第19話 目標と素直じゃない
「あー、気持ちいい」
俺は、湯船に浸かりながらリラックスした状態でいた。
ここ3日ほどクレアとの授業では、ボコボコにされている。
怪我自体は治癒魔法でどうにでもなるんだけど、だからって痛みがないわけじゃない。
おかげで、こうして湯船に浸かって休まっている時にものすごくおじさんくさい状態になっている。
ちなみに、3日でクレアに近づけたかと言われれば差が広がりすぎて、背中が霞むくらいにしか見えなくなった。
パンチを繰り出せばカウンターで蹴りをくらい、蹴りを繰り出せば足を捕まれて投げられ、投げようとすればその腕を捕まれて関節技をやられた。
まだまともに攻撃を当てられていない。
・・・いや、最初に当ててたな。
当ててたけどさ、あれは俺が思うにわざと首を捻って威力を殺したんだろう。
おかげで、最初に当てた嬉しいパンチだったはずなのに、手に残った感触は全然スッキリしなかった。
当てるまでも大変なのに、当たってからも威力を殺されたんじゃたまったものじゃないな。
・・・やっぱり強いな、俺の師匠は。
でも、だからこそ、あの人からダウン取れたら気持ちいいだろうな。
目標はでかいほうが良いなんてことは言わないけど、どうせならでかいほうが良いと思っているのも事実なんだよなぁ。
自分でもよく分かんないな。
でも、ちゃんと力はついてきている。
魔術、剣術、武術、この3つをマスターできた時大抵の奴には負けないようになっているだろう。
そしたら俺は・・・。
そこで俺の思考は止まった。
そこまでいったら、どうするんだ?
ここまで夢中で教わってきた、ここまで夢中で身に付けてきた。
だけど、それが終わったらどうするんだ?
「・・・目標か」
当面の目標はある。
魔術ならシルビアやロミア、剣術ならジーク、武術ならクレアだ。
だけど、その先の目標が俺にはない。
俺は天井を見た。
「どうしたの?悩み事?」
誰かの声がした。
「ちょっと目標が見つからなくて」
俺はその声に答えた。
「目標?」
「当面の目標はあるけど、最終的な物が無いことに気づいて」
・・・あれ?そういえば俺誰に言っているんだ?
俺は声のした方に顔を向けた。
「ん?どうしたの?」
そこには、こちらを向きながら体を洗っているクレアの姿があった。
ちなみに、何も身に付けていない状態だ。
「い、いえ!何でもないです!」
俺は、急いで前を向いた。
いや、俺見た目4歳児であっち中学生くらいだから別にこんな反応する必要はないんだけど、なぜか俺の中の27歳が目を逸らせと言っている。
「・・・それで?急にどうしたんだい?」
クレアはそう言いながら、俺の横に座った。
俺はさっき考えていた事をクレアに伝えた。
「なるほど、それでさっきまであんな顔してたのか」
「・・・浮かばないんですよね、目標」
俺が言うと、クレアは笑っていた。
「目標、か。
まるで、昔の僕を見てるみたいだよ」
「昔の師匠、ですか?」
「うん、武術を教わって一人前と認められた後、どうしようかなぁって思ってた時があったんだ」
師匠でも、そんな時期があったのか。
「それでどうしようかなぁって迷っている時に、1つ心からやってみたいことがある事に気付いたんだ」
「やってみたいこと、ですか?」
俺が聞くと、師匠は少し笑って天井を見た。
「うん。
僕、胸を張って歩いたことがなかったんだ」
クレアはそのまま続けた。
「剣術も使えない、魔術も使えない。
そんな自分が情けなくて、いつも下を向いて歩いていた。
だけど・・・」
クレアは、右手の拳を上に突き上げてそれを見た。
「武術が使えるようになって、やっと胸を張って歩けるようになったんだ」
クレアは、嬉しそうに話した。
俺は、そんなクレアを見ていた。
嬉しそうに話すその姿が、とてもキレイだった。
「そんな胸を張って、前を向いて歩けるようになった状態で世界を見てみたかったんだ」
「今は、その途中ですか?」
俺が聞くと、クレアは俺の方を見た。
「うん、ちょうどお金が底をつきそうだったからジークさんに家庭教師の話しを持ってこられて引き受けたんだ。
正直、最初はある程度教えてお金がもらえたらすぐに出発しようと思ってたよ」
「今は、違うんですか?」
俺が聞くと、クレアは嬉しそうに俺を見た。
「君と出会えたからね。
君と最初に手合わせした時に、君の強さを知ったんだ。
僕の予想を超えて攻撃をしてきた。
1回目の授業じゃ、僕の攻撃を受けながら見事に攻撃してきた。
その時思ったんだ、この子は絶対に僕なんか超えていくって。
君は、戦いにおいて大切なものを持っている。
僕がやっとの思いで手に入れた物を、君は最初から持ってたんだ」
「戦いにおいて、大切なもの?」
俺が言うと、クレアは右手の拳をトンッと俺の胸に当てた。
「諦めない心と、勇気だよ」
「・・・諦めない心と、勇気」
「どんな事でも、技術面での差っていうのは最後にはほとんどないんだ。
なら、いったい勝者と敗者の差とは何か。
それが、諦めない心と勇気だ」
クレアの目は本気だった。
これが、この人なりの答えなんだろう。
「君はそれを持っている。
僕が君の強さの秘密を聞かれたら、胸を張ってその2つだって言うよ」
諦めない心と勇気、か。
・・・そういえば、誰かに勝てるものって今までなかったな。
魔法はシルビアはもちろん、使える種類だったらロミアの方が多いし、剣術はジーク、武術はクレアだ。
どれも、技術面では俺なんかよりよっぽど上だ。
「・・・そっか、俺にも勝てるものがあったのか」
そう呟いた俺を、クレアは嬉しそうに見た。
「話しが逸れちゃったね」
クレアは、苦笑いをして言った。
「ガルファット君は、まだまだ色々な事を覚えている最中だから目標はゆっくり考えれば良いと思うよ」
「・・・そうですね」
俺も、決して焦ってはいないんけど。
何でだろうな、目標が無いことに少し不安に思うのは。
俺は苦笑いしながら下を見た。
「でも、もし目標を見つけたいなら何で色々な事を学んでるかを考えれば良いと思うよ」
そんな俺を見て、クレアは励ますように言った。
何で学んでいるか、か。
「はい、分かりました」
「じゃあ、僕はお先に上がるね。
ガルファット君も、長く入ってるとのぼせちゃうよ?」
そう言って、クレアは立ち上がって浴室を後にした。
俺は上に上がり、足だけ湯に浸っている状態で何で学んでいるかを少しの間考えた。
「ありがとうな、クレア」
僕がお風呂から上がって、濡れた体を拭いていると廊下に繋がるドアの所からジークさんの声が聞こえた。
「僕なんかに頼まずにジークさんが直接ガルファット君に言ってあげたほうが良かったんじゃないんですか?」
僕はジークさんのほうを見ずに言った。
「俺はそんな柄じゃないしな、それに俺からしたらあいつはまだまだ弱いさ」
・・・素直じゃないなぁ。
初めてこの家に来た日、町から家に来るまでの道中ジークさんはガルファット君の自慢ばっかりしてたのに。
本当は自慢の息子だろうに、息子本人には言わないんだもんなぁ。
「それに、お前の言葉はほとんど俺にも聞こえてたよ。
俺なんかより、よっぽど上手く伝えられてたと思うぜ?」
ジークさんの言葉に、僕は笑いながら返した。
「あの時言ったことは全部本心ですから。
ガルファット君は、本当にすごい子ですよ」
「そうだろ?俺の息子だからな」
僕が言うと、ジークさんは嬉しそうに答えた。
・・・今度ガルファット君にこっそり教えてあげようかな。
着替え終わった僕は、ガルファット君に少し同情しながら浴室を出た。
ちなみに、出た先でジークさんに言ったら全力で止められた。




