第29話 寝起きとスーパーメイドの感想
「うっ、うぅ~」
俺はベッドの上で上半身だけ起こして伸びをした。
外は、まだ日が差していないのか薄暗い。
朝のトレーニング始めてから、欠かさずこの時間になると目が覚めるんだよなぁ。
習慣って本当にすごいな。
前の世界じゃ、徹夜したりして生活リズムガタガタだったから起きる時間も定まらなかったのに。
そんなことを思いながら、ベットから降りようとすると横に何かがいるのを感じた。
・・・何だ?
確認するために、布団をめくってみるとそこには・・・。
「スゥー、スゥー」
規則正しい寝息を立てながら、スヤスヤと寝ているロミアがいた。
・・・ん?何でロミアがいるんだ?
え?俺まさか不祥事起こしちゃったの!?
待て待て待て待て!?
いくら今の見た目が子どもだからって、4歳児に手を出すようなアホな事はしないぞ!?
・・・ヤバい、頭が働かねぇ!
と、とりあえず深呼吸をしよう。
ヒーヒーフー、ヒーヒーフー、吐いてー、吐いてー、はい息止めてー・・・よし、落ち着いた。
まずは、昨日何があったか思いだそう。
・・・違う!そうじゃない!
ロミアが頬にキスしてくれたのは一旦忘れろ!
そうじゃなくて、昨日の夜の事だ!
昨日は、フィーネの誕生日会やって皆でご飯食べてそのあと・・・。
そっか、ロミアが寝ちゃってたから俺の部屋に連れてきたんだっけ。
で、そのまま二人で寝たと。
良かった、思い出せて。
何だろう、起きたら横に見知らぬ女がいて焦ったっていう人の気持ちがよく分かった。
皆、そんな時は一度落ち着いて昨日の事を思い出してみるといいよ。
え?昨日の記憶がないって?
・・・ドンマイ!!
「スゥー、・・・ガル~」
ロミアの方を、寝言で俺の名前を呼んでいた。
・・・幸せそうな顔して人の名前呼びやがって。
俺は、ロミアの髪を優しく撫でた。
さてと、そろそろ朝トレに行かなきゃな。
俺は、ベッドから降りて机の上を見た。
いつもと同じように、修行用の服が置いてある。
置いといてくれたのはフィーネだな、まったく昨日の今日だってのに抜かりがないな。
「・・・ガル~、おはよ~」
俺が服を着替え終わると、ロミアがベッドの上にちょこん、と座って眠そうなとろんとした目で俺を見ていた。
「おはよう、悪い起こしちまったか」
「ううん、大丈夫~。
どこに行くの?」
「朝トレ行ってくる。
朝食までまだ時間あるから、お前は寝てて大丈夫だぞ?」
俺が言うと、ロミアは少し考えると呟くように言った。
「・・・私も一緒に行く~」
「え?
いや、お前着替えとかないだろ?」
「何とかする~」
いや、出来ないだろ?
仕方ないな、ちゃんと言って聞かせるか。
そう思って、俺はベットの上に乗ってロミアを見た。
・・・あ、ダメだこりゃ。
俺の目の前のロミアは、目がとろんとしていて眠そうに目を手で擦っている。
そして、そんな目でじっと俺を見ている。
そんなロミアを一言で表すと。
・・・むちゃくちゃ可愛い。
こんな抱き枕があったら、見た瞬間に即買ってしまいそうなくらいクソ可愛いのだ。
ヤバいな、お前は時間まで寝てろって言おうと思ったのに。
こんな可愛いの見たら、言えなくなっちまった。
「ロミア、付いてくるのはいいけど1つお願い聞いてくれるか?」
「ん?なに~?」
俺はロミアに抱きついた。
「少しだけ、このままでいさせて」
「いいよ~」
ロミアが、俺を抱きしめ返してきた。
・・・くそっ、何で俺は4歳の子どもに手玉に取られなきゃいけないんだ!
「えへへ~」
耳元で、ロミアの嬉しそうな声が聞こえる。
・・・もう、可愛いから細かい事はいっか。
「じゃあ、ロミア。
そろそろ行こっか」
「は~い」
俺は、ロミアと一緒に部屋を出た。
「お二人とも、おはようございます」
廊下に出ると、フィーネがいつも通り掃除をしていた。
たまには休んでもいいんじゃないかと思うけど、年中無休で働いてるんだよな。
「おはようございま~す」
「おはようございます。
フィーネさん昨日の今日なのに流石ですね」
俺が言うと、フィーネが笑いながら言った。
「もう、体が慣れてしまって。
逆に、しないと何だか落ち着かないんですよね」
「あー、分かります。
僕も、朝トレやらないと何かスッキリしないんですよね」
俺が言うと、フィーネはクスクス笑った。
「ガルファット様はそうでも、ロミアちゃんはそうでもないらしいですよ?」
「え?」
フィーネに言われてロミアを見ると、俺の腕に捕まったまま寝ていた。
・・・自分から一緒に行くて言ってたくせに。
「おーい、ロミア起きろー」
「う、うーん」
「先に玄関の所行ってるから顔洗ってこい。
さっぱりするぞ」
「・・・は~い」
ロミアは気の抜けた返事をすると、フラフラと洗面所へ向かった。
「ロミアの奴、大丈夫か?」
「慣れてないと、早起きはなかなかできないものですからね。
あ、そうだガルファット様」
フィーネがなにかを思い出したように言ってきた。
「ん?どうしました?」
「昨日いただいた小説、全部読ませていただきました」
・・・え?
う、嘘だろ?あれどう頑張っても全部読むのには3日くらいかかるぞ?
たった一晩で読める量じゃないと思うんだが。
「本当ですか?」
「はい。
昨日は早めに部屋に行ったので、いつもより多く読めましたから」
俺の問いかけにフィーネが笑顔で返した。
どうやら、本当に全部読んでしまったようだ。
「・・・それで、どうでしたか?
あの本は」
「うーん、そうですねぇ」
フィーネは、少し考え込んだ。
ヤバい、ドキドキしてきた。
人から感想聞くのって、こんなにドキドキしたっけ!?
落ち着け、落ち着くんだ。
何を言われても、落ち込まないようにしなきゃ。
「内容は、良かったと思います。
冒険者の手伝いをする家族持ちの主人公が、仕事と家族に板挟みにされて悩みながらも奮闘するという、少し変わってはいますが笑いと迷宮攻略の両方をするという一般的には受け入れられやすい内容ですし。ただ・・・」
どうやら、フィーネは言葉を選んでいるようだ。
「フィーネさん、素直に言ってもらって大丈夫ですよ」
俺が言うと、フィーネが苦笑いしながら言った。
「ありがとうございます。
それでは、お言葉に甘えて。
気になった部分がいくつかあって、1つは家族との会話や出来事がいまひとつだったことです。
冒険のほうでも笑いの部分はありましたが、主に笑いを作るのは家族とのほうでというのを意識して書いたのが伝わってきました。
ですが、いざ家族のほうはどうなんだと言われるとネタに困った感があってイマイチ笑いを取りきれていないところがあったと感じました。
あとは、キャラの個性が少し薄いですね。
主人公とその奥さんと子どもはそこそこキャラが分かるのですが、冒険者の人達に関してはどうしてもみなさん似たり寄ったりになってていた感じがします。
もっと口調や性格などに個性を出したほうが、読む方側としても分かりやすくて良いかと思います」
・・・なんて事だ、俺が思ってた事すべて言われた。
家族との日常のほうは、こっちの世界の普通がイマイチ分からなかったからなかなか踏み込んで書けなかった。
キャラの個性もそうだ。
この時に、人はこう思う。
俺も小説を書いてきたから、その辺の知識は少なからずある。
だけど、世界や環境が変われば常識は変わるんだ。
際立った個性のキャラを作っても、それを活かす場面が思い浮かばない。
まさか、一回読んだだけでそこまで指摘されるとは。
しかも、フィーネの指摘は好みの話じゃない。
俺が編集者でも、多分同じ言葉を言っていただろう。
つまり、フィーネの言ったことはそれほど的確なアドバイスなんだ。
それが出きるのは、今まで大量の本を読んできて自分で分析してきた証拠だ。
どんなに考えても、スゴいの言葉しか見つからないな。
「・・・すごいですね、フィーネさん。
僕が気にしていたことを、確信をついて言ってくるなんて」
「少し言い過ぎたと反省しています」
フィーネが俺に頭を下げて謝ってきた。
「いえ、僕が素直に言ってくださいって言ったんです。
むしろ、改めて言われて自分の足りないところが自覚できました」
「でも、ガルファット様!」
フィーネが慌てて言ってきた。
「あの物語は、とても温かい物語でした。
たしかに、まだまだ足りない部分はあったかもしれないですけど、面白い所もたくさんありました。
私は、あの本が大好きです」
フィーネは、笑顔で言ってくれた。
小説や物語を書く人というのは、色んな批判をある程度は覚悟しなければいけない。
だが、それは仕方のないことだ。
まったく違う人10人が読んで10人が面白いという作品は、絶対に作れないのだから。
色んな事を言われて、時には自分が書いたものを否定される事だってある。
悔しいときや悲しいときだってある。
時には、もう書きたくないって思う事もあるだろう。
それでも、100人の中の1人でも、1000人の中の1人でも、たった一言。
面白い、と言ってくれるから頑張れる。
好き、と言ってくれるから書ける。
作者にとって読者のそう言った言葉は、何よりの活力なんだ。
「・・・ありがとうございます!」
俺は、フィーネに頭を下げた。
嬉しかった。
この世界で初めて書いた作品を、初めて評価してもらえた。
多分、今後忘れることはないだろう。
俺は、自分の頬を伝う涙に気がついた。
「そんな、ガルファット様!
頭を上げてください」
フィーネが慌てて言ってきた。
いや、今上げると泣いてることバレるから上げれないんだが。
「フィーネさん、すみませんが後ろを向いてもらっていいですか?」
「ん?はい、分かりました」
俺は、フィーネにそう言って少ししてから恐る恐る顔を上げた。
フィーネは、こっちに背を向けている。
俺は、涙を服の袖で涙を拭った。
・・・泣かされたお返しするか。
「フィーネさん、そのまましゃがんでもらっていいですか?」
「こうですか?」
フィーネは俺に訪ねながら、片膝をついた。
俺は、フィーネの耳元で囁いた。
「二人きりの時は、敬語やめるの忘れてた。
昨日の服可愛かったのに、今日元に戻っててちょっと残念」
俺の言葉に、フィーネが顔を赤くしながら言った。
「あ、あの服は可愛いから、汚すといけないと思って大事な時しか着ないって決めたの。
でも・・・ガルが着てるところ見たいって言ってくれたらいつでも着るよ?」
・・・誰か、にやけが止まりません。
助けてください、心が持ちません。
「や、やっぱり敬語やめるのは慣れないですね」
フィーネが笑いながら、俺の方を見てきた。
「そうですね、でもフィーネさん可愛かったですよ?」
「・・・時々、ロミアちゃんが羨ましくなりますね」
「ん?なにか言いました?」
俺が聞くと、フィーネは首を横に振った。
「いえ、何でもありません。
それより、そろそろ行かないとロミアちゃんが待ってますよ?」
「あ、そうだった。
じゃあ、フィーネさん行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
俺は、フィーネに言って玄関のほうに向かって走った。
ふと、少しして俺はフィーネに背を抜けたまま言った。
「フィーネさん」
「はい、なんでしょうか?」
「次は、もっと上手く書いてみせます」
「・・・はい、お待ちしております」
俺は、走るのを再開して玄関に向かった。
玄関の前に行くと、ロミアが待ってた。
「おう、眠気はとれたか?」
俺が聞くと、ロミアは笑顔で答えた。
「うん!
さっぱりして、気持ちいい」
「そうか、じゃあ行くか」
そう言って、俺は玄関の扉を開けた。
「ねぇ、ガル。
何で、そんなに嬉しそうなの?」
ロミアが、俺の顔を見て不思議そうに訪ねてきた。
「ん?嬉しそうか?」
「うん、何か顔が笑ってる」
どうやら、無意識に笑っていたらしい。
「ちょっと、嬉しいことがあったんだよ」
俺がそう言うと、ロミアは「そっか!」と笑っていった。
そして、俺たちはそのまま朝トレのランニングを始めた。
ちなみに、その日のランニングのコースはいつもと違いロミアの家にしてかリアとロミアの着替えを取りに行った。
そこそこの速さで走ったけど、ロミアが付いてこれてた事には驚いた。
体力がしっかりついてきているいい証拠だ。
走りながら的に魔法を当てる修行も、少しずつだが出来るようになってきていた。
まったく、ロミアの器用さには驚かされてばかりだ。
ロミアの奴、嬉しそうにしてたなぁ。
また今度、違う修行のやり方でもしてみるかな。
・・・ロミアに、負けないようにしている自分が良い意味でどこか面白い。
その日の朝トレは、色々な事を考えたいつもとは少し違うものとなった。




