第56話 和みと 王
俺は今の状況を理解するために必死になっていた。
だが、さすがに理解するためのピースが足りなさすぎて俺はオリビアに説明を求めた。
「すみません、話が飛びすぎていて理解できていないんですが・・・」
俺が苦笑いしながら言うと、オリビアは笑って返した。
「それもそうね。
じゃあ、少し詳しく説明するわね」
そう言うと、オリビアは咳払いをして真剣な目で話し始めた。
「まずボニータ家についてだけど、この家系は400年以上前から貴族の家として存在していて、他の貴族からは格上に見られているわ」
「400年以上前って・・・バーデン・アリソンの生きていた時代からって事ですか?」
俺が尋ねると、オリビアは頷いた。
「その通り。
バーデン・アリソンの名前を知っているって事は、魔族と人間の戦争も知っているわね?」
「はい、確か人間側は壊滅寸前にまで追い込まれたとか」
「正解。
当時は残った人間たちで何とか復興しようと必死になっていて、その先頭に立って人々を指揮していたのがボニータ家だったと聞いているわ」
「そうだったんですか」
なるほど、多分それがきっかけで他の貴族から一目置かれているのか。
それは確かにすごい家だな。
「他の貴族がボニータ家を格上に見るのも、その頃の影響が大きいわね。
ただ、これはあくまで同じく古くからある家の話で、比較的新しい貴族達は別の理由で格上に見ているけれどね」
「別の理由、ですか?」
「そう、実はその復興の時の功績のおかげで当時のローリンの王はボニータ家に大きな権力をくれたのよ。
国の政治や政策、その他に関してボニータ家はかなり強い発言権を持っているわ」
「強い発言権、ですか。
ちなみに、少し難しいかもしれませんが具体的にどれくらいの強さなんですか?」
「そうね、位の序列で言えば王の次ね」
「・・・え?」
王の・・・次?
「聞こえなかったかしら、この国の王の次よ」
「えっと、それってこの国の王様の次に発言権があるって事ですよね?」
「その通りよ」
オリビアが笑顔で俺に言ってきた。
いや、それって実質この国のNo.2じゃん!
さらっととんでもない事言われたんだけど!?
「分かったかしら?
つまり、これから私の質問したことに対する答えの内容によっては、どうなるのかが」
「・・・お手柔らかにお願いします」
俺が震えながら言うと、オリビアは怖い笑顔を浮かべた。
「フフッ、まぁあなたなら私の期待を裏切る答えを出さないと思うわ」
やべぇよ、ほとんど誘導尋問が始まっちまったよ。
「さて、ボニータ家の説明はこれで良いわね。
次はさっきの説明をふまえたうえで王位継承の説明をするわ。
まず、この国の王は代々貴族の家の人間がなっていっているのよ。
理由は、説明しなくても分かるかしら?」
「はい、何となく分かります」
まぁ、どこの世界でもある話だからな。
大体の察しはつく。
「それで、具体的にどういう風に王を決めるかっていうと、王を決める時期になったら貴族の家から各一人代表者を選んで魔法の勝負をして決めるのよ」
「魔法の勝負、ですか?」
「そう、私も見たことあるけど場合によっては小さい戦争みたいな状態になるわね。
ちなみに、魔法は扱えるかしら?」
俺はオリビアの問いかけに正直に答えた。
「一応母さんから教わったので、ある程度はっていうところですね」
「姉さんから直接?
なら大丈夫ね、知名度も充分だし」
「ん?知名度というと?」
俺が尋ねると、オリビアは不思議そうな顔をした。
「あれ?姉さんから聞いていないかしら?
あの人、魔法学校を最年少主席で卒業した魔法学校始まって以来の天才って言われてるのよ?」
初耳です、一度も聞いてません。
俺が驚いた顔をすると、オリビアは溜め息をついた。
「はぁ、どうやら姉さんは何も教えていないのね。
ということは、姉さんが一度王の候補になったのも聞いていないわね?」
「はい、全部初耳です」
改めて何者なんだあの人。
「まったく、自分の息子に何も教えていないんだから。
まぁ、その話しは後にして話を戻すわ。
魔法が扱えるなら、これから磨いていけば充分王になれる可能性はあるわね。
推薦は私がするから、少し他の代表者達よりも有利になれるし」
「それは分かりましたが、なぜオリビアさんはそこまでして僕を王にしたいんですか?」
「あなたが王になれば、ボニータ家は王の家としてこれまで以上の権力を持つことが出来るからよ」
「なぜそこまでして権力にこだわるんですか?
今だってこの国の2番目に発言力があるんですよね?
充分ではないんですか?」
俺が尋ねると、オリビアは笑顔で返してきた。
「そこから先は、さっきの私の質問に答えてくれたら教えてあげるわ」
そう言うと、オリビアは改めて俺に尋ねてきた。
「ガルファット、あなたこの国の王にならない?」
「・・・残念ですが、お断りします」
俺は頭を下げて、オリビアに言った。
「状況は、分かっているのよね?」
「はい。
さっきの返答でオリビアさんが権力を使って実力行使に出るという可能性もあることは重々承知しています」
「それでも、断るのね?」
「はい、そして1つお願いがあります」
「・・・何かしら?」
俺は顔を上げて、真剣な目でオリビアを見た。
「もしオリビアさんが実力行使に出るなら、狙うのは僕だけにしてください。
僕の家族や友人、知人にはいっさい危害を加えないでほしいんです」
俺の言葉に、オリビアは意地悪な笑顔で返した。
「自分の頼みを断った相手の頼みをきく義理は、私には無いと思うわよ?」
「分かっています。
ですから、これはあくまで頼みでもあり警告でもあります。
もしこれを守って頂けない場合は、オリビアさんの身の安全は保証できません」
「じゃあ、例えば今私がこの屋敷の中に待機している兵士達に命令してあなたの連れを拘束して人質にしたら?」
「・・・10、ですね」
「10?」
俺の言葉に、オリビアさんは首を傾げた。
「今この場で、10数え終わる間に僕があなたを拘束して全員で!安全にこの町を出るまで人質にします」
「・・・フフッ」
俺が言うと、オリビアは笑って腰を上げた。
そして、俺に近づいてきて横に立つと俺の顎を指でくいっと上げて自分と目を合わせるようにした。
俺はそのままじっとしている。
「・・・チュッ」
俺の額に、柔らかい物が触れた。
俺はそれが分かっていた。
それは、オリビアの唇だった。
「え・・・」
俺はあまりの出来事に、そのまま固まっていた。
「少し遊びすぎちゃったわね。
本当は、あなたがこの誘いを断る答えこそ私の期待を裏切らない答えなのよ」
そう言うと、オリビアは俺の顔を見た。
俺もオリビアの顔を見たが、その顔は先程までとは違いまるで子どものような楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「最初から、僕が断るって考えていたんですか?」
俺が尋ねると、オリビアは先程座っていた席に戻りこちらを見た。
「まぁ、姉さんも王になる事を嫌がってたしその息子なら必然に近い確率で断ると思っていたわ。
それにしても、さっきのあなたの度胸と自分ではなく他人の心配をする所はジークと姉さんにそっくりだったわよ」
何でだろう、オリビアに指摘されて少し恥ずかしくなった。
「でも、姉さんよりはやることが大きくなくて助かったわ」
「母さんは何をしたんですか?」
「姉さんはさっきと同じ質問を違う人から受けた時、森を1つ消したわ」
「・・・え?
消そうとしたんじゃなくて、消したんですか?」
俺が尋ねると、オリビアは苦笑いしながら頷いた。
「えぇ、そうよ。
姉さんがあんなに怒っているのを見たのは、後にも先にもあの時だけだったわ」
・・・絶対にシルビアは怒らせないようにしなきゃ。
「ところで、断った理由を教えてもらえるかしら?」
オリビアの言葉を聞いて、俺は苦笑いしながら答えた。
「そうですね・・・しいて言えば、僕には王に相応しい力が無いからです」
俺が答えると、オリビアは笑顔のまま尋ねてきた。
「それは魔法や戦闘においての力かしら?
その事だったら、これから先時間をかけても良いからつけていけば良いと思うわよ?」
オリビアの言葉に、俺は首を横に振った。
「いえ、僕に無いのはもっと根本的な力です」
「根本的な力?いったい何かしら?」
「それは、決断力です」
「決断力・・・?」
首を傾げるオリビアに向かって俺は頷いた。
「王様ということは、国のために動く事になりますよね?」
「そうね、すべてという訳ではないけど王の判断1つでその国の行く末が決まる事も充分あるわ」
「それでしたら尚更です。
僕は自分が何か行動をして自分に悪いことが起きるのは、まったく気にしません。
ですが、自分の判断ミスで他の人に迷惑はかけたくないんです。
仮に王になれたとしていざ何かを決断しなきゃいけなくなったら、多分優柔不断でいつまでも答えを出せない気がします。
そんな王には、誰も従いたくないじゃないですか」
「そういうことね。
でも、その性格も直せる範囲の物だと私は思うけど」
「・・・そうですね。
でも、実はもう1つ理由があります」
「何かしら?」
俺は自分の周りに座って話を聞いている3人を見た。
「どんなに莫大なお金を、どんなに自分勝手にできる権力を持っていても手に入れる事のできないものを僕はもう持っていますから」
ロミアがいつもと変わらない笑顔で俺を見ている。
「一緒に競いあってくれるライバルを」
アルマは呆れ顔で、しかし納得だというように笑っている。
「僕が間違いを犯しそうになったら殴ってでも全力で止めてくれる友を」
クレアは優しい笑顔でこちらを見ている。
「生き方、考え方のお手本を教えてくれる、弟子として尊敬できる師を」
一生懸命に、どこか楽しそうに家事をしているフィーネの姿が脳裏に浮かぶ。
「僕の身を心配して、我が家に無事に帰ってくる事を願ってくれている人を」
毎度お馴染みと言っても過言ではない痴話喧嘩をしながら、しかし普段お互い楽しそうに笑いあっているジークとシルビアの姿が脳裏に浮かぶ。
「僕を愛して、信じてくれている人達を」
俺はオリビアを顔を見た。
「実は、今がかなり幸せなんです。
それに、こんな事言わないほうが良いのかもしれませんが正直僕は国の事は分かりませんし、どうでも良いと思っています」
オリビアは、あえて口を挟まずに俺の話を聞いてくれている。
「自分の大切な人達を、自分の手の届く範囲で守れれば僕はそれで満足ですから」
俺が笑いながら言うと、オリビアはどこか懐かしそうに笑った。
「・・・親子ってこんなに似るものなのね」
「ん?何がですか?」
俺が尋ねると、オリビアは首を横に振った。
「いえ、何でもないわ。
それより、そろそろ食事の時間だけど一緒にどうかしら?
姉さんとジークの事も聞きたいし」
オリビアの提案を聞いて、俺は周りを見た。
「僕は大丈夫だけど、皆は?」
俺が尋ねると、3人は同時に頷いた。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
俺の言葉を聞くと、オリビアはイルカのほうを見た。
「イルカ、準備をお願いできるかしら?」
オリビアが言うと、イルカはお辞儀をした。
「承知いたしました。
それでは、皆さんはお食事の時間までおくつろぎ下さい。
準備が出来ましたら、また声をお掛け致します」
そう言うと、イルカは部屋を出た。
オリビアはそれを確認すると、こちらを見てきた。
「そういえば、あなた以外の3人の事を聞いていなかったわね。
紹介してもらえるかしら?」
オリビアに頼まれ、俺はロミアの方を見た。
「分かりました、じゃあまずはこの子から。
名前は、ロミア。
僕と同じで母さんから魔法を教わった一人です」
俺が言うと、ロミアが立ち上がってオリビアに向かってお辞儀をした。
「は、初めまして。
ロミア・サダージュです」
ロミアがぎこちなくオリビアに挨拶をする。
「そんなに緊張しなくてもいいわよ。
私は別に魔族を嫌ってる訳じゃないから。
ロミアちゃんも姉さんから魔法を教わったなら、何か得意な魔法はあるかしら?」
「えっと、水の属性の魔法が得意です」
「水の属性って事は私と一緒ね。
便利よね、水の属性」
俺はオリビアの方を見た。
「オリビアさんって魔法を使えるんですか?」
俺の質問にオリビアは頷いた。
「えぇ、私も姉さんと一緒で魔法学校に通っていたからね。
ただ、私は姉さんと違ってそこまで優秀な成績ではなかったけど」
「そうだったんですか」
「あなたもこの町に来たって事は、魔法学校に入学するために来たのでしょう?」
「はい、ロミアと一緒に入学するつもりです」
俺が言うと、オリビアは嬉しそうに笑った。
「そう。
まぁ、あそこは色々な人がいるけど面白いところだから楽しんできなさい」
「はい」
俺はオリビアの言葉に笑って頷いた。
「ロミアありがとう。
座って大丈夫だよ」
「う、うん」
俺に言われ、ロミアが促されるように座った。
俺は次にクレアを見た。
「次は彼女ですね、名前はクレア。
僕の武術の師匠であり、尊敬できる人です」
俺が紹介すると、クレアが立ち上がった。
「初めまして、クレア・ラリオットです。
以後、お見知りおきを」
そう言うと、クレアはオリビアにお辞儀をした。
「武術ということは、クレアちゃんはモンコイストの出身かしら?」
「いえ、元々の生まれはバルファンクです。
モンコイストには武術を学ぶために住んでいました。
モンコイストをご存知なんですか?」
「えぇ、うちの護衛騎士団にもモンコイスト出身の騎士がいてね。
名前はたしか・・・ヘラクだったわね」
オリビアが名前を言うと、クレアの表情が変わった。
「ヘラク、もしかしてヘラク・ヴォレスタですか!?」
「確かそうだったと思うわ」
「クレア、そのヘラク・ヴォレスタというのは誰なんですか?」
「ヘラクは僕が武術を習い始めた頃に大会でチャンピオンだった人だよ。
王座を剥奪された後は旅に出たって聞いてたけど、まさかこんな所にいるなんて・・・」
つまり、武術の元チャンピオンって事か。
確かにそれはすごいけど、それ以上にそんな人が所属してるってどんな騎士団だよ。
さすがは国のNo.2って感じか。
「今はうちで警備や護衛の仕事をしながら、メイド達に護身術を教えているわ」
クレアの目がすごい輝いている。
会いたいんだろうな、きっと。
機会があったらオリビアに頼んでみるか。
「なるほど、まぁそのヘラクさんの事は後で訊くことにしましょう。
クレア、ありがとうございます」
「うん」
俺が言うと、クレアは先程座っていた席に座った。
最後に、俺はアルマを見た。
「最後に、彼女を紹介します。
名前はアルマ、僕がこの町に来てから出来た友達です」
俺が言うと、アルマは立ち上がった。
「は、初めまして。
アルマ・リオルガ、です」
ロミアと同じように、アルマもぎこちなくお辞儀をしてオリビアに挨拶をした。
「アルマは・・・よく殴ってきます」
「おい、ちょっと待って」
俺がオリビアの方を向いて言うと、後ろからアルマの声が聞こえた。
「だって本当の事じゃないか。
今日だって、ここに来る前に殴られたし」
「あれはお前が暴走しかけたからだろ!
ていうか初対面の人になんて紹介してるんだよ!
俺の印象最悪じゃねえか!」
「といっても他にどう紹介しろっていうんだよ・・・あ、そうだあれなら大丈夫だな」
「他にあるんじゃねえか。
変なのじゃないだろうな?」
疑いの目でこちらを見てくるアルマに、俺は笑顔で頷いて返した。
「大丈夫だ、これなら悪い印象は受けないだろうからな」
「よし、じゃあそれを頼む」
アルマからGOサインをもらって、俺は振り返りオリビアに向かって笑顔で言った。
「一緒に寝ていると寄り添ってきます」
「バカやろう!」
「いてっ!」
アルマにおもいっきり後頭部を殴られた。
俺は涙目になって、殴られた場所を擦りながらアルマを見た。
「何でだよ。
これなら可愛い印象がつくだろ」
「いらねえよそんな印象!
ていうか、何でクレアとロミアの紹介は真面目にやったのに俺だけこんなのなんだよ!」
「いや、さっきまで真面目な話が続いてたからここら辺で笑いを入れて、和ませようと皆を気づかったんだよ・・・」
「お前が皆を気づかったおかげで俺はもろにダメージ受けてるんだよ!」
「皆を和ませる為に体を張るなんて・・・カッコいいじゃないか」
「ダメージは体じゃなくて心にきてるけどな!」
おぉ、これはうまく一本とられてしまったな。
まぁふざけるのはここまでにして、と。
俺はオリビアの方を見た。
・・・何か、腹を抱えて爆笑してた。
「ハハハッ、ハァー、ハァー。
久しぶりだよ、ここまで笑ったのは」
オリビアが涙を指で拭いながら俺に言ってきた。
「それは良かったです」
俺は笑顔でアルマの方を見た。
「はぁ・・・まったく」
アルマは俺を見てため息をついた。
「ところでこの町に来てから友達になったって言ってたけど、アルマちゃんはこの町の出身かしら?」
オリビアの言葉に、アルマは頷いた。
「あぁ、俺はこの町の下流階級のエリアで生まれ育った」
「ちょっ、アルマ言葉づかい・・・」
俺が慌ててアルマに言うと、オリビアが遮った。
「構わないわよ。
むしろ変に気をつかわれるくらいなら、そっちのほうが私も話しやすいわ」
「それなら、良いんですが」
一応この国のNo.2だから、言葉づかいに気をつけていたがどうやら大丈夫なようだ。
俺はオリビアの顔を見た。
先程とは違い、少し真剣な顔をしている。
「アルマちゃん、下流階級エリアに住んでたなら数日前の火事は知っているかしら?」
「あぁ、知ってるも何も燃えたのは俺が住んでいた家だからな」
アルマの言葉を聞いて、オリビアが驚いた顔をした。
「そんな・・・」
俺が尋ねると、オリビアは首を横に振った。
「・・・いえ、何でもないわ」
“コンコンコン”
オリビアが言うと、扉をノックする音が聞こえた。
「入りなさい」
オリビアが扉に向かって言うと、扉が開きイルカが立っていた。
「お待たせいたしました。
お食事の準備が整いました」
「分かったわ」
そう言うと、オリビアは立ち上がった。
「それじゃあ行きましょう」
オリビアの言葉を聞いて、俺たちも立ち上がる。
「それではご案内いたします」
そう言って歩き出すイルカのあとを追うように俺達は部屋を出た。




