第17話心臓に悪いです!
俺の剣は、何かに弾かれた。
・・・いや、現実には俺の剣はクレアの腕に弾かれた。
俺は、クレアの腕を見た。
赤黒くなっているクレアの腕は、明らかに他の体の皮膚の色とは違う。
魔法か?
いや、あんな魔法聞いたことがない。
魔法の基本属性は、火、水、、風、土の4つだ。
それに、光、闇、治癒の3つが加わる。
あれは、強いていうなら治癒の応用か?
いや、今はそれよりも・・・
俺は、クレアに怪我の有無を確認されている女の子に近づいた。
「ロミア」
俺に呼ばれて、ロミアは俺のほうを振り向いた。
「あの時、何で入ってきたんだ?」
俺自身は別に怒っていた訳じゃなく、単に理由を聞いただけだったんだが、ロミアは俺が怒っていると思ったのだろう。
下を向いて、まるでイタズラのバレた子どものような顔をしている。
「だって・・・ガル、殺しちゃいそうだったから」
ロミアは、こういう所で嘘をつくような子じゃない。
本当にそう思ったのだろう。
「殺す気なんてなかったよ。
まぁ、ビックリして色んな意味で危なかったけど、結局俺の剣がまともに当たることはなかったから大丈夫だよ」
俺が言うと、ロミアは上目遣いで心配そうな顔で聞いてきた。
「・・・ほんとうに、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫」
俺は、そんなロミアの頭を笑顔で撫でた。
「良かった・・・」
ロミアは、呟くようにそう言って俺に抱きついてきた。
俺そんなに殺気出てたのかな?
本当に殺す気はなかったんだけど。
「ただ、危ないから今度からああいう時は近付いちゃダメだよ?」
「うん!分かった!」
ロミアは、笑顔で頷いた。
俺は、そんなロミアの頭を撫でながらクレアの方を見た。
「どうしますか?まだ、続けますか?」
俺の問いかけに、静かに笑いながらクレアは首を横に振った。
「いや、充分だったと思うよ。
もう良いですよね?ジークさん」
クレアは、ジークのほうを見ながら言った。
「あぁ、二人とも凄かったよ。
見てる俺が興奮した」
ジークは笑いながらそう言うと、俺の方に近づいてきた。
「成長したな、ガル」
ジークは笑顔で、誇らしげに俺の頭を撫でた。
・・・転生してから初めてだな。
強くなったっていう実感を持ったのは。
俺は、強くなったんだ。
まぁ、まだまだジークやクレアに勝てるほどじゃないだろうけど。
それでも、嬉しいな。
ただ、仮にあのままクレアと戦っていたらもう手がないからあそこで終わって助かったんだけどね。
嬉しいと思いながらも、まだまだ努力が必要とは異世界もなかなか厳しいな。
まぁ、世の中が厳しいのはここも前も変わらないか。
「さてと、俺はシルビア達に終わったこと知らせに先に家行くからな」
そう言って、ジークは家に向かった。
「ロミア、ちょっといいかな?」
俺は、未だ抱きついたままのロミアの背中を優しくポンポンと叩いた。
ロミアは、俺の顔を見ると何かを察したように離れた。
「クレアさん、ありがとうございました」
俺は、クレアに向かってお辞儀をした。
「こちらこそ、ありがとうございました。
そして、僕は君に謝らなきゃいけないね」
頭を上げると、そこには苦笑いをしているクレアがいた。
「すまなかった。
年下だからとか、余計なことを考えて正直舐めてた。
その結果がこの傷だよ」
クレアは、自分の右腕にできた傷をさすった。
「ただ、油断していたとはいえこの傷はガルファット君の実力で付けられた傷だよ。
これから、君の家庭教師になれることを誇りに思うよ」
クレアは、俺に深くお辞儀をした。
「これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ、クレアさんに家庭教師をしてもらえるならありがたい限りです。
よろしくお願いします」
俺ももう一度、クレアに深くお辞儀をした。
「さて、じゃあ僕たちも戻ろっか」
「はい!
そういえば、どうします?
その傷、治癒魔法で治すこともできますが」
俺の言葉に、クレアは首を横に振った。
「この傷は、とっておくよ。
もう、どんな相手でもなめない戒めとして」
クレアの目は、真剣だった。
こりゃ、次戦ったらボコボコにされかねないな。
「分かりました、それじゃ戻りますか。
ロミアも、来るだろ?」
俺がきくと、ロミアは「うん!」と返事をして俺の腕に抱きついた。
何か、慣れたせいかこれが当たり前になっていきている自分がいるんだよなぁ。
・・・まぁ、悪い気はしないからいっか。
俺とロミア、そしてクレアは家に戻った。
「おかえりなさい」
家のドアを開けると、目の前にはシルビアがいた。
「途中からだけど、見てたわよ。
よく頑張ったわね、ガル」
シルビアは、俺の頭を優しく撫でた。
「俺の先生は、父さんと母さんですから」
俺は、シルビアに笑顔で言った。
「・・・ありがとう、ガル」
シルビアは、笑顔で嬉しそうに言った。
「さてと、夜ご飯までは時間があるしガルは汗を流して来なさい。
クレアは、フィーネが部屋をキレイにしてくれたから荷物を整理するといいわ。
ロミアちゃんは、おばさんのお手伝いしてもらえるかしら」
シルビアが、俺たち3人にそれぞれ指示を出した。
たしかに、飯の時に汗まみれじゃ俺も周りも嫌だしな。
「それじゃ、みんな解散!」
『はい(はーい)!』
俺たちは返事をして各々の場所に行った。
・・・さてと、そろそろ行くか。
俺は、自室に着替えを持ちに行った。
そういえば、ジークに借りた剣返しそびれちゃったか。
俺は、ジークに借りた剣を持った。
・・・これは、人を殺せる物なんだよな。
たしかに魔法も使いようによっては、人を殺せる。
ただ、魔法はほとんどが中距離や遠距離の攻撃だし、近距離の物もあるけど感触はない。
だけど、剣は刺したときや斬ったときの感触がはっきりある。
ジークに剣術を教えてもらった時に、言われたことだ。
たしかに、真剣を使う事を想定した修行をしてきたけど、実際使うと何とも言えない感覚に教われた。
・・・どうやら、実力云々の前に俺には覚悟が足りないようだな。
俺は、剣を机の上に置き着替えを持って脱衣場に向かった。
・・・脱衣場に着いた俺は、着替えを置いて服を脱いだ。
世界がなのか、この家がなのかは分からないけど浴室にはシャワーと、風呂がある。
前の記憶があるからだろうな、湯船に浸かれると疲れがとれるしリラックスできる。
シャワーで汗を流すだけでもいいけど、今日は色々あったし湯船に浸かるか。
俺は、浴室のドアを開けようとした。
その時、浴室の中からシャワーから水の流れる音がした。
誰だ?ジークかな?
俺は、構わず浴室のドアを開けた。
「あれ?ジーク君まだ入る前だった?」
そこには、シャワーのお湯を止めてこちらを見るクレアの姿があった。
「クレアさんこそ、もう荷物の整理終わったんですか?」
「元々、いっぱい持ってきてたわけじゃないしね。
シルビアさんに言ったら、汗流して来なさいって言われたんだ。」
俺の質問に、クレアは濡れた顔を両手で拭いながら答えた。
俺の目線は、クレアの体を見た。
決して筋肉質というわけでもないがひ弱にも見えない。
キレイな筋肉のつき方をしており、スタイルもいい。
胸や背中、足や腕も良い鍛えあげられ方をしているのだろう。
強いていうなら、しなやか、なんだよな。
男の俺から見ても、惚れ惚れするような体だ。
・・・本当に、そういう性癖はないからね!?
俺は、クレアが湯船に浸かるのを見て入れ替りにシャワーを浴びた。
・・・やっぱりシャワーも汗が流せると、気持ちいいな。
ちなみに、ここにもシャンプーとボディソープみたいなのはあるけど匂い付きの制汗剤みたいな感じなんだよな。
まぁ、汗の臭いが消えるだけマシだからいっか。
俺は、シャワーで体を流したあと湯船に使った。
ここの風呂は、ホテルなんかの大浴場に形が似ていて下に降りるタイプだ。
ただ、今の俺の身長だと一番下に座ると顔が湯の中に入ってしまうので途中の階段に座っている。
ちなみに、クレアは一番下に座っている。
「そういえばクレアさん、何個か質問したいことがあるんですけど大丈夫ですか?」
俺は、背中を向けていたクレアに言った。
するとクレアは、こちらに体ごと向けた。
「良いよ、何?」
「クレアさんは、どうして武器を使わない戦い方を選んだんですか?」
俺の質問に、クレアが苦笑いした。
「あぁ、そのことか。
あれは、選んだわけじゃないんだ。
僕には、選択肢があれしかなかったんだ」
クレアは、下を向いて諦めたように笑いながら話始めた。
「僕は元々剣の国バルファンクの生まれなんだ。
あの国だと、男も女も関係なく一度は剣術を教わるんだ。
そのへんの女性でさえ、剣士として戦えるくらいだ。
そして僕も剣術を教わったんだけどね・・・ダメだったんだ。
僕には、剣術の才能が欠片もなかったんだ。」
「欠片も、ですか?」
「うん、もし今のガルファット君と剣術で戦ったら間違いなく、すぐに殺されてるよ」
・・・悔しかったんだろうな。
クレアの目を見た俺は、直感的にそう感じた。
「それで、7歳の時に家を出て魔法の国ローリンに向かったんだ。
剣がダメなら、魔法は使えるだろうっていうバカみたいな考えでね。
親とは、僕が剣術が使えないって分かったときから関係は薄かったから、引き止められもしなかったよ。
子どもながらにお金を貯めて、一生懸命頑張ってやっと魔法学校に入学できたんだ。
まぁ、結局魔法もほとんど使えなくて諦めちゃったんだけどね」
苦労なんて言葉じゃ片付けられないよな。
俺は、剣術も魔法も使える。
でも、もしどちらも使えなかったらって想像したらうまく想像はできなかったけど、多分ダメになってたと思う。
そう考えると、俺はどちらも使えることに感謝すべきなんだろうな。
「で、ローリンを出たあとはあてもなく彷徨って、気付いたらバルファンクに辿り着いていた。
ただ、家出状態で出た家に戻れるわけなかったしそのまま色んなところを歩いたんだよね」
そりゃそんな状態で家出て、魔法もダメでしたー、なんて言って戻れないよな。
「で、そんな状態で彷徨いながらたどり着いたのが武術の聖地、モンコイストだった」
モンコイスト・・・聞いたことのない地名だな。
俺の顔を見て、クレアは笑った。
「聞いたことないよね。
本とかには載っていない、ある意味秘境だからね。
場所は、バルファンクのバデルに近い方にあったよ」
バルファンクのバデル近くか。
この大陸はアビリルを上としたときに左回りにバルファンク、バデル、ローリンとなっている。
「そこは、一言で言えば輝いていた。
剣術でもなく、魔法でもなく、皆が使うのは武術。
あの頃の僕は、半分やけくそ状態で道場に行った。
そして、その時に手に入れたんだ。
僕だけの武器を」
クレアは、自分の右拳を見ながら言った。
「クレアさんだけの、武器・・・」
「剣術の使えない僕でも、鋭利な斬りを、鈍器のような衝撃を与えられるようになったんだ。
正直、嬉しかったよ」
クレアの顔は、すごい嬉しそうだった。
「鋭利な斬りといえば、手合わせの最後剣を防いだあの腕は何だったんですか?」
「あぁ、あれか」
俺が聞くと、クレアは言葉を選ぶように聞いてきた。
「ガルファット君は、神選者って知ってる?」
「いえ、聞いたことがないです」
「ある年齢を境に、自らの持つ特殊な能力を使えるようになる。
それが、神に選ばれし者。
神選者」
神選者か。
さすが異世界って言うべきなのか、予想外なんて当たり前か。
「てことは、クレアさんもその神選者てやつですか?」
「そうだよ。
人によって能力は違うけど、僕のはメリットが硬質化。
体の皮膚をとても硬くすることができるんだよ。
まぁ、それでも剣術じゃ役に立たないしメリット中は魔法は使えないしね」
「そうなんですか?」
「うん、不思議な話だけどメリットを使うと反動のデメリットがあるんだけどメリット中もデメリット中も魔法は使えなくなるんだ」
なるほど、能力の内容にもよるけどちゃんと文字通りのデメリットはあるんだな。
「だけど、僕のメリットは武術には合っている。
ありがたく思ったよ。」
技術に合った能力か。
まったく、詰まったことのない差が開いた気がするな。
「さてと、じゃあ僕は先に上がるね」
そう言って、クレアは立ち上がった。
「はい、色々教えていただきありがとうございました」
俺は、クレアに頭を下げた。
「こんな話だったら、いつでも話すよ」
クレアは笑いながら言った。
・・・あれ?なんだ?
俺は、顔を上げてクレアを見た。
最初ここに入って見たときとクレアの体が違う。
たしかに、筋肉はキレイについているけど少し柔らかくなったように見える。
そして、胸は大胸筋というより女性の胸みたいな丸みを帯びている。
何より、決定的に違うことがある。
大きさはそこそこだったけども、たしかにあった男のシンボルがクレアからなくなっていた。
「あの、クレアさん1つ聞いて良いですか?」
「ん?何?」
クレアが不思議そうな顔をして、俺を見ている。
「クレアさんのデメリットって何ですか?」
「ん?あぁ、僕のデメリットは能力を使った時間に応じて体が男になるんだ。
ちょっとしか使わなかったから、ガルファット君と話している間に元に戻ったみたいだね」
特に恥じらいもせず、クレアは説明した。
まぁ、相手は見た目4歳児だからそんなの持つわけないと思うんだけど
・・・中身27歳の男からしたら、結構びっくりしたんだよね。
「そ、そうなんですか」
俺は平常を装った。
装えていたのかは、本人は分からないけど。
「じゃあ、僕は先に上がるねお先に」
そう言ってクレアは、浴室を去った。
まだ色々と聞きたいことがあったけど、まず言わなきゃいけないことがある。
心臓に悪いのでそういうサプライズはやめてくださーーい!
そして・・・女性の体に傷をつけてしまい申し訳ございませんでしたー!
明日本人に直接言おうと思ったが、とりあえずまずは浴室で土下座しながら心の中で叫び謝罪をした。




