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第13話 バーサーカーな伊藤さん

「私が左条くんと付き合ってます!!」


 その一言が放たれた瞬間、教室を支配していた静寂がさらに一段と深まった。


(……え、伊藤さん?)


 伊藤さんは俺の手首をがっちり掴み、力強い表情で凛の方を見据えている。


 唐突に言葉を遮られた茉莉は、状況がまったく理解できていないご様子で『へ?』と間抜けな表情で伊藤さんをポカンと見つめていた。


 すると伊藤さんは『任せて!』と言わんばかりに、覚悟の決まった顔でぐっと力強く頷く。


(……ちょ、待て待て待て)


 ……あれ、もしかして。

 伊藤さん、俺の護衛役に茉莉も加わったことを知らないんじゃね?

 だから自分を犠牲にしてまで、こんな無茶な真似を……


(なんて友達思いなんだ……!)


 やはり伊藤さんは優しい。

 優しすぎる。


 それに比べて茉莉というやつは……


(……こいつも『俺と付き合ってる』って言いかけてたよな)


 伊藤さんはまだ分かるが、こっちはなんだ?

 悪ふざけが過ぎるわ。


 ……まったく、とんだ『迷惑系大天使』だ。


 それより、この状況を何とかしなければ。

 

 でもどうする?

 いま俺が『付き合ってない』なんて言えば、伊藤さんが振られた形になりかねない。

 かと言って護衛役のことを正直に話せば、俺はまた勘違いストーカー野郎のレッテルを貼られるだろう。


 なら……


「ちょっと伊藤さん!茉莉も!俺のこと、からかいすぎだって!ハハハ……」


 俺は伊藤さんに決死の目配せで合図しながら、わざとらしくお茶目に振る舞ってみせた。


(……伊藤さん!察してくれ……ッ!)


 やる気スイッチが入り完全覚醒した伊藤さんは俺の意図を察したのか、頼もしい面持ちで俺に目配せで合図を返してくる。


(……よかった!伊藤さん、あとは頼んだ!)


 そして伊藤さんは大きく息を吸い、みんなに聞こえる声で言い放つ。


「からかってないよ……!私が左条くんの彼女……だから!」


 違う、そうじゃなーい……ッ!!!


(……やばい、やばいぞ。なんか嫌な予感がしてきた)


 直後、その予感は当たってしまう。

 俺の右腕に絡みつく大天使がぎゅーっと力を込め、さらに顔を至近距離まで近づけてきた。

 

 俺は思わず顔を仰け反らせ、なんだなんだと慄きながらそちらを見る。


 すると――


「あーくん、浮気~?」


 不機嫌そうな大天使が、付き合ってもいない俺の浮気を疑ってくるではないか。


 それを見た伊藤さんは『え、どゆこと!?』みたいな顔で、顔を真っ赤にしてあわあわし始める。


 ああ、もうダメだ。

 カオスすぎる。

 収拾がつきそうにない。


 教室の雰囲気もやばい。

 クラスの男子たちは血走った目で俺を睨みつけ、女子は軽蔑の眼差しを向けてくる。


(……うわどうしよ)


 頭を抱え思考停止寸前に追い込まれていると……



 ――キーンコーン、カーンコーン



 タイミング良く、朝のチャイムが鳴った。


(……助かった~。とりあえず後で二人と話をしないと)


 俺は茉莉と伊藤さんに『あとで話そう』と小声で告げ、席についた。





 ◇


 昼休み。

 俺と茉莉と伊藤さんの三人は多目的ホールでお昼を食べながら話していた。

 以前は非常階段だったんだけど……さすがに暑いからね。


 俺は正面に座る伊藤さんに『付き合っている』と言った理由について聞いてみた。


 どうやら護衛役を頼まれたことで張り切り、勢いのままに……という感じだったらしい。

 伊藤さんはもっと落ち着いた性格だと思っていたから意外だったな。

 意外とバーサーカーな一面があるのかもしれない。


 でも、伊藤さんが俺の為にそこまでしてくれたことは嬉しい。


 その後、茉莉が護衛に加わることを話した。

 

(……てか今さらだけど護衛ってなんだよ。ウケるな)


 その話を聞いた伊藤さんは、


「え……!水無瀬さんも!?」


 と、驚いて少し大きな声を上げた。


 俺はすかさず人差し指を自分の唇に当て『しーっ』というポーズを取る。


「伊藤さん、少し声が大きいかも……」

「あっ!ごめん……」


 伊藤さんは『あっ』と手で口を覆い、周りをきょろきょろしている。


 そんな小動物チックな伊藤さんから自分の隣に視線を移すと……



「♪♪♪」



 お分かりいただけただろうか。


 隣で存在を主張する、何から何まで真っ白な美少女。

 俺の目が捉えたその姿は、紛れもなく大天使(茉莉)である。


 しかし、ここで注目していただきたいのは、その異様なまでの距離感だ。


 彼女はまるで最初からそこが定位置であったかのように、当然の顔で肩と肩をぴったりと密着させている。


 そして、次の瞬間――


「はい、あ~ん♡」


 茉莉が弁当の玉子焼きを俺の口元へと運んできた。


 本当に恥ずかしいからやめてほしい。


 しかし茉莉はいつもと同じ満面の笑みで食べるのを待っている。


(……もう、仕方ない)


 ――ぱくっ。


 わお、やっぱり美味しい。

 きっと周りの生徒には変な目で見られているだろうが、俺の評判はこれ以上下がりようがないので、もう気にしないことにした。

 

 それにしても茉莉がこの学校に来てからというもの、なんだかんだで気分が落ち込むことがなくなった気がする。

 そこは素直に感謝したい。


 まだ二日目だけど……茉莉とはずっと前から一緒にいたような、そんな不思議な感覚がある。


 茉莉に餌付けされながらそんな思いを巡らせていると、伊藤さんがどこか申し訳なさそうに口を開いた。


「水無瀬さん?昨日から気になってたんだけど……一つだけ聞いていいかな?」


(ん?茉莉に……?)


「どうしましたか?」


 茉莉は箸を持ったまま不思議そうに首を傾げる。


 すると伊藤さんは、少し間をおいてから静かに問いかけた。


「水無瀬さんは転校してくる前に、左条くんと会ったことがあるの……?」



 ……それ、俺も気になる!

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