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第44話 泥棒と高日給

「はぁ、まったく朝から大変な目にあったな」


朝の人違いならぬ胸違い事件の後、俺は朝食を済ませて町の中をブラブラしている。


今頃ロミアはバイトの面接をしているだろう。


起きたばかりの頃の寝ぼけ方を思い出すと少し不案な所もあるけど、まぁロミアなら大丈夫だろう。


問題は俺の方だな。


昨日に引き続き今日も町を散策しているが、お金を稼げそうな事が見つからない。


クレアのやつ、こんな中からどうやって金稼ぐ方法を見つけたんだ?


よく異世界転生系のラノベとかだとギルドからクエストを受注するパターンがあるけど、この世界じゃそういうのは無いらしい。


しかも、かなり理にかなった理由で。


まず第一に、そういう金のやりとりがある時点で危険だからだ。


冒険者がギルドからクエストを受けて、そのクエストをクリアしてギルドに来るか依頼者に報告すればお金がもらえる。


この言い方だと簡単な事に思えるけど、実際問題そんなに上手くはいかない。


まず第一にギルドはともかくとして、依頼者と冒険者の間における信頼関係が足りないのだ。


簡単な例をあげると、依頼者が依頼したクエストを冒険者がクリアして報告に行く。


そこで依頼者がちゃんと依頼内容を達成しているか確認して、達成していた場合冒険者に依頼報酬を支払う事になる。


だけどこの時、依頼者が金を払ったかどうかを確認できるのは依頼者本人と冒険者しかおらず、第三者による確認が困難なのだ。


この世界にはカメラも無ければ、音声を録音できる機器もない。


物的証拠が無ければ立証できないのに、その物的証拠を作れるものがないのではどうしようもない。


その逆もまたしかりで、冒険者がクエストを達成していないのに依頼者に金を貰いに行っても、何らかの理由で依頼者本人の目でクエストの達成を確認できない場合も先程と同じ状況になるのだ。


だが、この問題は依頼者と冒険者の間に信頼関係があれば大したことではないのだ。


といっても、ギルドから派遣された初対面の冒険者を依頼者が信頼できるかと言われたら無理だろう。


これが第一の問題。


第二の問題もあって、それはギルドというものをどう経営するかだ。


通常だと依頼者がクエストを発注する時、冒険者が依頼者からお金をもらう時の手数料でギルドにもお金が入るシステムと、国からの援助金で経営システムが代表的だけどそれも案外難しいらしい。


まず、手数料の問題はさっきの冒険者と依頼者のお金の問題と似たような所があるから無理。


国からの援助金も、前例の無いものに投資するほど国もギャンブラーじゃないって事でしないらしい。


まぁ、他にも色々な問題があるだろうけどデカイ問題の1位と2位はこんな感じだな。


ちなみにさっきから例に冒険者って言葉を出してはいるけど、あれも分かりやすくするために使っているだけでこの世界に冒険者って職業はない。


と、ここまで話した知識は全部うちのスーパーメイドことフィーネに教えてもらいました。


あの人、その気になれば会社を経営できるのではないかと思えてくる。


あ、でもそれだと家でフィーネの手料理食えなくなるからダメだ。


ロミアの料理も美味しいんだけど、フィーネのは食べ慣れた味っていうのか安心する味なんだよな。


さてと、フィーネの手料理の旨さを再認識したところで本格的にどうしたものか。


俺は辺りを見回す。


すると、ある雑貨屋の前の一組の祖父と孫?が目に入った。


「いつも思うが、お主は買い物が長いのぉ。

商品を手に取りは置き手に取りは置き、買う気配が見られんし、付き合わされる身にもなってほしいのぉ」


「お祖父様、私に買い物に付き合わされている風を装っていますが、実際はあなたが勝手についてきているだけなので私は気にしませんよ」


顎が隠れる程度の長さの髭を撫でながら笑っているお爺さんと、やれやれといった顔であしらう女の子。


女の子のほうは、シガラと同い年位だろうか。


茶髪のショートヘアーで眼鏡をかけていて礼儀正しいように見える女の子と、銀髪白髭の杖をついたお爺さん。


これだけならそこまで不思議じゃない光景なのだが、問題はそのお爺さんの肉体だ。


・・・デカイのだ。


身長2メートル位の老人なんて見るの初めてだぞ。


周りの人も通りすぎる時にお爺さんを見ては驚いている。


「そう言ってくれるな、エミリアよ。

わしもこの歳になってくると、女性からの出掛けの誘いも来なくてのぉ。

こうして孫の買い物に付き合うのも、老い先短い老人の楽しみなんじゃよ」


「別にそれ自体は構わないんですけど、お祖父様は嫌でも目立つのですからせめて変装くらいはしてください」


会話を聞いている限りだと、どうやら孫と祖父のようだな。


「おーい!

誰かそのガキを捕まえてくれー!」


俺が二人の会話を聞いていると、後ろから叫ぶ声が聞こえた。


振り返ると、大きなパンを抱えてこちらに走ってくる俺と同い年くらいの少年と、それを追いかけるおじさんの姿が見えた。


何だ?泥棒か?


少年はボロボロの服に包み、転びそうになりながらも何とか走っている状態でこちらに向かってきている。


こういう時、捕まえたほうが良いのかかなり悩む。


一般的な回答は捕まえれるなら捕まえた方が良いが多くなるかもしれないけど、少年の姿を見る限り下流階級のエリアの子の可能性が高い。


つまり、貧困ゆえの盗みって事になるだろう。


さて、こういうデリケートな問題はどうするべきなのかな。


俺が考えている間にも、少年とおじさんはどんどんこちらに迫ってきている。


・・・はぁ、こういう時首を突っ込みたくなる癖は直したほうが良さそうだな。


少年は俺の左横を駆け抜けようとしている。


そんな少年の体を、俺は左腕を伸ばして受け止めた。


・・・何だこれ。


少年の体は想像以上に軽かったのだ。


人間の体ってこんなに軽くなるものなのか?


俺は少年の体を引き寄せて、そのまま拘束した。


「な、何しやがる!?」


少年は持っていたパンを落として、俺の腕の拘束を解こうともがく。


そんな少年の耳もとで、俺は小声で言った。


「いいからじっとしていろ、そうすればすぐに終わる」


「はぁ!?何をする気だよ!?」


俺の言葉を聞いても、少年は動きを止めない。


まぁ、そりゃ信用できないわな。


「やっと追い付いたぞ!」


少年の追いかけていたおじさんが、やっと到着した。


息を切らしながら、こちらを見ている。


「坊や、よく捕まえてくれたな。

ハァ、ハァ、このガキ、今日という今日は許さないぞ!」


「お前ら二人でグルだったのか!」


おじさんの言葉を聞いて、少年が俺にすごい剣幕で尋ねてきた。


「いや、俺とおじさんは会ったのは今日が初めてだよ。

ところでおじさん、さっきの言い方だとこの子が盗みをするのは前からあったってこと?」


「おう!

かなり前から頻繁に被害にあっててよ。

いつもいつも、あと一歩の所で取り逃がしてて捕まえられなかったんだ!」


なるほど、つまり盗みの常習犯というわけか。


「お前らに何が分かるってんだ!

金が無くてその日生きるために必死になって、失敗すれば死ぬって恐怖と戦ったことも無いくせに!

お前も!何正義の味方ぶって捕まえてるんだよ!

この偽善者が!」


少年がものすごい剣幕で俺とおじさんに食って掛かってきた。


偽善者か、まぁ言われるわな。


少し誤解されている所があるが、仕方ないか。


「うるせえ!

こっちだってこの商売で食っていってるんだ!

お前みたいに盗みを働く奴らが増えられちゃ、こっちが死んじまうんだよ!」


おっさんも怒鳴りながら少年に返した。


おっさんの言うことはもっともだ、だけどこのままじゃ水掛け論になっちまうな。


「・・・まぁ、双方落ち着いて。

おじさん、あそこに落ちているパンを買いたいんだけど値段っていくら?」


俺が尋ねると、おじさんは不思議そうな顔で俺を見た。


「ん?いいのか?

あんなパンじゃなくて、うちの店に来てくれれば焼きたてのパンを売るぜ。

坊やにはそのガキを捕まえてもらった恩があるんだ、タダって訳にはいかないがなるべく安くてして売るぜ?」


おぉ、それはありがたい話だ。


と、言いたい所だけど今回はいっか。


「なら、通常の値段であのパンを買うんでこの少年も付けてもらえますか?」


「別にそれは構わないが、そのガキをどうするんだ?」


「奴隷商に売ろうかと思います」


俺の言葉に、おじさんが声を出して笑った。


「ハッハッハッ!

坊や!良い考えだな!」


「そういうことで、あのパンとこの少年は僕の方で買い取ります」


その後、俺はおじさんにパンの代金を払った。


「ところでおじさん、早くお店に戻ったほうが良いんじゃないんですか?」


俺が尋ねると、おじさんはしまったという顔をした。


「そうだった!

坊や今日はありがとな!今度うちの店に来る時があればおまけするからな!」


そう言って、おじさんは来た道を走って戻っていった。


「ふぅ、ひとまず終わったか」


俺が息をつくと、目の前から声が聞こえた。


「俺を奴隷商に売ったところで、まともな金にはならないぞ」


あー、そういえばそんな事言ったな。


「あれは嘘だ。

別にお前を奴隷商に売る気はない。

ただ、何個か質問に答えてほしいだけだ」


そう言って、俺は少年の拘束を解いた。


「その前に1つ俺の質問に答えろ。

何でわざわざあんなパンを買ったんだ?

商品はちゃんとお金を出して買いましょうとでも言いたいのか?」


地面に落ちているパンを指差して、少年が俺に尋ねた。


少年の言葉に、俺は首を横に振った。


「いや、そんな気は微塵もない。

ただ、食い物を粗末にはしたくないんだよ。

どうせあのおじさんが持って帰ってたら、商品にならないだろうから廃棄される可能性が高いしな」


「そうか・・・で、そっちの質問は?」


「まず初めに、お前下流階級のエリアに住んでるのか?」


俺の質問に、少年は愛想悪く答えた。


「そうだけど?」


「家族はいるのか?」


「そんな事訊いてどうするんだ?」


「いいから答えろ」


俺が凄みながら言うと、少年は驚いた顔をした。


「家に、母さんが一人いる。

ただ、病気だから働けてない」


「・・・そうか」


なるほど、それで金が無くて盗みをしてたのか。


どこの世界でも、貧困の格差はあるんだな。


「お前、名前は?」


「何だ?やっぱり奴隷商に売る気になったのか?」


「何でもかんでもそんな人に食って掛かるような姿勢で返すなよ。

友達無くすぞ?」


「ケッ、元々友達なんていたためしがねえよ」


「・・・お前、嫌われてそうな性格してるもんな」


「う、うるせえ!

失礼な事言う奴だな!」


少年は顔を赤くしながら、俺に言ってきた。


「・・・何だ、そんな顔も出来るんじゃねえか」


「・・・はぁ?」


俺が笑いながらいうと、少年は何だこいつという表情を俺に向けた。


「さっきまで仏頂面か怒った顔しか見れてなかったからな。

そういう顔している方が愛嬌あって可愛いぞ?」


「そ、そんな事お前に指図されることじゃねぇだろ!

俺の勝手だ!」


少年は先程と同じように顔を赤くした。


「まぁ、それもそうだな」


そう言って、俺は地面に落ちていたパンを拾った。


いつまでも置いておくようなものでもないしな。


「・・・アルマ」


俺が立ち上がると、少年が呟くように言った。


「ん?何か言ったか?」


「アルマ!俺の名前だ!

もう言わないからな!」


少年の言葉に、俺は笑いながら返した。


「アルマか、良い名前だな」


「お前の、名前は?」


「俺はガルファット」


「ガルファット、か」


アルマは俺の名前を呟くと、こちらに背を向けた。


「じゃあな、今日は、その、ありがとう」


「どういたしまして、それくらい素直ならお前も可愛いげあるのにな」


「う、うるせえ!じゃあな!」


「あ、ちょっと待てアルマ!」


俺が叫ぶと、アルマはこちらを振り向いた。


「何だよ・・・」


そんなにアルマに、俺は持っていたパンを投げた。


パンはアルマの胸に当たり、アルマはそれをキャッチした。


「よく考えたら、今腹減ってないからお前にあげるよ」


「・・・ほんとに、よく分からない奴だなお前は」


アルマはそう呟くと、俺の顔を見た。


「ガルファット!俺もお前に言っておくことがある!」


「ん?どうした?」


「俺は男じゃなくて女だ!

次から間違えるんじゃないぞ!」


アルマはそう言うと、こちらに背を向けて走っていった。


・・・またやっちまったー!


また間違えちまったー!


はぁ、この世界男女の見分けがつきにくくて嫌だ。


・・・でも、”次からは間違えるんじゃないぞ“か。


本当に、素直じゃないな。


「おぬし、なかなか物好きじゃな」


背後から声がしたので振り向くと、そこには先程の大きいお爺さんが俺を見ていた。


「あのお嬢ちゃんを逃がすためとはいえいらないパンまで買い、そのパンすらお嬢ちゃんに渡して、残ったのは少ない情報だけ。

ちと、損をし過ぎではないのか?」


笑顔で尋ねてくる老人に、俺は苦笑いをした。


「まぁ、女性の名前を聞き出せただけでも男なら大きな収穫ですから」


俺の言葉に、老人は笑った。


「ホッホッホ、お主年のわりに女性の口説き方をよく知ってるおるではないか」


「それはどうも。

ところで、お爺さんの方こそいつから見ていたんですか?」


「最初から見物させてもらってたぞ。

あれだけ大きな声で叫んでおったのじゃ、嫌でも耳に届いて来たわい」


「言われてみればそうですね。

はぁ、金の稼ぐ方法を探してたはずなのに何で出費してるんだろう」


俺は溜め息をついた。


まぁ、パンくらいじゃそんな痛いような出費じゃないからいいんだけど。


「何だお主、金に困っておるのか?」


「いや、困っているというわけではないんですが、諸事情で短期間で稼げる仕事を探してまして」


「なるほど、ところで期間はどれくらいかのぉ?」


「あと、12、3日くらいです。

お爺さん、何か良い仕事知りませんか?」


俺が冗談で笑いながら言うと、お爺さんは俺に笑顔を向けた。


「1つだけ心当たりがあるのぉ」


「そうですよね、そんな美味しい話しなかなか無いですよね・・・あるんですか?」


予想外の答えに、俺はお爺さんの顔を見た。


「少々危険じゃが、請け負ってくれるならそれなりの金を支払うぞ?」


少々危険、か。


内容だけでも確認してみるか、こんな話しもう無いかもしれないし。


「ちなみに、どんな内容なんですか?」


「なに、やることは簡単じゃ。

今、この店の中にワシの孫娘がおってのぉ。

魔法学校で魔法を習っておるのじゃが、卒業後は国の兵士として働きたいと言っておってのぉ。

その時のために、実戦の練習をしたいと言っておるのじゃがなかなか相手がおらんでのぉ」


「つまり、僕はその相手をすればいいんですね?」


俺が言うと、お爺さんは頷いた。


「その通りじゃ、時間は孫の魔力が切れるまで。

もし請け負ってくれるなら、一日でこの額を払おう」


お爺さんが提示した金額は、さっき買ったパンの100倍の額だった。


つまり、さっきのパンを日本円で300円だとすれば・・・30000円!


「やります!ぜひともやらせてください!」


金額が頭の中で計算された瞬間、俺はお爺さんの手を両手で握りお願いした。


「・・・お主、意外と金にがめついんじゃな」


「それは、言わないで下さい・・・」


俺はお爺さんから目をそらした。


俺だってお金に負ける時があるんだよ・・・。


「ところで、お主魔法や剣術は扱えるのか?」


お爺さんの言葉に俺は頷いた。


「はい、一応魔法、剣術、武術を最低限は扱えます」


俺が答えると、お爺さんは声を出して笑った。


「ホッホッホ、それなら安心じゃな」


「それで、このあと僕はどうすれば良いんですか?」


「また明日にこの時間帯にこの店の前におってくれ。

ワシと孫で迎えに来よう」


「分かりました、明日にこの店の前ですね」


俺が言うと、お爺さんは「それと」と付け加えた。


「お主、剣術も扱えるなら明日は装備を万全にして来ると良いじゃろう。

その方が、孫も張り合いが出ると思うからのぉ」


「分かりました、それではまた明日ここで」


俺はお爺さんにお辞儀をして、その場をあとにした。


「お祖父様、誰かとお話しされてたのですか?」


「おぉ、エミリア。

時にお主、明日は何も予定は入ってないと言っておったな?」


「え?はい、明日は特に予定はありませんが?」


「ちと、この老人に付き合ってくれんか?」


「・・・別に構いませんが、何をするんですか?」


「なに、久しぶりに面白いものを見れそうなだけじゃ」

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