第34話 時間の流れは早い
時が経つのは早い。
学生が、社会人が、中年が、老人が、皆が感じたことがあるだろう。
俺もその1人で、ものすごくそれを実感している。
ここまで来るまでがあっという間だったのは、やることが多かったからかはたまた2周目だからなのか。
「ガルー!行くよー!」
いつもの庭より少し遠いところから、遠くで手を振って俺の名前を呼ぶロミアに、俺は腕を上げて合図をした。
するとロミアは、手のひらを俺の方に向けてきた。
「・・・水弾!」
ロミアから俺に向けて放たれたのは、無数の水弾だった。
それは文字通り、真横からの雨のように俺に向かってきている。
俺は、その雨の中に向かって走り出した。
ここで躊躇をすれば、俺はロミアに近づけない。
俺は右腕を前に伸ばした。
手のひらに水属性の魔法を注入しながら雨の中に突っ込んでいく。
「・・・氷盾!」
俺の手のひらの前には、氷の盾ができて雨を防いでいく。
このまま行けば、ロミアに近づける。
だが、そんな俺の思惑は氷の盾と一緒に砕け散った。
俺は何があったかを考える前に、まずはこの雨を防ぐ術を考えた。
視界を覆うほどの量だ。
一刻も早く行動しないといけないな。
俺は、右手の手のひらに魔力を注入した。
それまでどう防ぐか?
打ち消す!
俺は、左手のジャブで上半身に飛んできたのはすべて応対した。
下半身はあえて無視だ。
そこまでやったら魔力の注入に集中できないし、元々そんな器用な事はできない!
「・・・今だ!岩壁!」
俺は地面に手をつき、自分の3倍の大きさはある岩の壁を作った。
これで少しは防げるか。
俺は、自分の手のひらを見た。
氷盾が割れたとき、何か硬い物が当たった気がした。
多分、水弾の中に岩弾が混ざっていたんだろう。
俺は、壁を背にしてロミアの方を覗いた。
さて、どうする?
この壁を作ってから、ロミアの水弾は止んだ。
無駄に魔力を消費しないようにしているな。
ロミアは、俺の方を見ながら特に何かするわけじゃなく立ったまま観察している。
まだロミアまでは距離がある。
魔法の勝負なら、種類を多く使えるロミアのほうが分がある。
剣は手元にないから、実質素手同士の勝負だ。
だけど、かといってこのまま後手に回りっぱなしは嫌だな。
・・・ここは一発しかけるか。
俺は、作戦を行うため確認で再度ロミアを見た。
すると、ロミアは左腕を空に向けていた。
その先を見た俺は、冷や汗が頬を伝うのが分かった。
「マジかよ・・・」
そこに浮かんでいたのは、巨大な火を纏った岩だった。
あいつ、後の事考えてないな。
「隕石!」
ロミアが腕を振り下ろすと、それに呼応するように岩は俺に向かって降ってきた。
「殺す気か!」
俺は、壁を避けて前へ出た。
そして、右手に水属性の魔力を注入しながら岩に向けた。
とりあえず、これを地面に落とすわけにはいかないな。
あとで母さんに何言われるか分かったもんじゃない。
「水噴射!からの、絞る。!」
俺が撃った水は、太さを変えどんどん細くなっていく。
まるで、一本のレーザー光線のように。
水のレーザーは、岩に突き刺さりそのまま貫いた。
俺はそれを確認して、右腕をさまざまな方向に動かした。
すると巨大な岩は、半分、また半分と小さくなっていく。
地面に落ちる頃には、小さめの石ころ並みになっていた。
これ、すごい腕が疲れるからあんまりやりたくないんだよな。
俺は、さっきまでロミアがいたところを見た。
・・・が、そこにはすでにロミアの姿はなかった。
「あいつ、この戦法得意だよな」
俺は辺りを見渡した。
ロミアの姿はどこにもない。
ロミアのやつ、前にシルビアに光の魔法を教えてもらったんだよな。
そのおかげでカメレオン並の光学迷彩使えるようになってるけど、完全犯罪者にならないのはロミアだからだろうな。
「さてと、そっちがその気ならこっちも色々やってみるか」
俺は、静かに目を閉じて体の力を抜いた。
肌には気持ちの良いそよ風を感じる。
ロミアは俺がこの体勢になると、極力音を消して魔法を撃とうとする。
少し前までだったら、そこで諦めるんだけどな。
いやはや、人間は死ぬ間際に過去の事を思い出して生き残る方法を考える走馬灯があるっていうけど、過去に良いヒントって本当にあるんだな。
・・・俺、死ぬのかな?
まぁ、そんな考えは置いといてだ。
俺は、頭の中で犬をイメージした。
犬をイメージするのは、フィーネを探しに行ったとき以来か。
想像強化は、時間制限あるから実戦じゃなるべく使わないようにしてるんだけど、この状況じゃ仕方ないか。
・・・・そろそろか。
俺はゆっくり目を開けた。
「スゥーー」
鼻から大きく息を吸い込むと色々な匂いがした。
もちろんその中には、ロミアの匂いも含まれている。
見えない、音も聞こえない、でも匂いなら分かる。
昔からの慣れた匂いだ、間違えるはずがない。
そして、俺の右後ろにいることも分かった。
俺は、ロミアがいる方向に向かって走った。
「何か来た!?」
ロミアが走ってくる俺に驚いて、魔法が解けて姿が見えた。
「早すぎるよ!泥沼!」
ロミアは地面に手をついた。
「今さらそんなのじゃ止まらないぞ!」
「それはどうかな!」
ロミアが不敵な笑みを浮かべながら、俺を見ている。
次の瞬間、俺の足は泥沼と化した地面にズボッと沈んだ。
「やった!はまった!」
ロミアが俺の沈んだ足を見て、嬉しそうにした。
「簡単にはまってたまるかー!」
俺は沈んでいないもう片方の足で泥を踏んだ。
だが、その足が沈む前にもう片方の足を引き抜いて踏み出した。
それを高速でやるとどうなるかというと・・・
「何で沈まないの!?」
ロミアが泥沼に沈まずに走ってくる俺を見て、驚いて固まっている。
俺はそんなロミアに近づいて右ストレートを顔面・・・に当たる直前で寸止めした。
「俺の勝ちでいいよな?」
俺は拳を降ろして、ロミアに尋ねた。
「むぅー、最近勝ってたのに悔しいなぁ」
頬を膨らませて悔しがるロミアに、俺は笑いながら言った。
「そうか?
俺が犬で想像強化を使わなかったら、今頃泥沼の中だったぞ?」
「そうだけど・・・悔しい」
前までのロミアだったら、すぐに立ち直ってるけど今回は落ち込んでるのが少し長いな。
惜しかった分、悔しさも大きいんだろうな。
「ところで、レオナルドさんにあの事言ったのか?」
俺が聞くと、ロミアは嬉しそうに頷いた。
「うん!何か色々心配してたけど最後はママが説得してくれたよ!」
「良かった、これで気兼ねなく行けるな」
「でも、すぐに行くわけじゃないでしょ?
言うの、早すぎない?」
不思議そうに尋ねるロミアに、俺は家の方を見ながら答えた。
「良いんだよ、早めに言っといたほうが良いこともある」
「ふーん、分からないけどガルが言うならそうなんだね」
「さてと、家に戻るか。
小石頭から被ったから、風呂入って洗い流したいし」
「はーい。
ねぇガル、午後暇?教えてほしいことがあるんだ」
「いいよ、どうせ今日は授業自体がないし」
その後俺とロミアは色々な事を話ながら、家に帰った。
「はぁ、もっと良い避け方考えないと毎度毎度体中小石だらけは嫌だな」
脱衣場で服を脱ぎながら、そんなことを考えていた。
頭を掻いたりすると、小石がポロポロ落ちてくる。
早くシャワーで洗い流しちまうか。
俺は浴室の扉を開けて、シャワーのところへ向かった。
蛇口を捻ろうとして屈んだ時だった。
急に体に力が入らなくなり、俺は目の前の壁におでこをぶつけた。
「いてっ!」
俺はそのまま床に仰向けになって、ぶつけた部分を手でさすった。
何だ?急に力が入らなくなったぞ?
・・・あ、忘れてた。
そういえば、想像強化したままだった。
ていうことは、今からあれが来るのか。
・・・痛い痛い痛い。
考えていたら、デメリットの全身筋肉痛が来た。
風呂場で、全裸で大の字に仰向けになって動けなくなってるって恥ずかしすぎないか?
まぁいいや、どうせ誰も来ないんだ。
痛みが治まるまで、このままでいるか。
「ガルー!一緒にお風呂に入ろー!」
俺の考えを壊すように、ロミアが脱衣場から笑顔で入ってきた。
なんとタイミングの悪い・・・。
「ロミアー俺動けないから1人で入ってくれー」
俺が仰向けのまま言うと、ロミアがこっちに近づいてきた。
「どうしたの?」
不思議な物を見るような目で俺を見て尋ねるロミアに、俺は苦笑いしながら答えた。
「デメリットが今来た。
少しの間動けないから、先に風呂入っててくれ」
俺が言うと、ロミアは笑いながら返した。
「じゃあ、ガルが動けるようになるまで待ってるよ。
少しの間だけなんでしょ?」
そう言うと、ロミアは俺の横に寝そべった。
「ロミア、さすがにここに寝そべるのは汚いと思うぞ?」
「フィーネさんが毎日掃除してくれてるから大丈夫だよ。
それに、ガルだって寝そべってるじゃん」
「いや、俺とお前じゃ状況が違うだろ」
それにロミアさんよ、子ども同士とはいえ全裸で隣同士並んで寝そべるのはどうかと思うんだ。
片方は、精神年齢子どもじゃないし。
「いいの、せっかくガルと一緒にお風呂に入り来たんだから少し待てば入れるようになるなら、私は待つよ」
「お前、何かここ2年くらいでしゃべり方が変わってないか?」
「ガルのが移ったんじゃない?」
俺のが移ったのか?
何か、しゃべり方が大人っぽくなるのが早いというか俺たち今7歳ですよ?
前の世界でいえば小学1年生だぞ?
「私達、もう7歳なんだね」
ロミアが俺の方を見ながら、笑って言った。
「そうだな、何か5歳の頃からあっという間だった気がするよ」
「5歳の頃かぁ。
ガルの誕生日なら、今でも覚えてるよ?」
「あのときは、本当に驚いたよ」
俺の5歳の誕生日、料理を食べたときにいつもと味が違うけど旨かったんだよなぁ。
それでフィーネに尋ねて、全部ロミアが作ったっていうから詳しく聞いたら、ロミアが俺へのサプライズで密かに料理を練習してたって言われた。
確かに、その頃ロミアがいつもより早く家に帰ってたりしてたから何となく違和感はあったけど、そんなことしてるとは思わなかったなぁ。
「ガル、美味しそうに食べてくれたもんね」
「旨かったからな。
フィーネさんの料理も旨いけど、ロミアのは新鮮だったし何より俺好みの味つけだったんだよ」
嬉しそうに笑みを浮かべるロミアに、俺もまた笑って返した。
「あ、体動くようになったか」
俺は自分の腕を動くのを確認して、その場で立ち上がった。
「ロミア、先に体洗っていいぞ?
待ってくれたお礼だ」
俺が言うと、ロミアは立ち上がった。
「じゃあガル。
私がガルの背中流してあげようか?」
「何でそうなる」
俺は、ロミアの頭をポンッと叩いた。
「ロミアちゃんが洗ってあげたらガル喜ぶわよ、ってガルのママが言ってたよ?」
「あの人は・・・」
俺は溜め息をついた。
昔フィーネと一緒に風呂入った時も、フィーネに変なこと言っていたのは確かフィーネだったな。
まったく、あの母親は息子をどうしたいんだか。
「ほら、こっちに座って」
俺はロミアに手を引っ張られて、半強制的にシャワーの前に座らされた。
「待て!俺まだ洗ってくれって言ってないぞ!?」
「だってガルの返事待ってたら、どうせ断られるのは分かってるもん」
「・・・お前、なんかここ数年で俺の扱い慣れてきた?」
「何年一緒にいると思ってるの?」
何だろう、この結婚してから年月が経った夫婦のような会話は。
「分かったよ、頭と背中だけな」
「まずは頭から洗うね」
そう言うと、ロミアは嬉しそうに鼻歌を歌いながら俺の頭を洗い始めた。
まぁ正直な感想を言わせてもらうと・・・すごい丁寧に洗ってくれた。
髪の毛の間に入った小石を丁寧に取り除きながら、髪の毛自体も痛めないように力を入れすぎずかといって弱すぎずって感じだ。
言ってみれば、すごい上手なんだよな。
「ロミアお前、なんか髪の毛洗うの上手くないか?」
「そうかな?普通じゃない?」
普通なのか?まぁ、いいや。
気づくとロミアは、俺の背中も流してくれて髪の毛と背中はバッチリ洗えてもらえた。
「じゃあ、あとは自分で洗うから少し待っててくれ」
「ダーメ、前もちゃんと私が洗うよ」
俺が自分で体を洗おうとしたら、俺の腕を掴んでロミアが止めた。
「いや、ロミアさん俺は頭と背中だけお願いしたはずなんですが?」
「別に私は了承してないよ?
私はただ、まずは頭から洗うねって言っただけだよ?」
俺が後ろを振り向いて言うと、ロミアは意地悪な笑みを浮かべながら俺を見ていた。
「お前、そんな知恵どこでつけてきたんだ?」
「ガルのが移ったんじゃない?」
「なんか否定できないところが悲しい」
俺が言うと、ロミアは俺の体を自分の方に回転させようとしたので俺は抵抗した。
「ほらガル、前もちゃんと洗わないと汚いよ?」
「だからちゃんと自分で洗うって!」
「えー、私が洗いたいのー」
「やめろー!前だけは勘弁してくれー!」
俺も必死に抵抗するが、ロミアも全力で俺を自分の方に向かせようとする。
仕方ない、この方法は取りたくないんだが事態が事態だ!
俺は抵抗するのをやめて、ロミアの方を振り向いた。
そしてロミアが目の前に来た瞬間、ロミアの頭の後ろに手を回してそのまま俺の方に近づけた。
ロミアの顔が俺に近づいてくる。
俺は近づいてきたロミアの顔を、その唇を自分の唇で受け止めた。
「ん!?」
ロミアが驚いて、変な声を出した。
俺は、ロミアの顔からゆっくりと離れた。
「今日の所はこれで勘弁してくれ」
「う、うん!分かった!」
俺が言うと、ロミアは顔を赤くしながらものすごい勢いで頷いている。
良かった、これで前は守れた。
その後、俺たちは各々の体を洗って湯船に浸かった。
「気持ちいい~」
俺の横に座ったロミアが、気持ち良さそうに湯船に浸かった。
「いつ入っても、風呂は気持ちいいな」
「ねぇガル、魔法学校行くのは変わらないんでしょ?」
俺の方を見て尋ねるロミアに、俺は頷いた。
「あぁ、そのために皆に了承をとったんだから」
「そうだよね。
楽しみだなぁ、どんなところなんだろう」
「さぁな。
でも、面白そうな所ではありそうだな」
そういう俺の手をロミアは握ってきた。
俺は、そんなロミアの手を握り返した。
7歳になっても、俺たちの根本は変わってないのか。
俺はそんなことに笑いながら、ロミアとのお風呂の時間を過ごした。




