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第73話 腹芸と策士

「パイプ役?」


エマの言葉に、俺は頭の中が?で埋まった。


パイプって、あれだよな、あのタバコの事だよな。


名探偵とかがくわえてるあれだよな。


え?なに?俺、タバコ代わりにされるの?


貴族の方々ってそういう趣味があるの?


「えー、パイプ役と申しますと?」


「少々大雑把な言い方になってしまいましたね。

もう少し詳しく言うと、私をボニータ家現当主のオリビア・ボニータ様に紹介していただきたいのです」


「紹介、ですか」


なんだ、そっちのパイプか。


それにしてもエマをオリビアに紹介か。


・・・根拠はないがすごくめんどくさい事に巻き込まれそうな気がする。


「それを行う目的や理由を教えていただけますか?

でなければ、紹介のしようがないので」


「分かりました。

それでは、まずは目的から。

目的としては、私が次期国王となるためです」


ほーら、やっぱりめんどくさい事だったよ。


「次期国王とオリビアさんに紹介することになんの関係があるんですか?」


「先程申し上げたとおり、私には何人かの兄弟姉妹がいます。

その中でも、現段階では兄である第一王子が次期国王の有力候補と言えるでしょう。

その次が姉の第一王女です。

私は、この二人が王になるのを阻止したいのです」


「阻止ですか。

第一王子と第一王女が王になることに何か問題があるのですか?」


俺の質問に、エマは重く頷いた。


「はい。

まず私と姉は現国王の正妃の娘です。

それに対して、兄は国王の妾の子なのです。

我々王家の人間としては出来る事なら正妃の子が王に選ばれる事を望んでいます」


「・・・僕はその辺りあまり詳しくないので確認したいのですが、国王になるのはやはり男性のほうが良いのでしょうか?」


よく家を継がせるなら男というのを耳にするからな。


「いえ、昔はそうでしたが今は女でも王になれます」


「なるほど、では正妃様と国王様の間に男の子は?」


「残念ながらいません。

国王は私が産まれた後は、正妃とすることは減っていき他の妾の女やメイドとするようになりましたので。

他の王子や王女もすべてそれが要因で生まれています」


そういうことか。


まぁ、妾より正妃の子に王になってほしいっていうのはよく聞く話だし、エマの話を聞く限りでは兄貴に王になってほしくないってことの筋は通っている。


「第一王子のほうは分かりました。

では、第一王女の問題とは?」


俺が尋ねると、エマの表情が少し曇った。


「どうかされましたか?」


「いえ・・・姉については詳しく話すべきか少し迷ってしまって」


「と、言いますと?」


「失礼ですが、ガルファット様は今おいくつですか?」


「ん?7歳ですが?」


「そうですか・・・」


ん?何だ?年齢に何か問題でもあるのか?


「失礼かもしれませんが、いくら男性の方とはいえ7歳の方に言うべきかどうか。

かなり、その、過激な内容なので・・・」


えぇー、そんなに過激なのかよ・・・。


「分かりました。

一応全部話してみてください。

もし僕のほうがダメそうでしたら、途中で言いますので」


「ガルファット様がそうおっしゃられるのでしたら。

では、まずは姉の性格からですが」


ということでそこから10分くらいだろうか。


エマからその第一王女って人の事を聞いたんだが・・・正直言うとドン引きした。


いや、貴族の人の性格や性癖には特殊なのが多いっていうのは知ってるし、俺もそういうのはある程度受け入れる事ができるほうだと自負してたけど。


これは、無理だな。


某有名マンガに好きな女性を殺してその人の手首を持ち運ぶ変態殺人鬼がいたけど、それと同等かそれ以上に危ない内容がコロコロ出てきたよ。


そりゃ、王にしたくないわなそんな人。


「と、姉の性格は大体こういった感じでしょうか」


「そうですか・・・」


入学式の時の疲労も合わせて、かなり疲れが来ている。


はぁ、疲れたよ。


「まぁ、一言言わせてもらうならそんな人を王にはしたくないですね」


俺の言葉に、エマは同意するかのように頷いた。


「ですが、気になることがあります。

僕はオリビアさんから王位継承は候補者が魔法での戦闘をして、勝ったものが次期国王になると教えてもらいました。

それが正しいのなら、別にエマさんが第一王女や第一王子と魔法勝負をして勝てばいいという話なのでは?」


「それは、あくまで後ろ楯のある候補者の話しです。

第一王子と第一王女にはそれぞれ有力な貴族の後ろ楯がありますが、恥ずかしながら私にはほとんどありません」


なるほど、それでオリビアに自分を紹介してもらって足りない後ろ楯になってもらおうってことか。


しかし、そうなるとオリビアとボニータ家がどれだけこの国の政治に関わっているかが分かるな。


あー、そうか、だから俺と接触したのか。


オリビアの甥である俺に紹介してもらえれば、さすがのオリビアも身内の紹介ならそうそう無下にできないと思って。


そして、俺がボニータの姓を名乗らない理由を言った時のあの顔は、俺が王位継承戦に参加しないっていうのが分かったからか。


俺も一応はボニータ家で、ボニータ家が仮に王位継承戦に参加することになれば一番の候補は俺になる。


俺の情報をどこで、そしてどこまで入手しているかは分からないがオリビアの後ろ楯、そして俺に魔法を教えたのがシルビアだって事が分かれば有力な候補になる。


しかし、俺はあの時貴族には興味がないと言ったしボニータの姓も名乗らなかった。


王位継承戦を意識しているなら、普段から名乗っていなくても王女の前では名乗ることになる。


オリビアにあんな事を言われた後だ、名乗らなければいざ継承戦になった時に名乗らなかった事を出されれば俺は不利になるからな。


でも、いったいいつ情報を集めたんだ?


俺がオリビアの甥だって公言されたのは、ついさっきの話だ。


そこからここまで考えて俺を呼んだのか?


・・・いや、違う。


俺の情報ならもっと早くに集めることができたじゃないか。


俺が魔法学校の入学試験に合格したのは、試験当日だ。


しかも、その日に俺はロミアの相手でも魔法を使った。


その時に魔法の実力を測られたと考えるべきだ。


そして、入学式の時にオリビアは入学試験で合格した人は素性をすぐに調べられると言っていた。


入学試験の日、俺とロミアとシガラは合格者として名前を呼ばれていた。


自分の名前が呼ばれた時の喜びかたは、端から見てもあいつの名前かって分かるくらいだったはず。


仮にその試験をエマの手下が見ていて、俺たちの名前と顔がわかった瞬間から素性を調べ、今この話を俺に持ちかけているとすれば


「ガルファット様、どうかなさいましたか?」


この人、かなりの策士だ。


俺が黙ってしまったからか、エマが声をかけてきた。


「い、いえ、何でもありません」


だが、仮にさっきの俺の推測が正しいとするなら今の俺の状況はかなり危険だ。


エマ本人が王位継承をしたいというのは多分本心だ。


だから俺に、オリビアに紹介してほしいと頼んできた。


それに加えて、俺の継承戦への参加の有無の確認をしたかった。


多分、前者が本目標、後者が副目標って感じか。


エマとしては他の候補者の数が減るのはありがたいが、まずは自分が王になれる条件が揃っていなければ意味がないだろうし。


ただ、問題なのは俺達の情報がどこまで調べられたか、だ。


俺とロミア、そしてシガラが仲が良いと分かれば俺がここでエマの頼みを断った場合、ロミアやシガラを人質にして無理矢理に話を進めるという可能性もありえる。


子ども相手にそこまでしないと信じたい。


だが、俺はエマ・ダルネシアという人物をよく知らない。


判断材料が足りなさすぎるんだ。


なら、話を受ければ良いかと言われればそうでもない。


仮に俺がオリビアにエマを紹介して、王位継承戦でエマが負けた場合、ボニータ家にも何か被害がいくかもしれない。


そうなった場合、オリビアが俺を責めてくるかもしれない。


それは良いんだ、紹介したのは俺なんだから。


むしろ、俺が嫌なのはオリビアが俺を責めてこない事だ。


俺にも責任がある、それを俺自身が分かっているのに何も言われないのは、何か言われるよりももっと辛い。


それに、まったく無関係のロミアやシガラが巻き込まれる可能性がある。


それを含めて考えると、またいろいろな物が俺の頭の中をグルグル回る。


・・・こういう時、あいつなら何て言うんだろうな。


こんな時に頭に浮かぶのは、前の世界で俺が唯一親友と呼んでいた奴のこと。


顔も知らない、本名も知らない、だが、ここぞという状況でいつも俺を助けてくれた奴だった。


別に何か物理的に行動をしてくれた訳ではなかった、ただ俺に言葉をかけてくれただけだった。


だけど、俺はその言葉に何度も救われた。


(お前は力はあるのに何でそんなに自己評価低いんだよ。

迷うくらいならやっちまえよ、その先は後で考えろ)


前の世界で小説のネタに困った時よく言われたな。


読者はこの展開をどう思うんだろうか?


やっぱり無難な展開にしとくのが良いよな。


そういうの考えて書いている時に限って、あいつはそう言ってきた。


あの時は、こっちの気も知らないで言ってきやがったなとか思った事もあったけど。


お前、やっぱりすごいよ。


・・・ちょっとだけ、勇気出たわ。


「エマさん」


俺は顔を上げ、エマの顔をしっかりと見つめる。


「何でしょうか?」


「あなたの立場や考えは何となく分かりました。

その上でこの話、僕は断らせていただきます」


俺の言葉に、部屋の空気が重くなった。


「それは、ご自分の立場を理解しての返答ですか?」


威圧にも近い質問が俺に向けられた。


だが、不思議と俺は怖くなかった。


あんたなんかより、怒ったアルマのほうがよっぽど怖いからな。


「はい、重々理解しています。

僕の考えが正しければ、僕がエマさんの頼みを断った場合あなたは私の友を人質にして僕を脅す事が出来るというところまで考えて辿り着きました」


「そこまで考えての返答・・・仮に私がガルファット様の考えていた事と同じことを考えていたとしても、私がそれを実行しないと?」


「いえ、実行するというのも想定しました。

ですが、思っていたより心配はありませんでした。

だって・・・」


俺は、笑いながらエマに向けて言った。


「あいつら、僕より強いですから」


「・・・ご自分よりご友人のほうが強いと」


エマの顔が真剣な表情になっている。


「えぇ、ロミアは普段本気を出しませんがあいつが本気を出せばこの町は更地になるでしょう。

シガラも、今はまだ練習中ですがあいつのある魔法は極めれば姿を見られる事なく対象を暗殺できるものになるでしょう。

この意味、エマさんなら理解していただけますよね?」


俺の質問に、エマは反応しなかった。


いや、頭のキレるこの人はわかっているはずだ。


真正面から行けばロミアに返り討ちにされ、下手に手を出せばシガラに暗殺されるリスクが増える。


実際、俺は嘘は言ってないしな。


シガラが入学試験で撃った魔法、あれは前の世界での拳銃に近い。


それを擬態ミミクリーで姿を消して、遠くから正確に射撃出来るようになれば、もはや凄腕の暗殺者になれるだろう。


まぁ、ジークとかクレアみたいなのが相手だと殺気でバレるだろうけど。


「・・・分かりました。

残念ではありますが、今回の話しはなかったということで」


「はい。

では、僕はこれで失礼します」


俺は椅子から降りて、エマに一礼をした。


出入り口の扉まで歩くと、ウィリアムにものすごい顔で睨まれた。


あれじゃ、せっかくのイケメンが台無しだな。


俺は扉を開け、生徒会室を出た。







「・・・はぁ、疲れた」


今日はこの言葉を何回言っただろうか。


いや、実際に疲れてるから言ってるんだけどさ。


「それにしても・・・」


俺は周りをキョロキョロした。


寮はどっちだ。


ここに来るときに道を覚えておけば良かったけど、生憎あの時は他の事で頭がいっぱいでそれどころじゃなかったからな。


仕方ない、また生徒会室に入るのも嫌だし適当に歩いて会った人に道を訊くか。


とりあえず俺は、早く生徒会室を離れたいというのもあり歩き出した。


少し歩くと、目の前から一人の男性が歩いてきた。


高身長、2枚目顔、気品溢れる歩き方。


ここまで言えば分かりますね、イケメンです。


まったく、この学校はイケメンの巣窟か。


ただ、気になったのは額から伸びている一本の角だ。


一角族の人だろうか、ただトレンドマークである角には布が巻かれている。


まぁ、理由があるかもしれないがそこは人それぞれか。


「あの、すみません」


俺はイケメンが側に来たときに声をかけた。


「私に何か用かな?」


イケメンは優しく微笑みながら、俺の身長に合わせてしゃがんでくれた。


「えっと、男子寮の場所を教えてもらえますか?」


「君は、今年入った新入生の子かな?」


イケメンは俺の制服を見て、尋ねてきた。


「はい、そうです」


「そっか、ここの敷地は広いから覚えるのが大変だよね。

男子寮はこの廊下の突き当たりの階段を降りて1階に降りたら、建物を出て右に進んだ所にあるよ」


「丁寧にありがとうございます。

おかげさまで迷わずに済みそうです」


俺はイケメンに頭を下げて、言われた道を歩き出した。

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