第82話 命令と妹は四百歳
ある晴れた日、俺はボニータ家の屋敷へと来ていた。
「それで、学校生活のほうはどう?」
目の前でお茶を啜るオリビアに尋ねられて、俺は笑いながら答えた。
「まぁ、ボチボチと言ったところですね。
友達も出来ましたし、授業も楽しいです。
ただ、どこかの誰かさんが入学式で堂々と私の甥だと宣言しちゃったせいで、貴族の女性から声をかけられまくっていますけどね」
俺はそう言って、テーブルの上のお菓子を一つ摘まんだ。
おっ、美味いなこのお菓子。
「あら、モテモテで良かったじゃない。
あの学校なら、結婚相手も選り取り見どりよ」
「別に僕は結婚相手を探しに通っている訳じゃないですからね。
しかも、まずはお友達からっていうのをすっ飛ばして皆玉の輿に乗ろうとしてくる辺り図太いというか欲望に忠実というか」
「貴族が結婚相手を決める時、家柄は必ず入ってくる必須事項みたいものよ。
仕方のない事だわ」
「そうは言ってもあそこまで貪欲に求めなくても」
俺も恋愛面に関してはうるさく言えるような人間ではないけど、それでも多少の礼儀はわきまえてると思いたい。
「それに、そこまで言うならオリビアさはどうなんですか?
ボニータ家当主として、血は絶やさないほうが良いんじゃないんですか?」
俺が尋ねると、オリビアは笑顔で当たり前のように答えた。
「私は多分、一生結婚できないでしょうね」
「ん?どうしてですか?」
俺が言うのもなんだけど、オリビアはかなり美人だ。
性格だって、多少人を使って遊ぶような所はあるがそれ以外は基本悪い所はない。
家柄の事もあまり言いたくはないが、国のNo.2のボニータ家だ。
不満に思われることはないだろう。
「さっきあなたが言ったように私はボニータ家現当主。
当然今のあなた以上にお誘いがあったけど、そのほとんどが私と結婚すればボニータ家の権力が手に入ったり、ステータスになったりっていう私本人には何も魅力を感じていない人達からの誘いだったわ」
なるほど、そういうことか。
つまり、今の俺と状況はほとんど変わらないと。
「そうだ、ガルファット。
あなたの知り合いが私の夫に良さそうな人はいないかしら?」
「いや、七歳の子どもになんて事尋ねてるんですか。
僕だって、友達が出来たっていってもそこまで多くないですよ」
「それでも、候補の数人くらい頭に思い浮かぶでしょう?」
「うーん、オリビアさんの結婚相手、か」
同性の友達で真っ先に名前が上がったのは、イヴァンとシガラだな。
俺はチラッとオリビアの胸を見た。
あの大きさはD・・・いや、Eはありそうだな。
ということは、貧乳好きのイヴァンはパスだな。
なら、巨乳好きのシガラならどうだろうか。
・・・駄目だ、シガラの場合ボニータ家っていう重圧に押し負けそうだ。
「残念ながら、オリビアさんに紹介できそうな人はいませんね」
俺が首を横に振ると、オリビアは笑顔のまま返した。
「あら、それは残念ね」
オリビアの顔はあまり残念そうには見えないが、まぁ本人も期待はしていなかったのだろう。
うーん、他に紹介できそうな人は・・・あ。
「オリビアさん、一人オリビアさんにピッタリな人がいました」
「あら、どんな人?」
首をかしげるオリビアに、俺はその人物の特徴を言った。
「僕の友達の人で、年齢はオリビアさんとほとんど変わらないです。
性格は礼儀正しく明るい、収入はものすごく高くて安定しており、高い志を持ったイケメンです」
「あら、それはかなり良い話ですね。
その人の名前は?」
「リカルド・ダルネシアさんです」
「却下です」
オリビアはその名前を聞くと、笑顔のまま即座に断ってきた。
「うーん、リカルドさんも駄目ですか。
となると、本当に紹介できそうな人はいませんね」
「というかガルファット、あなたいつからあのリカルドと友達になったのですか?」
どうやらオリビアはリカルドを知っていたらしい。
まぁ、あっちは王家の第一王子だもんな。
知らないほうがおかしいか。
「前にリカルドさんが学校へ来た時に話をして友達になりました。
もちろん、ボニータ家とダルネシア王家としてではなく、ガルファット・ファーリンとリカルド・ダルネシアという一個人としてです」
「あなた、簡単に言ってるけどそれかなりスゴいことよ?」
オリビアが呆れ顔で俺に言ってくる。
そんなにスゴイ事だろうか?
まぁ、前世で友達の少なかった俺からすればこれだけ友達と呼べる奴らが多いのはスゴイ事だが。
「まぁ僕は基本、来るもの拒まず嫌いな人拒みまくるですから」
「ハァ、姉さんといいあなたといいそういう大雑把な性格は血筋かしらね」
「周りからしたら迷惑な話ですよね」
俺は苦笑いしながらオリビアに言ったが、今のところこの性格は直りそうにないからこれからも周りには迷惑をかけていきそうだ。
今度日頃のお礼に、何かプレゼントでもあげたほうが良いだろうか。
・・・それにしても、血筋か。
「さて、じゃあ僕はこの辺で学校に戻りましょうかね」
俺はそう言って、椅子を降りた。
「あら、もう少しゆっくりしていっても良いのよ?」
「できればそうしたいんですが、午後から受けたい授業があるんですよ」
「それは残念ね、・・・ガルファット」
「ん?どうしました?」
俺はドアのほうに向かおうとしていた足を止め、オリビアのいる方を見た。
心なしか、オリビアは少し苦しそうな顔をしている。
「その、皆は元気にしているかしら?」
「皆って、ロミアやシガラの事ですか?
えぇ、二人とも元気ですよ。
やりたいこと片っ端からやって、色々な事吸収してますよ」
「そう、それなら良かったわ。
その・・・アルマちゃんも元気かしら?」
「ん?アルマですか?
うーん、魔法学校に入学してからは会っていないから分かりませんけど、アルマなら多分元気にやっていると思いますよ」
「そう・・・」
「どうしたんですか?
さっきから、何か変ですよ?」
いつものオリビアはもっと楽しんで会話をするタイプだ。
こんなに重い雰囲気なのはおかしい。
俺が尋ねると、オリビアは少しの間目を閉じて次に目を開いた時には真剣な眼差しで俺を見ていた。
「ガルファット、あなたにボニータ家当主として・・・いえ、あなたの叔母として命令します」
「命令、ですか?」
俺が尋ねると、オリビアは深く頷いた。
「近い日に、アルマちゃんを連れてこの屋敷に来なさい」
「アルマを連れて?何故ですか?」
「詳しいことはその時に話します」
今は何も分からないままか。
うーん、オリビアの言うことだから危険なものとかではないと思うけど。
この態度の変わりようは何かあるよな・・・まぁ、今は考えても分からないし仕方ないか。
「分かりました。
アルマの仕事の休みに合わせると思うのでいつかは正確には言えませんが、近いうちに二人で来ます」
「えぇ、待っています」
俺はオリビアにそう言って、屋敷を出た。
最後のほうのオリビアの態度が気になったが、今は気にしても仕方ないか。
その日の夜、俺は久しぶりにある人物と話していた。
「お久しぶりですね、ガルファットさん。
最近会えてなかったので、少し寂しかったです」
その人物はそう言うと、俺に頬笑みかけてきた。
「悪かったな紅。
最近は授業とかで忙しくて、夜もグッスリ眠っちまってな」
俺がそう言うと、紅は着物の袖で顔を隠してウソ泣きを始めた。
「そうですか、ガルファットさんは私より学校の授業のほうが優先度が高いんですね・・・」
「いや、あの、うん、学校の授業のほうが大事だ」
じゃなきゃ、何のために魔法学校に入学したか分からないからな。
「うわぁーん!ガルファット様のいじわるー!」
「はいはい、俺が悪かったから泣き止んで」
俺はそう言って、ペタンと座り込んで泣いている紅の頭を撫でた。
・・・何で俺は400歳のお婆ちゃん神様をあやしているのだろう。
「ガルファットさーん!」
紅が突然俺に抱きついてきた。
「く、紅、苦しい、ギブ!ギブ!」
俺は紅の腕にタップする。
クソッ、前から思ってたけどこいつ力ものすごく強い。
「あっ、すみません。
ガルファットさんが可愛かったものですからつい」
「いや、お前がああいうことするのはいつもの事だから慣れたけどさ。
もう少し加減してくれるとありがたい」
「ガルファットさんがもう少し私と話してくださる頻度が上がったら、考えますよ?」
「じゃあ、今までと力の加減は変わらないのか。
体がもてばいいが」
「うぅ、ガルファット様の意地悪・・・」
紅が少し涙目になりながら、いじけたように俺に言ってくる。
俺はそれに笑いながら返した。
「嘘だよ、そんな大幅には無理かもしれないけど少しくらいなら会う頻度を上げれるよ」
俺が言うと、紅は満面の笑みで俺を見た。
「やった!
そういえば、今日は何でお話ししに来てくださったんですか?」
「この頃貴族の女の子と話す機会が多くてな。
色々気を使ったりして疲れてたから、たまにはこうやって紅と気を使わない会話をしたいと思ってな」
「そういうことでしたか。
それにしても、ガルファット様をそんなに気安く口説くなんて許せませんね」
「お前、それどういう立場で言ってるんだ?」
俺が尋ねると、紅は少し考え込んだ後呟くように言った。
「うーんそうですねぇ、姉としてですかね」
「姉として、ねぇ」
紅は姉というよりは妹みたいな感じだけどなぁ。
でもそうなると、妹は四百歳のお婆ちゃん神様というとてもインパクトのあるラノベのタイトルみたいになってしまうな。
「ガルファット様、どうかしましたか?」
「いや、お前は姉より妹タイプだと思ってな」
「妹ですか?
でも、こんなナイスバディな妹っていますか?」
そう言って、紅がグラビアモデルが自分の体型をアピールする時のようなポーズをした。
まぁ、着物だから体型はほとんど分からないけど。
「個人的には見た目よりも性格で判断したのだが」
「何か言いましたか?」
紅はそう言うと、怖い笑顔で俺の両頬を引っ張った。
「ごめんにゃじゃい、にゃんでもごじゃいません」
「そうですか、どうやら私の聞き間違いだったようですね」
紅が俺の頬を離した。
ううっ、女怖い、お婆ちゃん怖い。
「もう、半分寝ているはずなのに疲れたので今日はもう帰ります」
「また来てくださるの楽しみにしていますね」
紅が笑顔で俺に振る。
「・・・しばらく来ないようにしようかな」
俺が呟くように言うと、紅が心配そうな顔をして近づいてきた。
「また次も来てくださいね」
「・・・嘘だよ、ちゃんとまた来るよ」
「はい!楽しみにしてます!」
紅が笑顔で頷いたところで、俺は意識を戻してベッドで眠りについた。




