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第59話 子どもと花畑

その日の朝、俺は物音で目を覚ました。


「ん、んぅぅ・・・」


目を開けると、ロミアが着替えをしているのが視界に入った。


俺は、ゆっくりと体を起こした。


窓から外を見るとまだ薄暗い。


「あ、ガルごめん。起こしちゃった?」


ロミアの言葉に俺は首を横に振った。


「いや、大丈夫だ。

それより、こんな朝早くにどうしたんだ?」


俺はクレアとアルマを起こさないようにロミアに小声で尋ねた。


「今日、料理作るでしょ?

その時に使う材料を今から取りに行くの」


「こんな朝早くにか?」


ロミアはこちらを見て頷く。


「うん、早朝の朝日が当たった瞬間に咲く花があってその球根が料理に使うとものすごく美味しいんだって」


「なるほど、そういうことか」


「じゃあ、私は行ってくるからガルは寝てて大丈夫だからね」


そう言って出かけようとするロミアを俺は止めた。


「ロミア、ちょっと待ってくれ。

俺も一緒に行く」


俺の言葉を聞いて、ロミアが振り返ってこちらを見た。


「そんな遠くに行く訳じゃないから一人で大丈夫だよ?」


「俺が、今から中途半端に二度寝するのが嫌なんだよ。

それに、朝に少し体動かしとけば朝飯が旨くなるだろ?」


俺が言うと、ロミアが笑顔で頷いた。


「分かった、じゃあガルが準備出来るまで待ってるね」


「あぁ、すぐに支度するよ」


俺は急いで出掛ける支度をした。








外に出ると、空が紫がかっていて夜明が近づいているのを教えてくれている。


大きく息を吸い込むと、涼しい風が体の中に入ってきて眠気を覚ましてくれる。


俺は腰に差した剣の柄を触った。


一応何かあるといけないから両手剣と短剣を持ってきたけど、まぁ使うような事態が起きないことを祈っておこう。


「それで、どっちに行くんだ?」


俺が尋ねると、ロミアは右の道を指差した。


「あっちだよ」


「こっちか。それじゃあ行くか」


俺がそう言って歩き出すと、ロミアも俺の隣を歩き始めた。


周りを見ると、やはりまだ時間が早いからかどのお店もやってないない。


周りの静けさで、耳には俺とロミアの歩く音だけが入ってくる。


何だろう、怖いとかっていうよりはどちらかと言えば心地よい感じがする。


「そういえば、ガルとこうやってお散歩するの久しぶりだね」


隣でロミアが笑いながら、嬉しそうに言ってきた。


「ん?そうだったか?」


「うん。

この町に来る前はガル、暇な時は本読んでるか魔法の研究してたし、この町に来てからは私が仕事するようになったから時間が合わなかったし」


「確かに言われてみればそうだったな。

まぁ、二人で散歩する理由が無かったしな」


俺がそう言うと、ロミアが俺の顔を見てきた。


「私は理由が無くても、ガルとお散歩するの楽しいよ?」


「・・・そっか、ありがとう」


俺が頭を撫でると、ロミアは嬉しそうに笑った。


「それはそうと、今日の料理対決で何を作るんだ?」


俺が尋ねると、ロミアは考えるように上を見た。


「うーん、実はまだ何を作るか決めてないんだよね」


「ん?でも、今から使う材料を取りに行くんだろ?」


「今から取り行くのはどんな料理でも使える食材なんだよ。

だから、何を作るにしてもまずは取りに行きたいなぁって思って」


「そうだったのか」


「ガルは何か食べたい料理ある?」


ロミアの尋ねられて、俺は苦笑いした。


「別に俺に合わせる事はないだろ。

ロミアが作りたいもの作ればいいさ」


「そうなんだけど、選択肢が広すぎると何作ろうか迷っちゃうんだよね。

逆にこれを作ってほしいって言ってもらったほうが嬉しいな」


「あーなるほどな、気持ちは分かるよ」


俺も昔お袋に何が食べたいか訊かれて何でも良いって言ったら、それが一番困るって言われたな。


「じゃあ、今まで作りたかったけど作れなかった料理とかないのか?

オリビアさんの屋敷で作るんだから、大抵の材料は揃ってそうだし」


「うーん、無いことはないけど多分材料が足りないかな」


「何が必要なんだ?」


「えっと、前にガルがゴブリンの子どもにもらった野菜とか木の実とか覚えてる?」


ロミアに尋ねられて、俺は頷いた。


「あぁ、覚えてる。

どれもすごく旨かったよな」


「その中に白くて太いのがあったでしょ?」


「・・・あー、あれか」


そういえば何か大根に似た野菜があったな。


「あれをもう一回使って料理してみたいんだ。

2回目だから、今度はもっと美味しく出来るだろうし」


ロミアの言葉を聞いて、俺は耳を疑った。


「嘘だろ?あの時の料理どれもめちゃくちゃ旨かったぞ」


「あの時は私もミレルダさんも料理したことない物がいっぱいあったから、手探り状態で料理したんだよ。

それでも美味しかったのは、あのお野菜と木の実がそれだけ美味しい物だったんだよ。

今ならもっと色んな物を作れるのになぁ」


ロミアが少ししょんぼりしながら言った。


「まぁ、といってもそれをくれたゴブリン本人が何処にいるか分からないしな」


あの時、相手が子どもだったとはいえゴブリンと会ったのは本当の偶然だったし。


「うーん、もうあれは調理できないのかな」


「ゴブリン達の村は探して見つかる物ではないったて前にクレアが言ってたからな。

今回は諦めるしかないな」


「そうだね。

でも、そうなると本当に何作るか決まらないよ」


といって、ロミアがまた悩み始めた。


「ところでロミア、今俺たちが取り入ってる物って具体的にどの辺りにあるんだ?」


俺が尋ねると、ロミアは目の前を指を差した。


ロミアが指を差したのは、ソロモンを出てすぐにある森だった。


「あんな所にあるのか?」


「うん、あの森に入って少しすると近くに渓谷があるんだけどその手前にあるらしいんだ」


「渓谷、か。

落ちないように注意しなきゃな」


「そうだね。

でも、その前にちゃんと朝までに見つけられるかな」


「まぁ探すしかないからな。

見つかることを祈ってようぜ」


俺はそう言って、ロミアと一緒に森へ向かった。









「うーん、この辺りだと思うんだけどなぁ」


俺とロミアは辺りを見回しながら森の中を歩いている。


そこそこの時間探しているとは思うのだが、それらしき物は見つかっていない。


「・・・少しヤバイな」


俺は空を見てそういった。


空の色が徐々に朝の色に近づいてきている。


山の方を見ると、山の向こう側は明るくなり始めていた。


「ロミア、そろそろ日が昇ってきそうだけどありそうか?」


俺が尋ねると、ロミアは首を横に振った。


「ううん、どこにもない」


クソッ、手詰まりか。


どうする?何か方法はないのか。


「・・・うわっ!ドュッ!」


俺が考えている時だった。


何かが背中に乗ってきて、俺は顔面から地面に倒れた。


「ガル!?大丈夫!?」


「いてて・・・」


俺はゆっくりと体を起こして、立ち上がった。


「ロミア、俺に何があったんだ?」


「えっと、急にその子がガルに飛びついてきたの」


ロミアを見ると、俺の後ろを指差していたので俺はそちらを振り向いた。


「・・・お前は」


そこには、こちらを満面の笑みで見ている同い年くらいの子どもの姿があった。


しかし、その子どもの肌は俺たちと違い緑色だ。


俺はこの子どもに見覚えがあった。


「あの時のゴブリン、なのか?」


俺が尋ねると、ゴブリンの子どもは嬉しそうに頷いた。


「もしかして、この子がガルが一緒に遊んだって言ってた子?」


「間違いないと思う。

他にゴブリンの知り合いなんていないし」


でも、何でこんなところにいるんだ?


前に会った所からそんなに離れている訳でもないけど、この辺りじゃ人間と会ってもおかしくないぞ。


俺はゴブリンの子の顔を見た。


「どうして、こんな所にいるんだ?」


俺の質問の意図が分からなかったのか、ゴブリンの子どもは首を傾げた。


しかし、少しすると何かを思いついたのか俺とロミアを手招きして歩き出した。


「ついてきてって、意味かな?」


「多分な」


俺はロミアに返すと、ゴブリンの子どもの後を付いていった。








俺たちがゴブリンの子どもに付いていって少しすると、開けた場所に到着した。


そこには開花していない蕾をつけた草が辺り一面に敷き詰められていた。


ゴブリンの子どもは、その手前で立ち止まると俺たちの方を見た。


「ん?」


俺とロミアはゴブリンの子どもの真意が分からず、首を傾げた。


「ここに、何かあるのか?」


俺が尋ねると、ゴブリンの子どもは先程と同じように笑顔で頷いた。


その時だった。


山から朝日が昇り、こちらを照らした。


そして


「・・・すげぇ」


朝日に照らされ、先程まで閉じていた花の蕾が一斉に開花したのだ。


まるで、この一瞬を全力で生きるかのように。


それはまさに、絶景という言葉に相応しい光景だ。


命の強さが、美しさが、そこにはあった。


「キレイ・・・」


俺もロミアも、先程から何度同じ言葉を言っただろうか。


いや、他に言葉はあるのだろうが脳がそんなことを考える以前に、この景色を見た感動で思考を停止していた。


朝日に照らされたせいだろうか、それともあまりの感動に幻を見ているのだろうか。


この花畑が、俺には輝いて見える。


俺はゴブリンの子どもの顔を見た。


まるで、俺たちに自慢するかのように誇らしげな顔をしていた。


「ありがとな」


俺はそんなゴブリンの頭を撫でた。


「ロミア、これがお前の探していた材料か?」


俺がロミアの方を見ると、ロミアは慌てて頷いた。


「う、うん、そうだと思うけど・・・ここまでキレイだとなんか採るのが勿体ないね」


「たしかにな」


ロミアの言葉に、俺は苦笑いしながら返した。


ロミアの気持ちはものすごく分かる。


俺だって、こんなキレイな花を摘むのは少し気がひける。


俺とロミアがお互いを見ながらどうするか考えていると、服の袖を引っ張られた。


見ると、ゴブリンの子どもがさっきのキレイな花を手に持っていて俺に手渡してきた。


そして、俺がそれを受けとるとロミアにも同じように花を渡した。


「・・・必要な分だけ貰っていくか」


「そうだね」


俺とロミアはお互いに笑いあった後、必要な分だけ花を摘んだ。






「このくらいでいいかな」


ロミアの声が聞こえたので、俺はそちらを見た。


すると、ロミアが少し抱えるように摘んだ花を持っていた。


まぁ、用意する人数が人数だからあれでも少し少ないか。


俺が摘んだのも合わせてちょうどいいくらいだな。


「あれ?あの子は?」


ロミアが辺りを見回しながら言った。


ロミアの言葉を聞いて、俺も辺りを見回す。


そういえば、ゴブリンの子どもの姿がない。


「俺たちがこれを摘んでる間に帰ったのかな?」


「うーん、そうなのかなぁ」


俺が前を向いた時だった、何かに背中をつつかれた。


後ろを振り向くと、ゴブリンの子どもが俺の顔を見た。


「なんだ、そんなところにいたのか」


俺がそう言って見たときだった。


ゴブリンの子どもが何かを抱えていたのだ。


「お前、これって・・・」


それは、前に会った時に俺がもらった野菜や木の実と同じ物だった。


そのなかには、ここに来る前にロミアとの話しに出ていたあの大根に似た野菜も入っている。


「あ・・げ、る」


それは、ゴブリンの子どもがポツリと振り絞るように言った言葉だった。


俺にはちゃんと、あげると聞こえた。


「もらって良いのか?」


俺が尋ねると、ゴブリンの子どもは嬉しそうに頷いた。


「そうか、今度ちゃんとお礼するよ」


俺はゴブリンの子どもから野菜や木の実を抱えるようにもらった。


「ガル、どうしたの?」


後ろからロミアが覗き込むようにして尋ねてきた。


「それが・・・」


俺は笑いながらロミアの方を振り返った。


「え!?それどうしたの!?」


ロミアが驚いた顔をして、俺の持っているものを見た。


「くれるんだってさ」


「え?もしかして、わざわざその子が持ってきてくれたの?」


ロミアに尋ねられて俺は頷いた。


「あぁ、これは今度お礼しないわけにはいかないな」


俺が笑いながら言うと、ロミアも笑いながら頷いた。


「そうだね。

こんなにいっぱいありがとう」


ロミアがお礼を言うと、ゴブリンの子どもは顔を赤くして照れるように笑った。


「さてと、クレアとアルマに黙って出てきたし。

そろそろ帰らなきゃな」


「そうだね。

じゃあね、次会ったらいっぱいお礼するからね」


ロミアがゴブリンの子どもにお礼を言った。


「また今度会おうな。

次会った時は前みたいに遊ぼうぜ」


俺もゴブリンの子どもお別れを言った。


ゴブリンの子どもは嬉しそうに頷くと、俺とロミアに手を振って見送ってくれた。


俺たちもそれを背に、宿へ帰った。

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