第15話 手合わせ”前半“
時間は流れてジークが仕事に出かけた次の日のお昼頃。
俺は自室で、魔法の練習をしていた。
内容は、片手に魔法を準備した後もう一方の片手には違う魔法を準備する。
例を挙げるなら、左の手のひらに火の属性を、右手の手のひらには風の属性の魔力を注入するというものだ。
まぁ、結果だけ言わせてもらえれば出来なかった。
同時にやることはもちろん、片方を先に準備して撃てる状態にしてもう片方を準備しようとしたら、最初に準備した魔法の属性が後に準備した属性に変わってしまった。
どうやら、魔法は準備して撃てる状態にした後も維持するのに魔力を注入し続けているようだ。
よく考えればやっていることは混合魔法と変わらないもんな。
やっぱり俺は、誰かに手伝ってもらわないと混合魔法は使えないのか。
はぁ、使えないっていうのを改めたて知っただけか。
まぁ、元から使えなかったのが念押しされて使えないぞって言われたようなものだから、あまり気にはしないけど。
「ただいまー」
俺が考え事をしていると、玄関からジークの声が聞こえた。
ということは、“おみやげ”を持ってきたか。
「さてと」
俺は、椅子から腰を上げて玄関に向かった。
どんな人なんだろうな、家庭教師の人は。
俺が期待と不安を両方抱えて玄関に行くと、そのどちらとも当てはまらない感情が沸き上がった。
「よぉ、ただいま」
そこには、いつもの仕事帰りの格好をしているジークと小柄で細身の黒髪の12歳くらいの男の子がいた。
男の子は、少し大きめのバックを持っている。
それをシルビアとフィーネが先に出迎えていた。
「は、初めまして!クレア・ラリオットと申します!」
クレアは、深くお辞儀をして挨拶をした。
クレアの第一印象を言わせてもらうなら、可愛いだった。
目は両目とも黒、髪は肩に少し届かないくらいでこちらも綺麗な黒髪だ。
顔は、少し幼さが残っている。
前世でいうところの可愛い系男子というやつだ。
このての男子が好きな人からすれば、大好物だろう。
ちなみに僕は、同性好きの性癖はありません。
ふと、クレアを見ると笑っていた。
笑顔の可愛い子だなぁ。
・・・ほんとにそんな性癖はないからね!?
「初めまして、ジークの妻のシルビアです。
よろしくね」
まず、シルビアがクレアにあいさつをした
「初めまして、この家でメイドとして仕えています。フィーネ・バンセントと申します」
次に、綺麗なお辞儀をしてフィーネが挨拶をした。
人見知りするって言ってたわりには、フィーネは結構冷静だと思うけどなぁ。
「初めまして、ガルファット・ファーリンです。
クレアさんの弟子になるものです」
俺は、クレアにお辞儀をして挨拶をした。
「よろしくね、ガルファット君」
クレアは笑顔でそう言うと、俺に握手を求めてきた。
「はい、よろしくお願いします」
俺は、笑顔でクレアの手を握った。
「・・・なかなか鍛えているね」
俺の手を握ったクレアが笑顔のまま言った。
「分かるんですか?」
「うん、手にできた豆で分かったよ。
その年でここまで鍛えてるのは、すごいよ」
手の豆、か。
そういえば最初は豆が潰れる度に痛かったな。
今は、全然気にしていないけど。
「いえ、まだまだですよ」
特に自分がすごいとか偉いとかって思ったことないしな。
「ジークさんに聞いていた通り、大人だね。
4歳には思えないや」
ジークの奴、いったいクレアに何を言ったのだろう。
クレアは俺の手を離し、後ろに下がった。
「まぁ、軽い挨拶はこのくらいにしといてそろそろ本題に入るぞ。
もう皆察していると思うが、クレアにはガルの家庭教師をしてもらう。
内容は、戦闘と一般的な知識やその他諸々の教養の勉強だ
戦闘に関しては、ここに来る前に一度手合わせした。
中々の腕だった。
俺も本気を出していなかったら、危なかったよ」
ジークが苦笑いしながら言った。
ジークが本気を出すほどの相手か、そんな人が家庭教師なら不足に思うこともないだろう。
「フィーネ、たしか使っていない客人用の部屋があったよな?
あそこ、掃除しといてもらえるか?」
「構いませんが、理由をお聞きしても?」
ジークの言葉に、フィーネが訪ねた。
「クレアには、ガルの家庭教師をしてもらっている間この家で同居してもらう。
元々、そういう条件の元で契約したしな。
わざわざその度に、町からここまで来てもらうのも手間がかかってしょうがないし」
ジークの言葉に、俺は少し不安を覚えた。
いや、俺自身は別に何てことはない。
誰かと同居するのに抵抗はないが、問題はフィーネのほうだ。
俺は、フィーネのほうを見た。
「分かりました。
少しお時間いただきますがよろしいですか?」
・・・いつも通りだった。
特に焦ったり動揺している様子はない。
もしかして、フィーネ自身が気にしているだけで実はそんなに重症ではないのか?
「あぁ、こっちも少しやることあるから急がなくて大丈夫だからな」
ジークが言うと、フィーネは「分かりました」と頷いてその場を後にした。
「じゃあ、こっちも始めるか。
クレア、ガル、付いてきてくれ。」
『はい』
ジークに名前を呼ばれ、俺とクレアはジークに付いて家の外に出た。
「行ってらっしゃい」
シルビアは笑顔でそう言いながら、家の中に残った。
「さて、じゃあさっそくだけど二人にはここで手合わせをしてもらう」
いつも授業を行う庭で、ジークは俺とクレアに言った。
「分かりました」
そう言うと、クレアはバックを地面に置いて俺とジークから少し離れて屈伸などの準備運動を始めた。
「ガル、お前はこれを使え」
そう言ってジークは、自分の腰に刺していた両手剣を握り俺の前に出した。
「いいんですか?」
ジークが俺に渡そうとしているものは、紛れもない真剣だ。
つまり、相手を殺せるものだ。
「いつかは使うことになる物だし、これを扱えるようになるための今までの授業だ。」
ジークはクレアを見て「それに」と続けた。
「今のお前じゃ、真剣使っても木製の剣を使ってもあいつに攻撃を当てるのは難しいだろうからな。
せっかくの機会だ、胸を借りるつもりで行ってこい!」
ジークの目は、俺の目を真っ直ぐに見ていた。
「・・・はい!」
俺は、右手を伸ばしジークから剣を受け取った。
右腕だけじゃない、この体全体に来た重みは間違いなくその剣が真剣であることを物語っている。
「クレア!そっちの準備は良いか?」
「はーい!大丈夫でーす!」
ジークに名前を呼ばれて、クレアは手を挙げて答えた。
いつの間にか俺とジークから、2、30歩くらい離れていた。
「じゃあ、行ってきます」
俺はそう言ってジークに背を向けクレアのほうを向いた。
鞘から剣を抜き、鞘はその場に置いた。
剣は両手で持っているはずなのに、重みがある。
いや、俺も自主トレをしてきたから剣自体の重みは苦にならない。
多分、苦になっている重みはこの剣を使うという事に対してだろう。
ん?そういえば、クレアは何も武器を持っていないな。
俺はクレアを見た。
彼は、武器の類いは一切持っていない。
短剣型か?いや、彼の服はかなり軽装だ。
いくら短剣と言っても、隠せれるような場所はない。
「クレアさんは!武器を使わないんですか!?」
俺が叫びに近い問いかけをすると、クレアも叫ぶように答えた。
「僕は武器を使わないから!そのまま来てくれていいよ!」
俺は、その答えを聞いて剣を構えた。
そして、静かに目を閉じた。
思い出せ、今までの授業を。
そしてジークのあの言葉、「せっかくの機会だ、胸を借りるつもりで行ってこい」
ジークは気付いていたのだろうか?
俺が今まで、”攻撃を当てずにやってきた“ことを。
俺は今まで、ジークとの剣の授業でジークの体に攻撃を当ててこなかった。
いや、当てるのを避けてきた。
俺の中身が、日本人の成田英行だからなのかな。
どうしても、加減してしまってその先へ行くことが出来なかった。
それを自覚してはいたけど、心のどこかで仕方がないと諦めていた。
だけど、この剣を構えた時にその行為が失礼だったと気づいた。
ジークは、俺に全力で剣術を教えてくれていた。
なら、俺がそれに応えなくてどうする!
少し遅くなったけど、今こそその気持ちに答えよう。
俺は、ゆっくりと目を開けた。
「行きます!クレアさん!」
俺は、クレアに向かって走り出した。
「うん!ガルファット君!」
クレアは動かなかった。
真剣な顔で、俺を見たままだった。
まるで、俺の攻撃を待っているようだ。
いや、正確に言えば彼は俺の方に向かってきていないだけで動いている。
両手の拳を目線の高さに挙げて、脇を閉めてその場で軽くジャンプしてリズムを刻んでいる。
俺はその動きを知っていた。
それは前世で何度か見たことがあった、ボクシングの構えだ。
武器を持たずにボクシングの構えってことは、素手で攻撃してくるってことか。
俺は、そのまま走っていって勢いのままクレアの右腕に向かって突きをした。
クレアはそれを流れるように左に避ける。
その動きは美しくすらある。
だけど、その回避の仕方はジークとの授業で何度も経験済みだ。
俺は右足の爪先が地面に着いた瞬間、左に方向転換する力を利用して剣を左手だけで持ち、凪ぎ払いをした。
クレアもまた、読んでいたかのように俺の攻撃を後ろにかわす。
そして、俺と距離をとったクレアはまた俺の様子を伺っている。
なら、また俺の方からいかせてもらう!
俺は、走りながら剣を振りかぶりクレアに向かって振り下ろす。
体が地面から浮くくらい勢いよくだ。
クレアは、その攻撃をまた左に避ける。
これならどうだ!
俺は剣を地面と垂直にして地面に突き刺した。
剣は、刀身が半分ほど地面に埋もれた。
俺は、剣の柄の先端を左手で掴んで左足で思いっきり地面を蹴った。
左へ働いた遠心力は、そのまま蹴りの威力へ追加される!
自主トレのランニングが予想外の所で役に立った!
「行けぇ!」
俺の蹴りを見たクレアは、驚いた表情をしながらも左腕で防ぐ態勢をとる。
どうせ防がれても、次には体が地面に落ちるのを利用して地面から剣を引き抜いて攻撃に移れる。
俺の右足の蹴りがクレアの脇腹に迫る。
クレアの左腕に俺の蹴りが当たる・・・ことはなかった。
クレアは、俺の足を左手で掴みそのまま俺を放り投げた。
俺は空を見ながら、背中から地面に落ちた。
「ごはぁ!」
仰向けになり、広い空が見える。
頭がグラグラする。だけど、それよりももっと強かった感情がある。
俺は、負けた。
クレアは俺の予想を超えた。
確かに、強いな。
・・・だけど、何でだろうな。
ものすごく・・・勝ちたい!
考えろ、どうすれば勝てるかを
本当に俺には勝てないのか?
何か忘れていることはないか?
1つでも多く考えろ!
「ジークさん、手合わせはこれで終わりでで良いですか?」
クレアがジークに訪ねる声が聞こえた。
確かに、クレアからすれば剣を失った俺はもう戦闘できないと見るだろう。
しかも声の感じからして、息も切れていない。
「いや、まだ終わってないぞクレア」
ジークの返答がクレアに届くと同時に俺にも届いた。
「あいつはまだ諦めてはいないさ
おい!聞こえてるだろ!ガル!」
ジークが俺の名前を叫んで、続けて言った。
「言っただろ!これは“手合わせ”だ!
それに!
お前の先生は俺だけじゃないだろ!」
・・・そうだったな、俺の先生はジークだけじゃなかった。
俺は、地面に手を付いてフラフラとだが起き上がった。
「この状況で起き上がるの!?」
クレアが驚きながら言った。
そんなクレアに、ジークは誇らしげに言った。
「どんな状況でも関係ないさ。
あいつの負けず嫌いは俺譲りだ」
俺は、クレアの方に向かって言った。
「行きます!後半戦開始です!」




