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第45話 殺しと価値観

「いや、それってかなり怪しいよね!?」


怪しいお爺さんから日給30000円のバイトを紹介してもらった後、宿に戻ると部屋にクレアがいたので早速今日あった出来事を話した。


・・・案の定、先程のような言葉が返ってきた。


「そうですか?

孫娘の実戦の練習相手するだけですよ?」


「言われたのはそうでも絶対にそれをやるとは限らないじゃん!

もっと危険な事させられる場合もあるんだよ!?」


クレアがもっともな意見を言ってきた。


確かに俺もそれを考えなかった訳でもない。


少しは考えたさ、だけど・・・


「だって、メチャクチャ高日給ですよ?」


「だから心配なんだよ!

ていうか、ガルファット君ってそんなにお金大好きだっけ!?」


「別に嫌いじゃないですよ。

それに、ちょっと買いたいものもありますし」


「ん?買いたいもの?」


首を傾げるクレアを見て、俺は笑った。


「あなたの誕生日プレゼントですよ」


「・・・え?」


クレアがキョトンとした表情をこちらに向ける。


「たしか、誕生日が来る前にここを出発するんですよね?

その前にプレゼント渡したいなって思って」


「プレゼント渡すって、僕に?」


「他に誰がいるんですか?」


「僕の誕生日、覚えていてくれたの?」


「弟子として、師匠の誕生日忘れるわけにはいきませんよ」


俺の言葉を聞いて、クレアが嬉しそうな顔をした。


「・・・ありがとう。

でも、それなら尚更の事そんな危ない話しには乗らない方がいいよ。

僕の誕生日プレゼントなんて、高価なものを送らなくても良いんだし」


そう言うクレアの顔を俺は見た。


・・・そう言われても、そんな顔をされたら張り切らない訳にはいかないんだよな。


「仮にそうだとしても、お金があって選択肢が広がるのは良いことじゃないですか。

それに、クレアには色々教わりましたし、これからも教わっていきたいですからちゃんとプレゼントを選べる環境を作りたいんです」


俺がそう言うと、クレアの顔が少し赤くなった。


「・・・はぁ、まったく一度決めたらきかないんだから」


「前から知ってるじゃないですか」


溜め息をつくクレアに、俺は苦笑いしながら言った。


「しょうがないね、その代わり明日は僕も同行するよ。

何かあるといけないから、最初だけでも一緒にいた方がいいだろうから」


クレアが諦めたように言った。


「ご迷惑おかけします」


「まぁ、師匠は弟子に迷惑かけられてなんぼだからね。

その代わり、誕生日プレゼント期待してるよ?」


「・・・自信がないんで程々の期待にしといてください」


そう言って、俺とクレアはお互いに笑いあった。


「そういえば、ロミアは今頃何してるんでしょうね」


ふとロミアの事を思いだしたので言ってみると、クレアが何か思いだしたような顔をした。


「そういえば、僕が外から帰ってきた時に誰かと廊下の掃除をしていたのを見かけたよ」


「本当ですか?

どんな感じでした?」


俺が尋ねると、クレアが意地悪な笑顔を俺に向けた。


「やっぱり気になる?」


クレアの言葉に俺は頷いた。


「気になりますよ。

他の人に迷惑かけてないかとか、うまくコミュニケーションとれてるかとか色々と」


「それは大丈夫だと思うよ。

パッと見た感じだけど分からないことは自分から訊いて素直に教わってるみたいだったし、楽しそうにやってたから」


それなら良かった、どうやら俺の心配も杞憂だったみたいだな。


「何だかんだいってロミアの奴も、ちゃんと人とコミュニケーション取れるんだなぁ」


俺は天井を見上げた。


初めて会った時は、人を遠ざけてる感じだったからなぁ。


・・・今思うと俺、初対面の相手に魔法撃ってこようとした奴とよく友達になろうと思ったな。


まぁ、あの頃は同年代の奴が周りにほとんどいなかったから、その影響もあるだろうけど。


「ガルファット君のほうこそ、ちゃんとこの町で友達作ってるじゃん」


「アルマの事ですか?

あいつは友達とはまた違う気がしますよ?」


「それでも、繋がりは作っておくにこした事はないよ。

何処で誰が助けるか分からないからね」


「そういうものですか」


俺が言うと、クレアは笑顔で頷いた。


・・・人との繋がりか、前の世界じゃ仕事が忙しくなってから友達と遊ぶ機会もかなり減ってたからなぁ。


そういえばあいつら、今はどうしてるんだろう。


まぁ、どいつもこいつも良い意味で太く生きてそうだな。


今ふと思ったけど、俺が死んでも葬式とかやってないだろうなぁ。


父さんと母さんが死んだ時もそうだったけど、親戚の人と疎遠だったからお通夜と葬式は二人の知り合いの人が手伝ってくれたし。


そう思うと、確かに人との繋がりって大事だな。


・・・父さんと母さんが死んだ時、か。


紅にはああ言ったけど、多分俺が異世界に転生したいって言ったのは無意識に二人の事を思いだしたからだろうな。


・・・そう考えると、本当にバカだな。


俺は自嘲気味に笑った。


「どうしたの?」


そんな俺を見て、クレアが尋ねてきた。


「いえ、プレゼント何が良いかなぁと思って」


「そんなに考え込まなくても大丈夫だよ?」


「じゃあ、胸の気にならない服とかにします?」


俺が笑いながら言うと、クレアが顔を赤くして頬を膨らませた。


そして、そのまま俺のそばに歩み寄ってきて俺の頬を両手で挟んだ。


「ず、ずみまぜん・・・」


「いいよ、気にしてないもん」


「づぇったいふにしてるでしょ」


「・・・フフフッ」


クレアが耐えきれずに吹き出した。


俺もそれにつられて笑った。


その日の夜、クタクタになったロミアが部屋に帰ってきた。


「ただいまー・・・」


声が聞こえたので部屋の扉を開けると、ロミアがふらつきながら部屋に入ってきた。


そして、そのまま力尽きるようにベッドへダイブした。


「お疲れ様、かなり疲れてるみたいだけど大丈夫?」


クレアが声をかけると、ロミアはなにも言わずプルプルと右腕を上にあげた。


多分、大丈夫というサインだろう。


相当疲れてるな、これは。


「さすがのロミアちゃんも堪えてるみたいだね」


クレアがロミアの頬をつつきながら言った。


「仕事に慣れるまではこの状態が続きそうですね」


「まぁ、自分からやりたいって言っての事だから仕方ないね」


そう言って、クレアはロミアの頭を優しく撫でた。


その日はロミアも泥のように眠りについて、前みたいに俺を抱きしめる事はなかった。


・・・別に寂しくなんかないやい!






次の日の朝、俺は清々しい気分で目が覚めた。


ベッドから降りて、自分のバッグを開ける。


俺はバッグの中に手を入れて、出発する前にジークからもらった短刀を取り出した。


実戦で使った事はないけど、持っておいて損はないよな。


俺はそれをテーブルの上に置いて、もう一度バッグの中に手を入れた。


次に取り出したのは、両手剣だ。


・・・これを人に向けて使う事になるなら、クレアとの手合わせの時以来か。


あれから自主トレでは使っていたけど、ジークとの修行じゃ使ってこなかったしな。


理由?


真剣同士でやったら、ジークが手加減出来なくなるらしい。


・・・俺は未だにジークの本気には触れられていないのか。


よく考えてみると、俺がまともに勝てた相手っていないんだよなぁ。


ロミアには前に勝ったけど未だに使える魔法の種類とかだと負けてるし、ジークには本気を出されてないし、クレアには武術だったら俺が一発入れる間に十発は入れられるし、シルビアには無詠唱ってハンデがあるのに混合魔法をうまく使われてあしらわれる。


色々な事が出来るようになってきてはいるけど、俺はまだまだ弱いな。


・・・今それを考えるのはやめておくか。


これから実戦をシミュレーションした手合わせをやりにいくんだ。


気持ちが盛り下がるのは勘弁したいからな。


「まだ、時間はあるな」


俺はロミアの眠っているベッドに腰かけて、俯いて意識を集中した。


俺が誰かに勝つには、工夫をするしかない。


・・・たとえ、相手を殺してでも。


俺がそう考えた時だった、向かいで寝ていたクレアが跳ね起きて俺のほうを向いた。


「ガル、ファット君・・・?」


クレアがいつも戦うときにする構えで俺を見た時、驚いた顔をした。


「おはようございます」


「お、おはよう。

どうしたの?そんなに殺気を出して」


クレアの問いかけに、俺はそのままの状態で答えた。


「今日は、人を殺しにいきますから」


その後、俺は出掛けるその時まで殺気を高め続けた。


両手剣を腰に、短剣を懐に身につけた時に今までに感じたことのない何かを感じた。


「ガルファット君、その、本気で今日の相手を殺す気?」


昨日お爺さんと約束をした店まで向かっている途中、隣を歩くクレアが俺に心配そうな顔で尋ねてきた。


「実戦の相手、ですからね。

戦場で会った敵を殺さないほど、僕もお人好しじゃないですよ」


「そ、それはそうかもしれないけど・・・」


「それに、これは相手からこちらにきた話です。

相手が武術を使えないからって、魔法は最低でも使えるんです。

実戦練習の相手がいないって言ってたので、多分実力もあるのでしょう。

そんな相手を殺したとして、クレアは俺を殺しますか?」


俺の言葉に、クレアは言葉が見つからないという顔をした。


その顔は、とても辛そうだ。


今回の件、受けたのは俺だが話しはあちらからしてきたに等しい。


しかも、わざわざ実戦練習の相手と言っているんだ。


実戦と同じような事が起きたところで、誰もそれを責めることは出来ない。


この世界じゃ、戦争はあり得るのだ。


平和な日本とは違う。


そんな時俺は自分の身を、自分の大切な人達の身を守らなくちゃいけない。


手を汚さないでとか、なるべく相手を傷つけないようにとか、そんな事言ってられないんだ。


「見えてきました」


クレアに教えるように、俺は言った。


目の前には、昨日見たお爺さんとその孫娘と思われる少女が約束の場所で待っていた。


俺とクレアが二人の目の前まで行くと、お爺さんは俺の目を見て呟いた。


「お主、昨日とはまるで別人じゃな」


お爺さんの顔は、昨日の笑顔とは違い真剣な顔だ。


「今日は、お孫さんを殺しに来ましたから」


俺が言うと、隣の少女がお爺さんの顔を見た。


「お祖父様、まさかとは思いますがこの子が昨日おっしゃっていた私の相手ですか?」


「そうじゃが、何か問題でもあったか?」


「・・・お祖父様ともあろうお方が、耄碌もうろくされたのですか?」


少女の言葉に、お爺さんは表情を変えずに答えた。


「わしも良い歳じゃからな。

じゃがもし、わしが耄碌もうろくしていなかった時は・・・エミリア、お主はこの子に殺されるじゃろうな」


お爺さんの言葉を聞いた瞬間、エミリアは屈辱を受けたように悔しそうな表情をしながら俺を睨んだ。


俺も、睨んだままエミリアの目を見る。


「・・・分かりました、お祖父様がそうおっしゃられるのでしたら相手になってもらいましょう」


エミリアはそう言うと、俺に向かって手を差し伸べた。


「私の名前はエミリア、あなたは?」


「・・・ガルファットです」


「そう、よろしくねガルファット君」


そう言う少女の手を俺は握らなかった。


・・・握れる訳がない。


「どうしたの?握手しなさいよ」


「・・・できませんね、これから戦う相手と握手なんて」


俺が答えると、エミリアは俺を嫌そうな目で見た。


「・・・そう、心がけだけは一人前ね。

せいぜいケガをしないように気を付けなさい」


少女はそう言うと、手を下げて俺とクレアの間を歩いて抜けていった。


「では、わしらも行くとしようかの」


そう言ってエミリアのあとを追うように歩き出したお爺さんについていくように、俺とクレアも歩き出した。





最初見た時は思い出せなかったけど、今になって思いだした。


僕は横を歩くガルファット君を置いていくように、前にいるお爺さんの横へ早歩きで向かった。


僕は、あのお爺さんを知っている。


「あの、すみません」


僕が声をかけると、お爺さんは歩きながら僕のほうを見た。


「ん?どうかしたかの?」


「人違いだったら申し訳ないのですが、もしかしてボルグ校長ですか?」


僕の問いかけに、お爺さんは笑った。


「お主、わしを知っておるのか?」


「はい、昔少しの間ですが魔法学校にいたことがあるのですがその時にお見かけしたのを思い出しました」


「ほぉ、学校の元生徒じゃったか。

ちなみに、あの坊やはわしの事を知っておるのか?」


ボルグ校長の質問に、僕は首を横に振った。


「いえ、知らないと思います。

だからこそ、さっき状況を知った時に驚きました。

いいんですか?今のガルファット君は、多分エミリアちゃんを本当に殺しますよ?」


僕が言うと、ボルグ校長は真っ直ぐ前を見た。


その目線の先には、エミリアちゃんの背中がある。


「あの子は、祖父のわしが言うのもなんじゃが優秀な子での。

昔からなに不自由なく生きてきた。

周りの者達も、わしの孫だということで可愛がってきた。

じゃが、その代償としてあの子は狭い世界でしか物事を考えられなくなってしまったのじゃ。

だから坊やには、エミリアを一度殺してもらいたいのじゃ」


「そんな!

価値観を変えてほしいから殺して欲しいなんて!

他にいくらでも方法があるじゃないですか!」


「試さなかったと思うか?」


ボルグ校長が今までにないくらい低い声で言った。


「わしとて孫は可愛いのじゃ、思い付く限りの事は試した。

じゃが、どれも失敗したのじゃ。

それこそ、他の者に殺して欲しいと頼んだこともあった。

じゃが、皆失敗した。

理由はさまざまじゃろう、エミリアが優秀なのも、わしの孫だということも含まれていたと思うがの」


「だからといって・・・」


僕はこれ以上なにも言えなかった。


言葉が出てこなかったんだ。


「1つわしから質問してもよいかの?」


「・・・何ですか?」


「お主と坊やはどういう関係かの?」


僕と、ガルファット君の関係・・・。


「一応、ガルファット君の武術の師匠をさせてもらってます」


僕が答えると、ボルグ校長が笑った。


「そうじゃったのか、お主は良い弟子を持ったの」


「・・・どういう事、ですか?」


僕が尋ねると、ボルグ校長は歩きながら後ろを見た。


「わしはあそこまで優しい男を他に知らぬ。

超が付くほどのお人好しじゃがの」


「それはいったい・・・」


僕が言いかけると、ボルグ校長はまた前を向いた。


「まぁ、次期に分かるはずじゃ」


僕は後ろを見た。


ガルファット君・・・。

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