第16話 手合わせ“後半”
俺は、クレアと向き合っている。
距離にして、20歩くらいといった所だろう。
両手に武器なし、剣術及び打撃は通用しなかった。
ついでに、体の所々が痛いと。
状況的には、最悪だな。
俺は、痛い体に鞭打ってクレアに向かって走り出した。
ガルファット君がゆっくり立ち上がったかと思ったら、「後半開始です!」と僕に向かって叫んだ。
正直、立ち上がってくるとは思っていなかった。
普通の子どもなら、あの高さから落ちれば痛みで起き上がれないと思うんだけどなぁ。
それに、ジークさんがガルファット君に言ったあの言葉
「言っただろ!これは“手合わせ”だ!
それに!
お前の先生は俺だけじゃないだろ!」
・・・あの言葉でガルファット君の目が変わった。
僕はあの目を何度も見たことがある。
あの目は、覚悟を決めた人の目だ。
僕が考えていると、ガルファット君がこっちに走ってきた。
何かを狙っているのかな?それとも、ただの暴走かな?
どっちにしろ、何をして来るのか分からないのは確かだね。
僕は、両腕を少し上げて構えをとった。
だけど、まだ“あれ”は出さなくても大丈夫だね。
・・・ん?なんだろ?あの動き。
ガルファット君の走り方が変わった。
さっきまで両腕を振って走っていたけど、今は両腕をだらりと下に伸ばしたままの状態で走っている。
ただの癖、じゃないよねきっと。
僕から仕掛けるのも出来なくはないけど、ただでさえ今ガルファット君が走ってきているのは予想外だから、何があるか分からないと考えれば得策じゃない。
僕がそんなことを考えていると、ガルファット君が後7、8歩の所まで来ていた。
さぁ、多分後4、5歩まで来たらガルファット君は何かしら仕掛けてくるだろう。
さて、どう来るかな。
・・・決して油断したわけじゃなかった。
むしろ、いつもよりも警戒していたくらいだ。
だけど、そんな僕の警戒すらガルファット君は超えた。
ガルファット君が右腕を後ろに伸ばした時だった。
「噴射攻撃!」
ガルファット君の勢いが増した!?
な、何あれ!?
まるで大砲の砲弾のように飛んでくるガルファット君に、僕は戸惑った。
何あれ!?もしかして魔法!?
どうしよう!?受け止める!?
でも、あの勢いを受け止めたらただじゃすまない!
なら、避けるしかない!
僕はガルファット君と衝突する1メートル手前で、左へサイドステップで移動した。
少し驚いたけど、よく考えたらあの勢いじゃガルファット君は方向転換できないんじゃないかな?
まぁ、避ける瞬間ガルファット君は少し減速したように思えたけど魔法だったら2回目を使うには少し時間がかかるだろうし。
でも、あの時ガルファット君は急に加速した。
もしかして、無詠唱で魔法が使えるのかな?
だったら、かなり厄介だね。
場合によっては、本気を出さなきゃ僕も危ないかも。
そんなことを考えて、ガルファット君がどこまで飛んだか確認しようと、後ろを振り向こうとした時だった。
「噴射攻撃!」
・・・え?
ガルファット君の声だ。
ちょっと待って!
さっき魔法を使ったばっかりだよ!?
この時、僕の体は後ろを振り向くのが一瞬遅れた。
この一瞬が、とても大きかった。
突如、僕の右腕に痛みが走る。
余計に頭が混乱した。
何で・・・。
後ろを振り向いたとき、ガルファット君の姿はなかった。
その代わり、僕の右腕からは刃物で切られたような浅めの傷があり血が流れていた。
「クレアさん」
後ろから、声が聞こえる。
その時の僕は、思考が起きたことについていけてなかった。
だって、振り向いた先には
「とりあえず、一泡ふかせましたよ」
息を切らしながらも、剣を持って勝負を楽しんでいるかのようなガルファット君の姿があったから。
クレアが驚いた顔で俺を見ている。
どうやら、何が起きたか分からないようだ。
まぁ、そう思わせるためにやったんだからそうじゃなきゃ困る。
中身は、緊急回避の応用をしただけなんだけどな。
クレアに向かって走っている時、両手にあらかじめ風の属性の魔力を注入しておいた。
ちなみに、左右で量は調整しといた。
右を5だとすれば、左は10だ。
日頃、ランニングでやっていた練習がこんなところで役に立つとは正直思わなかった。
そして、まず1回目の噴射攻撃でクレアに突っ込んだ。
この攻撃は、正直避けられても受け止められてもどちらでも良かった。
受け止められたら、その瞬間に左手に溜めた風魔法を使えばいいし。
ただ、クレアは俺を避けた。
まぁ、クレアからすれば何が起きたか分からかっただろうから避ける方が自然か。
クレアの横を通りすぎた俺は、刺さっていた剣を勢いのまま右手で引き抜いて左手の魔法を使った。
その時に、体を方向転換してクレアにもう一度突っ込んだ。
殺す気なんかは元々なかったから、右腕に剣が刺さるくらいに調整した。
それくらいだったら、俺かシルビアの魔法で回復させられるしな。
だけど、さすがにそこまで甘くはないか。
実際には、俺の剣はクレアの腕を掠めただけだった。
それでも、精神的動揺は充分だろう。
俺を見たときのあの顔が、その証拠。
さてと、じゃあ次の作戦に行くか。
俺は、左手に土の魔力を注入し始めた。
仕掛けるなら、今しかないだろう。
今のクレアなら、判断力が鈍っているだろうから攻撃を当てれるかもしれない。
魔力の注入が完了した。
「クレアさん!行きます!」
俺は、左手で剣を持ったままクレアに向かって走った。
そして、左手の剣でクレアに向かって突きをした。
それをクレアはバックステップでかわす。
元々片手ではこの剣は重い。
剣先は地面へと落ちるように向いた。
だが俺は、その剣を地面に垂直にする。
その動きは、2回目の攻撃に似ていた。
クレアの予想なら、次は剣を軸にもう一度蹴りをすると考えるだろう。
だけど、今回は違う!
俺は剣が地面に刺さる前に、右手を地面について魔法を使った。
「柱!」
右手の下から、岩の柱が出てきた。
俺はその柱を掴んだまま、右腕だけの逆立ち状態で4メートルくらいの高さまで上った。
「せぇぇのっ!」
右腕を曲げて、一気に伸ばした俺は空中で半回転をした。
そんな俺を見たクレアは、驚いた顔をしている。
よし!行ける!
俺は、剣を両手で持ち左側に振りかぶった。
剣の刃ではなく、腹のほうを横に向けた。
仮にこのまま切りかかって刃のほうだったら、危ないからな。
腹のほうだったら、どうにでもなる。
「いっけぇー!」
俺は、勢いよく剣で払い切りをしようとした。
これなら、ガードされてもその上からダメージはいく!
決まってくれ!
俺の剣がクレアに迫っていく。
だけど、俺は気づいた。
クレアの目の前に、いるはずのない奴がいることに。
「ガル!ダメ!」
そこには、ロミアがいた。
クレアの目の前で、両手を横に広げている。
なんでロミアがここに!?
俺は急いで剣を止めようとした。
・・・ダメだ!空中だからか!?
むしろ、変に止めようとしたのがいけなかった。
剣の角度が、横から斜め下に変わった。
しかも、刃がロミアのほうを向いている。
「ロミア!しゃがめ!」
俺は慌ててロミアに向かって叫んだが、ロミアは驚いた顔をして動けていない。
そんなロミアをクレアが包むように、抱き締めた。
だが、どちらにしろこのままではクレアの腕を切り落としてしまう可能性がある。
その場合、最悪ロミアも・・・
「止まれぇぇー!」
俺は叫んだが、無情にも剣はクレアとロミアに迫る。
そして、俺の剣がクレアの右腕を切り・・・落とさなかった。
何が起きたか、俺自身がわからなかった。
分かったことは剣がクレアの腕に触れた瞬間、キーン!という音が聞こえて俺の剣が弾かれたということだ。
「いてっ!」
俺はまた背中から落ちたが、今度はすぐに起き上がってクレアとロミアのほうを見た。
「ふぅ、ギリギリだったけど間に合ったね。
ケガはなかった?」
そこには、ロミアの頭を撫でるクレアの姿があった。
そして、そのクレアの右腕はすべての部分が赤黒く輝いていた。




