第25話 誕生日”1st“
クレアと一緒に寝たあの日から時間が経ち、ついにフィーネの誕生日当日を迎えた。
誕生日プレゼントも何とか用意することができたが、喜んでもらえるかが俺の腕次第だから結構不安なんだよな。
そういえば、クレアは洋服をプレゼントするって言ってたな。
今思うとフィーネってメイド服のイメージで、他の服着てるところ見たことないかもな。
俺は奴隷やメイドの制度はそこまで詳しくは知らないし、この世界がどうなのかは知らないけど、たまには普通の服を着てるところも見てみたいと思う。
ジークとシルビアに聞いたら、仕えている間はメイドはメイド服の着用が基本らしい。
だけど、あの二人はそんなこと気にしていないし、むしろ俺と同じで他の服を着ているところを見てみたいと言っていたからなぁ。
クレアがどんな服をプレゼントするか楽しみだな。
それはそうと、あの日以来クレアが明るくなった気がする。
元々明るいほうだったけど、授業の時もイキイキしているし、他の人と接している頻度が増えた気がする。
・・・タイプの難易度をもう少し下げれば、彼氏なんてあっという間にできるんだろうなぁ。
クレアより強い人って時点で、どれだけの人が第一関門で弾かれることか。
まぁ、できなくて泣いてたら慰めてあげるか。
さて、そんな事を考えながら今何をしているかと言うと・・・
「ガルファット様、いつものをお願いします」
「はーい」
昼食を食べた後、庭で洗濯物を干しているフィーネに頼まれ、俺は風属性の魔法を洗濯物に行った。
誕生日当日でも、いつもと変わらず家事の手伝いをしている。
風属性の魔法をやり慣れた方法で調整して、乾きが早くて飛ばされない程度の風を吹かす。
「ガルファット様、もう大丈夫です」
少しするとフィーネに言われたので、俺は風を吹かすのを止めた。
俺が魔法をやめたのを確認して、フィーネが洗濯物を取り込み始めたので俺も手伝った。
「いつものことですが、ありがとうございます」
洗濯物をすべて取り込み終わると、フィーネが一礼して俺にお礼を言ってきた。
「いえいえ、大したことじゃないですから」
「そういえばガルファット様、さきほどシルビア様が探してらっしゃいましたよ」
「母さんがですか?何だろう・・・」
「私も詳しいことは聞いていませんが、たしかお使いを頼みたいとおっしゃられていましたよ」
俺が不思議に思っていると、フィーネが笑顔で教えてくれた。
「お使い、ですか。
まぁ、聞いてくるのが手っ取り早いですね」
「それがよろしいかと思います」
俺はフィーネに笑顔で頷いて、シルビアのところに向かった。
俺は、シルビアの部屋のドアをノックした。
すると、中から「どうぞ」とシルビアの声が聞こえた。
「失礼します」
そう言って、俺はドアを開けた。
すると、中には椅子に座っているシルビアとその目の前に立っているロミアがいた。
「あ!ガル!」
「あら、ガル。
ちょうど良いところに来てくれたわね」
「それはお使いのことで、ですか?」
俺は部屋の扉を閉めて言った。
俺の言葉を聞いて、シルビアが不思議そうに訊ねてきた。
「あれ?私ガルに言ったことあったかしら?」
「いえ、洗濯の手伝いしているときにフィーネさんから聞きました」
「なるほど、そういうことね。
実はね、ガルとロミアちゃんにお花を摘んできて欲しいの」
「花、ですか?」
俺が聞くと、シルビアが笑顔のまま頷いた。
「前にロミアちゃんと一緒に行ったことのある場所だから、詳しい事はロミアちゃんに教えてもらってちょうだい。
私はクレアと一緒に、これからカリアの所に行ってくるから」
「分かりました。
じゃあロミア、道案内は頼むよ」
「うん!」
俺が言うと、ロミアは笑顔で頷いた。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
俺が言うと、シルビアは俺とロミアを笑って見送った。
それを見て、俺とロミアは部屋を後にした。
「それでロミア、その花ってどこにあるんだ?」
俺は外を歩きながら、横にいるロミアに聞いた。
「前にガルと行った神様のいるところの近くだよ。
白くてキレイな花がいっぱい咲いてるんだ」
ロミアは、笑顔で嬉しそうに答えた。
「へぇ、ちょっと楽しみだな」
「そういえばガル。
プレゼントはできたの?」
ロミアが思い出したように聞いてきた。
「うん、結構ギリギリだったけど昨日の夜準備できたよ」
「そっか、よかった」
俺が答えると、ロミアは嬉しそうに返した。
そういえば、シルビアの部屋で会ったときからそうだけどロミアが俺を見て何かそわそわしているんだよな。
落ち着きがないっていうか。
・・・そうか、考えてみれば最後に抱きしめた日から1ヶ月近く経つのか。
よく我慢したな、ロミア。
「ロミア、少しじっとしててもらって良いか?」
俺は、歩く足を止めてロミアに言った。
「ん?うん」
俺に言われ、ロミアはその場に立ち止まった。
俺はロミアの後ろに立ち左腕を腰の少し上へ、右腕を膝の下へ回してロミアを持ち上げた。
「えっ!?ガル!?」
「ロミア、両手を俺の首の後ろに回して」
俺に言われ、ロミアは戸惑いながらも俺の首を囲うように両手を俺の首の後ろに回した。
「1ヶ月近くも我慢したんだ。
これくらいご褒美としてあげても、罰は当たらないよ」
俺は戸惑うロミアの顔を見て、笑顔で言った。
「ガル、ありがと」
ロミアは嬉しそうな笑顔で言うと、俺の頬にチュッとキスをした。
ご褒美のせいで、我慢の枷が外れたかな。
「えへへ」
「いいのか?俺までご褒美もらっちゃって」
照れるロミアに、俺は少し笑いながら言った。
「うん!ガルもプレゼント作るの頑張ったもん!」
「・・・ありがとな。
さてと、時間くっちゃったし少し急ぐか。
今、家にフィーネさん一人だし。
誕生日だってのに可哀想だからな」
俺が言うと、ロミアは顔を俺の頬にくっつけた。
「このまま走るぞ!
とりあえずは、紅のいる建物まで!」
「うん!」
俺は、ロミアをお姫様だっこしたまま走った。
ロミアも最近は運動しているおかげで体力もついてきたけど、今のロミアなら俺がお姫様だっこした状態で走ったほうが早いからな。
ていうか、まさか女の子お姫様だっこしながら走る日が来るとは思わなかったな。
前の世界じゃ、30過ぎの男が幼女抱えて走ってたらお巡りさんこいつです状態だったろうなぁ。
・・・まぁ、俺もご褒美もらえたし細かいことはいっか。
そんな事を考えながら走っていると、あっという間に紅のいる建物の前まで来た。
「思ったよりは早く来れたな」
俺は右膝をついて、左の太ももの上にロミアのお尻を乗せた。
ロミアは地面に足をついて、スッと立った。
「ありがとう、ガル」
ロミアは俺から少し離れると、お礼を言った。
「いいんだよ。
それより、花ってどこにあるんだ?」
「えっとね、こっち」
俺が聞くと、ロミアは建物の横を歩いて後ろへ回った。
俺も、そのあとについていった。
「これだよ」
建物の裏側、森と建物の間の所に白い花が咲いていた。
咲いている範囲もそこそこ広い。
「キレイな花でしょ?」
まじまじ見ている俺に、ロミアが笑顔で言った。
「確かにキレイだな。
何だろう、可愛らしいっていうのかな」
その白い花は、つつじに似ていた。
でも、似ているだけでどこか違う花だ。
「ガル、摘んでいこう!」
ロミアが俺に言うと、しゃがんで花を摘み始めた。
俺もそれを見て、ロミアの横にしゃがんで花を摘んだ。
「ふぅ、これくらいでいいか」
俺とロミアは、両手いっぱいに摘んだ花を持っていた。
「うん!」
「ていうか、この花どうするんだろうな」
「今日の夜、飾るって言ってたよ。
フィーネさんの誕生日をお祝いするときにテーブルに置くんだって」
俺が言うと、ロミアが答えた。
「へぇ、確かにこれだけでもいつもと違う感じしそうだな」
その言葉を最後に、俺とロミアはそこを後にした。
紅の顔を見ていくのも少し考えたけど、また日を改める事にした。
・・・失敗したから恨みに来た、なんて展開にならなきゃいいけど。
はぁ、今から胃が痛くなりそうだ。
前の世界じゃ叩かれる事もあったけど、応援のコメント見るだけで頑張ることができた。
だけど今回は、この世界で初めて書いた小説を、身近なしかもかなりの読書家の人に初めて読んでもらうんだ。
その人の評価がすべてではないけど、ただかなり的を射た評価になると思う。
この世界での今の俺の実力が分かることになる。
仮に俺を気遣って感想言われても、何となく分かるしな。
どちらかといえば、素直な感想を聞きたいなぁ。
と、そんな事を考えていたらいつの間に家の近くまで来ていた。
・・・何だ?この違和感。
見た感じはいつもの家だけど、何か違う。
俺は、後ろをついてきていたロミアを腕を伸ばして前に行くのを制した。
「どうしたの?ガル」
俺に聞くロミアに、俺は前を向いたまま言った。
「ロミア、ここから先は俺の後ろを離れるなよ。
そして、もし不審な人を見つけたら魔法を撃っていい」
「う、うん。分かった」
俺は、静かに家に近づいた。
すると、違和感の正体に気づいた。
まず、家の扉が開けっ放しになっている。
フィーネさんは几帳面だし、うちの家族や知り合いでドアを開けっ放しにする人はいない。
そして・・・しないんだ。
家の中から、人がいるという気配が。
まるで空き家みたいな雰囲気だ。
俺は、静かに扉に近づいて中を見た。
特に変わったところはない感じがするが、シーンとしている。
「フィーネさん、ただいまー」
いつもなら、出迎えの声が聞こえてくるけど声が返ってこない。
フィーネさん、出掛けてるのか?
でも、だとしたらドアが開けっ放しになっているのは尚更おかしい。
俺とロミアとシルビアクレアは昼過ぎに出掛けたし、ジークも今日は午後に帰ってきたけど仕事場に用事があるの忘れてたからって夜には帰るって言って出掛けたし。
・・・嫌な予感がするな。
俺は、まず家の1階から確認した。
特にどの部屋も変わったところはないと思う・・・いや、そうでもなかった。
いつもみんなでご飯を食べる場所の椅子やテーブルがめちゃくちゃになっている。
明らかに何かが暴れたような光景だ。
泥棒か?でも、こんな荒らし方するか?
「ガル、これ」
俺が考えていると、ロミアが後ろから話しかけてきた。
俺が振り向くと、そこには切れた白い布を見ているロミアがいた。
「ロミア、俺の花持っといてくれ」
俺はそう言ってロミアに花を渡した。
そして、布切れのそばにしゃがみこんで見た。
・・・多分、フィーネの物だな。
フィーネの服の袖によく似ている。
だけど、切り口がビリビリだ。
これは、何かで切ったっていうよりは引き裂いたに近いな。
俺はその布切れをポケットにいれて、立ち上がった。
「ロミア、花を台の上に置いて俺に付いてきてくれるか?
多分いないと思うけど、まだ家の中に誰かいないか探す」
「う、うん、分かった」
その後、俺とロミアは家の1階と2階すべての部屋を確認したが他に人はいなかった。
そして、またさきほどの場所に戻ってきていた。
さて、ここからどうするか。
多分、というか状況的に考えてフィーネは誘拐されたって考えるのが妥当だな。
前にジークが盗賊団が逃亡したって言ってたし、そいつらが関わっている可能性があるな。
このあと取る行動なら、まずは行き違いにならないように皆がここに来たら事情を説明するか?
いや、それだと仮にフィーネが捕らえられているならあとを追えなくなってしまう可能性が高い。
なら、ロミアにここに残ってもらって俺だけでフィーネを探しに行くか?
探す方法が無いわけでもないし、俺で助け出せるならそれにこしたことはない。
ただ、相手の規模が分からないから無茶はできないけど、じっと待っていて手遅れになるよりはましだな。
「ロミア、今から俺が言うことを守ってくれ。
約束できるか?」
俺が後ろにいるロミアに振り向いて言うと、ロミアは頷いた。
「まず、お前はここに残ってみんなが来たら事情を説明してくれ。
もし不審な人が来たら、魔法を使って構わない。
ただし、威力は加減してくれよ?
まぁ、何かあったら俺も一緒に謝るよ」
「分かった。
ガルは、どうするの?」
「俺は、フィーネさんを探しにいってくる。
俺一人で助け出せるならそれにこしたことはないしな」
俺が言うと、ロミアは俯いて返事をした。
「うん・・・分かった」
俺は、そんなロミアの頭を撫でた。
「大丈夫だよ、もし危なくなったらフィーネさん連れてとっとと帰ってくるからさ。
・・・さて、じゃあ行くか」
俺は、玄関に向かった。
その俺の後ろをロミアがついてきた。
「さてと、やるか」
玄関から外に出た俺は、想像強化を始めた。
想像するのは、犬だ。
ピンッと立った耳、整った毛並み、鋭い牙、凄まじい脚力を持つ脚、とてつもなく鋭い嗅覚を持つ鼻、太めの尻尾、その他諸々犬に関連しそうなのは、思い付くかぎりあげた。
すると、俺の体を温かいものが覆った。
心地良い気持ちよさだ。
俺は目を閉じて、少しして開けた。
そして、両手で頭の上を確認する。
三角形の耳が、頬の後ろではなくそこにちゃんと生えていた。
どうやら、成功したようだ。
俺は、さっき拾った布切れをポケットから取り出した。
それを鼻に近づけ、匂いを嗅いだ。
・・・これがフィーネの匂いだ。
これを覚えるんだ。
俺は、布切れをポケットにしまい地面の匂いを立って空気の匂いを嗅いだ。
・・・微かにだが、フィーネの匂いがする。
方角からして、俺がランニングで通る倉庫の方角だ。
「ロミア、二つお願いがある。
1つは、皆が来たら俺は倉庫の方角に向かったって言ってくれ」
俺はロミアの方を振り返って言った。
「分かったよ、もう一つは?」
「摘んだ花、花瓶にいけといてくれ。
帰ってきて、萎れてたら嫌だからさ」
俺が笑いながら言うと、ロミアが笑顔で返した。
「・・・うん!わかった!
ガル、気を付けていってきて」
「あぁ、行ってくる」
俺は、ロミアに背を向けて走り出した。
フィーネがまだ無事であることを祈って。




