な話があるのかもな」


「俺も含めてのか?何の話だよ」


「さぁな、俺とアルマで結婚しろとか言われるんじゃないか?」


「け、結婚!?」


慌ててなぜか顔を赤くしているアルマに、俺は笑いながら言った。


「冗談だよ」


「紛らわしい冗談を言うな!」


「いてっ!」


アルマに頭を殴られ、俺は涙目になった。


「うぅ、そりゃ変な冗談言った俺が悪いけど、俺と結婚するのそんなに嫌かよ・・・」


「はぁ。

ったく、お前は二ヶ月前と全然変わってないな」


「そういうアルマだって変わってないだろ・・・」


まぁ、人間二、三ヶ月でそんな劇的に変わらないよな。


俺はそう思いながら、ふとアルマの胸元を見た。


「お前、今もそれを肌身離さず持っているんだな」


俺がそう言うと、アルマは自分の首にかけられている指輪を右手で握った。


「お守りみたいな物だ。

これを身に付けていると、母さんが守ってくれているような気がするんだよ」


「そっか、そのチェーン小さくなったら言ってくれ。

新しいのプレゼントするよ」


「おう、ありがとな」


そんな会話をしていると、いつの間にかボニータ家の屋敷の前へと到着していた。


「何か、ここに来るのも久しぶりだな」


「アルマが最後にここに来たのは、たしかロミアの料理対決の時だったな」


「あぁ、相変わらず建物も庭もデカイな」


「まぁ、俺達忘れがちだけどここ国のNo.2の貴族の屋敷だしな」


俺達はそんな会話をしながら、屋敷の中へと入っていった。


「オリビア様、ガルファット様とアルマ様がいらっしゃいました」


「入りなさい」


イルカが扉をノックし告げると、中からオリビアの声が聞こえた。


イルカは扉を開け、俺とアルマは中へ入る。


「二人とも、いらっしゃい」


中へ入ると、オリビアが椅子に座ってこちらを見ていた。


だが、いつものオリビアと何か雰囲気が違う。


明るい雰囲気とは決して言い難い、しかしエマと話した時の雰囲気ともまた違う感じだ。


何ていうか、空気が重い。


俺とアルマはテーブルを挟んでオリビアの正面の椅子に座る。


「それで、命令通りアルマを連れてきましたが大事な話というのは?」


俺が尋ねると、オリビアはいつもと違い真剣な表情でこちらを見てきた。


「そうね、何から話せばいいかしら。

まず二人とも、特にアルマちゃん、数ヶ月前に下流階級のエリアで起きた火事の事は覚えているかしら?」


「あ、あぁ、覚えているけど」


「僕も覚えています」


「もし、私がその犯人を知っているとしたら?」


オリビアがそう言った瞬間、隣にいたアルマの表情が激変した。


「誰だ!?誰があんなことやりやがったんだ!?」


まるで鬼のような形相で、テーブルに乗りオリビアの胸倉を掴んだ。


「ま、待って・・・アルマちゃん」


「・・・ハッ!アルマやめろ!手を離せ!」


あまりに突然の出来事に、俺は数秒固まった後状況を把握してオリビアからアルマを引き剥がそうとした。


「言え!誰だ!誰の仕業だ!」


「アルマ!落ち着け!」


駄目だ、アルマのやつ俺の声が届いていない。


・・・恨むなよ!


俺はアルマの頬に思いっきり平手打ちをした。


「ゲホッゲホッ」


アルマの手がオリビアの胸倉を離すと、オリビアは咳き込んだ。


俺は呆然と立ち尽くしているアルマをこちらに向かせて、両肩を掴んだ。


「アルマ落ち着け!オリビアさんにだって話の順序があるんだ!慌てすぎるな!」


俺がそう言うと、冷静さを取り戻したのだろう。


アルマは段々と落ち着いていき、いつも通りの表情に戻った。


「・・・悪かった」


「それは俺じゃなくて、オリビアさんに言うべき言葉だ」


俺がそう言うと、アルマはオリビアの方を見て頭を下げた。


「その、すみません、でした」


アルマがそう言うと、オリビアは苦笑いしながら首を横に振った。


「いいのよ、私の言い方も少し悪かったわ」


そう言うと、オリビアは姿勢を正して再度椅子に座った。


俺とアルマも、同じように椅子に座る。


「話を戻すわね。

エリアが違うといっても、同じ町の中で起きた火事ということで前から私は独自にその犯人を探っていたのよ。

色々な聞き込みなどを行ってね。

そして、ある時一人の人物にたどり着いた。

その男の名前は、ジェイク・ボルドー」


「ジェイク・ボルドー。

じゃあ、そいつがアルマの家を・・・」


「確かに、アルマちゃんの家を燃やしたのはそのジェイクって男だけど、話はそう単純ではないのよ」


「どういう事ですか?」


「ジェイクはいわゆる何でも屋をやっていて、お金さえ払えばどんな依頼でも受けていたのよ。

そして、あの火事が起こる一週間くらい前ジェイクはアルマちゃんの家を燃やすように依頼を受けたと言ったわ。

その依頼主の名前は、ライナス・レイキュア」


「ライナス・レイキュア」


何か、色々な名前が出てくるな。


「ジェイクは直接ライナスから依頼受けた訳ではないけど、依頼をしてきた男は自分の主はライナス・レイキュアだと言っていたらしいわ。

で、そのライナス・レイキュアという人物ある噂で少し有名なのよ」


「ある噂、とは?」


「そのライナスという男、ルックスは良くて性格も温厚で真面目なのだけど、女性関係が何一つないのよ」


「それが、何か問題でも?」


「レイキュア家は、位で言えば中流貴族で決して低くはないわ。

そんな家の主がまず考えなきゃいけない事といえば、跡取り。

もっと詳しく言うなら、妻を迎えて子どもを作ることね。

だけど、ライナスは良い歳してそういう女性関係の話はまったく耳にしない。

それどころか、自分を妻にという向こう側からの話も断っているらしいのよ」


それはまぁ、確かに不自然な話ではあるか。


自分からいかないだけなら未だしも、向こうからの話も断るってことは何か理由があるのか?


「それで、もしかしたらライナスは女性に興味がなくて男色の気があるのではないかと言われているのよ」


「あー、そういうことですか。

でも、こんな事言うのもなんですけど貴族の人って噂になっていないだけでそういう性癖の人多いですよね?

何で、そのライナスって人だけ公な噂になっているんですか?」


「他の貴族は大抵の人は妻がいるからでしょうね。

男色の気がある人は、大体はそれを隠すために妻を作るわ」


なるほど、つまりカモフラージュすらしていないからそのライナスって奴は噂されていると。


「なぁ、ガルファット。

さっきから話してるその男色の気って何なんだ?」


隣で話を聞いていたアルマが俺に尋ねてきた。


「そうだなぁ、例えば一般的に恋愛は男と女でするだろ?

それは男が女を、女が男を恋愛の対象として見ているからだけど、稀にそれとは違う考えを持った人達がいるんだよ」


「違う考え?」


「自分は男だけど男が好きだって奴もいるってことさ。

そういう人を、俗に男色の気がある人って言うんだよ。

あと、女で女を好きな人もいるけどな」


まぁ、前の世界には男の娘というものすごく貴重な人種がいたけどな。


ただ、いたにはいたけどあまりの希少性に三次元では、もはや想像上の生きものに近かったけど。


「男が男を好きで、女が女を好きか。

・・・俺は分からないな」


「まぁ、一般的になかなか受け入れてもらえない事がほとんどだからな。

お前と同じように思った人が多いと思うよ」


俺も、そういう人達がいるのは知ってるしそういう考えを否定してはいないけど。


仮に自分が男から告白されても、多分断るだろうしな。


「それでオリビアさん、何でわざわざさっきの話を僕たちにしたんですか?」


俺が尋ねると、オリビアは右手の人差し指を立てて俺達に向けた。


「今から約一ヶ月後、貴族の集まるパーティが開催されるわ。

そのパーティーにライナス・レイキュアも出席する」


オリビアの言葉に、空気が少しピりつく。


「さっきの情報はあくまで私が人を使って独自に入手した情報だから、どこまでが真実か分からないわ。

だから、あなたとアルマちゃんで真実を確かめてきなさい」


「ちょっと待ってくれ、ガルファットはともかく俺は貴族じゃないんだぞ?

そんなパーティーに参加して大丈夫なのか?」


アルマが尋ねると、オリビアは頷いた。


「大丈夫よ、当日は服装からすべて変えるし私の友人の子どもだと言ってしまえば皆からチヤホヤされることはあっても、疑われるような事はないわ。

そこは、ボニータ家の力でね」


「でも、そこまでしなくても別にオリビアさんが普通に問い詰めに行けばいい話ではないんですか?」


「私が直接尋ねても、疑われて何も教えてはもらえないわ。

だから、パーティーという場で偶然を装ってあなたたちでライナスに接触しなさい。

相手が子どもなら、ライナスも少しは油断するでしょう。

・・・それに、こんな事言ったらアルマちゃんに怒られるかもしれないけど、私はあの火事についてはそこまで興味はないのよ」


そう言うと、オリビアはアルマの顔を真剣な表情で見つめた。


「私はあくまでガルファットの叔母として、ガルファットの友人であるアルマちゃんのお母さんが亡くなったから調べただけのこと。

別に、アルマちゃんに真相を知る気持ちがないならさっきまでの話は聞かなかった事にしてもらって構わないな。

それに今回の作戦は、必然的にあなたとガルファット、そしてライナスの三人で話す事になるわ。

ガルファットが魔法などを使えると言っても、相手は大人。

もし、相手が襲ってきたり自分の部下の兵士を呼んだりしたら下手をしたら死ぬことになるわ。

それでも、あなたは真相を知りたいのかしら?」


オリビアの言っている事は正しい事だった。


確かに、オリビアの作戦を実行するならかなりの危険が伴う事になる。


アルマもそれは分かっているのだろう、目を閉じて考えている。


「なぁ、ガルファット」


アルマが目を閉じたまま、俺の名前を呼ぶ。


「なんだ?」


「・・・お前は、俺の為に死ねるか?」


俺はアルマの質問に、首を横に振った。


「死ねないな。

だってお前、俺がお前の為に死んでも墓の前で悪口とか文句ばかり言いそうだもん。

それだったら、俺は二人とも生きてお前の前でバカな事言って殴られる方を選ぶよ」


「・・・フッ、そっか」


アルマは少しだけ笑うと、静かに目を開けた。


「オリビア、さん」


「何ですか?」


「そのパーティーの日にちと時間を教えてくれ。

ギラールさんに頼んで、何としてでも休みにしてもらうから」


「いいのかしら?

さっきも言ったように、下手をしたらあなたとガルファットは死ぬかもしれないわよ?」


「まぁ、俺だって死ぬのは嫌だけど」


アルマは俺の方を見た。


「このバカなら、何とかできそうな気がするから」


「ガルファット、あなたとしてはどう?」


オリビアに尋ねられて、俺は少し笑いながら返した。


「まぁ、ここまで期待されちゃ断れませんね。

それに、ただ逃げるだけでいいなら手がない訳じゃありませんから。

生きてバカな事言ってアルマに殴られるのはいいですけど、死んでから恨まれて殴られるのは僕も嫌ですし」


「そう・・・分かったわ。

一応ボニータ家当主として、できる限りのサポートはするわ」


「よろしくお願いします」


俺とアルマはオリビアに頭を下げた。


その後、パーティーの日付けと時間を聞いて俺とアルマはボニータ家の屋敷を出た。

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