第13話 それぞれのやり方で
シルビアにヒントをもらった授業から4日が経過した。
今日の午前中は剣術の授業だ。
剣術の方は、魔法のように教わったものが出来なくてつまずくということはなかった。
ただし、未だにジークには勝てていない。
ジークだって剣王だ、そう簡単には勝てないのは分かっている。
だけど、せめて剣で防がせるくらいにはなりたいな。
まぁ、難しいことに変わりはないのだけど。
「どうした?ガル。手が止まっているぞ」
ジークに言われて気づいた。
どうやら、考え事をしている間に素振りが止まってしまっていたようだ。
今日の授業は、素振りから始まってその後は実戦の打ち合いだ。
いつものように、庭でジークに教わっている。
ちなみに、この頃は俺が素振りをしている時はジークも俺の横で素振りをしている。
何でも、素振りの型などではもう俺に言うことはないらしい。
そうなると、見ていてもつまらないから一緒に素振りをすることにしたとのことだ。
そんなジークに、俺は呟くように言った。
「父さん、僕は強くなっていますか?」
俺が言うと、ジークは素振りをしている腕を止めて俺を見た。
「そういえば、この頃は魔法のほうはロミアちゃんと一緒に受けているんだってな」
ジークに言われ、俺は頷いた。
「はい、ロミアと一緒に魔法の授業を受けていると、ロミアの才能のすごさが分かります。
僕なんて、すぐに抜かされますよ」
「実はな、ロミアちゃんの父親は俺と同じく村の警備隊をしているんだ。」
「え?本当ですか?」
俺が聞くと、ジークは笑顔で頷いた。
「あぁ、明るくて感じの良い奴だよ。
で、そいつが嬉しそうに言っていたんだよ。
“ロミアが最近、夜に魔力枯渇起こすまで魔法の練習をしているって”」
え?あいつそんな努力までしていたのか。
「お前に負けないようにするためだって言ってたらしいぞ」
「え?」
どういうことだ?あいつなら別にそこまでしなくても俺なんて。
「あの娘の中では、お前は目標なんだよ」
ジークは、いつの間にか真剣な顔になって続けた。
「あの娘にとって、お前は越えるべき壁であり努力をしなきゃ越えられない存在なんだよ。
俺にとっての師匠がそうだったようにな」
・・・俺は、そんなにすごい人間じゃない。
今はまだ俺のほうが上だが、それは前にシルビアに言われたように、あくまで俺のほうが早く魔法の授業を受けていたからだ。
昨日の事だが、ロミアは混合魔法を使えることが分かった。
もう、その時点であいつの方が上だ。
「そして、一人の教える側の人間として言わせてもらうなら、お前がそのままじゃ、お前はもちろんロミアちゃんも腐るかもしれないぞ」
腐る、その言葉になぜかゾッとした。
「腐るって、どういう事ですか?」
質問した俺の声に含まれていたのは、恐れだった。
「確かにあの娘には才能がある。
だがな、世の中上には上がいるしどこかで壁にぶつかるだろう。
その壁にぶつかった時に、あの娘を支えるのはそれまでの努力だ。
だけど、今のお前じゃ越えるのは簡単だ。
で、そんな簡単に目標を越えたあの娘の努力はいざというとき役にたたない」
ジークの言っていることはもっともだった。
もっともだからこそ、俺は何も言えなかった。
そんな俺に、ジークはしゃがんで頭を撫でながら言った。
「だからお前は、あの娘の越えなきゃいけない目標である誇りを持て。
自分より才能があるやつに目標にされる、嬉しいことじゃないか。
もしかしたら最後には抜かれてしまうかもしれない、それでも抜かされるその時まで努力してあがき続けろ」
目標である誇り、か。
考えたことなかったな。
「まぁ、お前が強くなったか分かる比較対象が少ないのは少し責任を感じるから俺も考えておくよ」
ジークは苦笑いしながら言った。
そして、ジークは立ちあがり俺のほうを向いて言った。
「それとガル、ロミアちゃんがすごいのはあの才能だけじゃないぞ」
「どういう事ですか?」
「あの娘の本当に凄いところは、これをすればお前に勝てると自分を信じて努力している所だ。
人間、これが結構難しいんだ。
だが、お前に言わせてもらうなら」
ジークは、少し間を置いて言った。
「努力をするなら、まずは自分を信じろ。
迷った努力は、決してお前の力にはならない」
ジークの言った言葉は、俺の心に深く刻まれた。
「・・・はい!」
俺がしたのは、誓いの返事だ
これだけは、しなきゃいけないと思った。
「よし!じゃあ、打ち合い始めるか」
ジークに言われ、俺たちは授業を再開した。
「こんにちわー」
剣術の授業を終えた昼下がり、昼食を食べた後自室で椅子に座り本を読んでいるとロミアの声が聞こえた。
「あらロミアちゃん、いらっしゃい
今、ガルを呼んでくるわね」
シルビアの声もした。
俺は本を閉じて、少しの間目を閉じた。
頭の中に響いてくるのは、ジークの言葉。
”目標である誇りを持て“
ドアをノックする音が聞こえた。
「ガルー、ロミアちゃんが来てくれたわよー」
ドア越しにシルビアの声が聞こえた。
「はい、今行きまーす」
俺は返事をして立ち上がった。
ドアを開けると、横にシルビアが立っていた。
「では母さん、行ってきます」
俺がドアを閉めて笑顔で言うと、シルビアは笑顔で言った。
「はい、行ってらっしゃい。
暗くなるまでには、帰ってくるのよ」
俺は、はい!と返事をして玄関にいるロミアに会いに行った。
「ガルー!」
ロミアは俺を見つけると、笑顔で手を振った。
俺は走ってロミアの手を握った。
「ロミア!行こう!」
「え!?は、はい!」
ロミアは顔を赤くして動揺している。
可愛いけど、何かあったのかな?
俺はそのままロミアの手を引いて、一緒に家を出た。
そのまま少し走った。
方角としては、俺とロミアが最初に出会った川の方だ。
そして、少しして俺とロミアは止まった。
「ロミア、急にごめんな」
俺はロミアのほうを見て、苦笑いをして言った。
「ううん、大丈夫だけどどうしたの?」
ロミアが不思議そうにしながら、俺に聞いてきた。
「ちょっと試したいことがあったんだ」
「試したいこと?」
「そう、ただその前に・・・」
俺はそう言って、ロミアを抱き締めた。
「ロミア、ありがとう」
ジークに言われてから、俺なりにロミアに対してどうすれば良いかを考えた。
そして、俺が出した答えがこれだ。
“感謝”
ロミアが俺と出会ったこと、俺を目標にしてくれていること、そしてその目標であることを喜べること。
だけど、ただ感謝するだけじゃ俺はロミアの目標に相応しくない。
だからこそ、”出来ないなりに試行錯誤して足掻くんだ“
「ガル、大丈夫?今日、何か変だよ?」
ロミアが少し動揺しながら、俺に聞いてきた。
まぁ、突然こんなことされればそうだよな。
「大丈夫、何でもないよ。
それで、ちょっと頼みがあるんだけどいいかな?」
俺はロミアから離れて言った。
「ん?何?」
「竜巻を撃ってほしいんだ」
「竜巻?分かった」
そう言うって、ロミアは俺から離れようとした。
まぁ、今までお互いに向き合って魔法を撃つ授業をしてきたから当たり前なんだけど、今回は違うんだよね。
「ロミア、待って」
俺は、ロミアの手を掴んで引き止めた。
「え?」
ロミアは驚いた顔で、俺を見た。
「今回は俺の横で、俺と同じ方向を見て撃ってほしいんだ」
俺が言うと、ロミアはすぐ笑顔になった。
「うん!分かった!」
そう言うとロミアは、俺の横に立って左手の手のひらを空に向けた。
そして、魔力を注入する。
それを見て、俺も右手の手のひらを空に向けて魔力を注入する。
「ガル、撃っていい?」
ロミアに聞かれて、俺は頷いた。
「竜巻!」
ロミアの手のひらの前に出来た、直径20センチほどの竜巻が空に向かって飛んでいく。
俺は、その竜巻に向かって準備していた魔法を放つ。
「炎竜!」
俺の手のひらから、炎の竜が竜巻に向かって飛んでいく。
大きさは、ロミアの竜巻に合わせた大きさにした。
竜巻に当たった竜は、風を赤く染めていく。
「え?ガル、これって・・・」
ロミアが驚いて、口を開けている。
そう、竜巻は自らの風を紅蓮の炎に変え威力を増して空に向かっていく。
「あぁ、これが俺のオリジナルの“炎の竜巻”だ」
前の授業の時に、ヒントはあった。
ロミアの炎が俺の風を飲み込んだときに。
多分俺にこの方法を教えるために、シルビアはロミアにわざとあの指示を出したのだろう。
一気に2つをやるから難しいんだ。
なら、片方を出した後にもう片方を合わせれば良い。
俺は、混合魔法ができるほど器用じゃない。
だけど、ロミアの目標として最後まで足掻くって決めたんだ。
やれることは全部やる。
「すごいよ!ガル!」
ロミアが俺の腕に抱きついてきた。
「まだまだ負けられないからな。
練習して、今度は一人で出来るようにならなきゃ」
俺は、笑顔でロミアを見て言った。
その後、俺とロミアは色々な混合魔法を二人で試した。
その日の夜、自室で椅子に座って読書をしているジークの元にシルビアが訪ねていった。
「どうしたんだ?そんなニヤニヤして」
俺は、目の前にいるシルビアに言った。
「朝の稽古、途中からですけど見てました」
そう言うと、シルビアは静かに俺の前の椅子に座った。
「かっこ良かったですよ、あの時のあなた」
シルビアは、優しい笑顔で言ってきた。
「・・・言ったことを後悔はしていないけど、もう少し言い方があったのかなって思っているよ」
あの時、言いたいことは言えたし、伝えたいことは伝えられたと思う。
ただ、もう少し違う良い伝え方があったんじゃないかと思う。
「ああいう時、お前が羨ましく思うよ」
俺が羨ましそうに言うと、シルビアは笑った。
シルビアは、誰かに物事を伝えたり教えたりするのがうまい。
昔からそうだったので、よく分かる。
「私は好きですよ?あなたみたいに素直な言葉で言う人」
「ありがとな」
シルビアに慰められ、俺は苦笑いした。
「そういえば、あれはどうするんですか?」
「あれ?」
俺が聞くと、シルビアは笑いながら言った。
「忘れたのですか?ガルに強くなったかの比較対象どうにかするって言ったの」
・・・あー、言ったなそういえば。
「今度、夜勤明けに町まで行って見てくるよ」
俺が言うと、シルビアは笑顔で言った。
「分かりました、楽しみにしてますね」
俺は、そんなシルビアを見て笑った。
そして俺は、それぞれが一生懸命に光る星達の見える夜空を眺めた。




