第27話 誕生日“3rd”
倉庫を出た俺たちが見た光景は、すごいの一言であった。
隣同士で立っている、ジークとシルビア。
その周りに倒れている盗賊団の男達。
・・・10人以上いたであろう人数を2人で倒すとは流石だな。
ただそれ以上に驚いたのは、ジークとシルビアの周りの空気だ。
恐怖の一言・・・近づけば殺すという殺気に満ちていた。
あの2人を怒らせるのはやめておこう。
命がいくつあっても足りない。
『フィーネ!』
ジークとシルビアがこちらに目を向けて、フィーネがいることに気がついた。
そして、シルビアがものすごい勢いで走ってきてフィーネに飛びついた。
「シルビア様!?」
「良かった・・・。
フィーネ、怪我はしていない?」
笑みを浮かべながらも、涙を流してシルビアはフィーネに問いかけた。
「・・・はい。
ありがとうございます」
そんなシルビアを、フィーネも涙を流しながら抱きしめた。
その光景をジークは、安堵の表情で笑いながら見ていた。
この2人も、本当に心配していただろう。
「ところでガル、こいつらのボスってどこにいるか分かるか?」
ジークが、クレアの背中におぶられている俺に聞いてきた。
「倉庫の中で、倒れてますよ。
師匠が、ボコボコにしてくれましたから」
「つい、手加減せずにやっちゃいました。
でも、後悔はしていません」
クレアが苦笑いしながら言うと、ジークが頷いた。
「お前がやらなかったら、俺がやってたからどっちにしろ同じだよ。
それより、こいつらをどうやって引き渡すか。
一度仕事場に戻ってたら、逃げられちまうかもしれないしな」
ジークが腕を組ながら、唸っている。
確かに人数が人数だから、運ぶのに手間がかかるな。
何か良い手段があれば良いんだけど。
この世界じゃ車はないし、馬は使われているらしいけどこの近くで馬飼っている人なんて知らないしなぁ。
そんなことを考えている時だった。
「ウォラーー!!」
背後から、怒声のような叫ぶ声が聞こえた。
クレアはそれに反応して振り返ろうとしたが、俺をおぶっているからか少し動くのが遅くなった。
俺も、慌てて後ろを振り向こうとしたが体の痛みで首を動かすことができなかった。
そして、俺たちが振り返り終わった時。
・・・そこには、さっきまで倒れていた盗賊団のボスの男がこちらに左腕を伸ばした状態で止まっていた。
ただ、その左腕は肘から先がなかった。
そして男の前には、赤い血で濡れた剣を握るジークがこちらに背を向けていた。
その光景で察した。
ジークが、男の腕を切り落としたのだ。
「う、うわぁぁぁぁ!?!?」
男が左腕を押さえて、泣きわめきながら地面を左右に転がっている。
「うちの大事な娘だけでなく、息子にまで手出すとはな。
・・・生きて帰れると思うなよ」
ジークから、聞いたことのない低い声が聞こえた。
「いてぇ!いてぇよー!」
まるで駄々をこねる子どものように転がる男の腹を、足で踏みつけて止めジークが言った。
「許してくれぇ!頼む俺が悪かった!」
男は、泣きながらジークに言った。
「許してくれだと?
お前ら、捕まるまでなんの罪もない人達の家に押し入っては金目の物は奪って、女子どもは奴隷商に売ってその金も手に入れてたらしいな。
あげくの果てに、言うことを聞かない奴らは片っ端から殺して。
そんな奴らが、たかだか腕一本斬られたぐらいで許してもらえると思うなよ?」
そしてジークは、ものすごく冷たい声で言い放った。
「お前らに命乞いして殺された罪のない人達の数だけ、俺がお前らを切り刻んでやるよ」
そう言って、ジークは男の腹を足で捻った。
「ぐぅ・・がぁ・・がっ!」
男が言葉にならない声をあげた。
「おいおい、そんなに強くやってないぞ?」
そう言うと、ふとジークが何かに気付いたようにこっちを向いた。
「逃げたら、八裂きじゃなくて十六裂きにするからな」
ジークは男に言うと、こちらに歩いてきた。
そして、俺とクレアに静かに聞いてきた。
「お前ら、たしかあいつと戦ったんだよな?
その時、何か変わったことなかった?」
「変わったことですか?
・・・そういえば、僕も師匠もそうでしたが単発の攻撃は効いてませんでした」
「そういえばそうだね。
僕も単発が効かなかったら、連発で攻撃して倒したし」
そう言うと、ジークは静かに笑みを浮かべた。
「なるほど・・・ありがとな。
おかげで、あいつに与える罰を思いついたよ」
そう言って、ジークはまた男のほうに歩いていった。
「シルビア、悪いがこいつの腕くっつけてくれるか?」
男を目の前にして、ジークがシルビアに言った。
フィーネの横に立つシルビアをものすごい嫌そうな顔をしている。
「・・・もしも私が断ったら?」
「こいつが死ぬな」
シルビアの問いかけにジークが答えると、シルビアはため息をついて男に近づいた。
そして、落ちている男の左腕を拾うと傷口部分をもとの場所に無理やりくっつけた。
「うわぁぁぁぁ!!!」
男がまた悲鳴のような声をあげて、暴れた。
「うるせえ!」
ジークはそれを一喝して、男の腹を踏んで無理やり止めた。
「離れた肉体は朽ちず、再び2から1へと蘇る」
シルビアは、男の腕を持つ手とは別の手を男の傷口に添えた。
「接着」
シルビアが魔法の名前を言うと、男の腕が光に包まれ傷口から繊維のような細い糸が現れ腕と腕を繋いでいった。
そして、光が消えると男の腕は元通りにくっついていた。
「これでいいかしら?」
シルビアは男から少し離れ、渋々といった感じでジークに聞いた。
「あぁ、ありがとう」
ジークは、シルビアにお礼を言うと男をまた冷たい目線で見下ろした。
そして、男の横っ腹を軽く蹴った。
「ぐがぁぁぁ!」
男はまるで、剣で刺されたかのように痛がっている。
「やっぱりか、お前神選者だろ?」
ジークが言うと、男は苦悶の表情を浮かべながらジークを見た。
「ガルとクレアの証言から何となく分かったよ。
そして、今が能力のデメリット中だってこともな」
男の額が光っているのが分かる。
多分、冷や汗だろう。
「多分、肉体強化系の能力だな。
魔法の線も考えたけど、それだとあそこまで痛みに敏感に反応した理由が分からないからな。
能力によるものだって可能性が高い」
そして、ジークは男の下半身を見て剣を持った腕を振り上げた。
「ということで、お前への罰が決まった。
今から、お前の腰から下を切り落としてやるよ」
男の表情は俺でも読み取れる。
恐怖だ、純粋な恐怖。
「や、やめろ!」
「ん?あぁ、出血の心配か。
安心しろ、さっきみたいにシルビアがくっつけてくれるからよ」
男の震えて出た言葉に、ジークが大丈夫だと言わんばかりに答えた。
ただ、ジークの言葉を聞いたシルビアは小声で「絶対しませんけどね」と呟いた。
「そうじゃねぇよ!
そんなことしたら俺は!死んじまうじゃねぇか!」
男が必死に叫んだ言葉に、ジークは冷たい声で返した。
「殺すためにするんだから、当たり前だろ」
ジークの言葉に、男の表情が凍りついた。
「お前は、今までそうやって命乞いしてきた人達を何人殺してきたんだ?
そんな張本人が、救われると思ってるのか?」
そしてジークは、男に言い放った。
「命乞いってのはな、生きている価値のある人間がするから命乞いなんだ。
お前がやってるのは、ただの喚きだ」
ジークは男の下半身に向かって剣を振り下ろした。
「やめろーーー!!!」
男の絶叫が聞こえる。
そして、男の下半身は切り落とされ・・・なかった。
ジークの剣は、男の足のほんの数ミリ上で止まっていた。
寸止めしたんだ。
男は口を大きく開けたまま、白目を剥いて口から泡を吹いて気絶していた。
それを見たジークは、剣の血を拭き取って鞘に収めた。
「さて・・・、本当にどうやって運ぶか考えなきゃな」
ジークは苦笑いしながら、こちらに歩いてきた。
その後を「そうですね」と言いながら、シルビアもついてきている。
2人の顔は、いつもの表情だった。
「隊長ー!」
俺たちの家の方角から、こちらに向かって叫ぶ声が聞こえた。
声のした方を見ると、こっちに向かって走ってくる鎧を着た兵士が3人見えた。
「おぉ、ちょうど良いところに来たな」
それを見たジークが、笑いながら言った。
鎧の兵士達は、ジークの目の前で止まるとその中の1人がジークに近づいた。
その兵士は綺麗な金髪をしていて、両目が澄んだ水色をしている。
男だけど、童顔で見た目で言えばまだ二十歳いってないのではないかという感じだ。
「隊長、これはいったい?」
金髪の兵士がジークにむかって訪ねた。
「ん?あぁ、こいつら例の逃げ出した盗賊団の連中だ。
うちの娘誘拐したうえに、息子にまで手出したからちょっとお灸を据えた」
ジークが笑いながら言うと、金髪の兵士も笑いながら言った。
「ちょっとお灸を据えたでこれとは、さすがというからしいというか」
「ところで、お前らロープ持ってるよな?
悪いけど、こいつら縛りあげて町の憲兵に引き渡してくれないか?
報酬の金、お前らで分けて良いからさ」
ジークが言うと、金髪の兵士が不思議そうに訪ねた。
「お金は、隊長の分もちゃんと計算して分けますよ。
ところで、何でこんなところでご家族勢揃いなんですか?
・・・て、何でカリアとロミアまでいるんだ!?」
金髪の兵士が、カリアとロミアを見て驚いた。
「色々あってね。
まっ、別に怪我とかないから気にしないでー」
「パパは、どうしてきたの?」
笑いながら軽く言うカリアと、不思議そうに言うロミア。
・・・ん?パパ?
「見回りしてたら、何かこっちから悲鳴みたいな叫び声が聞こえたから来てみたんだよ。
で、着いたらこの状態」
金髪の兵士は、笑いながら返した。
そして金髪の兵士が他の2人に、「悪いけど、そこの男達縛っといてくれる?」と指示をすると、2人の兵士は「はい!」と返事をして腰につけていたロープで周りでのびている男達を縛り始めた。
「師匠、すみませんがちょっとロミアの横にいってもらって良いですか?」
「うん、良いよ」
俺はクレアに頼んで、ロミアの横に行ってもらいロミアにそっと訪ねた。
「なぁロミア、そこの人ってお父さんなのか?」
俺は、カリアと話している金髪の兵士をチラッと見た。
「うん、そうだよ」
ロミアは頷いて答えた。
「ちなみに、名前は?」
「えっとね、レオナルド・サダージュだよ」
俺が聞くと、ロミアは少し考えた後答えてくれた。
レオナルド・・・そういえば前にシルビアが夕食の時に名前出してたな。
そうか、ロミアの父親だったのか。
「って、挨拶したいけどさすがに初対面の人にこの格好で挨拶はないよな」
「また日を改めてでいいんじゃない?
男の子がこの格好で挨拶は、格好つかないと思うよ?」
俺が苦笑いしながら言うと、クレアが笑いながら言った。
「副隊長!全員縛り上げました!」
レオナルドに、先ほどの兵士2人が背後から報告してきた。
「うん、ありがとう」
見ると、のびていた男達はロープで体を巻かれそこからまたロープで巻かれ1つの大きな塊になっていた。
その中心部分にはボスの男がいる。
「じゃあ隊長!
俺たちはあいつら引き渡しに行くのでこれで!」
レオナルドがジークにむかって言った。
「頼んだ!
あ、そうだレオ!」
ジークは何か思い出したように言った。
「何ですか?」
「そいつら引き渡したらでいいから、壁調べてみてくれ!
多分、どっかに穴空いてるはずだから明日シルビアと一緒に塞ぎ行く!」
「分かりました!
とりあえず、空いてたら俺たちで応急処置はしておきます!」
そう言うと、レオナルドは他の2人と一緒にロープで縛って丸くした男達を引きずっていった。
・・・何かものすごい早さだったけど、あの体のどこにそんな力があるんだ?
3人とも、がっちりしてる感じではなかったけど。
「よーし、じゃあみんな帰るぞー。
カリアとロミアも、今日は家で飯食ってくか?
帰ってから作るの面倒だろ?」
ジークが聞くと、カリアとロミアとクレアが笑顔で言った。
「ほんと!?やったね!
あ、そうだ!私久しぶりにシルビアの料理食べたいな!
どう?ロミア?」
「食べてみたい」
「僕も食べてみたいな、シルビアさんの料理」
その言葉を聞いたシルビアは、嬉しそうに笑った。
「じゃあ、今夜は私が作ろうかしら。
フィーネも今日は疲れただろうから、今夜くらいは休みなさい」
「そ、そんな!
今夜も私が作ります!」
シルビアの言葉に慌てて返したフィーネに、カリアがやれやれといった感じで言った。
「フィーネ、言ったろ?
たまには、ワガママ言って良いんだよ」
かリアの言葉にフィーネは、思い出したかのように少し固まるとすぐに笑顔になった。
「では、お願いします」
その言葉を聞いて、皆が笑顔になった。
「よーし、じゃあ家に帰るぞー」
『はーい』
ジークを先頭に、皆が後を追うように歩き出した。
・・・ジーク、うまく誘導したな。
今日の誕生日会、夕食はフィーネ以外で作る予定だった。
それをスムーズに事を運ぶためにわざとあの言い方をして、夕食をフィーネ以外が作る流れとロミアとカリアがいても不自然じゃない流れの2つを作ったんだ。
・・・まぁ、それを察してかどうか分からないけど同意した女性陣達も大したものだけど。
女の勘の鋭さは異常っていうけど、本当だな。
「師匠、もう体のほうは大丈夫なので降ろしてもらっていいですか?」
俺は、クレアの耳元で呟いた。
「えー、僕としてはこのまま家までおぶっていきたいんだけどなぁ」
「僕が恥ずかしいんです」
俺が言うとクレアは「しょうがないなぁ」と言いながら、しゃがんで降ろしてくれた。
「ありがとうございます」
俺はクレアに一礼して、先頭のジークの元に向かった。
「父さん!」
俺が後ろから呼ぶと、ジークは歩きながらこちらを向いた。
俺は、そのままジークの横を歩いた。
「1つ、聞きたいことがあって、その・・・」
うーん、こういうとき何て言えばいいんだ?
言葉が見つからない。
「・・・何であのとき、あいつを殺さなかったのか、か?」
ジークが、呟くように言った。
「・・・はい、正直あの時の父さんならあのまま剣を振り下ろしきると思いました」
俺が言うと、ジークが苦笑いした。
「・・・俺は最初、フィーネが誘拐されてお前が追いかけていったってロミアから聞いたときに2人共無事でいてくれとしか思ってなかったんだよ。
正直盗賊団の奴らの生死なんてどうでも良かった」
そう言ったジークだが、次の言葉から段々と怒りが混じり始めた気がした。
「だけど、フィーネを誘拐したあげくに動けないお前を後ろから狙おうとしたあいつにだけは殺意が湧いたんだ。
あのときだけは、本当に殺してやろうって思った。
元々、あいつらのこれまでやってきたことも聞いてたしな」
ジークは「でも」と続けて、苦笑いしながら俯いた。
「昔、聞いた話を思い出してな」
「どんな話ですか?」
俺が聞くと、ジークは前を向いて言った。
「人間てのは、死ぬ時にそのストレスを和らげるために気持ちよくなるものを脳が出すんだってさ。
だから、死ぬときは案外苦しくないケースがあるらしいって」
そしてジークは、俺を見ながら笑って言った。
「それを思い出したらさ、ここでこいつを殺すのは違うって思ったんだ。
俺は最初にその話を聞いたときに、その死ぬ時に出る気持ちいいやつってのは、人の役にたった人や罪のない人達が死んだときの神様からの最後のお詫びなんじゃないかって思ったんだよ。
で、その考えでいくとあんな罪だらけの人間にそれがあるのはおかしいと思うんだ」
ジークの言っている事は、俺ももっともだと思う。
俺も、その知識自体は実は前の世界で調べものをしているときに偶然だけど知った。
でも、そんな風に考えたことはなかった。
「だから、あいつにはこの先の人生で罪を償ってからそのお詫びを貰わせるって考えたんだよ。
それが、俺があいつを殺さなかった理由だ」
この人は父親として、人間として素晴らしい人だと思う。
ちゃんと自分の考えを持ち、それを実行する。
人間、これが結構難しい。
だからこそ、それを実行できる人間の凄さが分かる。
俺はその場で立ち止まった。
そして、ジークの背中を見た。
あれは、俺が父親として目指すべき背中なんだと思う。
家族を想い、自分の信念を持った、立派な父親の背中だ。
俺は、また歩き出した。
まるで、その背中に追い付くためのように。




