第60話 ブランクと料理下手
「二人ともどうしたの!?」
その日の朝、部屋に帰ってクレアに言われた第一声がそれだった。
まぁ、朝起きたら姿が無くて帰ってきたと思ったら両手一杯に野菜や木の実を持ってたらそうなるか。
一方のアルマはというと、寝起きで頭が働いていないのかロミアの持っている木の実に手を出そうとして手を叩かれていた。
それもあってか、ロミアは俺の持っていた分も併せて宿の調理場に野菜や木の実を保管しに行った。
俺は二人に、朝ロミアと一緒に体験したことを話した。
「そうだったんだ。
それにしても、二回目もこんなにもらうなんてね」
「僕も驚きましたよ。
これは、さすがにお礼しなきゃいけないですよね」
俺が言うと、クレアが頷いた後尋ねてきた。
「そうだね。
でも、結局はゴブリンの村がどこにあるかは分からないんだよね?」
「はい、だから次いつ会えるかは分からないですね。
まぁ、根本的に次会うことができるかすら分からないですが」
俺はクレアに苦笑いしながら返した。
俺とロミアがゴブリンの村の位置を知らないように、あのゴブリンの子どもだって俺達がこの宿にいることは知らないからな。
ただ、仮にあっちが俺たちの居場所を知っていたとしても、ここまで人間の多い場所にはさすがに来ないか。
「でも、引っ掛かる事はあるんですよね」
「引っ掛かること?」
首を傾げるクレアに俺は尋ねた。
「いくら子どもとはいえ、人間嫌いで有名なゴブリンがここまで人になつくものなんですかね?
しかも、今回は僕だけじゃなくてロミアにまでなついていましたし」
「子どもだからって理由だけじゃ納得出来ないって事か?」
アルマに尋ねられて俺は頷いた。
「そういうこと。
まぁ、あれだけ色々な物もらってるからありがたい話なんだけどさ」
俺が言うと、クレアが笑って返した。
「でも、良いんじゃない?
別に悪いことされた訳じゃないんだし」
「・・・それもそうですね。
おかけで、今日の料理対決が面白くなりましたし」
「どういうことだ?」
首を傾げるアルマに、俺は笑いながら返した。
「ゴブリンの子どもに貰った野菜を今日の料理対決で使うらしいからな」
俺が言うと、クレアが嬉しそうな顔をした。
「っていうことは、アレがまた食べられるの?」
クレアの言葉に、俺は首を横に振った。
「いえ、ロミア曰く今回はあの時の何倍も美味しい料理を作るらしいですよ」
「ほんとに!?やった!」
クレアが嬉しそうにガッツポーズをする。
「そんなに旨い料理なのか?」
「俺とクレアは前に同じ材料を使った料理を食べたことあるけど、正直アレより旨くなるのは想像つかないな」
「へぇ、それはたしかに楽しみだな」
俺の言葉に、アルマが嬉しそうに少し笑った。
それから俺達は出掛ける時間まで、雑談をして時間を潰した。
「それにしても、本当に先に向かって良かったのか?」
俺は隣を歩くロミアに尋ねた。
「うん、ギラールさんもシガラも仕事の方を少し片付けてから来るって言ってたから。
一応昨日のうちにお願いはしといたけど、やっぱり急な話しだったから最低限のやらなきゃいけないことはあるんだって」
昨日、宿に帰ってから今日の料理対決にギラールとシガラを招く事をロミアから聞いた。
ロミアは宿で働いている人には色々な面で世話になったし、できれば全員呼びたいと言っていたけどさすがに諦めたらしい。
まぁ、そんなことしたら宿を休みにしなきゃいけないからな。
「そっか。
でも、二人ともオリビアさんの家がどこか知っているのか?」
俺が尋ねると、ロミアは頷いた。
「うん、ギラールさんが何度かオリビアさんの家に行ったことがあるから大丈夫って言ってた」
「それなら大丈夫か」
「それはそうと、ロミアちゃん今日は何の料理を作るの?」
俺を挟んで、クレアがロミアに尋ねる。
「うーん、何種類かあるからまだ一個に絞れてないかな。
あとは、オリビアさんがどんなルールを作るかによって決めるかな」
「そっか、じゃあ食べるまでのお楽しみだね」
笑いながら言うクレアに、ロミアが頷いた。
「うん。
そういえば、アルマは料理って作るの?」
ロミアが自分の隣を歩くアルマを見て尋ねた。
それに対して、アルマは即座に首を横に振った。
「まったく作れないな。
盗みやってた頃だって母さんが動けなかったし、盗むものは大体がそのまま食える物だったから料理をする機会自体が無かったしな」
「・・・そうだよね。
なんか、ゴメンね」
アルマの言葉を聞いて、ロミアが少ししょんぼりとした。
「別に気にするなよ。
ただ、こいつともう盗みはしねぇって約束しちまったし簡単な物は作れるようになりたいな」
アルマが俺を見てロミアに言った。
「盗みで一生食っていくなんて無理だろうからな。
最低でも、一人で生活できるくらいの稼ぎは出来るようにならなきゃいけないだろ?」
俺が尋ねると、アルマはめんどくさそうに答えた。
「分かってるよ。
だから、俺も片っ端から雇ってくれそうな所に声はかけていってるんだよ。
ただ、やっぱりそれまでやってきた事の影響ってでかいんだな。
声かけた全部の所に、嘘つくなって言われて断られたよ」
「それは・・・結構くるものがあるな」
ただ、俺もこう言ったものの断った店の人達の気持ちが分からなくはない。
顔と名前が覚えれるほど有名だった泥棒の言葉は、そう簡単には信じられないだろう。
しかし、俺は普段のアルマを知っている分少し悲しくなった。
アルマは普段責任感はあるし、しっかりしているほうだ。
たしかに俺に対してはすぐに手を出すが、他の人に関しては融通が効く所もある。
まぁ、全部盗みを止めてからの話だけどな。
「別に気にしてなんかいねえよ、全部最初から考えていた事だし」
「そうか・・・お前の料理が食える日、楽しみにしてるよ」
俺がそう言うと、アルマは笑顔で答えた。
「任せておけ、お前には俺が料理を作った時の試食実験台1号になってもらうからな」
「試食実験台って・・・あの、アルマさん?
いったい料理に何を入れる気ですか?」
俺が尋ねると、アルマは少し考えた後口を開いた。
「安心しろ、俺はちゃんと食材には自分なりの基準を作るつもりだ」
「ちなみに、その基準って何でしょうか?」
「そりゃもちろん、食っても体に害が無いかだ」
「食っても害が無い物でも入れちゃいけないものはあるからな!?」
俺がつっこむと、アルマが睨み付けてきた。
「ガルファット、お前結構贅沢なんだな」
「いやそういうんじゃなくて!
それだと味とかものすごく恐ろしい事になりそうだからやめてくれって事だよ!」
「あー、そういうことか。
安心しろ、自分で食えないような物は作らねぇよ」
「それなら良いんだが・・・」
世の中には虫を料理して食べる人達もいるっていうからな。
もしアルマに虫料理なんて出されたら、俺は何としてでも食べるのを避けなければ。
「それに、作るって言ってもあくまで簡単な物だからな。
手の凝った物とか作るのめんどくさそうだし」
「なんか、そういうところはお前らしいな」
「手の凝った料理一種類作るくらいなら、簡単な料理五個作って食ったほうが腹も膨れるだろ?」
「たしかにそれはそれで合っているとは思うが・・・」
時々思うが、アルマは考え方がかなり現実的だ。
まぁ悪いことではないのだが、個人的にはもう少し遊び心があってもいい気がするんだよな。
「ていうか料理に関していえば、俺よりもある意味クレアの方が問題じゃないのか?」
「え?僕?」
アルマに指摘されてクレアが驚いていた。
「俺はまだ良いかもしれないけど、クレアはある程度料理出来なきゃヤバイんじゃないか?
色々な意味で」
アルマの言葉を聞いて、クレアが少ししょんぼりとした。
「それはそうなんだけど・・・僕、昔から不器用で料理は成功したことないんだ」
「ん?でもクレアって、うちにいた頃はフィーネさんの手伝いで、食器類の片付けをしている所しか見たことないですよ?
その前に料理をしたことがあったんですか?」
俺が尋ねると、クレアは少し俯いて頷いた。
「うん、何回かね。
でも、一回も上手くいった事が無かったんだよね。
焼けば黒焦げ煮ればドロドロ、切れば不恰好どうしてこうなったんだろう、状態だったよ」
何だその面白い歌は。
「クレア、時間ある時料理教えようか?
私で良いならだけど」
クレアの言葉を聞いてさすがに心配になったのか、ロミアがクレアに尋ねる。
「本当に?
でも、僕ものすごく下手だから笑わないでね?」
クレアの言葉にロミアが笑った。
「笑わないよ。
私だって料理を始めたばかりの頃はいっぱい失敗したし。
あ、そうだ。
良かったら、アルマも一緒に料理作る?」
ロミアの提案に、アルマが首を傾げた。
「良いのか?」
「うん、皆で作った方が楽しいと思うし、他の人と同じ料理作って自分のと食べ比べると色々な事が分かるし」
「へぇ、そういうことなら俺も一緒に作ってみるか」
何かいつのまにか女性3人で料理を作る約束が交わされていた。
「なぁ、ロミア。
その時、俺も一緒に料理させてもらえるか?」
俺が尋ねると、ロミアは首を傾げた。
「ん?良いけどガル料理に興味あるの?」
「作れるようになれるならなっておきたいしな」
まぁ、実際前世で10年くらい料理作っていたキャリアはあるけど、ここは世界自体が違うし何よりしばらく作っていないブランクがある。
俺の持っている料理の知識がどこまでこの世界で通用するか分からないからな。
それに昨日の夜、紅に料理作ってやるって約束しちまったからな。
不味い料理食わせて小説朗読は御免だ。
そんなことを話していると、オリビアの屋敷の入り口の門が見えてきた。
相変わらず二人の兵士が門の前で警備している。
正直どうしたものか。
前はイルカが挨拶をしてそのまま入ったからな、こういう時どう挨拶をしたら良いのだろうか。
まぁ、考えても仕方ないか。
前に通った時に顔は覚えられているだろうし、そのまま入るか。
段々と入り口が近づいてくる。
・・・ふぅ、よし。
別に悪いことしているわけじゃないんだ、平常心平常心。
俺は自分を落ち着けようと平常心を装った。
そして、何事もなく兵士の横を通って門の中へ入った。
兵士からは何も声をかけられない。
・・・良かった、何も言われなかった。
何でああいう時って緊張するんだろう。
例えると、何も悪いことしていないのに近くにパトカーや警察官がいると少しドキドキするのと同じ現象だ。
俺だけなのかな?
門の中へ入ると、相変わらず大きな屋敷が視界に入った。
その周りでは数人のメイドさんが庭の手入れをしている。
これだけ広い敷地だと掃除とかも大変なんだろうなぁ。
俺が周りをキョロキョロしている時だった。
気づくと、他の三人が先を歩いていた。
あれ?そんなに遅く歩いていたのか。
俺が少し早歩きをして、三人へ追い付こうとした時だった。
「危なーい!!」
「え・・・」
横から叫び声がしてそちらを向いた瞬間
“バシャーン!!”
俺の顔面に大量の水がぶっかけられた。




