第33話 疑似試験
シルビアに魔法学校の事を聞いてから、そこそこ日が経った。
今日は、ロミアと一緒にシルビアに魔法の授業を受ける日だ。
「うーん、いつも同じような授業じゃつまらないわよねぇ。
・・・よし、今日は少し内容を変えてみようかしら」
『内容を変える?』
シルビアの言葉を聞いて、俺とロミアが同時にシルビアに言った。
「たまには、ね。
魔法の授業だからって、授業全部魔法じゃつまらないでしょ?」
シルビアが笑いながら俺とロミアに言ってきた。
「それは良いんですけど、何をするんですか?」
「ガルとロミアちゃん、確か体力をつけるために運動してたわよね?」
「はい、一応ランニングはしてますけど・・・」
俺の言葉に、ロミアが頷いた。
「私は二人がどれくらい体力ついたのか分からないから、少し気になったのよね」
・・・なるほど、そういうことか。
「分かりました。
それで、僕たちは何をしますか?」
「そうねぇ・・・良いものも思い付かないからランニングをしてもらおうかしら」
「ランニング、ですね。
ロミアは、それで大丈夫か?」
「うん!大丈夫!」
ロミアが笑顔で頷いた。
ロミアも俺と同じで気づいたのだろう。
「それじゃあ、今からコースの説明をするわね。
コースは・・・」
その後、シルビアからコースの説明を受けた。
結果から言ってしまえば、いつも俺が走ってるコースと距離的には大差がなかった。
「二人とも、コースは理解できた?」
『はい』
「それじゃあ、もう少ししたらスタートだから準備できたら教えてね」
シルビアに言われ、俺とロミアは準備体操を始めた。
「母さん、あのランニングコース試験と比べると距離的にはどれくらい差がありますか?」
俺は準備体操をしながら、シルビアに訊ねた。
「ふふっ、流石に分かったかしら?」
「多分、ロミアも気づいてますよ。
気合い入れて準備体操してますし」
俺とシルビアがロミアのほうを見ると、何かオーラが出てるんだよなぁ。
「やる気満々ね。
というか、ロミアちゃんに教えてたのね。
どうなったかは、だいたい予想できるけど」
「なにがなんでも付いてくるらしいです。
逆に黙って行ったら、夜寝て朝起きたら隣にいそうな勢いですよ。
まったく、こんなののどこが良いんだか」
俺は溜め息をついた。
「ガル、あなたが子どもっぽくないのは昔からだけど、今の発言はかなり見た目に似合わないわよ」
シルビアが苦笑いしながら、俺に言ってきた。
仕方ないな、中身は30歳超えてるんだから。
「まぁ、それは置いといてください。
それで、試験のと比べるとどれくらい距離の差があるんですか?」
「・・・私も昔の事だから詳しくは覚えてないけど、覚えてる限りで同じくらいの距離に合わせておいたわ。
試験のランニングはかかった時間が少ないほうが得点が高いから、このランニングでの時間を基準に考えられるわ」
「なるほど、ちなみにランニング中に魔法や能力を使うことは?」
「禁止ね。
たしか、試験だと特別な紐を手に縛られて魔法や能力を使うと、使ったことが分かってしまう仕組みだったはずよ」
それなら、本当に体力を測られるのか。
まぁ、難しく考えるより走るだけなら楽だからいっか。
「分かりました。
ロミアー、そっちは準備良いか?」
「うん!良いよー!」
「母さん、こっちは準備OKです」
「分かったわ、じゃあロミアちゃんとガルはスタート位置について」
シルビアに言われて、俺とロミアはスタート位置についた。
こんな風に、ちゃんとマラソンするのいつぶりだ?
前の世界の高校以来か。
あの頃は、マラソンなんてめんどくさくて仕方なかったなぁ。
懐かしいような、そうでもないような。
「それじゃあ行くわよ。
用意・・・スタート!」
シルビアの合図で、俺とロミアは同時にスタートした。
結局やることは、いつものランニングと変わらないんだ。
・・・スタートしてから少し経ったが、ロミアのペースは落ちずピッタリと俺の横を走っている。
「良かったなロミア、ランニングの距離伸ばしそうといて」
「うん!ガルに言われてからすぐに伸ばして良かった!」
俺が横を走っているロミアに言うと、ロミアは走りながら笑顔で答えた。
ロミアに魔法学校の事を話した次の日、ロミアから走る距離を伸ばしたいからコースを一緒に考えてほしいと言われた。
本人が言うには、俺と一緒に試験を受けに行って自分だけ落ちるのは嫌らしい。
俺が落ちる可能性をまったく考えていないのがロミアらしいというかなんというか。
「そういえば、今ランニングしてるってことは終わったら魔法の試験もするのかな?」
走りながら、ロミアが俺に聞いてきた。
「多分するだろうな」
「どんなことするのかなぁ」
「魔法の試験だから、使える種類とか威力とかそこらへんになる可能性があるな。
まぁ、本当の試験が使える種類だったら俺も少し危なそうだけど」
俺が笑いながら言うと、ロミアが少し暗い顔をした。
俺は未だに混合魔法が使えない。
たしかに使える魔法の種類を比べても、俺とロミアじゃそこまで差はない。
ただ、それは混合魔法を除いたらの話だ。
ロミアもそれを察したんだろうな。
「さてと、走りながら喋るのは疲れるからゴールに着くまでは喋らないで行くぞ」
「う、うん・・・」
俺が言うと、ロミアは頷いた。
俺たちはそのまま、黙々と走ってゴールまで走った。
結局、俺たちは黙々と走り続けてゴール目前まで来ていた。
「はぁ、はぁ」
俺は、隣で走っているロミアを見た。
息は切らしているけど、まだまだ体力に余裕はありそうだ。
何だかんだ言って、ここまで俺の横にピッタリついてきたんだからすごいな。
俺がそんなことを考えていると、いつの間にかゴールしていた。
「二人とも、お疲れ様」
ゴールして、息を整えている俺とロミアにシルビアが近づいてきた。
「はぁ、はぁ。
母さん、時間はどうしでした?」
俺が聞くと、シルビアは笑顔で頷いた。
「・・・この時間なら、大丈夫そうね」
「よかったぁ」
シルビアの言葉を聞いて、ロミアが大きく息を吐きながら言った。
「それじゃあ二人とも、次は魔法の試験をしてみましょうか」
そう言って、移動するシルビアの後を俺とロミアはついていった。
「この辺りでいいかしらね。
ガル、ロミアちゃん、息は整った?」
家から少し離れた所で、シルビアが足を止めて俺とロミアに訪ねてきた。
俺たちはその場に立ち止まって頷いた。
「それじゃあ、魔法の試験のほうを始めましょうか。
まずはロミアちゃんから」
「は、はい!」
シルビアに指名され返事をしたロミアからは、少し緊張しているのを感じた。
「じゃあ、ロミアちゃん。
自分の一番得意な魔法を使ってみて」
「一番得意な魔法、ですか?」
「そう、使える魔法なら何でもいいわ。
その代わり、全力でやってね」
「わ、分かりました」
そう言って、ロミアは少し考えると左手の手のひらを真上へ向けた。
すると、ロミアの手のひらに魔力が注入されていくのが分かった。
あれは・・・水の属性か。
俺とシルビアは、ロミアから少し離れた。
ロミアの奴、水属性得意だったのか。
ロミアの使おうとしている魔法は、どうやら水弾のようだ。
でも、結構でかいな。
ロミアの用意している水弾は、大きさが俺の家を余裕で超えるものだった。
あれを地面に撃ったら、水難事故が起きそうな勢いだな。
「水弾!」
俺が感心していると、ロミアが空に向かって水弾を放った。
ロミアの奴、まさかとは思うけど。
「ロミア、撃った後の事考えてるか?」
「あ・・・考えてなかった」
ロミアが名前を呼ばれて俺の方を見ると、しまった、という顔をした。
まぁ、集中してやってたから仕方ないか。
「母さん、僕がやりましょうか?」
俺が聞くと、シルビアは俺の方を見ながら笑顔で頷いた。
「お願いできるかしら?」
「分かりました」
俺は、右手の手のひらをロミアの放った水弾に向けた。
さて、被害を出さない方法を取らなきゃな。
俺は、手のひらに魔力を注入した。
注入するのは、火の属性だ。
ロミアの水弾が地面に落ちる前に、蒸発させる。
もちろん、水属性を火属性で蒸発させようとするならそれなりに魔力を使う。
単純に、水属性の魔法に注入された量の二倍だな。
普通の魔法を使える人なら、そんなことはしない。
魔力を一回使いきったら、最低半日から一日は魔法を使えないんだ。
あまりにリスクが高すぎる。
でも、俺なら魔力が尽きてもすぐにまた魔力が戻る。
・・・さてと、これくらいでいいか。
とりあえず俺は、ロミアの水弾の二倍の大きさの炎弾を準備した。
一応これくらいの大きさなら大丈夫だろう。
「炎弾!」
俺は、今も落ちてきている水の塊に向かって炎弾を撃った。
二つが接触すると、ジュウウウという音がうるさいくらい周りに響き渡った。
何か、サウナで室温を上げるために石に水をかけた時みたいだな。
視界も真っ白になって、目の前しか目視できない。
ていうか・・・ものすごく熱い。
蒸気に包まれて、体からどっと汗が出た。
だけど、少し経つと蒸気が消え周りがはっきり見えてきた。
「ふぅ、とりあえず大丈夫か」
「ガル、ありがとう」
隣にいるシルビアが、俺に向かってお礼を言ってきた。
「これくらいだったら大丈夫ですよ」
「ガルー!ありがとう!」
ロミアが手を振りながら、お礼を言って俺に近づいてきた。
「ロミア、魔法を使うときはちゃんと後の事も考えるんだよ?」
「うん、気を付ける」
俺が注意すると、ロミアが笑顔で頷いた。
まぁ、ロミアも俺と同じで無詠唱で魔法が使えるから意識してれば、大丈夫だろう。
「それで母さん、ロミアは合格ですか?」
俺が聞くと、シルビアは苦笑いしながら言った。
「ここまでできて、それを確認して不合格にしたら私が魔法学校に文句言いにいかなきゃいけなくなってしまうわね」
「ていうことは、ロミアは合格基準に達しているんですか?」
「あれだけできれば、大抵は大丈夫ね。
よほどの事態が起きない限りは、合格は難しくなさそうよ」
「やったー!」
ロミアが笑顔で嬉しそうに、俺に抱きついてきた。
俺は、ロミアの頭を優しく撫でた。
「じゃあ母さん、次は僕の番ですね」
俺がクレアに言うと、クレアは首を横に振った。
「今の炎弾だけで充分よ。
あの規模の水属性の魔法を火属性の魔法で相殺するのを見せられて、試験を受けてくださいとは言えないわよ。
ちなみに、ガルが試験で使おうとしていたのはどの魔法?」
「その前に母さんに聞いておきたいことがあります」
「ん?何かしら?」
首をかしげるシルビアに、俺は問いかけた。
「この魔法の試験、使うなら混合魔法のほうが得点は高いですか?」
「いえ、そんなことはないわ。
まず、魔法学校に入学する前で混合魔法を使えるほうが珍しいわ。
それに、人の得手不得手もあるわ。
1つの属性が極端に得意な人もいれば、威力はそうでもないけど色々な属性を扱える器用貧乏な人もいるからそこで不平等が出ないようになっているのよ。
もし、得意な魔法をして威力が低ければ他に魔法を使えるか聞かれるわ」
「なるほど。
では、威力ですが大きいほうがいいですか?
それとも、小さくても大丈夫ですか?」
俺が訪ねると、シルビアは楽しそうに笑った。
「良いところに気づいたわね。
魔法の威力は大きくても小さくても、どちらでも構わないわ。
ロミアちゃんみたいにあれくらい大きければ、インパクトがあるわね。
ただ、ある程度魔法を使える人達からしたら小さい威力の魔法を使う人のほうが評価は高いわ」
「なるほど、それだったら・・・」
俺は、右腕を伸ばして手のひらを上に向けて五本の指の指先も上に伸ばした。
俺は、手のひらではなく指一本一本に霊力を注入した。
「・・・炎弾」
俺の五本の指先にライターの火くらいの大きさの、炎弾が五つ浮いている。
「これは、どうですか?」
俺がシルビアに聞くと、シルビアは苦笑いしながら答えた。
「いつの間にそこまでコントロールできていたのやら。
もしかしたら、魔法学校の先生でもできない人がいるかもしれないわ」
そう言って、シルビアは俺の頭を撫でた。
「ガルの炎、可愛いなぁ」
ロミアが目をキラキラさせながら、俺の出した炎を見ている。
「じゃあ、これなら合格はできそうですね」
「それで何か言われたら、大きさを変えてさっきくらいの大きさにすれば大丈夫よ」
「分かりました」
俺は、笑いながら頷いた。
とりあえず、俺もロミアも試験は合格できそうだな。
今のところは、一安心だな。
「それじゃあ、今日はこれで終わりにしましょう。
ガルとロミアちゃん、汗かいただろうからこのあとお風呂入りなさい」
『はーい』
俺とロミアはシルビアの言葉に返事をして、三人で家に戻った。
「ガルー、お風呂一緒に入ろー!」
「ダメだ、一人で入ってこい」
「・・・ガル、私と一緒なの嫌?」
「・・・今回だけだからな」
「やったー!」
その日は、ロミアと一緒に風呂に入ることになった




