第30話 約束と神様像
ロミアと一緒に朝トレをした日の、朝食の時の話である。
「いやぁ、悪かったね。
気づいたときには、クレアの部屋でぐっすりだったよ」
カリアが笑いながら言った。
そう言えば、カリアは昨日クレアと一緒に寝たんだったな。
「カリアがお酒飲みだしたら、酔い潰れるまで飲むのは分かってたわよ。
ロミアちゃんは、こうならないように気を付けましょうねぇ」
シルビアが笑顔でロミアに言った。
ロミアも、「はーい」と笑顔で答えている。
「シルビアひどいなぁ。
あんただって、ガルファット君が生まれる前は酒豪だったくせに」
カリアが拗ねたように言った。
シルビアが、酒豪?
「それって本当ですか?」
俺が聞くと、ジークがご飯を食べながら答えた。
「あぁ、本当だ。
ただ、酒豪っていうよりは酒乱だったな。
結婚する前からそうだったから、何度飯屋で暴れるこいつを取り押さえて帰ったことか。
しかも次の日には、本人は覚えてないわ、その事は他のやつらには言わないでくれわで俺の手柄はいつも闇の中に消えていったな」
ジークの言葉に、シルビアが物凄く怖い笑顔で言った。
「・・・それは、言わない、約束、で・し・た・よ・ね?」
だが、そんなシルビアに怯むことなくジークは言った。
「別にいいだろ、もう何年も前の話なんだし。
それに、その件がきっかけでお前と結婚することができたんだ。
俺は、感謝してるよ」
「あなた・・・」
ジークの言葉に、シルビアが嬉しそうにしている。
何だかんだ言って仲が良いもんな、この二人。
「まぁ、その分ベッドの上でも暴れたから抑えるの大変だったけどな」
「あー!なー!たー!」
・・・こういう余計な一言がなければ平穏無事に終わるのに。
ジークの一言に、シルビアはキレた。
それを見たジークは朝飯の乗った皿を持って逃げ、シルビアはそれを追いかけていった。
「もう、ジーク様。
走りながら食べるのは、お行儀が悪いのに」
フィーネが溜め息をついて言った。
いや、そこじゃないだろフィーネよ。
「ほら、皆。
私たちは、早くご飯食べちゃおうねー」
カリアがいつもの事だみたいな感じで、皆に促した。
いや、元の原因はあなたのような気がするんだが。
「そういえば、カリアさんとレオさんはどうやって出会ったんですか?」
クレアがカリアに聞くと、カリアは苦笑いしながら言った。
「うーん、子ども達の前で言う話じゃない気がするけど聞きたい?」
何があったんだ、この夫婦には。
「あ、それなら大丈夫です」
クレアが物凄く冷静に言った。
そうだよな、朝っぱらからそんな話聞くのも考えものだもんな。
「まぁ、子ども達の前でも大丈夫なように話すと、酒場にいたレオに酒飲ませて持ち帰った」
何という豪快な人だ。
「レオさんって、お酒弱いんですか?」
クレアが聞くと、カリアは頷いた。
「弱いね。
コップ一杯飲んだだけで、酔っぱらうからねぇ。
あの日も、レオが友達と一緒にいる所に私が行って、お酒弱いって知らなかったからお酒飲ませて酔っ払ったレオを持ち帰った。
酔っ払ったレオが可愛くてね、そのまま何だかんだ言って結婚したんだよ」
この世界にも逆ナンがあるのか。
というか、こんな大胆な逆ナンをする人がいるとは。
「レオナルドさんって、酔うとどうなるんですか?」
俺が聞くと、カリアが幸せそうな顔をした。
「ものすごく・・・甘えてくる」
あー、なるほど。
この人、可愛い系の男性大好きなんだな。
「ねぇ、ママ。
お持ち帰りって何?」
今まで静かに聞いていたロミアが、急にカリアに質問した。
いや、待てロミアよ。
それはお前はまだ知らなくて良いことだ。
ロミアの言葉に、カリアが苦笑いしながら言った。
「そうだなぁ。
ロミアにはまだ早いかなぁ」
おぉ、仮にも一児の母親だ。
そういうところの分別はちゃんとあるみたいだ。
良かった良かった、ロミアが誰かを酒で潰してお持ち帰りするのは何か想像したくなかったからな。
「ただ大人になったら教えてあげるから、そしたらガルファット君をお持ち帰りしてみるか!」
待てー!
俺の貞操が危なーい!
いや、ロミアも笑顔で「うん!」って言わないで!
30年越しの初めてだから、大事にいきたいんだよ!
大事にしてきた物だから、失う時はロマンチックに失いたいんだよー!
え?何で大事にしてきたのかって?
・・・失うタイミングが無くて気付いたら死んでました、はい。
「良かったね、ガルファット君。
お嫁さんが早くに見つかって」
クレアが嬉しそうに言ってきた。
いや、そう言っちゃいますか師匠!
「ガルファット様、嬉しくないのですか?」
俺が何とも言えない顔をしていると、フィーネが何か意地悪な笑顔で言ってきた。
この人、時々シルビアに似ている所があるんだよなぁ。
家族って、血が繋がってなくてもいるだけで似るのか?
「なにっ!?
ガルファット君うちの娘では不満だと言うのか!?
どこが不満なんだい!?
こんなに可愛いのに!!」
カリアがロミアを抱きしめて、こちらを向いて言った。
いや、そういう問題じゃないんだ!
確かにロミアは可愛いし、良い子だけどそうじゃないんだ!
「ガル、私じゃ嫌・・・?」
ロミアがカリアに抱きしめられながら、少し悲しそうな目で言ってきた。
いやロミア!
お前絶対に意味分からずに言ってるよね!?
し、しかし断れない!
あんな目で聞かれたら、とてもじゃないが断れない!
お、落ち着くんだロミアよ。
お前はまだ4歳なんだ、きっとこの先俺より良い男に出会うだろうから。
だから、こんな精神年齢30越えた男を口説かないでこれから出会うであろう良い男を口説くんだ。
そうだ、そう言って断ろう。
「ロ、ロミア」
「なに・・・?」
俺が呼ぶと、ロミアはこっちを向いて首をかしげた。
ヤバい、何かロミアの顔見たら断ることにとてつもない罪悪感が出てきた。
頑張れ俺!ここで断らなきゃロミアも可哀想だ!
大切な初めてをこんな男に渡してはいけない!
・・・自分で言ってて悲しくなんてなってないやい!
「その時が来たら、お願いします」
「うん!分かった!」
俺が言うと、ロミアから満面の笑みで返事が帰ってきた。
くそー!何で断るはずがお願いしてるんだー!
最後の最後に変な悲しみに耐えきれずに、ポロッと言ってしまったー!
「やったなロミア!
旦那ゲットできたぞ!」
カリアがガッツポーズしてロミアに言った。
ロミアも、「やったー!」と嬉しそうにしている。
うぅ、俺の初めてがロミアに貰われる予約がされてしまった。
いや、俺はロミアに初めて貰われる事自体はそこまで悲観してないんだ。
むしろ、こんな可愛い子の初めてをもらうのが俺でいいのかと思うくらいだ。
問題はさ・・・
4歳の幼女に初めてを貰われる約束したことだよ!
お巡りさんがパトカーで高速で駆けつけちゃうよ!
やっぱりダメだよロミア!
そんな歳でこんな約束しちゃダメだよ!
と、ロミアに言おうと思ったのだが。
・・・ロミアが嬉しそうにしているので、言えませんでした。
まぁ、いいや。
来ないとは思うが、もしロミアにお持ち帰りされる時が来たらその時に言うか。
今の幸せそうな感じを壊すことはないだろう。
そんな感じで、いつもの何倍も疲れてものすごい約束をすることになった朝食は終わった。
ちなみに、ジークとシルビアはどうなったかと言うと。
「フィーネ、飯旨かったよ」
皆がご飯を食べ終わり、食器を洗っているフィーネの元にジークが食べ終わった食器を持ってやってきた。
「あれ?シルビア様はどうされたのですか?」
フィーネが聞くと、ジークが明後日の方向を見ながら言った。
「あー、あのままじゃどうしようもなかったからな。
・・・ベッドの上で大人しくさせた」
・・・朝っぱらから何やってるんだこの人。
「おーい、ジーク。
シルビアが追ってきてるぞ」
カリアが入り口から首から上だけこちらに出して、ジークに言った。
「何!?
フィーネ、これ頼んだ!」
ジークは自分の持っていた皿を置くと、慌てて廊下のほうに行った。
すると、廊下の方から怒声が聞こえてきた。
「待てー!」
入り口からチラッと見えたのは、杖を持ってジークを追いかけるシルビアの姿だった。
そして、二人とも庭に行ったらしく会話が聞こえてきた。
「朝からあなたは何をするんですか!」
「あーしないとお前大人しくならないだろうが!」
「他に方法があったでしょう!」
「いいじゃねぇか!
お前だって途中からノリノリだったじゃないか!」
「外で大きな声でそんなこと言わないでください!」
「どうせこの声が聞こえる範囲内に家はねえよ!
それにお前だって子どもは何人か欲しいって言ってたじゃねぇか!」
「あんな状況のが元でできるのは何か嫌です!」
「じゃあこれから毎晩してけばいつできたか分からないじゃないか!
解決したぞ!」
「バカー!」
その言葉を最後に、外からは声ではなく色々な音が聞こえた。
多分、シルビアが魔法でジークを攻撃しているのだろう。
まぁ、ジークが悪いと悪いんだけど。
俺は、ジークが無事に帰ってくるのを願って自室に向かった。
「おーい、紅。
遊びに来たぞー」
あのあと、ジークとシルビアはジークの職場に用事があるというので二人で出掛けていった。
あんなことがあった後でも、二人で出掛けた事から何だかんだいって仲が良いのが分かる。
それでロミアとカリアも帰ったので、俺は紅の所に遊びに来た。
前の事があるのでフィーネが一人になるのが心配だったが、クレアが家にいると言ってくれたので良かった。
「お待ちしておりましたよ、ガルファットさん」
毎回通り、紅は部屋の奥からこちらに歩いてきた。
「ん?待ってたのか?」
俺が聞くと、紅が笑顔で頷いた。
「はい、ガルファットさんと話すのは楽しいですから」
「お前・・・ちゃんと仕事してるのか?」
紅が、慌てて返した。
「な、何を言ってるんですか、ちゃんとしてますよ。
この前だって、宴会で頼まれたから一発芸やりましたし」
「・・・神様の世界楽しそうだな。
神様の宴会なら、かなり豪華だろうなぁ」
神様の宴会って言うくらいだからな。
何が出るか想像つかないしな。
「いえ、2時間食べ放題のお店を宴会ということで、3時間食べ放題にしました。
ちなみに、お金も参加した人達からの会費制でした」
「・・・神様の世界も大変だな。
ていうか、何か日本に似てないか?」
俺が言うと、紅が苦笑いしながら言った。
「神様達の中でどこの星の世界や国がいいかアンケート取ると、だいたい日本が1位になるんですよ。
なので、神様の世界にも日本の文化が取り入れられてるんですよ。
ちなみに、インターネットとかの技術もありますよ?」
「ネット回線どうしてるんだ、それ?」
「やたら詳しい神様達がいるので、その方達が色々してくれてるのですよ。
掲示板に書き込みしてスレ立てる神様もいますよ?」
なんちゅう神様達だ。
ていうか、それで解決していいのか?
「インターネットは良いとして、食べ放題の店とか何か日本の文化入れたせいで変なところ劣化してないか?」
「神様もそれを楽しんでいる所がありますからね。
まぁ、給料制にしたのは個人に的にはあまり嬉しく思いませんが」
「神様って、給料制なのか?」
俺が聞くと、紅は残念そうに頷いた。
「・・・はい。
私なんて、新入社員のサラリーマンと同じくらいの給料です」
「それでも、全部が全部日本や地球みたいな感じじゃないんだろ?
家賃とか、光熱費とかそういうのなければそれでも意外といけるんじゃないか?」
「・・・家賃も光熱費も食費もかかります。
朝は満員電車で出勤するのでもみくちゃにされて、夜もコンビニのご飯や外食で済ませる事が多いですね」
何でそこまで徹底的に似せてしまったんだ。
「この前なんか、友達の結婚式に呼ばれました。
ものすごいキレイだっなぁ」
紅が遠い目をしながら言った。
「神様って、結婚するのか?」
「日本にも、イザナギ様とイザナミ様のご夫婦がいらっしゃるじゃないですか。
外国の有名な夫婦なら、ゼウス様とヘラ様とか。
その影響で私の方の世界でも結婚するのが当たり前になってきているんですよ」
そういえばそんな神様夫婦もいたな。
何か神様の世界ってもうちょっと贅沢な、俺たちからしたら羨ましい場所かと思ってたけど。
そんな感じでもないらしいな。
「私なんて、結婚式どころか相手すらいないのに・・・」
「でも、お前見た感じ若いんだしもう少し待てば良い人が見つかる可能性あるだろ?」
「・・・ガルファットさん、私何歳くらいに見えます?」
紅が女性がよく言う「ねぇねぇ、私何歳に見える?」のノリで聞いてきた。
あれって、返答難しいんだよな。
上の年齢言うのはもちろんの事、あまり下に言っても機嫌悪くしちゃうからなぁ。
実年齢より3、4歳下に言うのが理想なんだけど、紅じゃその心配は無さそうだな。
「俺は初めてお前に会ったときに、高校生かいってても20歳くらいだと思ってたぞ?」
俺が言うと、紅が嬉しそうに聞いてきた。
「ガルファットさん、お世辞言ってませんか?
まぁ、お世辞でも嬉しいですけど」
「いや、本当にそう思ってたよ。
むしろ、その見た目で30歳とか40歳とか言われるほうが納得できない」
「本当ですか?
やりましたね、まさか20分の1以上も若く見られるなんて私もまだまだ大丈夫ですね」
・・・ん?
「紅、お前今なんて言った?」
「え?私もまだまだ大丈夫ですね?」
「いや、違うそこじゃない。
その前だ、その前」
「20分の1以上も若く見られるなんて、ですか?」
・・・は?
20分の1?つまり20の20倍?
「え?冗談だよな?
そんな事言ったら、お前今よんひゃ・・・」
俺がその先を言おうとしたら、いつの間にか目の前に来ていた紅が自身の人差し指を俺の唇にそっと添えた。
「ダメですよ、ガルファットさん。
女性の年齢をそんなにサラッと言ってしまうと、嫌われちゃいますよ?」
紅は、笑顔で俺に言った。
「いや、そうは言っても驚いて確認したくなるだろ。
というか、その歳で何でそんな見た目なんだ?
神様って皆若い姿のままなのか?」
「いえ、他の神様は普通に年相応の見た目になります。
私だけが少し特殊で、この見た目から老いる事が無いんです」
何だその、他の女性が聞いたら恨みそうな特殊は。
「この件はそういうものだと思って、割りきっておいたほうが良いですよ」
頭の中を整理できていない俺に、紅が言ってきた。
「それもそうだな。
この話は終わりにしよう、このままだと俺の中の神様のイメージが壊れかねない」
俺が言うと、紅が笑いながら頷いた。
「そうですね。
そういえば、前のプレゼントはどうなったんですか?」
紅が思い出したように聞いてきた。
「あぁ、とりあえず上手くいったよ。
あそこまで緊張して本書いたの、もしかしたら初めてだったかもしれないな」
「それは良かったです。
私も恨まれずに済んだようですし」
そういえば、失敗したら恨んでやるって言ったんだったな。
「俺の中の神様像が変に壊れたから、その事恨んでも良いか?」
俺が言うと、紅が意地悪な笑顔を浮かべた。
「構いませんが、そうしたら私はここでガルファット様の書いた小説を朗読しますよ?」
「すみませんでした、許してください」
俺は、土下座して謝った。
俺にとって、それは何より恥ずかしいことなのだ。
「そんな、頭を上げてください。
それに、私がそんなことするように見えますか?」
俺は顔を上げて、紅の顔を見た。
・・・見える。
こいつはいざとなったら、本当にしそうだ。
「み、みみ、見え、見えません」
ものすごく動揺しながら言ってしまった。
「何か心の声が聞こえてきそうな気がしますが、まぁ気にしないでおきましょうか」
紅が面白そうに笑いながら言った。
「そういえば、そろそろお昼になりますが帰らなくて良いんですか?」
もうそんなに時間たったのか。
「なら、そろそろ帰るか。
・・・また、来る、かな?」
俺が言うと、紅が少し悲しそうな目で言ってきた。
「意地悪しないんで、次も来てくださいますか?」
俺はそんな紅に背を向けて、歩き出した。
「紅」
俺は足を止めて、紅の方を振り向いた。
「・・・また来るよ」
俺が笑顔で言うと、紅の顔が笑顔になった。
「お待ちしてます!」
そして俺は、そのまま外へ向かいその場をあとにした。




