第26話 誕生日“2nd“
・・・どうやら、追っかけて正解だったみたいだ。
俺は、倉庫の扉の隙間から中を覗いた。
フィーネの匂いを辿ったら、この中からしてきている。
さてと、フィーネはどこにいるんだ?
「・・・はぁ、で?
何で食料持って来いって言われて、女持ってきてんだ!」
「す、すんません!」
中を見ると、そこには15、6にんくらいの男たちがいた。
そして、その中の一人を怒っているあの大柄な男・・・明らかにこの中でのボスだろうな。
ジークの言ってた盗賊団、どうやらこいつらみたいだな。
で、肝心のフィーネはどこだ?
俺は、倉庫の中を見渡した。
・・・いた、出口に近い四隅の左の所。
ぐったりしているけど、見た感じケガはしてなさそうだ。
右腕の服の袖が千切れている。
やっぱり、あの布切れはフィーネの服の一部だったか。
腕と足は縄で縛られているみたいだな。
さて、どうするか。
あの相手の人数だと、正直勝てるかはわからないな。
増援が来るまで待機しているか?
「まぁ、いい。
どうせもう少ししたら、この村も移動するんだ。
そこの女は次の町に着いた時、奴隷商に売って金にするか。
幸い、見た目は良いしな」
・・・あのボスらしき奴の言葉で決まったな。
増援を待っている余裕なし、俺一人で助け出さなきゃいけないな。
さて、問題はどうやって助け出すかだが。
・・・やってみるか。
家でいつものように掃除をしていたら、突然知らない人たちが入ってきた。
気づいたら、拘束されて連れてこられていた。
私は、倉庫の天井を見た。
あのときと、よく似ている。
いえ、あの時とは違いますね。
今回は、誰も助けに来てはくれない。
ただ、その方が良いのかもしれませんね。
もう、あんな光景は見たくありませんから。
・・・それにしても、誕生日に誘拐されるなんて本当についてないですね。
ガルファット様やロミアちゃんはもちろんのことですが、ジーク様やシルビア様も忘れられているかもしれませんね。
いえ、贅沢は言えませんね。
私はファーリン家に仕えることができた時点で、とてつもない幸せ者なんですから。
それに今年はガルファット様の誕生日がありますし、みなさんきっとそちらに意識がいっているのでしょう。
あの方は、きっと皆さんの期待に答えるようなすごい方になるでしょう。
ジーク様とシルビア様という良いご両親に恵まれ、クレアさんという良い師匠に恵まれ、ロミアちゃんいうとても良い異性に恵まれた。
そして何より、あの方はとても賢くとてもお優しい人です。
短い間ではありましたけど、あの方と一緒に過ごせた事を私は誇りに思います。
・・・ただ、1つ心残りがあるとしたらガルファット様ともっと一緒に読書をしたかった。
あの方と一緒に読書をしているあの時間が、私にとっては一番楽しい時間でしたから。
・・・あれ?何で?
私は自分の目から、流れる物があるのを感じた。
私は、俯いて下を見た。
自分の目から流れたものが、床に落ちるのが分かった。
何で私、涙なんて流してるの?
もうあの時、死を覚悟したはずなのに。
もう、充分だと思っていたのに。
何で私は、ガルファット様の顔を思い浮かべながら涙を流してるの?
・・・そっか、まだ心残りがあったんだ。
神様、もしわがままを言って良いのなら。
お願いします、これからもファーリン家に仕えさせてください。
ガルファット様と、これからも一緒に読書をさせてください。
他にもう、なにもいりませんから・・・。
「ワォォォォン!」
倉庫の外から、動物の叫ぶ声が聞こえた。
「何だ?うるせえな。
おい、追っ払ってこい」
『はい!』
ボスの男に言われて、手下の男二人が外に向かった。
・・・男二人が外に行って少し経つけど、戻ってこない。
「まったく何やってんだ。
おい、様子を見てこい」
「はい」
ボスの男に言われて、また一人男が外へ行った。
「ぐぁぁ!」
先ほど外に出た男が、入り口から中に吹っ飛んできた。
「誰だっ!?」
中にいた男の一人が入り口に向かって叫ぶと、小さい影が中に入ってきた。
・・・何であなたが、こんなところにいるんですか?
「うちの家族を返してもらいに来ました」
ガルファット様・・・。
何とか成功したな。
俺は、倉庫の中でボスであろう男を見た。
犬の鳴きマネをして、数人の人を外におびき寄せる。
そして、出てきたところを一人ずつ倒す。
思った通り、一人ずつの力は大したことない。
一対一なら、大丈夫だ。
ただ、本当ならもう少し数を減らしておきたかったんだけど仕方ないか。
「ガルファット様、なんでここに・・・」
フィーネが、泣きながら言ってきた。
「あなたの涙の落ちる音が聞こえました。
僕があなたを助けに行く理由なんてそれだけで充分です。
その音が聞こえたら、僕は例え地の果てでも助けに行きますよ」
俺が言うと、ボスの男が笑いながら言った。
「おいおいボウズ、女の前でかっこつけるのは良いがこの人数相手にどうしようって言うんだ?」
「うーん、できることならこのままこの人をを連れて無事に帰らせて欲しいところなんですけどね」
俺が苦笑いしながら言うと、ボスの男は真顔になり言った。
「おいお前ら、このボウズに大人の厳しさを教えてやれ」
ボスの男に言われ、周りの男たちが俺に近づいてきた。
そして、男の一人が俺を捕まえようとして左腕を伸ばしてきた。
俺は、その腕を掻い潜って男の顔面に右ストレートを放った。
この犬の状態だと走るのが早いのはもちろん、腕も脚と同じような筋力やバネがついて腕力が通常時の何十倍もの。
男の体が後ろに吹っ飛んでいく。
そしてボスの男がその男の頭を片手で掴んで、投げ捨てた。
「なるほどボウズお前、神選者か。
それなら、一人で来たのもわかる。
どいてろ、お前らじゃ束になっても勝てねぇよ」
そう言うと、ボスの男は俺に近づいてきた。
「おいボウズ、お前に1ついいことを教えてやろう」
「何ですか?」
「この世の中にはな、絶対に超えられない力の差っていうのがあるんだ。
それを今から、お前の体に教えてやる」
そう言うとボスの男は、脚を肩幅に広げて踏ん張ってその場に腰を落とした。
何かやる気だろうけど、それならこっちは先手必勝で終わらせる。
俺は、その場で腰を落として両足に力を入れた。
そして、ジャンプするように前に向かって跳んだ。
右拳を突き出して、そのままボスの男の腹にめり込ませた。
完璧に入った!これなら、一発でKOだ。
俺は確かな感触を感じた。
だが、それと同時に違和感も感じた。
・・・何でだ?何でふっ飛ばない?
他の男たちより大柄といっても、大差はないはずだ。
なのに、この男はその場から微動だにしない。
「ふっ、思った通り所詮はガキの力だな」
そう言うと、男は俺の頭を片手で掴んで持ち上げた。
俺は、その手を引き剥がそうと掴んでもがくがビクともしない。
何だこいつ、明らかに普通の人間じゃないぞ。
俺は、ふと男の足元に目がいった。
木でできた床の部分に穴が開き、男の両足がめり込んでいる。
何て言う馬鹿力だ。
なるほど、そりゃたしかに自分から出てくるわけだ。
・・・何で俺は、こんな状況で冷静に分析してるんだ?
考えろよ、どうやって勝つかを!
「ウオラッ」
ボスの男は、持ち上げた俺をそのまま壁に向かって投げ捨てた。
「ガルファット様!」
「ウッ・・・」
俺は、壁に叩きつけられその場に落ちた。
日頃、授業でボコボコにされてて痛みには慣れているはずなんだけどな。
かなり効くな、これは。
俺は、立ち上がろうとして体に力を入れた。
・・・力が入らない。
何でだ!?
いくら効いたとはいえ、こんな力が入らなくなることなんて初めてだぞ!?
直後、俺の体を慣れた痛みが襲ってきた。
全身筋肉痛が、俺の体を自由を奪おうとする。
こんなときに、予想外の事ばっかりで本当についてないな。
まだ時間も残ってるし、能力の解除を頭の中で唱えた覚えもない。
分からないが、ただ確かに俺の能力は解けた。
俺は立ち上がろうと体に力を入れるが、体を持ち上げることすらできない。
目の前にはフィーネの体があり、その奥からさっきの男がこっちに迫ってきている。
「もうやめてください!」
男に向かってフィーネが叫んだ。
「私なら黙って従います!
ですから、もうこの人を傷つけるのはやめてください!」
フィーネの言葉に、男の足が止まった。
「ほう。
ならあのガキを痛めつけるのをやめれば、あんたが何でも言うことを聞いてくれるっていうのか?」
「・・・はい」
薄汚い笑みを浮かべる男に、フィーネは目をそらして悲しそうに言った。
「ひっひっひっ、こりゃ良い条件だ。
本当は、キレイなままで値を上げて奴隷商に売るつもりだったが。
おいお前ら、多少なら好きにして良いぜ。
だけど、壊すんじゃないぞ?」
その言葉を聞いて、周りの男たちがフィーネに近づいていく。
・・・俺はまた、守られるだけなのか?
俺はまた、目の前で大切な人を失うのか?
フィーネの背中が、あの二人と重なる。
それだけは・・・絶対にできないんだよ!!
俺は腕に、足に、力を入れて何とか立ち上がろうとする。
震えていようが、体中が痛かろうが関係ない。
俺はやっとのことで立ちあがり、ふらつきながらもフィーネの前に立った。
「悪いけど、この人には指一本触れさせませんよ」
「ガルファット様、どうして・・・」
後ろから、泣きながら問いかけてくるフィーネの声が聞こえた。
「その女の言うとおりだ。
黙って寝てれば、痛い思いしなくて済むんだぜ?
見たところ、そいつはお前の所のメイドだろ?
いくらでも代わりはいるじゃねぇか」
ボスの男が笑ったまま俺に向かって言ってきた。
俺は、その顔を睨み返しながら言った。
「確かに、メイドならいくらでも代わりはいるかもしれない。
だけど!フィーネ・バンセントに代わりはいないんだよ!
家族に!大切な人に代わりなんていないんだよ!
ここでこの人を見殺しにする選択肢なんて元から俺にはない!
たとえボコボコにされようが、手足を引き千切られようが、この人は守る!」
俺は、下を向いて「それに」と呟き顔をあげ男に向かって叫んだ。
「泣いてる女性を見殺しにしたら!
俺は一生男として生きていけねえ!」
男は、俺の言葉を聞いて笑った。
「フッハッハッハッ!
どうやら、頭の打ち所が悪かったようだな。
・・・さっさと死ね」
男は真顔になり、俺に向かって拳を振り下ろす。
もう俺にはそれをガードする力も、残っていない。
だけど、絶対に目を逸らすな。
最後まで、抗うことを考えろ。
そして、男の拳が俺に当た・・・。
「ふぅ、何とか間に合ったね」
俺の目の前に、男の拳を両腕で受け止める背中があった。
俺はその背中に、見覚えがあった。
その背中は、紛れもなく俺の記憶に刻み込まれている物だ。
その人物は、拳を受け止めたまま俺とフィーネのほうを振り向いた。
『師匠[クレアさん]!』
クレアは、俺とフィーネに微笑むと前を向いた。
「・・・ところでおじさん、大事なお姉さんと弟子に何してくれてるの?」
クレアの声がいつもと違う。
・・・あれは、怒ってる。
「はぁぁぁ・・・はあっ!」
クレアは力を溜めて、男の拳を返すととてつもない速さで男の腹に正拳突きを食らわせた。
さすがにあんなの食らったら、俺なら失神しそうな勢いだ。
だけど、クレアの目の前の男はまともに食らっても笑っている。
「効かねぇな、そんなの」
そんな男の言葉に、クレアは静かに返した。
「へぇ、効かないんだ。
でも一発じゃ効かなくても、何発もやって効かないとは限らないよね?」
そう言うと、クレアの肌が赤黒くなっていく。
あれは、硬質化をしたときの色だ。
そして、クレアの両拳が固く握られたかと思うと、男の体に目にも止まらない速さでパンチが繰り出されていく。
しかも、すべてが体の急所の部分に。
みぞおち、レバー、こめかみ、顎、心臓。
男の大きな体が、段々と宙に浮き始めた。
そして止めの一撃に、クレアは落ちてきた男の股間をすねで思いっきり蹴飛ばした。
男性ならわかると思うが、寒気どころか冷や汗ものだ。
男の体が後ろに数メートル吹っ飛んだ。
改めて、自分の師匠の強さを思い知った。
「他にこうなりたい人は?」
クレアが周りの男たちに問いかける。
「ひぃぃぃ!!」
男たちは悲鳴をあげて、倉庫の外へ逃げ出した。
「師匠、あの人たち追わなくていいんですか?」
俺が聞くと、クレアは振り返って言った。
「大丈夫だよ。
外には、もっと怖い人たちがいるから」
クレアの笑顔はいつもの笑顔だった。
「ガル!」
倉庫の入口から、ロミアとカリアが入ってきた。
「ガルファット君、フィーネ!
ケガはない?」
カリアが訊ねながら、フィーネの縄を解いてくれている。
俺は一気に体の力が抜けて、ロミアにもたれ掛かる感じになった。
「ガル!?大丈夫!?」
俺を受け止めたロミアが聞いてきた。
「あぁ、ちょっと力が抜けただけだよ」
俺が言うと、ロミアは俺の胸に顔を埋めた。
「よかった。
ガルもフィーネさんも無事で」
ロミアが泣いているのはすぐわかった。
俺はロミアの頭を優しく撫でた。
「心配かけて、すまなかったな」
ロミアは、そのまま首を横に振った。
ここまで心配されてるんじゃ、俺もまだまだだな。
「カリアさん、ありがとうございます」
縄を解いてもらったフィーネが、立ち上がってカリアにお礼を言った。
「お礼なら、私じゃなくてそこの3人と外の2人に言ってあげなよ。
ガルファット君はすぐに探しに行って、ロミアは皆に説明する時も慌てながらだけどちゃんと説明して、クレアなんてものすごい速さで走っていって、ジークとシルビアなんて、”うちの大事な娘に何しやがったー!“ってぶちギレてたよ」
「・・・え?」
苦笑いしながらいうカリアの言葉に、フィーネは信じられないという顔をしていた。
そんなフィーネの頭を撫でながら、カリアは優しい笑顔で言った。
「あんたはね、気づいていないかもしれないけど皆にとって大切な人間なんだよ。
だから、もっとわがまま言って良いんだよ?
いいじゃないか、あんたのわがままなんてどんなの考えても可愛いものしか思い浮かばないよ」
フィーネの目から、涙が溢れていた。
俺はロミアの背中をポンポンと優しく叩いた。
顔をあげたロミアに、俺は笑顔で優しく頷いた。
ロミアは察してくれたらしく、俺から少し離れた。
俺はフィーネのほうに歩むよろうとした。
だが、一歩目を踏み出した瞬間に力が入らずそのまま崩れ落ちそうになった。
・・・俺の体を、何かが支えてくれた。
「背中、貸すよ?」
クレアが俺を背中で受け止めてくれた。
「ありがとうございます」
「頑張ったんでしょ?
分かるよ」
「でも、師匠が来なかったらあのまま吹っ飛ばされてたと思います。
僕はまだまだ、弱いんだなって思いましたよ」
俺が言うと、クレアが俺をおぶりながら言った。
「そんなことないよ」
「・・・え?」
「君は最後まで、フィーネさんの前に立って守ろうとしたんだ。
僕には、立派な男の姿に見えたよ」
「・・・ありがとうございます」
そっか、俺はフィーネを守れたんだ。
・・・良かった。
俺は、自分の目から涙が流れたのを感じた。
・・・俺は、自分が大切な人を守ることができたことを実感できた。
「フィーネさん」
俺が呼ぶと、フィーネがこちらを向いた。
「行きましょう、大切な家族に会いに」
「・・・はい!」
フィーネの顔は、泣きながらもとても可愛いい笑顔だった。




