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第54話 条件と成長

「ふぅ、少し疲れた」


僕はそう言って、木陰に木を背にして腰を下ろした。


「お疲れ様、クレアかっこよかったよ」


そんな僕の元へロミアちゃんが笑顔で近づいてきた。


「ありがとう。

でも、最後は結局ガルファット君に一矢報われちゃったしまだまだだなぁ」


「それはさっき言ったじゃないですか。

あれをやった所で決め手がなかったって」


そんな僕の言葉を聞いて、そばにいたガルファット君が苦笑いしながら言ってきた。


「でも本当は、その前にもう勝負は決まっていたんじゃない?」


僕が尋ねると、ガルファット君は小さく笑いながら首を横に振った。


「さぁ・・・どうでしょうね」


まったく、ガルファット君は甘いんだから。


まぁ、それが良さでもあり弱点でもあるんだけど。


「・・・よし。ロミア、始めようぜ」


ガルファット君ガロミアちゃんに声をかける。


それを聞いて、ロミアちゃんも笑顔で頷いた。


「うん。でも、ガル大丈夫?

さっきクレアとやってから少ししか経ってないよ?」


ロミアちゃんが尋ねると、ガルファット君は頷いて返した。


「あぁ、魔力を全部使った訳じゃないし時間的にほとんど回復した」


「良いなぁ、ガルは回復が早くて」


ロミアちゃんが羨ましそうに言うと、ガルファット君はロミアちゃんの頭を撫でた。


「俺からすれば混合魔法含めて色んな魔法を使えるロミアの方が羨ましいよ」


「でも、ガルだって色んな魔法を使えるでしょ?

さっきだって剣から魔法出してたし」


「あれだって一応出せただけでまだまだ改良は必要だぞ?

溜めの時間は長いし、威力だって小さいし」


威力は小さい、か。


硬質化ハーデント状態の僕の体に傷を負わせてそう言われたら、立場がないや。


「ほら、早く始めようぜ。

こっちはさっきの試合の名誉挽回をしたいんだから」


納得していないロミアちゃんの手をガルファット君が引いていく。


「はーい。

・・・ところでガル、私も本気でやっていいの?」


「お前の本気は後始末が大変だから地形が変わらない程度で頼む」


「しょうがないなぁ」


ガルファット君がお願いすると、ロミアちゃんは渋々という感じで了承した。


まぁ、ロミアちゃんが本気で魔法を撃ったら町一つが消えちゃうもんね。


「良かったら、こっちに来て座って見たら?」


僕は立ったまま二人を見ているアルマちゃんに声をかけた。


「あ、あぁ・・・」


アルマちゃんは僕に言われて、木を背にして隣に腰を下ろした。


「それで、どう?

ガルファット君じゃないけど、暇潰しくらいにはなったかな?」


僕が尋ねると、アルマちゃんはこちらを見ずに答えた。


「・・・すごいと思った。

正直な話し、アンタがそこに腰を下ろすまでガルファットとの戦いが終わった事に気付かなかったくらいだ」


「フフッ、そっか」


「俺がこんな事言うのもあれだけど、クレアって強いんだな。

普段そんな感じ全然しないのに」


アルマちゃんの言葉に、僕は笑った。


「これでも、一応はガルファット君の師匠やってるからね。

でも、やっぱりもっと修行しなきゃいけないかな。

さっきだって、実質僕の負けみたいなものだし」


僕が言うと、アルマちゃんはこちらを見て首を傾げた。


「何でだ?

さっきの勝負はクレアの勝ちだって、ガルファットが言ってただろ?」


「・・・ガルファット君が負けを認めたからね。

でも、もしもガルファット君が文字通り全力で僕と戦ってたら今頃僕は死んでたかもしれない」


「じゃあ、ガルファットは手を抜いてたって事か?」


アルマちゃんの言葉に、僕は首を横に振った。


「ううん、ガルファット君は手を抜いたりしてないよ。

むしろ、毎回全力でやってるくらいだし」


「じゃあ、どういう事だよ?」


「うーん、そうだなぁ。

前に僕の誕生日プレゼント選んでくれたのは、ガルファット君とアルマちゃんだって言ってたよね?」


「ん?あぁ、そうだけどそれがどうしたんだ?」


「その時、プレゼントの候補が何個か出たんじゃない?」


僕が尋ねると、アルマちゃんは頷いた。


「まぁ、確かに候補は出たけど・・・」


「戦いも一緒で、相手を倒す為の作戦を何個か候補で立てるんだよ。

で、ガルファット君ももちろん僕を倒す作戦を立てたんだけど、彼の場合僕が相手だと条件が難しいんだ」


「何だ?その条件って」


「・・・僕を殺さないことだよ」


僕が言うと、アルマちゃんは首を傾げた。


「でも、それって当たり前の事じゃないのか?

別にガルファットはアンタを殺そうなんて思ってないだろ?」


「そうだね。

でも、実際誰かと戦えば分かることだけど、相手を殺す事より生かしたまま戦闘不能にするほうが何倍も難しいんだ。

僕だったら最悪相手の手足の骨を折れば何とかなるけど、今のガルファット君じゃそこまでの力はまだ無いし」


「ふーん、それでも俺はクレアの方が強いと思うけどな」


「今のところはね。

でも、正直ガルファット君と殺しあいはしたくないな」


僕が苦笑いしながら言うと、アルマちゃんが尋ねてきた。


「それは、やっぱりお互いを知っているからか?」


「それもあるけど・・・僕じゃガルファットには勝てないからね」


「どういう事だ?

さっきの話を聞いても、まだクレアの方が強いと思うぞ?」


「さっき、条件の話をしたよね?」


「ん?クレアを殺さない事ってやつか?」


アルマちゃんの言葉に僕は頷いた。


「そう。

でも、ガルファット君はもうひとつの条件を満たしてないんだ。

そのせいで、本当の意味での全力をまだ出せていないんだ」


「もうひとつの条件?」


「そう、それは・・・」


僕はロミアちゃんと魔法を撃ち合っているガルファット君を見た。


「大切なものを守る事」


「大切なものを・・・守る?」


「うん、相手を心配しなくていい大切なものを守る戦い。

この条件で戦ったらガルファット君は今の何倍も強いよ」


「今の何倍も、か。

クレアはその条件で戦ったガルファットを見たことがあるのか?」


「・・・一度だけ。

まぁ、見たっていっても戦っている姿ってわけではないけど」


僕は2年前の事を思い返していた。


「ガルファット君は、お父さんとお母さんと僕より少し年上のメイドさんと一緒の家に住んでたんだけど、2年前にそのメイドさんが盗賊団に誘拐された事があったんだ」


「メイドが誘拐か。

まぁ、そんなに珍しい話でもないか」


「まぁ、よくある話ではあるよね。

それで、その誘拐されたメイドさんを助けるためにガルファット君は一人で盗賊団に立ち向かっていったんだよ」


僕が見ると、アルマちゃんは驚いた顔をしていた。


「そんなことしたのかよ。

いくら強いっていっても、無謀すぎないか?」


「たしかにそう思うよね。

しかも、当時5歳のガルファット君は自分よりも何倍も体の大きい盗賊団のボスと戦ってたし」


「・・・あいつ、よく死ななかったな」


「実際殺される寸前までいってたよ。

その時、運良く僕が助けに入ったんだけど一瞬だけ戦っているガルファット君の顔が見えたんだよ」


「どんな顔してたんだ?

さすがのガルファットでも、怯えてたとか?」


アルマちゃんの言葉に、僕は苦笑いしながら首を横に振った。


「いや、その逆。

怯えるとか諦めるとか、そういうのを一切感じない戦う目をしてたよ。

その時確信したよ、ガルファット君が何で強いのか」


「何でなんだ?」


「ガルファット君は何があっても絶対に諦めないんだよ。

あの時は全身の痛みで立っているのもやっとだったはずなのに、この状況をどう切り抜けるかを考えていたんだ」


「俺からすればバカに思えてくるぞ」


呆れたように言うアルマちゃんの言葉に僕は笑った。


「たしかにバカかもしれないね。

でも、そういう諦めないバカっていうのが実は1番怖いんだよ。

ガルファット君の事だから、多分首から下を八つ裂きにされても首だけで立ち向かってきそうだし」


「・・・俺、あいつ殴るのやめようかな」


「フフッ、アルマちゃんは今までどおりガルファット君に接していって良いと思うよ。

むしろ、変に気をつかわれるほうがガルファット君は嫌だろうし」


「そういうものか?

そういえば、あいつって何されても怒らないよな」


アルマちゃんの言葉に、僕は頷いた。


「そうだね、ガルファット君すごい優しいし」


「優しいですましていいのか?」


「この町に来る途中でゴブリンと遊んでたしね」


「はぁ!?ゴブリン!?」


僕の言葉にアルマちゃんが叫んだ。


「ゴブリンって人間嫌いで有名じゃねえか!

何であいつ・・・」


「まぁ、ゴブリンって言っても子どもだったみたいだから」


「それでも、ゴブリンの親がいたら間違いなく殺されてただろ」


「アルマちゃんはゴブリンが人間を嫌う理由を知ってる?」


僕が尋ねると、アルマちゃんは首を傾げた。


「人間を嫌う理由?

いや、知らないけど」


「ゴブリンは人間が嘘をついたり隠しごとをしたりするのが嫌いなんだよ。

人間がそういうのをすると、微妙な反応の違いを瞬時に察知するんだって」


「へぇ、あいつらそんなこと出来るのか」


「うん、だからここからは僕の推測だけど、多分その子どものゴブリンはガルファット君の本心の優しさに気付いてたんじゃないかな。

お礼もいっぱいくれてたし」


「あいつ、そういうのは無自覚だからな。

それにしても、分からないな」


アルマちゃんの言葉に、僕は首を傾げた。


「ん?何が?」


「クレアはガルファットが強いって思ってるんだよな?」


「うん、僕どころかガルファット君と戦った事のある人は皆思っていると思うよ」


「あいつ、自分が強いって絶対言わないよな?」


アルマちゃんの問いかけに、僕は「あー」と言いながら苦笑いした。


「僕も詳しい事は分からないけど、多分ガルファット君は自分で誇る為に強くなってるわけじゃないからね」


「そうなのか?」


「うん、本人に訊いても好奇心で教わって気付いたら色々覚えてたって言うんだけどね。

何となく、僕は別の理由があるじゃないかって思うんだ」


「別の理由?」


「何かは分からないけどね。

でも、いつか教えてもらいたいね」


「・・・そっか。

ところでクレア、あれは何なんだ?」


そう言って、アルマちゃんはガルファット君とロミアちゃんの方を指さした。


そこでは、二人が魔法を連射する激しい撃ち合いが繰り広げられていた。


「ん?あー、いつもの事だよ?」


「嘘だろ・・・」


「まぁ、すぐ近くに町があるからロミアちゃんも一応加減はしてるみたいだね。

前までだったら、今頃地面に大きな穴が何個か出来てただろうし」


「何者なんだよ、あいつら」


「それでも、ロミアちゃんもガルファット君が相手だからあそこまで出来るんだよ。

信用している証拠だね」


僕が言うと、アルマちゃんは溜め息をついた。


「はぁ・・・信用されているのにあんな事されちゃ嬉しいんだか悲しいんだか分からないな」


アルマちゃんの言葉に僕は笑った。


「フフッ、そうだね」


僕はアルマちゃんの魔法を一生懸命対処するガルファット君を見た。


・・・やっぱり大きくなってるね。


さっきの手合わせの時に改めて思ったけど、最初に会った時と比べて確実に体は成長している。


いつか、僕も抜かされちゃうのかな。


でも、そうしたらガルファット君に自然に頭を撫でてもらえるのかな。


・・・ちょっと嬉しいかも。


僕は弟子のこれからの成長に色々な事を考えながら、少し笑った。

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