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第27話 なんで神宮寺が被害者みたいな感じになってるんだ?

 (蒼視点)


 休み明けの初日。

 学校から帰宅した俺は、自室のベッドに倒れ込んで今日起きたことを思い出していた。


(……茉莉の用事って、一体なんだったんだろ)


 たぶん凛のことだよな。

 変なマネをしてないといいけど……。


 それにしても、凛はどうしてあんな行動に出たんだろう。

 そもそも噂を流したのは神宮寺だと思ってたんだけど……違ったのか?

 

 俺に謝ってきたのは、話したこともない女子が数人だけ。

 当の神宮寺は何事もなかったみたいに、普通に過ごしていた。


 それに、今日の教室はなんだか変だったよな。

 あんなことがあった翌日なのに、誰も凛に話しかけようとしなかったんだから。


 普通なら『昨日のあれ、何だったの!?』って質問攻めにあってもおかしくないはずだ。


 あの凛だぞ?

 学年で一番モテるやつが急にあんなこと言ったのに、次の日に全員スルーなんてあり得るか……?


(茉莉もこれに違和感を覚えたのか……)


 胸の奥がざわついて、嫌な予感がしてくる。

 そんなことを考えていた、その時だった。



 ――ガチャリ。


「ただいまっ♪」

「ん? あ、茉莉か……おかえり」


 自分の家みたいに、当たり前の顔で俺の部屋に入ってきた。


 ……いや、ただいまって。


 あまりにも自然な『ただいま』に、思わず『おかえり』と返してしまった。

 そのままベッドの横にちょこんと腰掛けた茉莉に、俺は声をかける。


「用事はもう終わったの?」

「あ、うん……♪」


 返事をしながら一瞬だけ目を泳がせる茉莉。


(……いや分かりやすっ)


「なんかあった時の顔じゃん。……凛のこと?」

「え……っ!? 顔に出てた!?」


 バレバレだったことにショックを受けたみたいで、茉莉は両手で自分の頬をペタペタと触りながらガックリと肩を落としている。

 ここまで分かりやすいと、いっそ清々しい。


「うん。それで……言えない感じ?」

「……うーん」


 もう一度聞いてみると、茉莉は眉間にちょこんとシワを寄せて、少しだけ悩み始めた。


「今はまだ言えない……かな。ごめんね」


 どうやら『まだ』言えないらしい。


 ……いつか教えてくれるのかな。


 その後、茉莉は特に俺に用事があるわけでもなかったらしく、『あーくんは何も心配しなくていい』と言い残して帰っていった。


(……よく分かんね……もう寝よ)


 久しぶりの学校ということもあり疲労困憊だった俺は、気を失うように眠りについた。





 ◇


 翌朝。

 学校に着いた俺たち三人は教室に入る。


 すると、


「左条くん、今までごめんなさい」

「俺も左条のこと勘違いしてたわ、ごめん」

「俺もごめんよ~」

「てか左条くんってすごくかっこいいんだね! びっくりしちゃった」


 クラスのみんなが俺のもとへどっと押し寄せてきた。


 ――口々に飛び交うのは、怒涛の謝罪と手のひらを返したような褒め言葉。


 今まで遠巻きにディスってきていた連中が、態度を一変させて頭を下げてくる。

 謝罪の嵐と脈絡のない褒め言葉に、俺はただただ圧倒されるしかなかった。


(……うわなんだこれ、気持ちわる)


 そんな風に引き気味の俺の前で、さらに意外な人物が口を開いた。


「左条……その、ごめんな」

「……?」


 なんと、あの神宮寺が頭を下げてきたのだ。


(こいつ、謝れる奴だったのかよ)


 神宮寺のまさかの一面に内心驚いていた俺だったのだが――ふと横を見ると、茉莉がブチ切れ寸前の凍てつくような表情でヤツを睨みつけている。


 ……あれ、茉莉? 

 なんでそんなに激オコなの?


 みんなも知っているとは思うが、この顔の時の茉莉はまじでやばい。

 ここで空気を読まずに『どしたん話きこか?』なんて軽いノリで話しかけようものなら、鋭い言葉の刃でズタズタに切り刻まれてしまうだろう。


 さて、どうしようか。


 家にいる時であれば、俺が全力で従順な下僕になりきることで事故を回避できるのだが……あいにくここは教室だ。

 

 詰んだ。

 そう諦めかけていた、その時――。


 ――ガラガラッ。


 凛が教室に入ってきた。


 さっきまで騒がしかった教室が秒で静まり返る。

 凛は俺と目が合うと一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに気まずそうに目を伏せ、自分の席へと歩き出した。


 ――だが直後、その静寂は最悪な形で破られることになる。



「凛ちゃん……何か言うことないの?」

「…………」


 静まり返った教室に、神宮寺と同じグループの女子の声が響いた。

 名前はえっと……確か、なんとか千夏だったか。


 凛はというと、苦しそうな表情を浮かべたまま黙り込んでいる。

 その視線は一瞬だけ神宮寺の方に向けられたが、すぐに逸らされた。


 クラスの連中は、怪訝な表情で凛を睨みつけている。

 今まで俺に向けられていた視線は、好奇や軽蔑が大半だったのだが、いま凛に向いているのは苛立ちや憎しみに近いドロドロしたものだ。


(これ……大丈夫なのか?)


 さらに、次の言葉が教室に響いた瞬間、俺は絶句した。


「ねえ、なんか言いなよ! 拓海だって……凛ちゃんに裏切られて、すごく傷ついてたんだよ……」


 千夏さんが涙目で必死に訴えかけている。


 ……いや、ちょっと待ってくれよ。


 なんで神宮寺が被害者みたいな感じになってるんだ?




 ◇(神宮寺視点)


 騒然とする教室。

 俺は心の中で激しく歓喜の声を上げていた。


(千夏、よくやった! これで流れは完璧だ)


 凛がいきなりあれを打ち明けた時は焦った。

 でもグループラインを見た時に手を打っておいて正解だったぜ。

 昨日の凛の態度次第では俺も罪を被ってやっても良かったんだけどな。


 まあいい。

 凛……待ってろよ。


 ――限界まで追い込んだら、俺が救ってやるから。




 


 元々、誰もが認める公認カップルのようにはやし立てられていた分、凛に『裏切られた』格好になった神宮寺。

 千夏の一言によって教室内には、蒼よりも神宮寺のほうに同情が集まるという妙な空気が漂い始めている。


 ――茉莉は、そんな神宮寺をただひたすらに冷え切った瞳で見据えていた。

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