表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/154

第61話名前と庇い

「大丈夫!?」


「ガル!?どうしたの!?」


「何があった!?」


前を歩いていた三人の声が聞こえる。


俺は濡れた前髪を上げて、顔を手のひらで拭った。


何があったんだ?


俺は何で今自分が濡れているのかを考えながら、目の前を見た。


すると、そこにはメイド服姿の女の子が座り込んでいた。


「・・・ハッ!」


女の子は俺と目が合うと、驚いた顔をして急いで立ち上がり俺に頭を下げた。


「も、申し訳ありません!私の不注意で!」


女の子に謝罪されて、俺はどうして自分が濡れているのか思い出した。


そうだ、叫び声が聞こえたからそっちを向いたら、この子が俺に向かって水の入ったバケツをバスケのダンクシュートみたいに俺の頭に被せてきたんだった。


「大丈夫ですよ、とりあえず顔を上げてください」


俺が言うと、女の子はゆっくりと顔を上げた。


怯えているのか、女の子は今にも声を出して泣き出してしまいそうな顔をしていた。


いや、そんな顔をされると何もしてないこっちが罪悪感が生まれそうなんだが。


「別に、わざとやったわけじゃないんですよね?」


俺が優しく尋ねると、女の子は慌てて頷いた。


「は、はい!」


「それなら気にしないでください。

失敗は誰にでもあるんですから」


俺は笑顔で女の子に言った。


「どうしたんですか?今の叫び声は」


声のした方を見ると、屋敷の入り口の扉が開いておりイルカが少し慌てた様子でこちらに歩いてきていた。


「どうなされたのですか!?」


イルカは俺の目の前に来ると、驚いた表情をして尋ねてきた。


「えっと、こ、これは・・・」


「実は、僕の不注意でそこのメイドさんとぶつかってしまって。

バケツの水を浴びてしまったんです」


隣で、メイドさんがイルカに説明しようとしたのを俺は途中で遮った。


俺の説明を聞くと、イルカは少し笑顔になった。


「・・・そうだったのですね」


「はい、お恥ずかしいです。

今後は気をつけます」


「とりあえず、このままではイケないですから中で着替えをいたしましょう。

ご案内いたしますね」


「はい、お願いします」


俺はそう言った後、いつの間にか周りにいたクレアに声をかけた。


「そういうことですから、後で合流しますね」


俺が言うと、クレアは頷いた。


「うん、分かった」


「それにしても、ガルらしくないね」


「そうだな、お前だったら水がかかる前に避けそうだけどな」


クレアの横で、ロミアとアルマが不思議そうにしている。


そんな二人に俺は苦笑いしながら返した。


「俺だって、そんな常日頃から気を張っている訳じゃないからな。

それに、たかだか水を被ったくらいじゃ気にしないさ」


俺は二人にそう言って、イルカの跡を追って屋敷の中に入った。








「あ、あの、先程のこと・・・」


イルカさんとガルファット君の姿が見えなくなると、隣で驚いた表情のまま固まっていたメイドさんが僕の方を見て話しかけてきた。


「大丈夫だよ、僕も含めて3人とも何があったのかは大体理解しているから」


僕はそんなメイドさんの方を微笑みながら見て返した。


それを聞くと、隣でロミアちゃんが笑いながら言った。


「それにしても、ガルらしいね」


それを聞いたアルマはちゃんが呆れたように溜め息を吐いた。


「あいつらしくお人好しだな。

それにしても、別にそこのメイドをあいつが庇わなくても良かったんじゃないのか?

すぐに謝っていたし、あいつだってそれで許していたんだし」


アルマちゃんの言葉を聞いて、僕はアルマちゃんの方を見て首を横に振った。


「ガルファット君が許してもそれで終わりには多分ならないよ。

王位継承を放棄したとあっても、ガルファット君はボニータ家の正統な血を受け継いでいるからね。

そんな人間に、わざとじゃないとはいえ水を頭からかけたとなったら、罰は受けることになってしまうからね」


「・・・そういうことか。

あいつ、そこまで考えていたのか」


僕はふと、周りを見た。


先程までそばにいたメイドさんがいつの間にかいなくなっていたのだ。


「あれ?さっきのメイドさんは?」


僕が言うと、ロミアちゃんが思い出したように言った。


「メイドさんなら、さっき物凄い勢いで屋敷の中に走っていったよ」


「・・・もしかして、僕余計な事言っちゃったかな?」


僕は苦笑いしながら、ロミアちゃんとアルマちゃんと一緒に屋敷の中に入っていった。








「それでは、このタオルでお体をお拭きください。

それにしても、本当によろしいのですか?

着替えをご用意しなくても」


不思議そうに尋ねてくるイルカに、俺は頷いて返した。


「はい、魔法で乾かせばすぐに乾きますし」


「承知いたしました。

もしよろしければ、シャワーなども使っていただいて構いませんので。

また、後ほどお伺いいたします」


そう言うと、イルカは俺に一礼をしてそこをあとにした。


俺は辺りを見渡した。


今俺がいるのはかなり広い脱衣所だ。


凄いな、屋敷自体が広いからここも広くなっているのか。


まぁ、当たり前といえば当たり前か。


「さてと・・・」


俺は先程水を被ってびしょ濡れになった服を全部脱いだ。


それにしても、まさか頭から水をぶっかけられる事になるとは思わなかったな。


俺は脱いだ服を左で抱えて、右手の手の平を前に向けた。


そして、手の平に風の属性の魔力を注入する。


「・・・よし」


俺は魔法が撃てる状態になったのを確認して、魔法名を言った。


「渦巻くスウォローウィンドウ


俺が言うと、目の前に俺の身長と同じくらいの大きさの風の塊が出現した。


だがそれはただの塊ではなく、塊という形状でありながら風が回転している物だった。


俺は、その風の塊に向かって持っていた洋服を投げ込んだ。


すると、衣服は塊の中心へ吸い込まれるように行った。


俺はそれを確認して、風の動きを変えた。


それに合わせて、洗濯物が時計回りにグルグル回り始めた。


これは、言うなら人間乾燥機のようなものだ。


こういうのをやっていると、本当に魔法は便利だと感じる。


まぁ、シルビアにこれを見せた時は普通に洗濯する方が楽だと言われたけど。


どうやら他の人からすれば、洗濯物が乾くまでずっと魔法を維持するのはめんどくさいらしい。


うーん、俺はそうは思わないけどなぁ。


というか、練習で魔法を維持するのをやっていたせいか慣れたし。


俺はそう考えながら、先程イルカから借りたタオルを手に取り体を拭き始めた。


「あ、そうだ」


俺は思い出して、風の温度を変えた。


普通の風の温度じゃ乾くのに時間がかかるからな、熱風とまではいかなくても温風くらいにはしておこう。


そういえば、風の温度を変えるって最初は火の属性が関係しているのかと考えたけど実はそうではないらしい。


風の変化はあくまで風の属性の変化によるもののようだ。


“トントン”


俺が衣服を乾かしていると、入り口の扉をノックする音が聞こえた。


「はい?」


「えっと、入ってもよろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫ですよ」


俺は声の主に尋ねられて、入ることを許可した。


すると、扉が開きそこには先程のメイドの女の子が立っていた。


「・・・!?」


ん?どうしたのだろう?


俺を見て驚いたまま固まっているのだが。


何かあるのか?


俺は少女の視線を自分の目で追っていった。


「・・・あ」


俺は少女の目線が向いている物を見た。


今、俺の衣服はすべて乾燥中だ。


そう、すべてだ。


つまり、今の俺は


「し、失礼しました!」


全裸である。


女の子が慌てて扉を閉めた。


一方の俺はというと、少しの間固まった。


集中が途切れたからか、魔法が終わり乾かしていた衣服がその場に落ちた。


・・・やっちまったー!


俺はその場で頭を抱え込んだ。


初対面、ではないけど次対面で忘れていたとはいえ全裸状態で女の子と会うのはダメだろ!


大丈夫か!?俺、変な誤解とかされてないよな!?


俺は衣服が乾いているのを確認して、急いで着替えると入り口の扉をそっと開けた。


「・・・」


扉の横で、女の子が背筋を伸ばして立っていた。


俺の視線に気づいたのか、女の子が俺の顔を見る。


お互いに目が合い、何ともいえない沈黙が流れる。


いや、さすがにこのままではダメだ。


「・・・とりあえず、中に入りますか?」


俺が何とかして話しかけると、女の子は少し戸惑った表情をしながらも「はい」と頷いた。


俺と女の子は脱衣所の中に入ると、お互いにそわそわしていた。


「えっと、さっきの事なんですけど・・・」


俺が口を開くと、女の子は慌てて首を横に振った。


「だ、大丈夫です!誰にも言いませんから!」


「いや、それは嬉しいんだけど何か誤解している気が」


・・・まぁ、いいか。


ここは話題を切り替えた方が良さそうだな。


「それで、どうしてここに来たんですか?」


「あ、えっと、先程のお詫びを改めて申し上げなければと思いまして」


女の子の言葉に、俺は首を傾げた。


「先程の事って、僕が水をかけられた事ですか?」


「は、はい・・・」


俺が尋ねると、女の子は申し訳なさそうに俯いた。


そんな女の子に、俺は笑いながら返した。


「あの時言ったじゃないですか。

わざとじゃないなら、気にしなくて良いですよ」


「でも!まさかガルファット様にそんな粗相をしてしまうなんて!」


「いや、僕じゃなくても水をかけるのはダメですからね。

それに、別にそこまでかしこまらなくても大丈夫ですよ。

僕よりもそっちの方が年上でしょうし」


俺が言うと、女の子は慌てて首を横に振った。


「そ、そんな事できません!

ガルファット様はオリビア様の甥にあたられて、現段階で最も次のボニータ家の当主になられる可能性の高い方です!

そのような方をお相手に粗相などした日には・・・」


「いや、一応今日あなたに粗相されているんですが・・・」


「そ、それは」


俺の言葉に、女の子は困った表情をしながら少しおどおどしている。


「・・・少し、意地悪でしたね」


俺は苦笑いしながら、女の子に言った。


「1つ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


「ん?何ですか?」


「何故、あの時私を庇ってくださったんですか?」


あー、なるほど、それを尋ねにきたのか。


「特に深い意味はありませんよ。

気づいたら自然に口に出していただけですから」


「そう、ですか。

ですが、それでも何かしらお詫びはさせていただかないと」


俺は特に気にしていないが、どうやらお詫びをしないと女の子は気が済まないらしい。


お詫びって言われてもな・・・あ、そうだ。


「それなら、名前を教えてもらえますか?」


「な、名前ですか?」


俺の言葉に、女の子は少し困惑していた。


「はい、あなたの名前です」


「サリー・スビルタと申します」


「サリーさん、ですね。

・・・それじゃあ、お詫びもしてもらった事ですし僕は皆の所へ行きますね」


俺がそう言って、歩き出すとサリーは驚いた顔をして俺を引き止めた。


「えっ!?まだ何もお詫びをしていませんよ!?」


後でそう言うサリーに、俺は振り返って笑顔で言った。


「名前を教えてくれたじゃないですか。

それで充分ですよ」


「でも、そんなことでは・・・」


「何を言うんですか。

女性の名前を知ることは相手を口説く第一歩と言います。

それくらい重要な事を教えてもらえれば僕は大満足です」


俺はそう言って、また引き止められないうちに脱衣所をあとにした。


脱衣所を出ると、扉の横でイルカが笑顔で立っていた。


「聞いていたんですか?」


俺が扉を閉めて尋ねると、イルカはそのまま頷いた。


「はい、少し前からですが」


「・・・サリーさんへのお咎めはなしにしてあげてください。

本人もわざとじゃないと言っていたので」


「承知いたしました。

ご安心ください、ガルファット様の顔に泥を塗るような事はいたしません」


「それは良かった。

さてと、それじゃあそろそろ皆の所へ戻りにますね」


「では、私がご案内致します」


「分かりました、お願いします」


俺はそう言って、前を歩くイルカについていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ