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第78話 逃げ場なし

「あれが敵視状態か。さっきまでとは別格だな」


 単純な見た目なら今までと同様、ローブをまとった老人。


 ただ面構えは、怒りを露わにし、明確な殺意を帯びてる。


 眉尻が大きく吊り上がっており、吐く息が白い。


 場の空気が一変する。


 先ほどまで優勢だったのが嘘のようだ。


 それは早速、現実となる。


 まず、ボスに側にいた一人の青侍が泡を吹いて機能不全に陥る。


《あの青侍の頭部周辺に、大気の汚染を確認。ボスの魔法攻撃かな》


「ノーモーションで呼吸器への攻撃かよ」


《毒の対策なら任せて》


「ああ、頼りにしてるよ。それよりも――」


 秀矢は部屋の入口と階段に続く奧の道、それぞれに目を向けた。。


 理由は、その2か所に青侍がいるから。


 何故いるのか? 


 それは、いざという時の撤退が可能かどうかを確認するためだ。


 だが――望みは、呆気なく摘み取られた。


 部屋の入口の近くの床に、魔法陣が忽然と現れ、そこから大きな体躯の悪魔が現れた。


 そして、悪魔の巨大な爪で青侍が無残な姿となった。


 奧の方に言った青侍も、ステータスの表記がBREAKになっていた。


 ボスは視界にいる。


 どうやら、ボスが呼び出したと思われるモンスターにやられたようだ。


 事前に告知されてたとはいえ、姿形が人間である以上、青侍の死は堪える。


 救いは、黒い鉄板が顔を覆ったままであること。


 元々、未習熟の攻撃への対応力がない青侍は、後半戦において敵に対応する前に、機能不全に陥ることは織り込み済み。


 だから、後半戦開始早々、退路の調査に用いる手筈となっていた。


「みんな、僕のウルトは見えたかな?」


 長光が通話を開始する。


「うん、そうちゃんが予測した通りだったね」


 日下部が言った。


「ご指名とあらば、先鋒でも大将でもやってやるよ」


 荒川がやる気に満ちた声で答える。


「長光さん。ボスはともかく、取り巻きの方も気が抜けませんよ」


《今、青侍が見た映像を確認したけど、階段近くに出てきた吸血鬼っぽい奴と入口にいるデカい悪魔。どちらもデータベースに存在しないわ。相手するなら慎重にね》


「ボスだけでも厄介なのに、増援は想定外だったよ――仕方がない。作戦を少し修正しよう。僕と日下部さんと時田くんの三人は、取り巻きを最優先。荒川くんはボスをひきつけてくれ。但し、無理はしなくていい。対ボス戦の三千世界無双拳(きりふだ)は、僕たちが取り巻きを倒すまで温存するつもりで」


「リーダー。俺がボスを相手するのは構わねえが、あいつはやたらめったら魔法を使うから、常に注意を払っておけよ」


「ああ」


「んじゃ、集中すっから、ミュートにするぜ」


 荒川のステータス表記に、真横に向いたメガホンに斜線を上書きした画像――ミュートを示すアイコンが表示される。


「それじゃ僕たちは、速やかに取り巻きを排除しよう。時田くん、ウルトを頼む」


「わかりました」


 ――英雄叙事詩ヒーローモード、起動。


《見た目が悪魔と吸血鬼だから、私たちには丁度いいかもね》


 亜由美の言葉と同時に、奧の方から人型のモンスターが姿を現す。


 生気のない青白い肌に黒いタキシードと燕尾服をまとってる。


 鼻筋が高く、鋭角的な輪郭に二本の鋭い犬歯をのぞかせる。


《ちなみに初見のモンスターは正体不明だから、油断するな! って意味で必ず赤い警告文字が出てくるわよ》


 先ほどからチラつく赤いWARNINGの文字が疎ましい。


「そもそも撤退不可能なバトルだ。手加減する余裕は最初(はな)からねえよ!」


 巨躯の悪魔がこちらに目を向ける。


 人よりも巨大で、見る者を恐怖の底に叩きのめさんとする威圧的な外観。


 巨躯の悪魔が両碗を前に突き出す。


 次の瞬間、白いもやがうっすらと浮かぶと、ドラゴンのブレスを彷彿とさせる勢いで青白いスモークが噴き出す。


《急激な温度の低下を感知。あれに触れたら、体が凍るから気を付けて》


「冷気なら、こいつはどうだ――火葬散弾(ワイルドファイア)!」


 刃機の引き金を引く。


 先端から赤熱の砲弾が射出され、ごく短い距離を飛んだ後、炸裂。


 炸裂した砲弾からは、極微小の赤熱の粒子が散布され、悪魔の放った冷気を相殺した。


《水気の反応と湿度の変化はなし。状態変化の痕跡がないから、あの冷気は魔法のようね》


 魔法と科学の違いの一つに、核がある。


 科学は、原子の繋がりと組み換えで様々な物を形成。


 魔法は、エーテルの特性を変化させることで、様々な事象や物体を創造する。


 水なら温度の変化によって固体、液体、気体と様相が変化するが、魔法にはそれがない。


 だから魔法で創られた氷は、固体から液体に変化することなく消失する。


 そして相反する属性が衝突した場合、双方のエーテル量が拮抗してる場合は完全に消滅し、片側が極端に多い場合は少数の属性が消える。


《データ更新、オッケー。次は、もうちょっとエネルギー節約できるよ》


「助かる」


 悪魔の戦意が衰えてる様子はない。


 秀矢は、人間よりも2回り以上に大きな体躯の悪魔に、猛然と斬りかかった。


光魔斬(デモンスレイヤー)!!」


 刃機から放たれる光の粒子が、大きな刀身を形成。


 巨躯の悪魔を一刀のもとに斬り伏せた。


《いい感じね。対悪魔用最強の剣技(デモンスレイヤー)で倒せるなら希望はあるわね》


「3分過ぎたら使えないのが悩みどころだけどな」


 種族特攻スキルは、属性付与、剣技、パッシブ、各種スキルツリーにポイントを多く割り当てた先にある。


 種族特攻は悪魔(デーモン)霊体(ゴースト)不死者(アンデッド)、それぞれに対応した属性と剣技を合わせたスキルで、そこからさらに種族毎に3段階に分けて存在する。


 現在、素の状態で使えるのは2段階目までで、光魔斬(デモンスレイヤー)は3段階目の対悪魔特攻スキルのため、ウルトで全スキルを解放しないと使えない。


《気を付けて! ボスの攻撃が来るよ》


 足元を中心に光が広がる。


 幾度となく目にした魔法の予兆。


 冷静に、そして速やかに、光の陣から離れる。


 休む間もなく、悪寒が走る。


 身を切るような殺意が絶え間なく襲い掛かる。


 秀矢は、魔法攻撃に備えて回避行動に移った。


 先ほどまで身を置いてた場所に、カマイタチが素通りする。


 2か月間、積み上げた戦闘の経験と実績は、直感を研ぎ澄まし、考えるよりも早く体が応じるようになっていた。


「日下部さん、時田くん……安心するのは、まだ早いみたいだよ」


《うわあ、こうくるかぁ》


 身を翻し、視線を中央――ボスと対峙する荒川の方に向けた。


 嫌な光景が目に映る。

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