第25話 え、そういうことだったの?
「ストーカーって……嘘だったんだよね?」
(……え、どういうこと?)
なぜあれが嘘って分かったんだ……?
呆然とする俺とは反対に、茉莉はいつも通りの落ち着いた声で聞き返した。
「……なぜそう思ったのですか?」
すると女子はスマホを取り出し、画面を見せてきた。
俺と茉莉、そして伊藤さんも、その画面を真剣な顔で見つめる。
そこに映っていたのは――クラスのLINEグループのトーク画面だった。
目の前の女子は悔しそうな、怒っているような複雑な顔をしていて、その場の空気はピリピリと張り詰めている。
そんな中で、俺は別の意味で複雑な気持ちになっていた。
(……俺、こんなグループが存在することすら知らなかったんだけど)
隣にいる茉莉と伊藤さんを見ると、二人とも俺とまったく同じ反応をしていた。
(あ、茉莉たちも招待されてなかったのか……よかった、仲間だ)
その状況にひとまずホッとしつつ、俺は再びスマホの画面に視線を戻した。
しかし、そこに貼られたメッセージを読んだ俺は絶句する。
写っていたのは、凛が書き込んだ長文のメッセージだった。
――。
『いきなりごめんなさい。みんなに伝えたいことがあります。
私のことで変な噂が立てられている左条蒼くんについてです。
彼が私のストーカーだという噂は、事実ではありません。
誕生日の朝、私の発言が原因でみんなに誤解させてしまいました。
蒼は私の幼馴染で、誕生日は元々二人で遊ぶ約束をしていました。
それなのに私はみんながいる前で、蒼がストーカーであると誤解されるような発 言をしました。
今まで何も言わずに黙っていて本当にごめんなさい。
私のせいで蒼を傷つけてしまったこと、どれだけ謝っても許されることではないと思っています。本当にごめんなさい。』
……なんだよこれ。
伊藤さんは口元に手を当てて『えっ……』と目を見開いている。
しかし茉莉は、目を細めて何やら難しい顔で考え込んでいた。
すると、目の前の女子が震え声で口を開く。
「私……あの噂が回ってきた時に勝手に納得しちゃって……そのまま色んな人に回しちゃったから……」
彼女の顔には怒りが滲んでいる。
――はたして自分の行いに対するものだろうか。
――それとも、凛の嘘に対するものだろうか。
どうか前者であってほしい。
「だから……本当にごめんなさい……!」
「私もごめんなさい……」
「私も……」
目の前の女子がもう一度謝ってきた。
そして、一緒に来ていた女子たちによる謝罪ラッシュも始まってしまう。
確かにあの日のことを思い出すとムカついてくるが……。
今の俺には茜のほかに、伊藤さんや茉莉という気の置ける友達が出来た。
ぶっちゃけ……あのことはもうどうでもいいし、むしろ蒸し返される方がよっぽどダルい。
ふと茉莉を見ると、彼女は黙ったまま目の前の女子たちを冷たい目で見つめていた。
(おっと、これはまずい……)
茉莉が『泣かすぞ♪』モードに入る前に、さっさとこの場を終わらせた方がよさそうだ。
「いいよ気にしないで。ほら、もう元気だし」
「でも……」
「いいからいいから、もう終わったことだから!」
女子たちは謝罪に手応えがなかったのか、納得のいかない様子だったが……なんとかその場は引き下がってくれた。
(ふぅ、危なかった……。伊藤さんならともかく、茉莉のスイッチが入ったら俺でも止める自信ないからな)
安堵のため息をつきながら、もう一度茉莉を見る。
彼女は目を細めたまま、まだ何かを考えているようだった。
……なんか引っかかることでもあるのか?
不思議に思いつつもちょうど予鈴が鳴ったので、俺は自分の席に戻る。
茉莉も静かに自分の席へと歩いていった。
◇
――キーンコーン、カーンコーン。
「ふう。やっと終わった~」
6時間目の授業が終わった瞬間、俺は思いっきり背伸びをした。
「久しぶりだから、けっこう疲れたね……」
隣の伊藤さんもぐったりとしている。
めちゃくちゃ眠そうな顔で、ぼーっとこっちを見つめてきた。
やがてホームルームが終わり、俺と伊藤さんは教室の一番後ろにある茉莉の席へと向かった。
茉莉は神妙な面持ちで、カバンに教科書をしまっている。
「早く帰ろ……久しぶりの学校で疲れた」
俺がそう声をかけると、茉莉はパッと表情を切り替えていつもの可愛い笑顔を向けてきた。
「今日は先に帰ってて♪ あ、それとあとであーくんの家に寄るかも」
「え? 何かあるの?」
「ちょっと用事♪」
「そ、そうか……」
茉莉のこの笑顔……何かある時の顔だ。
今日一日ずっと考え事してたみたいだしな。
でも詮索しすぎるのもよくないよな……。
「分かった。……何かあったら連絡して」
俺たちはそう言い残し、二人で先に帰ることにした。
◇(水無瀬茉莉 視点)
帰りのホームルームが終わった後、わたしはずっと今日の出来事を考えていた。
(夏野さんの件……やっぱり、何か引っかかる)
あのわがままで自分勝手な夏野さんが、わざわざみんなに真実を話して謝るなんて考えにくい。
……もしかして、わたしが追い詰めたからおかしくなっちゃった?
それなら別にいいけど。
でも、うーん……やっぱり何かある気がする。
それに、今日の夏野さんは一日中誰とも話さず孤立していたのに――神宮寺拓海だけは、コソコソと彼女に話しかけていたのを見た。
(……気になる)
わたしは夏野さんのあとをつけてみることにした。
(確か夏野さんの家はあーくんの隣だ。何もなければそのままあーくんの家に行ける)
「今日は先に帰ってて♪ あとであーくんの家に寄るかも」
あーくんにそう伝えて先に帰ってもらったわたしは、遠くから夏野さんの後ろをこっそり追いかけた。
夏野さんは一人で教室を出て、そのまま校門を抜けていく。
わたしは足音を完全に消しながら、見つからないように一定の距離を保ってその後ろ姿を追った。
けれど通学路の曲がり角に差し掛かったところで、夏野さんの姿が視界から消えてしまった。
(見失ったら面倒……)
わたしは少し早歩きになり、息を潜めながら小走りで角を曲がる。
夏野さんを見失っていないかと焦りながら前を向いた――その時。
飛び込んできた信じられない光景に、私は慌てて曲がり角の陰へと引っ込み、顔だけをひょっこりと出した。
目の前に広がっていたのは――。
あの男――神宮寺拓海が、夏野さんを強く抱きしめている姿だった。
え、そういうことだったの……?




