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第57話 料理とプライド

「こちらがお食事をする部屋となっております」


廊下を歩いて少しするとイルカは扉の前で立ち止まり俺達にそう言った。


そして、ゆっくりとその扉を開けた。


「・・・おぉ」


思わず声が漏れた。


扉の先は、中央に長く大きなテーブルとその周りにイスが配置されているよく映画とかマンガやアニメで出てくるような部屋そのまんまだった。


部屋の中には、若い執事やメイドが数人待機している。


本当に、ザ・金持ちの部屋という感じだ。


改めてオリビアが貴族だということを俺は認識した。


「こちらへどうぞ」


そう言って歩き出すイルカのあとを俺達は部屋をついていく。


オリビアは俺たちと違い、テーブルを挟んで反対側を歩いた。


そして、イルカは立ち止まると俺を見た。


「ガルファット様、もしよろしければその鞄はこちらでお預かりしますよ?」


「あ、それじゃあお願いします」


俺はそう言うと、持っていた鞄をイルカに手渡した。


特に大したものは入ってないけど、食事の時は邪魔になるのは嫌だしな。


イルカは鞄を丁寧に受けとると、少し下がった。


すると、横で待機していた執事が近くの椅子を引いた。


なるほど、高級料理店とかでよくあるやつだな。


俺はその引かれた椅子に座った。


体が子どもだから椅子が高くて少し苦労したけど。


すると、先程の執事が後ろから俺の座った椅子をゆっくりと前に押した。


横を見ると、俺以外の皆も同じように椅子に座っている。


並びとしては、入り口から一番奥の席がオリビア。


そのオリビアから向かって左に近い順で、俺、ロミア、クレア、アルマの順だ。


少しすると、開かれたままの扉から料理が乗せられているであろうワゴンを押して数人のメイドが入ってきた。


そして、俺を含め座っている全員の前にお皿と銀の蓋、いわゆるクロッシュが置かれた。


その両脇には、フォークとスプーンも準備がされた。


ヤバイ、何か緊張してきた。


高級なレストランとかで食事なんて、この合計30数年の人生の中で一度もしたことないしな。


礼儀作法なんてろくに知らないぞ。


いや、ここは異世界だからあっちの礼儀作法とは違う可能性があるか。


仕方ない、いつも通りにするか。


オリビアの性格上、よほど変なことをしない限り大目に見てくれるだろうし。


俺がそんな事を考えていると、メイドが一斉に全員のクロッシュを持ち上げる。


「・・・これは」


「ミロネスタ・・・?」


ロミアが目の前の料理の名前を言った。


そう、俺達の前にあるのは間違いなくミロネスタなのだ。


食欲をそそる香りの湯気が立ち上ぼり、黄金色に輝くスープとその中で極楽の風呂に浸かるように麺がいる。


そして、周りには茹でた野菜が何種類か一緒に入っている。


「フフッ、貴族のご飯だからもっと豪華な物が出てくると思った?」


目の前のミロネスタを見て驚いている俺達に、オリビアが笑いながら尋ねてきた。


「正直なところそう思ってました」


「本当はお客様がいらっしゃった時は、ガルファット様がお考えになられているような料理を用意するのですが、今日はこの屋敷の料理長がものすごく力を入れて作ったものなのであえてそちらをご用意させていただきました。

どうしましょう?違う料理にご変更なされますか?」


イルカに尋ねられて、俺は首を横に振った。


「いえ、大丈夫です。

実は、ここに来る前に今日のお昼は皆でミロネスタを食べようって話していたんですよ」


「それは良かった。

実は、ミロネスタはオリビア様の好物なんですよ」


「そうなんですか?」


オリビアを見ると頷いていた。


「えぇ、ミロネスタだけじゃなくて私は基本的に庶民的な料理が好きなのよ。

本当は中流階級のエリアのお店を巡って食べ歩きをしてみたいと思うけど、なかなかできないのよね」


オリビアが悔しそうに言う。


何か、思ったよりも庶民的な人だな。


まぁ、シルビアが貴族の感じがまったくしなかったし不思議じゃないか。


「さぁ、あんまり長く手をつけないと麺が伸びてしまうしさっそくいただきましょうか」


そう言うと、オリビアがスプーンを手に取りスープを口へと運んだ。


それを見て、俺たちも各々料理に手をつける。


俺は、スプーンでスープをすくい冷ますように息を吹きかけた後口に含んだ。


!?


その時俺が感じたのは、まさに衝撃的な味だった。


口に含んだ瞬間、ダシの風味が口いっぱいに広がりスプーン一杯の量を入れただけなのに魚介類の味が激しく己を主張する。


たったひと口でこれだけの味の濃厚さが伝わるスープを俺は他に知らない。


飲み込んだ後でさえ、スープを口に含んでいた時と変わらないほどの主張をして来る。


俺はスプーンからフォークに持ち変えた。


ここまで主張の強いスープだ、それを受け止める事を果たして麺が出来ているのか。


俺は、スープの中で待機している麺をフォークで巻いて口へ運んだ。


歯で口の中の麺を噛みきる。


その瞬間、麺の程よい弾力と歯切れの良さが俺の口の中に伝わってきた。


そのあまりの旨さに、俺はフォークを持っていた手が止まった。


「・・・旨い」


自然と、俺はそう呟いていた。


「美味しいね」


それに応えるかのように、隣にいるロミアが言った。


「スープも麺も文句なしだ。

あまりの旨さに手が止まったよ」


俺が笑いながら言うと、ロミアがミロネスタを見ながら言った。


「私もビックリしちゃった。

それにこれを作った人、包丁使うのが凄い上手な人だよ」


「何でそんなこと分かるんだ?」


俺が尋ねると、ロミアはあるものをフォークで刺して俺に見せてきた。


それは、ホウレン草に良く似た緑色の葉野菜だ。


「この野菜、決まった大きさに均等に切らないと火を通しても食べれないくらい固くなっちゃう野菜なんだ。

それがこんなに柔らかいんだもん」


そう言って、ロミアはその野菜を口に入れた。


俺もつられるように同じ物を食べた。


・・・確かに柔らかい。


口の中で溶けるように無くなっていったそれに、俺はそう感じた。


味も、スープが良く染み込んでいて旨い。


「ロミアちゃん、詳しいわね。

普段お料理をするのかしら?」


オリビアがロミアに質問をした。


「えっと、今宿の厨房のお手伝いをさせてもらっているんです。

料理は、前にガルのお家のメイドさんやガルのママから教えてもらいました」


ロミアの返答に、オリビアが驚いていた。


「姉さんからも?」


「はい、色々な事を教えてもらいました」


「あの姉さんが料理をねぇ・・・変な物とか作ってなかったかしら?」


「そ、そんな事は無かったですけど・・・」


「何か心当たりがあるんですか?」


俺が尋ねると、オリビアは苦笑いしながら答えた。


「子どもの頃、一度だけ姉さんが作った料理を見たことがあったのよ。

ジークに普段のお礼として、昼食を作ると言って。

周りのメイド達が手伝うと言ってたけど、どうしても一人で作るってきかなくて。

それで、結局料理はできたのだけど・・・何をどうしたらあんな色の料理ができるのかしら」


オリビアの目から光が失われて、顔でひきつっている。


「えっと、父さんはその料理をどうしたんですか?」


「残さず完食してたわ。

味の感想を訊いたら、辛味や酸味や苦味、その他諸々の味が激しく喧嘩してそれが終わった頃には口の中が自然災害の後みたいな感じだって言っていたわね」


何をどうしたらそんな料理を作れるんだ・・・。


「父さん、よく完食しましたね」


「涙を流しながら食べていたわ。

本当は残したかったらしいけど、姉さんがジークが流している涙は自分の料理が美味しいからって勘違いをしていて満面の笑顔で見てきてたから、残せなかったらしいわ」


勘違いとは恐ろしいな。


「ちなみに、ジークの他にその料理を食べた人達は一口で気絶して中には少しの間料理を食べてから気絶するまでの記憶を無くしていた人もいたわね」


あれ?俺達料理の話をしているんだよな?


どこかの兵器の話をしているんじゃないよな?


「そういえばフィーネさんが言ってたけど、フィーネさんが料理を初めてガルのママから教わっている時、ガルのパパは泣いていたらしいよ。

シルビアが人に料理を教える時が来るなんて、神はまだ俺を見放していなかったって言ってたみたい」


よほど手料理にトラウマが出来ていたんだろうな。


まぁ、ジークを見放さなかった神様は料理ができるかは知らないけど。


そういえば、家を出てから紅と会ってなかったな。


久しぶりに、今夜あたり会ってみるか。


「私もあの時のジークには子どもながらに同情していたわ。

そういえば、さっきロミアちゃんは宿のお手伝いをしているって言っていたけどどこの宿かしら?」


オリビアがロミアに尋ねた。


「中流階級のエリアにあるオアシスタという名前の宿です」


「そこって、店主がギラール・ワルギナスさんの宿かしら?」


「はい、そうです」


「ご存知なんですか?」


俺が尋ねると、オリビアは頷いた。


「えぇ、うちの今料理長をやっている子も元々はオアシスタで働いていた子だし」


「ということは、その人ってロミアの・・・」


「元先輩という事になるわね。

・・・どう?会ってみる?」


オリビアから尋ねられて、俺はロミアを見た。


「ロミア、どうする?」


「・・・会ってみたい」


ロミアの返答に、俺は笑って頷いた。


「どうやら決まりみたいね。

イルカ、ファネッタをここに呼んでもらえるかしら?」


ロミアの声が聞こえていたのだろう、オリビアがイルカに言った。


「承知いたしました、少々お待ちください」


イルカはオリビアにお辞儀をすると、部屋を出た。


よし、なら俺も今のうちに料理を食べてしまおう。


これ以上タイミングを逃すと、食べる時がなくなっちまうからな。


俺は急いで、料理を食べ始めた。







「ふぅ、美味しかった」


俺は空になった器を目の前に、息をついた。


しかし、このミロネスタは凄いな。


途中から手が止まらなかった。


俺は横で並んで座っている3人を見た。


どうやら、3人とも食べ終わっているようだ。


「失礼します」


扉の方から声が聞こえたので、俺は視線をそちらに向けた。


すると、そこにはイルカとメイド服姿の女の子が立っていた。


「ファネッタ、良いタイミングね。

こっちに来てもらえるかしら?」


「はい」


オリビアに呼ばれて、ファネッタはこちらへ歩いてくる。


綺麗な金髪ロングの女の子だ。


年は、シガラと同じくらいか?


「それでオリビア様、私にご用があると伺ったのですが・・・」


「実はね、あなたに尋ねたい事があるのよ」


「尋ねたい事、ですか?」


首を傾げるファネッタに、オリビアが頷いた。


「えぇ、あなたがオアシスタで料理を作り始めたのは何歳の頃からだったかしら?」


「たしか・・・調理を担当し始めたのは9歳からでした。

オアシスタは料理に関してはとても厳しいので、他の雑用をある程度経験してから厨房で仕事ができるようになりますから。

それでも、最初は食器洗いなどから始まりますが」


「それなら、あそこにいるロミアちゃんがもしあの歳でオアシスタの厨房で料理を担当しているとしたら?」


オリビアがロミアを見ながら言うと、ファネッタもロミアを見た。


「・・・あり得ない、とまでは申しませんが信じがたい話ですね」


ファネッタはロミアを見ると、驚いた表情をしてそう言った。


「ロミアちゃん、今は何歳かしら?」


「え?な、7歳です」


ロミアが慌てて答えると、オリビアが面白そうに笑った。


「そう、つまりファネッタよりも歳が下で現在厨房で料理をしているのね」


まるでファネッタを挑発するようにオリビアが言った。


・・・何か狙っているのか?


「・・・それが、どうかされましたか?」


ファネッタのほうはというと、怒っているというよりはどこか悔しそうな感じだ。


「どう?二人とも。

料理勝負をしてみない?」


オリビアの提案に、その場にいた全員が驚いていた。


「私とロミアちゃんで、料理勝負をするんですか?」


ファネッタがオリビアに尋ねる。


「えぇ、そうよ。

ファネッタも元職場とはいえ先輩としてのプライドがあるでしょう?

ロミアちゃんはファネッタの料理をしている姿を間近で見ることができて、勉強になるわ。

二人とも、有益な話だと思うのだけどどうかしら?」


オリビアの言葉に、ファネッタは真剣な目で返答した。


「私はぜひとも受けたいです」


「良かったわ、ロミアちゃんは?」


全員の視線がロミアに向けられる。


「わ、わたしは・・・」


ロミアが何かを言おうとして、言葉に詰まる。


「ロミア」


俺はロミアの名前を呼んで、手を握った。


「ガル・・・?」


「好きな方を選んで良いんだぞ」


「ガルは、どっちが良いと思う?」


ロミアが不安そうに俺に尋ねてくる。


ロミアの質問に、俺は笑いながら首を横に振った。


「俺の意見は今は関係ないだろ。

・・・でも、そうだな」


俺はロミアの目を見て言った。


「久しぶりに、ちゃんとロミアの料理を食べてみたいかな」


「・・・うん、分かった」


俺の言葉を聞いて、ロミアは笑顔で頷くとオリビアを見た。


「私も料理勝負したい、です」


ロミアの言葉を聞いて、オリビアが頷いた。


「分かったわ。

それじゃあ二人とも、勝負の日付は明日。

詳しい内容は明日に改めて話すわね」


「・・・承知いたしました。

それでは、私はまだ仕事が残っているのでこれで」


「えぇ、忙しい時に呼んだりしてごめんなさいね」


そう言うオリビアにお辞儀をして、ファネッタはこちらに歩いてくる。


一瞬だが、ファネッタがロミアを見た。


しかし、何か話すわけでもなくすぐに視線を前に戻してそのまま部屋を出た。


「あの、オリビアさん。

お願いがあります」


ロミアがオリビアに話しかけた。


「ん?何かしら?」


「明日、料理を食べてほしい人が二人いるんですけど一緒に来ちゃ駄目ですか?」


「別に構わないわよ。

あ、あと食材は何を使っても構わないからもし使いたい食材や調理器具があったら持参しても大丈夫よ。

大体の物は、ここの厨房で揃っていると思うけど」


「あ、ありがとうございます」


ロミアが立ち上がって、オリビアにお辞儀をした。


こうして、ロミアとファネッタの料理対決が決定した。


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