第85話 問い詰めと偽名
「さてと、行きましょうか」
俺とアルマ、そしてオリビアの乗っていた馬車がパーティー会場へと到着した。
場所は、ソロモンの上流階級エリアの最奥地。
貴族たちのパーティーの為だけに用意された屋敷と庭のある場所だ。
まぁ、屋敷と言ってももはや城に匹敵するんじゃなかろうかと言うデカさだけど。
「二人とも、手筈通りにね」
オリビアの言葉に、俺とアルマは頷いて馬車を降りた。
門の前には門番がいて、ここから見ただけでも庭にはなかなかの数の見張りの兵士がいる。
さすがは貴族のパーティと言ったところか。
警備体制もしっかりしているな。
俺たちは門を通り、屋敷の入口へと向かう。
すると、屋敷の門の左右に執事が立っていた。
オリビアの姿を見ると、二人とも頭を下げた。
「これはボニータ様、今回のパーティーへのご出席ありがとうございます」
片方の執事が顔を上げて、オリビアにそう言うとオリビアはその執事対し質問をした。
「今回のパーティー、王子は?」
「リカルド・ダルネシア王子は今回のパーティーは欠席との事です。
何でも、外せない用事があると」
「・・・リカルドめ、サボったわね」
オリビアはボソリと言った。
これはここに来る道中、馬車の中でオリビアに言われた事なのだがリカルドはこういうパーティーの誘いは基本来ないらしい。
パーティー自体は嫌いではないのだけど、こういう特に理由のないパーティーには来たがらないとの事だ。
だが、それは同時に俺たちにとってラッキーな事だ。
俺はリカルドと面識がある。
もし見つかれば少しは話をすることになるだろうし、そうなると確実に目立つ。
今日の俺とアルマの目的はなるべく目立つ事なく、ライナスと接触して話を聞くことだ。
そうなってくると、リカルドの事は嫌いではないが今日のパーティーにいないことは幸いだ。
「分かりました、扉を開けなさい」
オリビアが命令すると、二人の執事は目の前の大きな扉を開いた。
こうしてみると、やっぱり偉い人なんだなこの人。
屋敷の中へ入ると、そこは外見に負けないくらいの広さがあった。
左右には二階へと上がる階段、その真ん中には誰か分からない人の石像。
一階の左右にある扉。
多分、あの扉は違う通路に繋がっている扉だ。
オリビアが何も言わないまま、前を歩き出したので俺とアルマもその後を付いていく。
そして、二階の扉の前へ行くと左右にいる執事が半身になって扉を押し開けた。
「・・・」
その光景は、よくマンガやアニメで見たことのある光景だった。
立食式で、豪華なドレスを着た女性と男性がいて、そして明るく楽しいという空気とは少し違う感じのする場所だ。
何でだろうな、俺の偏見なんだろうけど目に入る人の笑いが全部愛想笑いに見えてしまう。
俺がそんな風に感じていると、俺たちを見て一人の男がこちらを歩いてきた。
「おぉー、これはボニータ侯。
このようなパーティーにご出席されるとは珍しいですな」
中々に太った体に、両端がくるんと少し巻かれている髭。
なんだろう、このどう見ても貴族だと分かる人は。
そして、その男の言葉に反応して周りにいた貴族達がこちらへと集まり始めた。
ここまでは、俺たちの予想通りだ。
「久しぶりですね、ジゴール。
娘さんはお元気かしら?」
オリビアがジゴールという男は笑いながら返した。
「元気な事には元気なのですが、年頃だからでしょうかあまりいうことを聞かなくて苦労しております」
「あら、それは大変そうね」
オリビアがそう返すと、ジゴールは俺とアルマを見た。
「ボニータ侯、その子ども達は?」
そう尋ねるジゴールに、オリビアが笑顔で返す。
「この子達は私の親戚の子どもです。
少しの間私の家に滞在しているので、せっかくですからパーティーに連れてきました。
皆さんから向かって左がガジリス、右がアルスタです」
オリビアに紹介されて、俺とアルマは貴族のお辞儀をした。
はいどうも皆さん、一時的にガルファットからガジリスになりました。
俺の隣でお辞儀をしている子も、一時的にアルマからアルスタに変わりました。
これはオリビアの提案だ。
あまり本名を使うと、後々めんどくさい事になるらしい。
まぁ、俺はまだしもアルマは貴族の血すら入っていないからな。
俺は頭を上げて、オリビアの方を見た。
「オリビア様、僕とアルスタは近くで遊んでいてもよろしいですか?」
俺はなるべく子どもっぽく、オリビアに尋ねた。
「えぇ、構いませんよ。
皆様のご迷惑ならないように」
「はい!アルスタ!あっちへ行ってみよう!」
俺はそう言って、アルマの手を引いて入った入口の朴へ走った。
「申し訳ありません。
まだ幼く落ち着きがなくて」
「いえいえ、子どもはあれくらい元気なほうが良いですよ」
オリビアと貴族たちの話し声が後ろから聞こえる。
さてと、作戦開始だ。
パーティー会場の入口を出て左側の通路を行くと、周りを囲むような形になっている大きめのバルコニーのような場所がある。
ライナスはよく一人でそこにいると、事前にオリビアからの情報を入手していた俺とアルマはバルコニーへと続く扉の前にいた。
「・・・とりあえず、他には誰もいないようだな」
俺は周りを見ながら呟くように言った。
「なぁ、ガルファット」
「ん?どうした?」
俺の後ろにいるアルマが小声で俺に言ってきた。
「さっきのお前、いつもと違う感じで何か気持ち悪かったぞ」
「・・・悪かったな、あれでも精一杯無邪気な子どもを演じたつもりだ」
まぁ、今のは七歳の子どものセリフじゃないのは確かだな。
「それよりアルマ、次の作戦の事だけど・・・」
俺が確認しようとすると、アルマが遮った。
「分かってるよ、基本的にはお前に任せて俺が正体を明かすのはギリギリまで待てばいいんだろ?」
「あぁ、よし行くぞ」
俺はアルマに向かって頷いて、扉を開けベランダへと行った。
扉の先には、月によって少し明るく幻想的に照らされたベランダというには明らかに広すぎる物が広がっていた。
普段だったらこの空間に浸っていたいところだけど、今回は別の目的がある。
残念ながらお預けだ。
俺は辺りを見渡した。
確かオリビアの話だと、ライナスは優しそうな顔をした少し背の小さい茶髪のオールバックだって言ってたな。
どこかにそれっぽい人はいるだろうか。
俺とアルマはゆっくりと歩きながら探す。
そして、少し歩くと一人の男を発見した。
柵に両腕を置き、どこか悲しそうに遠くを見つめる男。
顔はしっかりとは確認できないが、少し背が小さめのオールバック、多分間違えない。
「アルマ多分あの人だ、行くぞ」
「・・・あぁ」
俺はアルマが頷くのを確認してその男へと近づいた。
「あの、すみません」
俺が声をかけると、男はこちらを見て笑顔で尋ねてきた。
「私に何か用ですかな?」
「えっと、レイキュア家のライナス様でしょうか?」
俺が尋ねると、男は優しく頷いた。
「いかにも、私がライナス・レイキュアですが君達は・・・」
「紹介が遅れました。
僕の名前はガジリス、こっちはアルスタ。
叔母からライナスさんの噂を聞いて、一度お会いしたいと思っていました」
「ほぉ、どんな噂ですかな?」
「はい、ライナスさんは貴族の方達の中でも温厚で真面目な性格だというのを聞きました。
ですので、こうしてお会いできて光栄に思います」
俺がそう言うと、ライナスは少し悲しそうに笑って返した。
「それは私としては嬉しい話ですね。
ですが、残念ながら私は君達が思っているような人間ではありません。
噂になるような温厚さも真面目さも私は持ち合わせてはいませんよ」
おっ、珍しいな。
貴族っていうのはこういう話は素直に認めると思っていたんだけどな。
まぁ、本題はここからなんだけど。
俺は残念そうにしている演技をした。
「そうですか・・・。
あっ、でもあの噂なら本当かもしれませんね」
「あの噂とは?」
「ライナスさんが人を雇って、下流階級のエリアの建物を燃やしたという噂です」
俺の言葉に、ライナスの顔が凍りついた。
分かりやすい反応してくれたな。
ライナスがひきつった笑顔でこちらを見る。
「それはまた随分と物騒な噂ですね。
ですが、私もその事件の事は知れど一切関わりはしていませんよ」
「子ども相手だからって、あまり下手な嘘はつかないほうが良いですよ。
こっちも、何も情報が無くて言っている訳ではないですから」
「では、その情報とやらを教えてもらえますかな?」
「叔母が人を使い集めた情報ですが、あなたの部下だと名乗る人がジェイクという何でも屋を雇ったというのをジェイク本人から聞いたらしいです」
「その情報が誤りだという可能性も充分あるのではないのかい?」
ライナスの言葉に、俺は首を横に振った。
「いえ、この情報はたとえ誤りだったとしても真実として世に流れる事でしょう」
「・・・どういうことかな?」
俺はライナスに向かって、敢えて挑発するように少しわざとらしく自己紹介をした。
「僕もあまり素性を人に知られたくないので、偽名を使わせてもらいましたが改めて自己紹介をしましょうか。
僕の本名は、ガルファット・ファーリン。
そして、僕の叔母はボニータ家現当主オリビア・ボニータさんです」
俺が自己紹介をすると、ライナスの顔が血の気が引いたように青白くなった。
「・・・何が、目的なんだ」
ライナスは絞り出すようにそう言った。
「安心してください、別に僕たちは金を要求したりあなたの地位を落とすのが目的ではありません。
僕たちは、真実を知りたいんです」
「真実・・・」
「えぇ、あの火事の前の日何があったのか。
何故あなたがあの建物を燃やそうと思ったのか真相を知りたいんです」
「・・・しかし」
ライナスが辺りをキョロキョロと見る。
俺はその行動に、作り笑顔で返す。
「安心してください。
こんな所で聞こうだなんて僕たちも思っていませんよ。
どうですか?これからライナスさんの屋敷でお話ししませんか?
その方がライナスさんも安心して話せるでしょう」
ライナスとしてはそれは願ってもいない提案だろう。
しかし、自分からではなく俺からの提案だからか安堵の表情ではなくいまだに苦悶の表情を浮かべている。
まぁ、いまのところ上手く誘導できてはいるからな。
俺としても少し恐いくらいだ。
「・・・承知した、馬車を手配しておこう」
「お願いします。
あっそうだ、僕たちがそちらに行くまで屋敷の入口の門の所で待っていてもらえませんか?」
「何故だ?」
「叔母に、先に帰ることを伝えなくてはいけないので」
俺がそう答えると、ライナスは重く頷いた。
「先に、向かっている」
そう言って、ライナスはその場から去った。
「さてと、アルマ大丈夫か?」
俺が尋ねると、終始俺の一歩後ろにいたアルマが小さく呟いた。
「あぁ、大丈夫」
「お前の事だから途中で殴りかかるかと思ったけど、よく抑えてくれたな」
「・・・後でいくらでも殴れる時はあるだろ。
その時までとっておくよ」
「・・・そうだな」
何でだろうな、自分の作戦通りにいっているはずなのにこの何ともいえない不安な気持ちに襲われるのは。
パーティー会場へ戻ると、オリビアの姿はすぐに見つかった。
まぁ、人だかりがあったからそこを見たらオリビアがいたんだけど。
俺は人だかりを掻き分けながらオリビアに近づいた。
「オリビアさん」
名前を呼ぶと、オリビアがこちらを向いてしゃがみこんだ。
「あら、ガジリスどうかしましたか?」
「えっと、僕とアルスタは疲れたので先に屋敷に戻ってもよろしいですか?」
俺が尋ねると、オリビアは笑顔で頷いた。
「えぇ、構いませんよ」
そう言って、オリビアがそっと俺に耳打ちする。
「作戦のほうは?」
「順調に進んでいます」
「分かったわ、気を付けて」
「はい」
俺が返事をすると、オリビアが立ち上がった。
俺とアルマはそんなオリビアにお辞儀をして、パーティー会場を後にした。
ここからが、第二ラウンドの始まりだ




