第14話 おみやげは中身が重要
ジークとのあの授業から、一週間が経過した。
俺は、あの日以来朝の自主トレの量を増やした。
ロミアの目標である誇りを持って、ロミアに越えられないようにするためだ。
ちなみに、今は風魔法を使った緊急回避を練習している。
やり方は簡単だ。
手の平に風の魔力を注入し、ジャンプした後、自分が回避したい方向と逆方向に風魔法を放つというものだ。
ただ、やり方は簡単でも実際にやるのは難しい。
これは文字通り、緊急時の回避方法だ。
瞬時に魔力を溜めて、撃たなければならない。
俺は今まで、魔力を注入する時間は気にしていなかった。
ただ撃てるかと、威力だけを気にしていた。
その結果、魔力の注入時間を短くすると魔法がうまく使えなかった。
撃つことは出来るんだけどね、・・・撃つだけだったら。
最初、魔力の注入時間をいつもの半分でやってみた。
何か、炭酸飲料の入ったペットボトルを開けた時の“プシュッ”って音がした。
その時の飛んだ距離は、数センチだったなぁ。
ちなみに2、3日前に、ロミアは治癒魔法を使えるようになった。
俺も初級の”癒しを“は使えるけど、ロミアはそれに加えて毒や石化などの状態異常を治す中級の治癒魔法も使える。
・・・うかうかしてられないとは思うけど、何でだろう。
ロミアが俺にできないことを出来るようになると、ワクワクしてきて俺も頑張ろうと思う。
前は、そんな気持ちにはならなかったんだけどね。
ジークのおかげだな。
さて、こんな回想シーンみたいなのを思い浮かべている今、俺は何をしているかと言うと・・・
「ガル!行くぞ!」
ジークが俺に言って、右手に持った木製の剣の先を俺に向けた。
「はい!」
俺は、両手に持った双剣を構えた。
ジークが剣で横払いをする。
ジークの剣は、俺の目線と同じ高さを何もなく通ろうとする。
まぁ、そんなことさせないけど。
俺はしゃがんで、その攻撃を掻い潜るようにジークの懐に飛び込んだ。
俺は、右手に持った剣でジークの喉に向かって突きをする。
ジークはそれを寸前の所で後ろに回避する。
「ふぅ、なかなかやるようになったなガル」
距離を取ったジークが俺に言ってきた。
「まぁ、それでも40点って言ったところかな」
「全然じゃないですか」
ジークの言葉に、、俺は苦笑いしながら答えた。
今日も、俺とジークは朝から庭で剣術の授業をしていた。
今日は、今までで一番良かった気がする。
今までの授業だと、ジークが俺に攻撃を当てるところを寸止めでやめておしまいっていうのがほとんどだった。
だけど今日は、ジークに距離を取らせるところまでいった。
逆に言えば、俺の攻撃は距離を取って避けるほどのものだったということだ。
はたから聞けば小さいかもしれないが、俺にとっては大きな一歩だ。
「まぁ、そう言うな。
これでも、結構厳しめに点数つけてるんだから高い方だよ」
ジークは、やれやれといった感じで俺に言ってきた。
「そういえば、父さん。
そろそろ、仕事に行かなくていいんですか?」
「・・・あ、忘れてた」
ジークはそう言って、慌てて家の中に走っていった。
本当はもう少しやりたかったけど、まぁ仕方ないか。
俺は、授業で使った木製の剣をまとめて抱えた。
さて、今日は昼からの授業は休みだし久しぶりにフィーネと一緒に読書でもするか。
「あ、そうだ!ガル!」
鎧を着て慌てて家から出てきたジークが、俺に向かって叫んだ。
「明日の午後、お土産持って帰るから楽しみにしとけ!」
お土産?何だろう?
「分かりました!」
とりあえず俺は返事をした。
俺の返事を聞くと、ジークは急いで職場に向かった。
「さっき言ってたおみやげって、何だったんだろう?」
俺は家の中でもそんな事を呟きながら、使った道具の片付けをしていた。
「ん?どうしたのですか?ガル?」
偶然通りがかったシルビアが、俺に訪ねてきた。
「いや、それが・・・」
俺は、朝ジークが言っていた事をシルビアに言った。
「あぁ、その事ですね」
シルビアは、フフッと笑いながら言った。
「あの人、ガルにも詳しく教えていなかったのね」
「僕にも、ですか?」
「えぇ、あなたとフィーネには詳しく内容を言っていないのよ。
まぁ、サプライズでやりたいと思っているみたいね」
「サプライズ、ですか?」
俺が聞くと、シルビアは苦笑いしながら答えた。
「えぇ、あの人そういうの好きなのよ。
ただ、今回は内容が内容だからあなたとフィーネには私から伝えておこうかしらね」
そう言ってシルビアは、俺に訪ねてきた。
「ガル、前にジークと授業をした時にあの人が、あなたに強くなったかの比較対象を考えるって言っていたの覚えていますか?」
シルビアに聞かれて思い出した。
たしか、ジークそんなことを言っていたな。
「はい、言われて思い出しました」
「その比較対象を明日のお昼頃に連れてきます。
ガル、あなたの家庭教師として」
・・・家庭教師?俺の?
「家庭教師ですか?僕が言うのも何ですが、剣術は父さん、魔法は母さんに教えてもらえて自分では充分だと思っていますが」
俺が言うと、シルビアが嬉しそうに笑った。
「そう言ってもらえるのは、親としても教える側としても嬉しいです。
ただ、私もジークもどうしても身内への甘さというのは出てしまうのです。
だからこそ、身内以外で戦闘と知識を教えられる人をジークは家庭教師として連れてこようと考えたのですよ」
シルビアに言われて、納得できた。
なるほどな、確かに身内以外と授業をしたことはなかったな。
ロミアの場合は、一緒に学んでいるからまた違う立場だし。
「ということでガル、もし今日フィーネと一緒に読書する時があったらあの子にも教えといてあげてくれますか?」
シルビアが、俺にお願いしてきた。
「僕は構いませんが、母さんが言ってもいいのでは?」
別にフィーネに言うのが嫌なわけではなく、ただ単にそう思った。
「私は、今日カリアとロミアちゃんと一緒に料理をする約束をしているからもうすぐ出掛けるんですよ」
あー、そういえば前にロミアが料理を練習しているって言っていたな。
「分かりました。
じゃあ、僕からフィーネさんに伝えておきますね」
俺が言うと、シルビアは「お願いします」と笑顔で言ってその場を去った。
さてと、まだ昼食までは時間があるし書庫に行って読む本を選ぶか。
俺は、そのまま書庫へ向かった。
昼食を食べた後のお昼過ぎ。
俺とフィーネは、毎回と同じようにフィーネの部屋で椅子に座りながら本を読んでいた。
そして俺は、シルビアに言われた事を思い出しフィーネに訪ねた。
「そういえば、フィーネさん。
明日、父さんがお土産を持ってくるというのを知っていましたか?」
フィーネは俺の質問にキョトンとした顔で首をかしげて返した。
「いえ、初耳です。
お土産、ですか。何を持ってきてくださるんですかね」
フィーネが笑顔で言った。
俺はそんなフィーネに、シルビアに言われた内容を言った。
「・・・家庭教師、ですか」
フィーネの顔が少し曇った。
「どうかしたんですか?」
「い、いえ!何でもありません」
俺に訪ねられて、フィーネは慌てて答えた。
「フィーネさん」
俺は真剣な顔でフィーネさんを見た。
「・・・ガルファット様には敵いませんね」
すると、フィーネは諦めたように笑った。
「すみません、実は私少し人見知りなんです」
意外な言葉だった。
勝手な見方だけど、フィーネさんなら誰とでも仲良くなれそうだなと俺は思っていた。
「人見知り、ですか?」
「はい、ロミアちゃんやカリアさんとは前から少し関わりがありましたし、村の人達とも少しずつ接していって今では普通に話せますが、最初はビクビクしてました」
フィーネが少し恥ずかしそうに言った。
人間、表面だけじゃ分からないことってあるんだな。
「ん?そういえばフィーネさんは何でうちでメイドをやっているんですか?」
ただ単に疑問に思ったから訪ねただけだった。
だけど、その質問をした瞬間フィーネの顔は一瞬ではあったが、今まで見たことがないくらい悲しそうな表情をした。
「・・・すみませんガルファット様、その質問に答えるとなると少し悲しいことも思い出さなきゃいけないので、今回はお断りさせていただいてもよろしいですか?」
フィーネが申し訳なさそうに言ってきた。
何だろう、そう言われちゃうと俺の方がものすごく申し訳なく感じる。
「はい、むしろ知らなかったとはいえ僕の方こそ失礼しました」
俺は、深く頭を下げてフィーネに謝った。
「そんな!頭をあげてください!」
フィーネが慌てて言ってきた。
フィーネに言われ、俺頭を上げた。
すると、フィーネが優しく笑っていた。
「もし機会があれば、その時にお話します」
フィーネのその言葉を最後に、俺たちはその会話をやめた。




