第12話 競う相手がいることの幸せ
ロミアの家にお邪魔してから、3日が経った。
「はい、ではこれから魔法の授業を始めます」
いつものように庭でローブ姿に杖を持ったシルビアが言った。
ただ、今日はいつもとは違う点がある。
「じゃあ、ロミアちゃんも今日からよろしくね」
「は、はい!お願いします!」
ロミアがシルビアにお辞儀をした。
そう、今日からロミアも俺と一緒にシルビアの魔法の授業を受けることになった。
ロミアの家にお邪魔した次の日、ロミアと話し合ってまずカリアにロミアが魔法を使えることを話した。
最初ロミアにカリアに話す提案をしたら、少し戸惑っていたけど俺も一緒に話すと言ったら最後はOKしてくれた。
あのまま黙っておくって選択肢もあったけど、ロミアは無詠唱で魔法を使える。
俺なんかよりよっぽど才能があるからな。
伸ばせるなら、それを伸ばしてやりたいんだよね。
カリアも最初は驚いていたけど、すぐに「すごいじゃないか!ロミア!」って嬉しそうにロミアを褒めてたし結果的に話してよかったと思う。
ちなみに、シルビアにロミアも一緒に魔法の授業を受けさせてほしいと頼んだのは俺だ。
どうせなら、ちゃんと授業を受けたほうがいいかもしれないと思ったからだ。
まぁ、それは理由としては半分でもう半分は俺がロミアと一緒に授業を受けたかったからなんだけどね。
同年代の子で、しかも天才の子が一緒なら俺も良い刺激になるかもしれないし。
「まずは、ロミアちゃんがどれくらい魔法を使えるか確かめてみようかしら」
俺がそんなことを考えていると、シルビアがロミアに言った。
「ロミアちゃん、今から私の言った属性の魔法を使っていって」
シルビアが言うと、ロミアは頷いた。
ちなみに、ロミアは魔法の基礎知識は家にあった本を読んですでに修得済みだった。
確認したら、俺と知っている知識に大差はなかった。
まぁ、今日から授業だったからロミアの知らない知識は昨日教えはしたけど、別に焦って教えなくても支障はなかった気がするけど。
「うん、このくらいで大丈夫よ。
ありがとうね、ロミアちゃん」
どうやら、俺が考え事をしている間にロミアとシルビアのほうは終わったらしい。
「改めての感想だけど、すごいわね。
ロミアちゃん、誰かに魔法を教わるのは本当に初めて?」
「は、はい!」
シルビアに言われ、ロミアが慌てて頷く。
確かに、一通り見たけどロミアの実力は本物だ。
基本属性の魔法なら、4つとも中級まで使えるし。
治癒魔法も初級なら使えるからなぁ。
俺も今あげたものは使えるけど、教わって使えるようになったからいかにロミアがすごいか分かる。
「ここまで出来れば“あれ”ができるわね」
『あれ?』
俺とロミアは、シルビアの言葉に首をかしげた。
ん?あれって何だ?
「ガル、そこに立ったままでいてちょうだいね。
ロミアちゃんはガルから少し離れて」
シルビアに言われたロミアは、頷いた後俺から3歩ほど離れた。
そしてシルビアは、俺達から20歩ほど離れた所まで移動し俺達のほうを向いた。
「ガルー、今から私があなたに向かって魔法を使うので、魔法で相殺してくださーい」
「・・え?」
魔法で相殺?つまり、シルビアの攻撃を防げってことか?
「それじゃあ行きますよー」
俺が考えている間に、シルビアが杖を俺に向けて魔法の準備をする。
「我が身の力を如何なる物をも燃やす炎へと変える」
あの詠唱は・・・火弾か!
ていうか、ここまで聞こえてきているということは、シルビアが声を大きめにして詠唱してくれているのか。
こういうところは本当に優しい人だ。
なら、俺が準備するのはあれだな。
俺は、右手の手のひらをシルビアに向けた。
そして、魔力を注入していく。
「火弾!」
シルビアは、俺に向かって火弾を放った。
だが、俺の方も準備は完了していた。
「行け!水弾!」
俺は、そのファイアーボールに向けて水弾を放った。
2つの魔法が中間で衝突する。
ジュウゥゥーという音が聞こえ、2つの魔法は相殺された。
鍛冶屋が熱した鉄を水につけたときのような音だった。
「正解よ!ガル!」
シルビアは嬉しそうに叫んだ。
火の魔法には水を使う。
当たり前の知識だけど、実践して使うのは唐突だと難しいものだ。
そっか、だからシルビアはわざと詠唱を声を大きくして言ったのか。
俺が考える時間を作るために。
「今やったのをガルとロミアちゃんの2人にやってもらいたいの」
いつの間にかすぐ近くにまで来ていたシルビアが、俺とロミアに向かって言った。
「待ってください、先生。
僕はともかく、ロミアは今日が授業の初日です。
さすがに、難易度が高くないですか?」
俺が言うと、シルビアは笑顔で言った。
「大丈夫よ、最初の確認である程度出来ることが分かっているから。
それに、今のロミアちゃんの実力はガルを5とするなら4くらいはあるのよ。
実力的に大きな差はないのよ」
マジですか。ロミア凄すぎませんか?
「ちなみに、その1の差は何ですか?」
俺が聞くと、シルビアはしゃがんで俺に小声で耳打ちしてきた。
「ガルのほうが、早く魔法の授業を受けてるでしょ?
その差よ」
・・・そんなの、あってないようなものじゃないですか。
それだったらむしろ、ロミアのほうが俺より上な気がしてきた。
シルビアは立ち上がって、俺とロミアに優しく言った。
「ただ、素晴らしいことなのよ。
自分と同じくらいの実力の持ち主がすぐ近くにいて、一緒に授業を受けれる。
これほど恵まれた環境は、なかなかないものなのよ。
それに、さっきのは実戦経験を養うことができるわ。
ガルやロミアちゃんの年でそんな授業が受けられるのは、良いことよ」
なるほど、確かにシルビアの言うことには一理ある。
「ロミアはどう?」
俺に聞かれて、ロミアは慌てて答えた。
「で、できる・・かな?」
疑問形で返ってきたってことは、自信はないってことか。
まぁ、そりゃそうだろうな。
それを聞いたシルビアは、しゃがんでロミアの頭を撫でながら言った。
「大丈夫、ロミアちゃんの実力ならできるわ。
それに、最初は私がサポートするから緊張しなくていいのよ。
何かあったら、カリアに合わせる顔がないし」
なるほど、それなら安心だ。
「どう?やってみる?」
シルビアがロミアに優しく問いかける。
「はい!」
ロミアは笑顔で元気良く返事をした。
「じゃあ、ロミアちゃんは私と一緒に来てください。
ガルは、そこで待機です」
「分かりました」
俺が返事をすると、シルビアとロミアは移動し始めた。
まぁ、とりあえずはやって慣れるしかないか。
「では、まずはガルから魔法で攻撃してもらっていいですよー。
先攻と後攻は交互にするので、頭に入れておいてくださーい。
あと、先攻側は魔法を使う前に合図をしてくださいねー」
先ほどと同じく、シルビアが俺から20歩ほど離れた場所から少し大きめの声で指示を出してきた。
「分かりましたー」
俺も少し大きめの声で、返事をする。
さて、とは言ったものの何の属性の魔法を使うか。
火と水はさっき見たし、風か土かな。
なら風かな、あれなら相性良いし。
「いきまーす」
俺は、右手をあげてシルビアとロミアに合図した。
それを見てシルビアとロミアも、手をあげた。
俺は、右手の手のひらをロミアに向けた。
そして、魔力を注入していく。
そういえば、ロミアは混合魔法使えるのかな?
俺は未だに使えないから、これでロミアが使えたら俺本当に抜かされちゃうな。
この授業で何かヒントでも掴めればいいけど。
そんなことを考えている間に、魔力の注入が完了した。
ふとロミア達のほうを見ると、ロミアも俺に手のひらを向けて魔力を注入しているようだ。
シルビアがロミアに何かを伝えているが、声が小さくて聞き取れない。
まぁ、とりあえず撃ってみるか。
「行け!風弾!」
俺が叫ぶと、手のひらの前の風の塊は放たれた。
すると、ロミアも「火弾!」と叫んで炎の球体をこちらに撃ってきた。
・・・なんだ?
俺は何とも言えぬ感覚に襲われた。
何とも言えないが、強いて言うなら嫌な感覚だ。
俺は、右手の手のひらに魔力を注入した。
属性は水、そしていつもより多めに魔力を注入する。
・・・そうか、やっと分かったぞ。
今ぶつかろうとしているのは、火と風だ。
もし、2つがぶつかったなら・・・
俺とロミアの魔法は中間地点でぶつかり、そして俺の風はロミアの炎に”飲まれた“。
やっぱりか!風は火を強く効果がある。
火の魔法を少し強めにすれば、風の魔法勝つのは明らか。
なおかつ・・・
ロミアの炎は、さきほどよりも数倍大きくなって俺に向かってきている。
風の魔法分威力がでかくなる!
俺は、右手の手のひらを地面についた。
魔力の量は充分、あの火力でも・・・いける!
イメージしろ、自分の身を守る壁を。
「水の壁!」
俺の目の前に、自分の身長の2倍ありそうな水の壁が現れた。
ロミアの炎は俺の水の壁にぶつかり、ジュゥゥーという音を立てて消えた。
ふぅ、危ない所だった。
ていうか、俺が気づかなかったら今頃丸焦げになってた可能性もあるんだが。
シルビアは優しいのかと思っていたけど、結構スパルタだな。
・・・いや、待てよ。
そうか、そういうことか。
やっぱりシルビアは優しい人だな。
「ガルー、今日の授業はここまでにしましょう」
俺が考えていると、すぐそこまでシルビアとロミアが来ていた。
「はい、分かりました」
俺は、シルビアとロミアに近づいた。
そして、シルビアに向かって笑顔で言った。
「先生、今日は良いヒントをありがとうございました」
俺が言うと、シルビアはフフッと笑った。
「さぁ?何の事かしら?」
気づいて言っているな、この人。
ロミアは、内容が分からないようできょとんとしている。
「では、今日の授業はここまでにしましょう。
二人とも、お疲れ様」
『ありがとうございました!』
俺とロミアは、二人で頭を下げた。
「さぁ、そろそろお昼ご飯ね。
ロミアちゃんも一緒に食べていきましょう?」
「は、はい!ありがどうございます」
その後、ロミアも一緒にうちで昼食を食べた。
ちなみに、昼食を食べ終わったあと俺は自室でロミアに今日の授業の事を褒めた。
俺の風の魔法に対して、火の魔法で対応したことだ。
すると、ロミアは小声で俺に返してきた。
「あれ、ガルのママに言われてやったの」
「ん?どいうこと?」
「えっとね、ガルが魔法の準備して手のひらを向けて少ししたらね。
ガルのママが、ガルは風の魔法を使うからロミアちゃんは火の魔法を用意してって言われたの」
ロミアが少し俯きながら言った。
ということは、シルビアは俺が魔法を撃つ前に何の属性の魔法を撃つか分かったのか。
逆に言えば、相手の撃つ魔法の属性を知るすべがあるということだ。
・・・すごいな、あの人は。
「ロミア」
俺が言うと、ロミアは俺のほうを向いた。
「何?」
「これからも、よろしくね」
ロミアは、笑顔で俺に抱きついてきた。
「うん!」
俺は、そんなロミアの頭を優しく撫でた。




