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第72話 生徒会と第二王女

「はぁ・・・」


俺は椅子の背もたれに体を預けて、天井を見ながらため息を吐いた。


こんなに疲れる入学式は初めてだ。


周りの人達は入学式が終わると同時に大講堂を出ている。


俺達も、もう少ししたらここを出なきゃな。


「ガル、大丈夫?」


ロミアが俺の顔を見ながら尋ねてくる。


「あぁ、大丈夫」


いつまでも気にしてても仕方ないか。


とりあえず、気持ちを切り替えよう。


「初日だというのに、随分と疲れているわね」


背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


俺は後ろを振り向き、声の主を確認する。


「久しぶりね、ガルファット」


そこには、先程ステージで挨拶をしていたオリビアがこちらを見ていた。


その傍らには、イルカも一緒だ。


というか、周りの人達がある程度の間隔を開けているから改めて偉い人なんだなと思う。


俺は椅子を降りて、オリビアの前に行く。


「お久しぶりです。

ところで、何でオリビアさんがこんな所にいるんですか?」


俺が尋ねると、オリビアはまるで俺との会話を楽しんでいるかのようにニコニコした。


「私は毎年、国王が出席できない代わりにああいう風に挨拶をしているのよ。

まぁ、今年は入学した甥を叔母として見に来たのもあるけれど」


「だからって、挨拶であんな事を言わなくても・・・」


「あの言葉は本心よ。

あなたがここで色々な功績を立ててくれれば、ボニータ家の名前が売れるから」


「僕は平穏で安全で安心な学校生活を送りたいんです」


目立つのは色々とめんどくさいって事は、前の世界の学校で嫌ってほど知ってるからな。


「あら、どちらにしろそれは無理な相談よ」


「・・・どういうことですか?」


俺が尋ねると、オリビアが俺の制服を指差した。


「その制服を着ているって事は、入学試験を受けて入学したのでしょう?」


「そうですけど・・・え?じゃあ、僕たちの制服の色が周りと違うのって」


「入学試験で入学した子達は学校側から色々と期待されているわ。

だから、その区別として普通に入学した子達と制服の色が違うのよ」


そういうことだったのか。


どおりで、周りを見ても他に白い制服の人がいないわけだ。


「そんな目立つ子達の素性なんてあっという間に調べられるわよ。

私がこうして話さなくても、遅かれ早かれあなたが私の甥だということも」


オリビアの言葉に、周りがざわめき始める。


それと同時に俺の平穏な学校生活が音を立てて崩れた気がする。


「ホッホッホ、いつもは式が終わればさっさと帰るオリビアが珍しく残っていると思えば、面白い話をしておるの」


そんな俺の背後からまた聞き覚えのある声が聞こえてきた。


もう大体は予想はついているが、一応振り返る。


「久しぶりじゃの、坊や」


「久しぶりですね、おじい・・ボルグ校長」


振り向くとそこには、相変わらず背の高い老人が立っていた。


「そっちの坊やは、たしかギラールの所の子じゃったの」


ボルグはシガラに目を向けて言った。


シガラはボルグに近付き、お互いに握手をした。


「お久しぶりです、ボルグ校長。

ギラールさんから、会ったらよろしく伝えておいてほしいと言われています」


「シガラ、ボルグ校長と知り合いなのか?」


俺が尋ねると、シガラが頷いて返してきた。


「うん、正確には僕がっていうよりはギラールさんがって感じだけど」


「ギラールとワシは昔からの戦友じゃからの」


戦友、か。


そうか、今もそこまで大規模とは言わないまでも戦争はあるからな。


この世界じゃ、そういうのもあるか。


「オリビアも久しぶりじゃな。

お主は相変わらず綺麗じゃの」


「ボルグ校長もお元気そうですね」


まぁ、ここのやり取りは珍しい事ではないか。


オリビアも毎年挨拶をしているなら、その度にボルグと会っているだろうし。


「それにしても、あのお転婆娘のシルビアに子どもがいたとはの。

いやはや、年を感じるわい」


「ボルグ校長、母さんをご存じなんですか?」


「シルビアは元ワシの教え子じゃからの。

詠唱を必要とする魔法使いの中では、実力はトップクラスじゃったよ」


「そうだったんですか。

どおりで軽くあしらわれる訳だ」


俺は苦笑いしながら返した。


「それでは私はそろそろ帰るとしましょうか。

ガルファット、あとロミアちゃんもシガラ君も楽しい学校生活を送ってね」


『は、はい!』


その言葉を聞いて、シガラとロミアが慌てて返事をするとオリビアはにっこりと笑った。


「オリビアさんとイルカさんも体に気を付けてください」


「お心遣いありがとうございます」


イルカはそう言うと、丁寧に俺にお辞儀をした。


そこまで丁寧に返されると違和感を感じるが、周りの人の目が向いている状態のメイドの対応っていうならあんな感じか。


「ガルファットも暇な時はまた屋敷に遊びに来なさい」


そう言って、オリビアとイルカは帰っていった。


あの人が歩くと目の前の人達が横に捌けて一本の道になるから、なんかカッコいい。


「さてと、ワシもそろそろ戻るかの。

会議もあるしの」


「ボルグ校長、これからもしかしたらお世話になるかもしれませんのでその時はよろしくお願いします」


俺はボルグに向かって頭を下げた。


仮にもこの学校の校長だ、こうしておいて損はない。


「ホッホッホ、こんな老いぼれで良ければいつでも相談相手くらいにはなってやるわい」


そう言うと、ボルグは笑いながらどこかへ行った。


「はぁ・・・」


俺はまたため息を吐いていた。


もう、今日は授業もないし寮のベッドでぐっすり眠ろうかな。


「ガル、溜め息ばっかり吐いてるね」


「そりゃ入学初日からこれから色々と大変なのが分かったら、溜め息を吐きたくもなるよ。

ロミア、俺と立場変わってくれない?」


俺が尋ねると、うーんと少し考え込んだ。


「大変そうだからいいや」


「ですよね」


ていうか、未だにこっちを見て大勢の人が何やら話してるしな。


あまり長居はしないほうがいいか。


「さてと、俺達もあまりいるのは良くなさそうだな。

とりあえず、場所を移動しようか」


俺の提案に皆が頷いたのを確認して、俺達は大講堂を出た。


「ガル君って、凄いんだね」


歩いている途中、ヘレナが呟くように言った。


「別に俺はすごくないさ。

すごいのは母さんとボニータ家だよ」


親が優秀だからってその息子が優秀とは限らないからな。


「でも、周りはそうは思ってはいないみたいだね」


シガラの言葉の意味は周りの反応からよく分かる。


皆、俺達の事を見てはなにかを小声で話している。


「まったく、こっちは王位継承も蹴ってボニータの姓を一度も名乗ったことはないのにな。

俺たちを見て特に落ち着きがないのは貴族達だ。

多分、俺に取り入ってボニータ家と良い関係を築きたいんだろうな」


別にそういうのを悪いって言う訳じゃないが、やるなら俺の関係ないところでやってくれ。


オリビア辺りに直接言いに行ってほしい。


「そこの四人、止まれ」


横から声が聞こえ、俺達は足を止めた。


声のしたほうを見ると、クレアと同じくらいの年の男の子が立っていた。


金髪で少し天パ気味のヘアースタイル、長い足に高い身長、そして凛々しく整った顔。


イケメンの王子様みたいな人だな。


そのイケメンはこっちに近づいてくると、俺達一人一人の顔を見た。


そして、俺の顔を見た時に閉じていた口を開いた。


「お前が、ガルファット・ファリーンか?」


「え、えぇ、ガルファットは僕ですが」


「生徒会長から話がある。

生徒会室までついてこい」


なんかものすごく強引な誘われ方をしたんだが。


「それ、拒否権のほどは・・・」


「ない」


左様ですか、そんなキッパリ言われますか。


「ガル・・・」


ロミアが少し心配そうな目で俺を見る。


「そんな心配するなよ。

いざとなったら、即行で逃げてくるから」


俺はそんなロミアに笑顔で返した。


「そういうことだからシガラ、先に戻っててくれ。

終わったら行くからさ」


「うん、ガルも気を付けて」


俺はシガラに向かって頷き、先に歩き出していたイケメンに付いていった。


本校舎の三階、そこに生徒会室はあった。


やたらと威圧感のある扉の前で、イケメンが足を止める。


そして、その扉をノックする。


「ウィリアムです。

ガルファット・ファーリンをお連れしました」


「入りなさい」


どうやらこのイケメンはウィリアムと言うらしい。


部屋の中から女性の声が聞こえ、ウィリアムが扉を開ける。


「失礼します」


扉が開かれた先には、いかにも貴族と言った感じの白色のドレスに身を包んだ女性がいた。


少しカールになっている銀と白を混ぜたような綺麗な色の長い髪。


顔は色気を感じさせるキリッとした顔立ち。


シルビアやオリビアにキリッと感を出すと、こんな感じかな。


そんな女性がテーブルを挟んだ向こう側にいる。


この雰囲気、あんまり好きじゃないな。


俺と話すとき、オリビアは俺が身内という事もあってか堅苦しい感じではなく優しい雰囲気を出していた。


俺もそっちのほうが話しやすいし、そっちのほうが好きだ。


だが、俺の視線の先にいる人物から感じるのは明らかに違う。


なにかを企んでいる感じがするっていうのが、一番近いか。


やめてほしいな、そういうのは。


俺は腹芸はあまり得意ではないから。


「どうぞ、おかけになってください」


その女性が俺に言うと、部屋の中に数人待機していた生徒らしき一人の男が俺の近くにある椅子を引いた。


仕方ない、とりあえずは話だけでも聞いてみるか。


俺はそう思い、椅子に腰をかける。


クソッ、椅子が高いから座るのがめんどくさい。


俺は何とか椅子に座り、目の前の女性を見る。


「本当はこちらから出向かなければいけないところを、この度は足を運んでいただきありがとうございます」


女性の俺への第一声はそれだった。


「いえ、生徒会長からのお呼びだしですので。

それで、僕にお話しがあるとの事でしたが」


俺が返すと、女性は立ち上がった。


「はい。

ですが、まずは自己紹介をさせていただきます。

私の名前は、エマ・ダルネシア。

ダルネシア王家の第二王女です」


そう言って、エマは俺に向かってお辞儀をした。


動きが洗礼されてるな、伊達に王女様はやっていないってことか。


「ダルネシア王家については、ご存じかしら?」


エマの質問に、俺は首を横に振った。


「いえ、生憎そういった情報には疎いもので」


実際貴族の情報を俺ははほとんど知らないからな。


興味がないから、自分から収集したいとも思わないし。


「では、簡単にではありますがダルネシア王家について少し説明をいたしましょう」


そう言うと、エマは先程まで座っていた椅子に腰を降ろした。


「ダルネシア王家は、現国王ジェイク・ダルネシアの家系で王子や王女は私を含めて、10人ほどいます」


10人の子どもか。


貴族のほうの基準が分からないから多いのか少ないのかよく分からないな。


「つまり、簡単にいえばエマさんはかなり高い地位にいらっしゃると」


「私は第二王女ですし、上には第一王女である姉、第一王子である兄がいますのでそこまで高いとも言えませんが、決して低くもありませんね」


決して低くもない、か。

そういう細かいところを聞く限り貴族としてのプライドは高いものがありそうだな。


「なるほど。

では、こちらも自己紹介をする必要がありますね」


俺はそう言って、椅子を降りた。


「ご存知かと思いますが、名前はガルファット・ファーリンと申します。

趣味は読書、将来の夢は平穏で安全で安心な生活を送る事です」


ちゃんとした自己紹介なんてやったことないからな。


なぜか高校初登校の奴がクラスで自己紹介するみたいになっちまった。


「姓はボニータを名乗らないのですね」


「僕は自分にボニータ家の血が入っているっていうのをつい最近知ったもので。

それに、元々貴族になりたいとは思っていませんでしたから」


俺が言うと、エマは少し安堵したように口角を上げた。


考えても分からないことだが、何となく気になる反応だな。


俺は自己紹介も終わったのでまた椅子に座った。


「それで、そろそろ本題に入りませんか?

まさか、世間話をするために僕をここに呼んだ訳ではないのでしょう?」


俺が尋ねると、エマは頷いた。


「そうですね。

では単刀直入に申し上げますが、ガルファット様には私の個人的な頼みをしたいと思っています」


「個人的な、頼み?」


俺が首を傾げると、エマは先程とは違い真剣な顔で俺に言った。


「パイプ役になっていただきたいのです」

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