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第24話 心の傷ほど残りやすい

フィーネの誕生日まで残り3日となった日の午後、俺は自室でプレゼント製作の真っ最中だ。


紅に勧められたあの日から、頭の中ではプレゼントの内容について色々考えていた。


あの日の翌日、俺とロミアとシルビアの3人で町に行った時も、初めて見るちゃんとした町の光景だったというのに、頭の中はプレゼントの事でいっぱいであんまり詳しいことは覚えていない。


ただ、ロミアとシルビアはちゃんと自分の渡すプレゼントは買えたらしい。


まぁそういう俺も必要な物は買えたけど、俺の場合は問題はその先からだ。


その日の帰り道で、ロミアにしばらくあまり遊べなくなると言った。


期限まで時間がないから、個人的には使える時間はすべて使って作業に没頭したかったからだ。


ロミアも察してくれたらしく、しばらく出来なくなるかもしれないからと言われて、ロミアの家の前で別れる時に思いっきり抱きしめられた。


いつもだったらすぐに俺も止めるように言うのだけど、その日は特別だと思って思いっきり抱きしめ返した。


頭を優しく撫でてあげると、離れる時にとても嬉しそうな笑顔を俺に向けていた。


それは、とても可愛らしい笑顔だった。


家に帰る途中、シルビアに少しからかわれたけどその日は俺も笑顔で返した。


可愛い子に抱きしめられたら、抱きしめ返すのが礼儀だと思うから。


そして、その日の夜から俺は睡眠を少しずつ削って作業をしてきた。


子どもの体で寝不足が続くのは良くないと思ったので、支障が出ない程度にはしたけど。


ただ怪しまれるといけないから、授業は前までと同じペースで行った。


ちなみに、週に一回はフィーネと一緒に読書をするようにした。


そんな感じで頑張ってきたが、何とか誕生日当日には間に合いそうだ。


そういえば、買い物に出かけた日にシルビアに質問したことがあった。


この世界での、誕生日と年齢についてだ。


どうやらこの世界では、毎年誕生日を祝うという習慣はないらしい。


5の倍数の歳の時にはお祝いをしてあげるとのことだ。


ただ祝い方も、今回みたいにサプライズで身内と限られた知人だけでやるところ、貴族みたいに色々な人を呼んで盛大にやるところ、おめでとうだけを言って済ませるところとさまざまだ。


そして、この世界の成人は人間も魔族も15歳でその後の誕生日を祝うかも個々で違うらしい。


個人的には、毎年行っていた世界の出身だから違和感があるけどまぁそこは世界それぞれか。


そんな感じで、午後はあっという間に過ぎていった。








「変更、ですか?」


その日の夕食の時、ジークの言った言葉に俺は返した。


「あぁ、昨日町で捕まった盗賊団が脱走したっていう情報が入ってな。

こっちに来ることは多分ないだろうけど、念のため捕まるまではみんなで泊まりの勤務を増やそうって事になったんだ。

それで、急遽だったもので明日は俺が泊まりをやることになった」


ジークが説明すると、シルビアが何かを察したように言った。


「ということは、レオナルドさんも・・・」


「俺が明け番で帰った次の日に泊まりだな。

今日は、ほとんどあいつの愚痴を聞いてたよ」


ジークが苦笑いしながら言った。


どうやら同じ職場の人らしい。


「ということだけど特に大きく変わることもないから大丈夫だ。

ただ、みんな外出するときは少し気をつけてくれ。

まぁ、シルビアとガルとクレアは大丈夫だろうけどな。

フィーネは、もし少し遠くに行くことがあったら俺でもガルでもシルビアでもクレアでも、声をかけてくれ。

護衛代わりになるからさ」


ジークが言うと、フィーネが笑顔で「ありがとうございます」と言った。


まぁ、ロミアも魔法を使えるからいざとなったら自己防衛は大丈夫だろう。


誕生日はうちでやることになっているから、いざとなったらカリアの迎えに行くか。


ロミアがいるとは言え、自己防衛と誰かを庇うのは色々違ってくるしな。


その日の夕食も、いつもと同じく穏やかに終了した。


その晩、自室でリラックスしていると部屋のドアがノックされた。


「どうぞ」


俺が言うと、クレアが静かにドアを開けて入ってきた。


「お邪魔するね」


「どうしたんですか?」


俺が訪ねると、クレアは少し苦笑いしながら言った。


「ちょっとね、ご飯の時にジークさんが言ってたことで少し気になった事があったから」


「気になったこと、ですか?」


俺が訪ねると、クレアは真剣な顔で言った。


「ガルファット君は、考えたことあるかな?

僕たちの体が、凶器になるっていうことを」


「・・・いえ、考えた事ありませんでした」


「パンチで相手の骨を内蔵に刺して殺すこともできる、キックで骨を砕いて殺すこともできる、投げて相手の頭を陥没させることも、関節技や絞め技で相手を殺すこともできる。

言ってみれば、僕たちは全身凶器なんだ」


確かに、言われてみればそうだ。


俺が身に付けてきた技術は、人を殺すことのできる技術だ。


「もちろん、相手が武術の心得がある人なら使っても構わないよ。

モンコイストじゃ、一年に一回強い人を決める大会なんかもあるしね。

ただ、素人の人にはある条件を満たさない限りは使ってはいけない。

これは、武術を心得る人全員が決めているルールなんだ」


「その条件っていうのは、何ですか?」


「自分の身を守るとき、そして、誰かを助けるとき。

この二つが絶対条件なんだ。

決して、自分からは使っちゃいけない。

もしガルファット君がそれを守れなかった時は、僕が師匠としてこの手で君を殺さなきゃいけなくなっちゃうから。

それだけは、どうしても嫌だからさ」


クレアは苦笑いしながら言った。


「分かりました、約束します」


俺は、真剣な顔でクレアに言った。


すると、クレアは嬉しそうに笑った後少し悲しそうな笑顔で俯いた。


「・・・師匠は、見たことがあるんですか?

武術を使える人で、殺された人を」


失礼かと思った、聞いちゃいけなかったとも思った。


ただ、クレアの顔を見たら聞かずにはいられなかった。


「・・・同い年で、同じ師匠の元で修行していた子がいてね。

僕なんかより全然強くて、誰よりも努力を大切にして、強くなった事を人一倍喜ぶ子だった。

みんなから尊敬されて、目標にされるようなすごい子だったよ。

だけど、どこで道を間違えちゃったのかな・・・」


クレアは、拳を強く握りしめた。


「ある時期から、通り魔の襲撃みたいな事件が多発した事があったんだ。

狙われたのは、武術の使える人ばっかり。

しかも、攻撃はすべて武術だった。

これだけだったら、僕たちもあまり重くは見なかったよ。

襲撃とはいえ、油断しているほうが悪いっていうのが武術の使える人達の常識だからね。

だけど、ある日を境に襲撃される人達の中に武術の使えない人達が混じり始めたんだ。

こうなってきたら、僕たちも黙っている訳にはいかない。

交代で、夜間の見回りをすることになったんだ。

そしてあの日、彼を見た・・・」


俯いたままのクレアの頬から、涙が流れていた。


「強さっていう魔物に取り憑かれた獣のように、気を失っている相手を殴り続けている彼を。

まるで、何もかもが分からず本能のまま動いているようだった。

・・・正直、信じられなかったよ。

そんな彼の姿を見ても、僕の頭の中には一生懸命修行している憧れの彼の姿が再生されていたよ。

それに、いざ彼を止めようと思っても体が動かなかった。

頭で無理やり状況を理解しても、体が理解してはくれなかった。

おかけで、師匠達が助けに来てくれるまでボコボコにされたよ。

今でも覚えているよ、彼のあの時の目は僕を僕と認識していなかった。

ただの暴力をふるう相手としか見ていなかった」


何度も涙を手で拭うクレアの姿は、とても小さく見えた。


「・・・その人はそのあとどうなったんですか?」


「結局捕まった後も隙をみて逃げ出して、あの日以来彼の姿を見た人はいないって話だよ。

・・・今でも、あの日の事を思い出すと自分を情けなく思うよ。

もっと僕が強ければ、彼を止めれていたんじゃないかって・・・」


紅は、苦笑いしながら泣いてくしゃくしゃになった顔を俺に向けた。


「ごめんね、ガルファット君・・・。

さっきはルールを破ったら殺すなんて言っちゃったけど、多分今の僕じゃ君を殺すどころか止める事もできないと思う。

強がりで色々言ったけど、こんな人が師匠じゃ君も嫌だよね・・・」


・・・何いってるんだよ。


師匠とか関係なく、俺は目の前の少女を愛おしく思った。


そして、この子を守れるくらい強くなろうと思った。


俺は、ゆっくりとクレアに近づいた。


「師匠、すみませんが片膝をついてもらって良いですか?」


俺が頼むと、クレアは何も言わず頷いて片膝をついた。


そんなクレアを、俺は優しく抱きしめた。


「ガルファット・・・君?」


「すみません、今の僕の身長じゃこうしてもらわないとできなかったんで」


そして俺は、クレアの頭をそっと撫でた。


「僕は、師匠が僕の事を自分の弟子だって胸を張って言えるくらい強くなりますから。

大切な人達を守れるくらい強くなりますから。

だからお願いします、もし僕が道を間違えそうだったら全力で引き止めてください。

ぶん殴ってでも、投げ飛ばしてでも止めてください。

もうあなたに、そんな顔をさせたくないですから。

僕は、笑っている師匠が大好きですから」


「ガル、ファット、君・・・」


耳もとから、クレアの泣きながら喋る声が聞こえた。


「師匠、笑っていてください。

あなたが安心して、笑って見ていられるような男になりますから」


「ガルファット君・・・」


クレアは俺の名前を呼ぶと、静かに聞いてきた。


「こんな僕の事を、これからも師匠と呼んでくれるの?」


「はい、俺にとってはクレア・ラリオットが師匠ですから」


「こんな僕の事を、好きと言ってくれるの?」


「はい、俺は師匠の笑顔が大好きですから」


「ガルファット君、1つお願いしていい?」


「はい、何でしょうか?」


「僕より強くなって良いから、どんなに強くなっても良いから。

どんなに遠く離れても、どんなに時が経ってもほんの少しで良いの。

覚えていてほしい。

・・・僕の事を、忘れないで」


クレアの振り絞るように言った言葉を聞いて、俺は優しく答えた。


「はい、絶対に忘れません」


「本当に?」


「はい、本当です」


「ありがとう・・・」


クレアは静かに、嬉しそうに呟くと少しして泣きつかれて俺に抱きついたまま眠ってしまった。


クレアの部屋に連れていこうかと思ったけど、途中で起こすのは可愛そうだと思ったのでその日は俺のベットに寝かせた。


俺も寝るときに一緒のベットで寝たが、幸せそうに俺を抱きしめて寝るクレアを抱きしめ返しながら俺も眠りについた。

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