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第43話 胸と失礼

「ん・・・うぅ」


目を覚ますと俺の視界は真っ暗だった。


移動しようと体を動かしてみる。


・・・ダメだ、首から下は動くが頭は何かに固定されている感じで動かない。


どういう事だ?


昨日はシガラと話した後、真っ直ぐ部屋に戻ってきてベッドで寝たはずだが。


寝ている間にどこかに誘拐されたのか?


それにしても何か息苦しいな。


もしかして、顔を何かに押し付けられてるのか?


勘弁してくれよ、こんなどこかも分からない場所で窒息死したくないぞ?


「ん?なんだこれ?」


ふと俺は、自分の顔が押し付けられている物が柔らかい事に気がついた。


何だ?鼻の部分はそうでもないけど左右の頬の場所は柔らかい膨らみがある。


俺は、首を少し左右に振ってみた。


抜け出せはしないけど、これくらいだったら何とか出来るな。


「ん、んー・・・」


すると、頭の上の方から声がした。


何だ、今の声?


・・・待てよ。


この暗闇、頭だけ拘束された状態、左右の頬にある柔らかい感触。


・・・分かったぞ。


間違いない、この状態の原因はロミアだ。


昨日部屋を出るときもそうだったが、ロミアは俺をがっちり抱きしめて寝ていた。


俺が帰って寝た後も同じことをしたのだろう。


しかも、次は胸の谷間に俺の顔を押し当てて。


最初に胸だって気づかなかったのは、多分ロミアがまだ子どもだからだろうな。


フィーネくらいあれば最初の段階で胸って気付くだろうけど、ロミアの大きさじゃ難しいよな。


あれ?でもそれって・・・


俺、子どもの胸に顔を擦り付けていたってことか?


・・・よし、とりあえず抜け出す方法を考えよう。


え?子どもの胸に顔を擦り付けていた件はどうするのかって?


私にそんな記憶はございません。


さてと、結局の問題はどうやって抜け出すかだな。


俺が考えていると、突然腕の拘束が緩んだ。


今だっ!


俺は瞬時に横へ転がり、ベッドから落ちた。


「いてて・・・」


まったく、昨日の夜から落ちてばっかりだな。


俺は立ち上がってベッドの方を見た。


ベッドの上でロミアであろう人物が布にくるまっている。


そういえばこいつ、今日バイトの面接行くんだったな。


少し早いけど起こすか。


そう思い、布に手をかけた時だった。


俺は違和感に襲われた。


場所が、違う?


俺とロミアは入り口から遠いベッドで寝ていた。


つまり、今俺が立っている場所からはベッドは1つしか見えないはずなのだ。


そのはずなんだが・・・なぜかベッドが2つ見える。


俺は奥のベッドを見た。


・・・ロミアがぐっすりと眠っている。


俺は布のかかっている人物をじっと見つめた。


さっきは気づかなかったけど、ロミアよりも体がデカイ。


冷や汗が止まらない。


俺は布に手をかけて一気に捲った。


「・・・スゥー、スゥー」


そこには気持ち良さそうに眠っているクレアの姿があった。


「・・・」


俺は思考が停止した。


思考が停止した中、ゆっくりと剥いだ布をクレアにかけた。


!?!?!?!?!?


俺は頭を抱えながら床をゴロゴロ転がった


何でだ!?


何で俺はクレアと寝てたんだ!?


ロミアと寝てたはずじゃなかったのか!?


落ち着くんだ俺!昨日の事をよく思い出すんだ!


「・・・あ」


俺は立ち上がって寝ているロミアを見た。


そうだ、昨日部屋に帰ってきたらロミアが体斜めにして寝てたから俺が寝るスペース無くて、クレアのベッドで寝かせてもらったんだ。


え?てことは俺が顔を擦り付けてたのってロミアじゃなくてクレアの胸だったってことか?


・・・やっちまったー!!!


ヤバイよ!かなりヤバイよ!


ロミアなら最悪床におでこ擦り付けて謝れば許してもらえたかもしれないけど、クレアじゃヤバイよ!


もうすぐ成人する女性の胸に顔を埋めてたのはかなりヤバイよ!


どうする!?とりあえずバレていないよな!?


俺はクレアの方を見た。


「ん、んー!

あ、ガルファット君おはよう」


目と目が合ったら


「お、おはようございます!」


その場でジャンピング土下座して、朝の挨拶をしていました。


「ど、どうしたの?」


多分聞こえた声からしてクレアは驚いているだろう。


一方の俺はというと・・・恐くて顔を上げれません!


「い、いえ!

ど、どうもしてませんよ!?

これが僕の朝の挨拶のスタイルですよ!?」


「今初めて見たよ!?」


どうする!?


動揺しているせいで上手く受け答えができないぞ!?


お、落ち着くんだ俺。


そうだ!こういう時は素数を数えればいいんだ!


えっと、1、2、3、5、7、11、13・・・


「ねぇ、ガルファット君・・・」


「って、1は素数じゃないだろ!」


「うわっ!」


俺が顔を上げると、クレアが驚いた表情で俺を見ている。


「もう、ビックリしたよ」


クレアはそう言って、少し怒った顔をした。


「す、すみませんでした」


俺は少しショボンとしながら、クレアに謝った。


「・・・本当に何があったの?」


クレアが、優しく俺に尋ねてきた。


「な、何でもありません」


俺が首を横に振って答えると、クレアは溜め息をついてベッドを降りて俺の目の前に来て片膝をついた。


「ところでガルファット君、後ろにいる人誰?」


「えっ!?」


俺は慌てて後ろを振り返った。


当然そこには誰もいない。


「あの、師匠、誰もいないんですけど・・・」


俺がそう言いながら前を向くと、クレアが俺の頭の上にポンッと手を置いた。


「ごめん、今のは嘘。

それで、何があったの?」


クレアは俺に訊いてきた。


俺は、その目をじっと見ていた。


目を逸らすことができないのだ。


別に無言の圧力があるとかそんな事じゃないのに。


俺は諦めた。


この人には嘘がつけないわけではない、だが嘘をつき通すことができないと悟ったのだ。


「はぁ、師匠に隠し事はできませんね」


「別に隠し事するのは構わないけど、僕関係の事なら知りたいなぁ」


「・・・分かりました、話しますよ」


そう言って、俺は今日の朝の出来事をクレアに話した。


「はぁ・・・何だ、そんな事だったのか」


俺が話終わると、ベッドに座ってこちらを見ているクレアが呆れ顔で溜め息をついた。


「そんな事って・・・師匠、もう少し自分が女性だって事自覚してくださいよ」


「その言葉、普段だったら素直に受けとるけどガルファット君に言われると何か悲しくなってくるね」


「何故!?」


落ち込みながら言うクレアに俺は突っ込んだ。


「それとガルファット君、1つ訊きたいんだけど・・・」


「ん?何ですか?」


「ガルファット君は途中で自分の顔がロミアちゃんの胸の所にあるって思ったんだよね?」


「そうですね、昨日の今日でしたし」


「でも、実際にガルファット君は僕の胸に顔を埋めていたんだよね?」


「そ、そうですね」


「途中で、もしかしたらロミアちゃん以外の人の可能性は考えなかったの?」


クレアの問いかけに、俺は苦笑いをしながら答えた。


「考えなかったですね。

そりゃフィーネさんくらいあれば思ったかもしれないですけど、あの大きさじゃその前の事もありましたしまずロミアで間違いないと思っていましたよ・・・あ」


俺はここまで喋って自分の失言に気付いた。


クレアはひきつった笑顔で涙を流している。


「そうなんだ。

ハハッ、そうだよね僕胸なんてほとんどないもんね。

ロミアちゃんと間違えられても仕方ないよね」


そうだった!


この人そういうの結構気にするんだった!


「いや師匠!

俺が師匠とロミアを間違えたのはその前にロミアとの一件があったからですよ!」


「でも、フィーネさんくらい大きければ気付いたんでしょ?」


うぅ、否定できない。


「ほ、ほら!

師匠だって今は小さくても、これから胸が大きくなるかもしれないじゃないですか!」


「もうすぐ成人で成長期もほぼ無いのに?」


うぅ、かけれる言葉がない。


「男の人は胸の大きい人が好きだもんね。

いいもん、別に気にしてないもん」


いや言い方は可愛いけど、すごい気にしてる目してるじゃん!


「だ、大丈夫ですよ師匠!

胸で女性を選ばない男だって世の中いっぱいいますよ!」


「・・・じゃあ、ガルファット君は胸の大きい人と小さい人どっちが好み?」


「ぼ、僕ですか?」


どうする?


これは答え方を間違えるわけにはいかない。


この場合だと、やっぱり小さい人が好みって言ったほうがいいよな?


でもクレアのこの様子だと自分に気をつかって俺が答えたって考える可能性があるな。


「・・・僕はどちらでもありません」


俺は真剣な顔でクレアを見て答えた。


「・・・どういうこと?」


「まず、僕の恋愛対象の条件に胸の大きさ自体が含まれてないんですよ。

だから、他の条件で選ばれた人の胸が結果的に大きくても小さくても特に気にしません。

もちろん胸は女性が誇る物の1つだとは思いますが、別にその大きさであーだこーだ言うつもりはありません」


クレアは黙って、俺の話を聞いていた。


そんなクレアに俺は苦笑いをした。


「これが僕の答えです。

まぁそれでも、胸に顔を擦り付けたお詫びはしますよ」


俺が言うと、クレアは下を見た。


「・・・ほんと、こういうことを平然と言うんだから。

僕がバカみたいだよ」


クレアは顔を上げて、先程違う笑顔で俺を見た。


「ガルファット君、そのお詫びは何でも良いの?」


「え?そうですね、僕で出来る事なら大抵の事は」


俺がそう言うと、クレアはまるで何かを思い付いた子どものような笑顔で言った。


「じゃあ、これからは僕の事をクレアって名前で呼んでくれるかい?」


「・・・え?」


予想していなかった言葉に、俺は驚いた。


「えっと、それは二人きりの時だけとかって事ですか?」


「ううん、いつでもどこでも。

二人っきりの時でも、周りに人がいる時でも」


「別にそれくらいだったら構いませんけど・・・」


実際のところもう少し難題を言われるのかと思っていたから、拍子抜けしてしまった。


「ほんとに!?やったー!」


クレアが宝くじの一等当たりました並みに喜んでいる。


まぁ、本人が良いならいっか。


「んー、二人ともおはよー」


声のしたほうを見ると、俺とクレアの話し声で起こされたのかロミアが眠そうに目を擦りながらこちらを見ていた。


「おはようロミアちゃん、ぐっすり眠れた?」


クレアが尋ねると、ロミアはコクッと頷いた。


そして、ベッドから降りるとそのままフラフラと俺の目の前に歩いてきた。


「ん?どうしたんだ?」


俺が尋ねると、ロミアは足を止めて俺をじっと見つめてきた。


目を見ると、まだ寝ぼけているのかとても眠そうな目をしていた。


すると、突然ロミアが俺に抱きついてきた。


「は!?ん!?おい、ロミアどうしたんだ!?」


俺が尋ねてもロミアは返答しないで俺に抱きついたままだ。


「ちょっ、し・・・クレア!

ロミアが全然離れてくれないんですが!」


俺はロミアを引き剥がそうとするが、まったく離れる気配がない。


するとそれを見たクレアがこちらに近づいてロミアの顔を覗きこんだ。


「ガルファット君、これはもうダメだ」


クレアが重苦しく言った言葉に俺は慌てて振り返った。


「え!?まさか・・・!」


クレアが静かに頷く。


「うん・・・ものすごく寝ぼけてる」


「ロミアー!離れろー!」


ダメだ、全然離れない。


これ、いつもより力強くないか?


「ク、クレアさん、何とかしてもらえませんか?」


俺が頼むと、クレアは意地悪な笑顔でこちらを見た。


「えー、ものすごく幸せそうな光景だから壊したくないなー」


「いやこのままだと身動きが取れないんですが!?」


「ガルファット君・・・君は今まで何のために修行をしてきたんだい?」


「少なくともこんな状況を想定してやってきた覚えはありません!」


俺が叫ぶと、クレアは仕方ないなという顔をした。


「もう、ロミアちゃんみたいな可愛い女の子に抱きつかれてるのに満足できないの?

ガルファット君は贅沢だなぁ。

仕方ない、たしになるか分からないけど僕も抱き付いてあげるね」


「いやそうじゃなくて!

それじゃまったく解決になってない!

ていうか何で顔に胸を押し付けてきてるの!?

あんた絶対にさっきの事根に持ってるでしょ!?」


「えー、そんな事ないよー。

別にこうすればガルファット君がお胸じゃなくて僕みたいな小胸でも満足してくれるはずなんて、微塵も思ってないよー」


「やっぱり根に持ってるじゃないか!

あ、ちょっと待ってくれクレア!

この体勢はかなりヤバイ!

頼む!離れなくてもいいからどうか動かないでくれ!」


ヤバイ事になった、この体勢は本当にダメだ。


胸を押し付けてきてるだけならまだしも、クレアはアピールなのか分からないけど体を横にクネクネさせる。


いや、別に最悪それはいいんだ。


問題なのは・・・胸の突起物が口に入りかけてるんだよ!


この世界にブラジャーなんて物はないから服の上からでもちゃんと形が残って浮き出るんだよ!


頼む!誰か早急にブラジャーを作ってくれ!


じゃないと不可抗力とはいえ俺が大変な事態を作ってしまう可能性が高いんだ!


と、朝から大変な状況の中、ある意味変態的に取られてしまうかもしれない願いを必死に懇願することになった。

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