第55話貴族と誘い
「あー疲れたー」
ロミアとの手合わせが終わった俺は、そう言いながら地面に仰向けで大の字に寝そべった。
「お疲れ様」
そんな俺を横で座っているクレアが笑いながら見ている。
「そういえば、今日はロミアちゃん質より量って感じだったね」
少し離れた所でアルマに魔法を見せているロミアを見ながら、クレアが俺に言ってきた。
俺も上半身を起こしてロミアを見る。
「多分、僕が威力を抑えてくれって言ったからだと思います。
ただ、あれだけ手数出されちゃ対して変わらない気もしますけど」
ロミアは俺とシルビアとしか手合わせした事はないけど、相手がどっちでも絶対に手加減をしないからな。
まぁロミアよりむしろそのロミアを軽くあしらうシルビアのほうが俺は凄いと思うけど。
詠唱ありなのにあの対応力は本当に尊敬する。
「でも、その分地形が変わらなかったのは良かったんじゃない?」
「確かに地形は変わりませんでしたけど、僕の毎回の苦労の量も変わりませんでしたよ」
「それは仕方ないよ、それがお互い全力を出している証拠なんだから」
クレアが相変わらず笑いながら俺に言ってきた。
「お互い全力を出している証拠、か・・・」
「どうかしたの?」
クレアの問いかけに俺は笑いながら首を横に振った。
「いえ、何でもありません。
それより、少し早いかもしれませんが昼食をとりに行きませんか?」
「そうだね。
僕も久しぶりに激しく動いたからお腹すいちゃった」
俺はクレアの言葉を聞いて立ち上がった。
「ロミアー!アルマー!
ご飯食べに行くぞー!」
俺が叫ぶと、二人ともこちらを向いて手を上げた。
その後、俺たちはご飯を食べに町へ戻った。
「さてと、何が良いかな」
俺たちは町の通りを歩きながら辺りを見た。
「3人とも、何か食べたいものありますか?」
俺が後ろを見ながら尋ねると、3人から各々意見が出てきた。
「俺は何でも良いぞ。
食わせてもらっている身だしな」
「うーん、出来ることならこういう時は何でも良い以外が良いんだが、クレアはどうですか?」
「僕は何かサッパリしたものが良いかな」
「なるほど、サッパリしたものですね。
ロミアは?」
「うーん・・・ミロネスタかな」
「おぉ、ミロネスタか。
確かにあれなら良いかもな」
ロミアが言ったミロネスタというのは、簡単に言えばスープパスタとラーメンを合わせたような物だ。
魚介類をベースに野菜を煮込み、そこに材料は違うが細いパスタのような物を入れて完成という料理で、見た目はラーメン、中身はパスタに似た料理なのだ。
あれを初めて食べた時はあまりの懐かしさに感動したなぁ。
材料違うはずなのに、味は前の世界の料理にそっくりだったし。
俺も今度料理に挑戦してみようかな。
「二人もミロネスタで良いですか?」
「俺は良いぜ」
「僕も大丈夫だよ」
「よし、じゃあ昼はミロネスタで決定」
「やったー!」
俺が言うと、ロミアが嬉しそうに両手を上げた。
さてと、昼に食べるものが決まった事だし店を探すか。
ミロネスタを出してくれる店なんて意識して探した事なかったし、もしかしたら時間かかるかもな。
そんな事を考えながら俺が辺りを見渡している時だった。
ふと、ある店が目に入り足を止めた。
店自体は普通の野菜や果物を売っている店なのだが、問題はその店の前だ。
ロングのメイド服を着た年配の女性が地面に尻餅をついている男の子に手を貸している。
俺は、その男の子に見覚えがあった。
「ん?どうしたんだ?」
俺が急に立ち止まったからだろう、後ろからアルマに尋ねられた。
「アルマ、ちょっと来てくれ」
俺はそう言ってアルマに手招きをした。
俺に手招きをされて、アルマが近くに来る。
「なぁ、あいつって・・・」
俺はアルマに小声で言って、男の子を指さした。
「・・・あー、あいつか。
前にお前から財布をすった奴だな」
「やっぱりか」
俺が確信した時だった、男の子が女性から小さめの袋を盗るのが見えた。
前は意識してなかったから分からなかったけど、今は手合わせの後で目が慣れているからかハッキリと見えた。
「・・・やったな」
「そうだな」
アルマの言葉に俺は頷いた。
男の子が女性にお辞儀をして、こちらに歩いてくる。
俺は横を素通りしようとした男の子の服の襟を掴んだ。
「うぐぁっ!?」
男の子は変な声を出すと、その場に尻餅をついた。
「いてて、急に何するんだ!」
そしてケツを擦りながら立ち上がると、俺の胸倉を掴んできた。
「・・・よぉ、久しぶりだな。
俺の事、覚えてるか?」
俺が男の子に向かって睨み付けながら言うと、男の子は怯まずに返した。
「は?お前なんか知らねえよ!
それよりさっきの事謝れよ!」
「はぁ、まぁ覚えてないか」
俺は溜め息をつくと、アルマを見て目配せをした。
するとアルマはそれに気づいたのか、同じように溜め息をついた後男の子のスボンのポケットに手を突っ込んだ。
「おいっ!何しやがる!」
男の子は俺を横で掴んでいた手を離すと、その手をアルマに向かって横へ振り抜いた。
しかし、アルマはそれを間一髪の所で後ろへ避けると手に持っていた小さい袋を俺に向けて投げた。
「間違いなし、か」
俺はそれを受けると、男の子へ見せるように向けた。
「俺に謝れっていうなら、これをすったお前も謝るんだろうな?」
俺が尋ねると、男の子は俺の方を見て笑った。
「・・・おいおい、謝るも何もそれは俺のだぞ?
いったい誰がいつすったって?
証拠でもあるのか?」
あくまでしらを切る、か。
まぁ当たり前の事か。
「じゃあ、この袋をさっきの女性に見せて確認をとれば良い話だな。
お前の言うとおりなら、あの人はこんなの知らないって言うだろうからな」
「おい!待て!」
「・・・ちょっと、大人しくしてもらおうか」
男の子がもう一度俺に掴みかかろうとした時だった。
どういう状況か理解したのだろう、クレアが男の子の襟を掴んで止めた。
俺がそれを見て、振り返って歩き出そうとした時だった。
「おい離せ!てめえには関係ないだろ!
このブスが!」
・・・あ?
俺の足が止まった。
俺はそのまま後ろを振り返った。
「・・・おい、今何て言った?」
俺が尋ねると、男の子は俺を挑発するように笑いながら言ってきた。
「おいおい、お前に言った訳じゃねえよ。
俺はこの後ろの奴に言っただけだ。
ブスってな」
一度だけじゃなく、二度も人の神経逆撫でしてくれたな。
俺は男の子に向かって右手の手の平を向けた。
「ちょっ、ちょっと待ってガルファット君!
それはダメ!」
俺が何をしようとしているか察したのか、クレアが止めてきた。
別に俺は自分が好き勝手言われるのは構わない。
それは俺が何かをした結果だからだ。
だけど、直接関係ない、しかも自分の尊敬する人を貶されて大人しくしていられるほど俺は大人じゃないんだよ。
安心しろ、殺しはしない。
ただ、ちょっと顔の皮膚が焼けて原型をとどめなくなるだけだ。
俺がそう思い、魔法の準備をしようとした時だった。
俺が魔法を撃つより先に手を出した人物がいた。
「ロミアちゃん!?」
ロミアの全体重を乗せた右ストレートが男の子の頬へ直撃する。
「ぐわぁっ!」
ロミアは涙目になりながら男の子を見ている。
「ガルごめん、反省はしてる。
でも、後悔はしてないよ」
ロミアが真剣な眼差しで俺に言ってきた。
俺は構えていた腕を降ろして、ロミアに苦笑いしながら返した。
「まったく・・・お前は魔法が得意分野であって武術は専門外だろ」
俺の言葉を聞くと、ロミアは何かを思い付いたような顔をした。
「あっ、そっか」
そう言うと、ロミアは男の子に向けて魔法を撃つ態勢をとった。
「違う違う!そうじゃない!」
俺は慌ててロミアを止めた。
さっきの言葉は決して魔法を使えって意味じゃない。
そして何より・・・その威力はヤバイ!
「ありがとうね、ロミアちゃん。
僕は大丈夫だから、魔法は撃たないで」
クレアがロミアに優しく言うと、ロミアはクレアを心配そうな目で見た。
「・・・本当?」
「うん、それにその魔法撃っちゃったらこの子が消し炭になっちゃうよ」
クレアの言うとおりである。
ロミアが使おうとした魔法は俺が使おうとした魔法の何倍もの威力があるやつだ。
あんなのやった日には、体が跡形もなく消滅するだろう。
しかも属性で火を選んだあたり、かなり恐ろしい。
「でも、クレア泣いてるよ?」
ロミアの指摘を聞いて、俺はクレアの顔を見た。
確かに涙目になっており涙が流れた跡が見えた。
・・・よし。
「ガルファット君!僕は大丈夫だから!
腕を降ろして!」
クレアが慌てて俺に言ってくる。
なぜバレたんだろう?
俺があの男の子の体中の穴という穴に石を詰め込もうとしているのが。
「大丈夫ですよ、ちょっと体中の穴に石を詰め込むだけですから」
「大丈夫じゃないから!それ絶対にダメだから!」
「ガル、私は耳と鼻をやるね」
「ロミアちゃんもやっちゃダメ!
大丈夫だから!ちょっとビックリしちゃっただけだから!」
クレアが必死に俺とロミアを止める。
何が大丈夫か、師匠を貶されて泣かされたままじゃ弟子として面子が立たない。
ここは物凄く尖った石を用意し・・・
「いてっ!」
俺がそう考えながら魔法を準備していると、突然後頭部を殴られた。
「その辺にしとけ!クレアが困ってるだろ!」
どうやら犯人はアルマのようだ。
「だってこのままじゃ俺の面子が・・・」
「お前の面子なんて知るか!
本人が良いって言ってるんだから良いんだよ!
お前が余計に困らせたら意味ないだろ!」
俺はアルマのもっともな意見を聞いて魔法を撃つのをやめた。
「お前も、今回は大人しくひけ。
じゃないと、こいつら本当に消し炭にしかねないぞ」
アルマが男の子に言うと、男の子は舌打ちをしてクレアの手を振りほどいた。
そして、さきほど行こうとしていた方角へ走っていった。
「ふぅ、とりあえず終わった。
二人とも、僕は大丈夫だからむやみやたらに魔法は使っちゃダメ」
クレアが俺とロミアに言ってきた。
「それは分かってますが、師匠を貶されて黙っているわけには・・・」
「あんなのどうってことないから大丈夫だよ」
クレアが笑いながら俺に言ってきた。
・・・じゃあ、何で泣いたんだよ。
「クレア、ブスじゃないもん・・・可愛いもん」
ロミアが俯きながら、ボソッと呟いた。
「ありがとうロミアちゃん。
でも僕は大丈夫だから」
「うん・・・」
「あとガルファット君も、怒ってくれるのは嬉しいけど魔法は危ないからダメ」
「・・・すみませんでした、僕も冷静じゃありませんでした」
俺が謝ると、クレアは俺とロミアの頭を優しく撫でた。
「さてと。
ガルファット君、それをあの人に返してきて」
俺はクレアの言葉に頷いて、先程の女性の近づいた。
「あの、すみません」
俺が声をかけると、商品を見ていた女性は俺を見てしゃがんで笑顔になった。
「坊や、どうしたの?」
俺は自分の持っていた袋を女性に見せた。
「えっと、この袋っておばあさんのですよね?」
俺が尋ねると、おばあさんは驚いた顔をして俺から袋を受け取った。
「あら、これは私のだわ。
いやね、落としていたのに気づかないなんて」
笑いながら言う女性に俺は首を振った。
「いえ、これはさっきおばあさんとぶつかった男の子が盗んだものです」
俺が言うと、女性は驚いた顔をして手で口を隠した。
「あら、さっきの子が?
そうだったの、じゃあ坊やが取り戻してくれたのね。
ありがとう」
そう言うと、女性は俺の手をとって握手をした。
「あら、坊やのはめている指輪綺麗ね」
女性は俺のはめている指輪を見ながら笑顔で言った。
「あ、その指輪は母から貰いました」
「へぇ、お母さんから」
そう言って、女性が俺の指輪をじっと見た時だった。
「これは・・・」
一瞬、女性の表情が変わった気がした。
が、すぐに女性はまた先程の笑顔に戻った。
「・・・坊や、お名前を教えてもらえる?」
「え?は、はい。
ガルファットです」
俺が答えると、おばあさんは笑顔のまま俺の顔を見た。
「ガルファット君ね。
ねぇガルファット君、このあと時間あるかしら?
おばあちゃんお礼として、お家にご招待したいのだけれど」
「いえ、そんな。
大したことをしたわけではないですし」
俺の言葉に、女性は首を横に振った。
「いいえ、さっきの袋の中には少ないけれどお金が入ってたの。
大事な物を取り返してくれたのだからお礼はしなきゃいけないわ」
「うーん、お言葉はありがたいんですが・・・」
俺は待っているクレアたちの方を見た。
「・・・あそこにいるのはお友達?」
俺の視線の向いている所を確認したのか、女性が確認してきた。
「はい、友達と僕の師匠です」
「もし良かったらお連れの人達も一緒にどうかしら?
おばあちゃんは何人来ても大丈夫だから」
「・・・分かりました、少し相談してきます」
俺は女性にそう言って、クレア達の所へ戻った。
「皆、ちょっと相談したいことがあるんだけど」
俺が言うと、3人が俺の周りに来た。
「どうしたの?」
首を傾げてクレアが尋ねてくる。
「実は、さっきの女性からお礼に家に招待したいと言われてしまって」
「ん?別に良いじゃねえか。
お前が行ってる間に俺たちは飯食ってくるよ」
そう言うアルマの顔を俺は苦笑いしながら見た。
「それが、皆も一緒に招待するって話しなんだよ」
「私たちも?」
「あぁ、俺も俺一人だったら断ろうかと思ったんだけど皆一緒って言われたからさ。
クレアはどう思います?」
「うーん、せっかくの申し出だから断るのも気がひけるし今回はお言葉に甘えようか。
でも、ご飯時に近いからあまり長居はしないって事で良いんじゃないかな」
クレアの言葉に俺は頷いた。
「分かりました。
じゃあ、招待を受けるって事で伝えてきますね」
俺はそう言って、女性の所へ向かった。
来ることはないと思っていた。
だが来てしまった。
しかも、こんな予想外の形で。
「クレア、ここって・・・」
俺は歩きながらクレアに小声で尋ねた。
すると、クレアはこちらを見ずに頷いた。
「うん、上流階級のエリアだよ」
俺は前を歩いている先程の女性を見た。
招待を受ける事を言ったあと、俺たちはついてくるように言われ歩いていた。
そして、気づいたらこのエリアに足を踏み入れていた。
「あの人の服装とかから考えると、どこかのお家のメイドさんってところかな。
まさか、軽い気持ちで受けた誘いが貴族の家へ行くこととは思わなかったよ」
俺は辺りを見渡した。
確かに中流階級のエリアや下流階級のエリアとは違うな。
整えられたように左右に大きな屋敷のような建物が並んでいる。
所々に門番であろう兵士の姿も見える。
だが何より、空気が嫌いだ。
どこからから監視されているようなこの感覚、気が抜けない感じがする。
なるほど、前にクレアから俺は嫌いかもしれないって言われた事があったが確かに嫌だな。
「皆さん、到着しました。
このお屋敷です」
女性は振り返ると、俺たちから向かって左側の建物を指しながら笑顔で言ってきた。
「な、何だこれ」
俺はその建物を見て心底驚いた。
他の屋敷とは比べ物にならないほど大きな屋敷がそこにはあったのだ。
周りは石の壁で囲まれているが、それでも屋敷の高さが高いことは確認できるし横への大きさも確認できる。
「それでは、中に入りましょうか」
女性はそう言うと、門の両脇にいる鎧を着た兵士の一人に挨拶をした。
「ただいま戻りました」
「ハッ!おかえりなさいませ!
イルカ様!」
声をかけられた兵士は背筋を伸ばして女性に挨拶をした。
どうやら、イルカというのがあの女性の名前らしい。
「あの人たちは大事なお客様です。
そのまま通してください」
イルカは俺たちの方を見ると、兵士に説明していた。
「それでは皆さん、また私のあとをついてきてください」
そう言うと、イルカは屋敷の方へ歩いていった。
俺たちもそれについていくように歩いた。
門を過ぎると、中には広大な芝生の庭があった。
改めて見ると、屋敷もそうだけど庭も広いな。
もしかしたら、俺が朝のトレーニングで走ってたコースくらいあるんじゃないか?
「何か、ここまでデカかったり広かったりすると疲れてくるな」
俺の横を歩くアルマがうんざりそうに言った。
「そうだな。
それにしても、ここまでくるとあのイルカさんって人相当位の高い貴族に仕えてるんだろうな」
「貴族・・・」
俺は隣を歩くロミアを見た。
そうだった、ロミアは最初宿に行った時に貴族に暴言浴びせられてたんだった。
「ロミア」
俺は歩きながら、ロミアの名前を呼んだ。
「ん?どうしたの?」
ロミアが首を傾げながら俺を見る。
「もし、不安になったりしたら俺の手を握れ」
俺が言うと、ロミアは俺の意図を察したのだろう。
笑顔で頷いた。
「うん、ありがとう」
俺はそれを見て、再び前を見た。
屋敷の入り口であろう門が見えてくる。
その両端にはイルカと同じメイド服を着た若い女性が二人待機している。
イルカが門の前へ到着すると、二人のメイドは息を合わせて大きな扉を同時に開ける。
中は、まさに豪華という言葉がピッタリという感じだ。
イルカはそこに足を進めていく。
俺たちもそのあとについていく。
『おかえりなさいませ、イルカ様』
中に入ると、3人のメイドがお辞儀をしてイルカを出迎えた。
「ただいま、悪いけど応接室にお茶の準備をしてもらえるかしら?
お客様がいらっしゃるの」
イルカが頼むと、メイド達は『はい』と返事をしてその場を去った。
それにしてもあのメイド達・・・
「おかえり、イルカ。
あれは買ってきたくれた?」
突然、目の前の大きな階段の上から声がしたので俺はそこを見た。
すると、そこには見慣れた顔があった。
「え?あれって・・・」
「何で・・・」
ロミアとクレアも気付いたのだろう、驚いた声が聞こえてくる。
「・・・母、さん?」
「悪いが、私はあいにくと独身で子どもはいないわよ」
俺の声が聞こえたのか、その女性はゆっくりと階段を降りてきながら俺に言ってきた。
別人、なのか?
その人物は容姿がシルビアそっくりなのだ。
いや、シルビア本人と言われても分からない。
違いと言ったら、髪が少しウェーブがかっているのとシルビアより声が少し低いくらいか。
「ただいま戻りました、オリビア様」
イルカはオリビアを見ると、お辞儀をした。
オリビア?シルビアとは別人なのか?
「それで、この子達は?」
オリビアが俺たちを見ながら、イルカに尋ねる。
「実は、私が買い物をしている時にお金を盗まれてしまって、それを取り返してくださったんです。
そのお礼のために、この屋敷へご招待したのです」
「そうだったのか。
それは助かった、イルカの主人としてお礼を言わせてもらおう」
「いえ、そんな大したことはしてないですから」
俺が言うと、オリビアはイルカを見た。
「皆様、応接室へご案内いたします。
お手数ですが、オリビア様も一緒に来ていただけますか?
お話ししたいことがございます」
「ん?あぁ、分かった。
私も一緒に行こう」
オリビアがそう言うと、イルカは目の前の階段をあがり始めた。
俺たちもそのあとをついていく。
「それで、話したいことっていうのは?」
応接室に到着して各々が椅子に座ると、オリビアがイルカに尋ねた。
「まず初めに、そこに座ってらっしゃる男の子についてです」
イルカは俺を見てそう言った。
「この子がどうかしたの?」
「その子、いえ、その方こそオリビア様がお会いしたいとおっしゃっていたガルファット様ご本人です」
「・・・」
イルカの言葉を聞いて、オリビアがじっと俺を見る。
「この子が、ガルファット?」
「間違いないでしょう、指輪も確認しました」
「・・・そういうこと、だから私を母親と勘違いしたのね」
オリビアが俺を見たまま、椅子に深く座る。
「あの、すみません状況が分からないんですが」
俺が言うと、オリビアが静かに口を開いた。
「まぁ、それもそうね。
何から話そうかしら」
オリビアはそう言って少し考えた後、俺に質問をしてきた。
「まず質問だけど、あなたの両親はシルビアとジークで間違いない?」
オリビアの質問に、俺は戸惑いながら頷いた。
「は、はい、そうですけどなぜそれを?」
「そうね、なら1つずつ整理して話すわね。
まず、私の名前はオリビア・ボニータ。
ボニータ家の現当主よ」
「あっ、そうか・・・」
オリビアの言葉に、アルマが言葉を漏らした。
「アルマ、どうしたんだ?」
「いや、お前のつけている指輪のあの模様どこかで見たことあると思ったんだよ。
今思い出した、その指輪の模様はボニータ家の紋章だ」
「・・・なるほど、どうやらシルビアは何も教えずにその指輪を渡したのね」
俺はその言葉を聞いて、オリビアの方を見た。
「いったい、この指輪は何なんですか?」
「その指輪は、ボニータ家の血を直接継いでいる者にしか持つことを許されない特別な指輪なのよ。
ほら、これが私のよ」
そう言って、オリビアは自分のはめている指輪を俺に見せてきた。
確かに俺がはめているのとまったく一緒なのだ。
「それは分かりましたが、でもなぜそれを母が?」
俺が尋ねると、オリビアは当然というように答えた。
「シルビアは私の姉だからね。
持っていて当然よ」
・・・は?
「姉?母さんが?オリビアさんの?」
「ええ、そうよ」
「ということはオリビアさんは僕の・・・」
「叔母になるわね」
・・・まったくもって状況が呑み込めてない。
「えっと、ちょっと待ってくださいね。
オリビアさんは母さんの妹で、母さんはオリビアさんの姉。
で、オリビアさんはボニータ家という貴族の当主・・・ということは母さんは」
「貴族の家の生まれよ。
まぁ、本人は魔法学校を卒業してからジークと一緒に家出したけど」
「ん?父さんと一緒に?」
俺の言葉に、オリビアは頷いた。
「ええ、そうよ」
「父さんと母さんって、その頃から知合いだったんですか?」
「まぁ、ジークはこの家の騎士団の元総隊長で、姉さんの専属騎士みたいなものだったから不思議ではなかったけど」
余計にややこしくなった。
「えっと、簡単にまとめると貴族の娘とその家の騎士が駆け落ちしたって事ですか?」
「そうなるわね、ここにいる若いメイド達の間じゃ憧れになってるわよ」
何やってるんだあの夫婦。
「どう?少しは内容が理解できた?」
オリビアの問いかけに、俺は苦笑いしながら返した。
「とりあえず、少しは。
まだ理解が追い付いていないところもありますが」
「まぁ、それは少し時間が経てば大丈夫ね。
なら、今度はこっちから質問させてもらうわね」
「は、はい、それは構わないですが」
俺が言うと、オリビアは真剣な目で俺に尋ねてきた。
「ガルファット」
「はい」
「この国の、王にならない?」
「・・・は?」




