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第79話 増援

 ボスの周囲には、3匹のモンスターの姿があった。


 先ほど倒した巨躯の悪魔。


 長光と日下部が対応したであろう吸血鬼。


 加えて、新たなモンスターが1種類――四つの鳥の翼に獣の頭部、猛禽類の手足を備えた醜悪な人型を成してる。


 先ほど斬り伏せた巨躯の悪魔を基準にすれば、種族特攻の相性がよければ倒す事は容易だろう。


 しかし、目標はあくまでボスの討伐であり、取り巻きの討伐は手段の1つに過ぎないこと。


《今、長光先輩から吸血鬼の情報を受信したから秀矢も確認して》


 ウィンドウが一つ表示された。


 解析済みのモンスターに比べて、大部分が空白。


 だが、そこに記載されてるのは、先ほど入手したばかりの実体験に基づく信憑性の高い情報に違いない。


 秀矢は、ウィンドウに目を向けた。


『極力、物理的接触を避けること。このモンスターの手が体に触れると、ウロボロスゲージが減衰し、身体には倦怠感が生じることから、生き物からエネルギーを奪う特性を所持してることが考えられる』


吸血鬼(みため)に違わず、ドレイン系のモンスターってことね。秀矢のメイン火力は剣スキルだから気を付けてよ》


「安心しろ。あいつらとの握手会は願い下げだ」


《それにしても、また初見のモンスターかあ。普通の任務ですら厄介なのに、立て続けに出たらボスに集中できないじゃない!》


 ボスと聞いて、秀矢は荒川の様子をうかがう。


 取り巻きがいるためか、荒川から仕掛ける様子がない。


「時田くん、取り巻きの駆除をお願いしていいかな? 僕と日下部さんは、荒川くんに吸血鬼を寄せ付けないように務めるよ」


「わかりました」


 長光の提案は、秀矢としても願ったり叶ったりだ。


 荒川のウルトがもたらす甚大な火力の要は、ゲージにある。


 そして吸血鬼は、ゲージそのものを奪うため、ボスを確実に仕留めるには、無駄なゲージの損耗を避けることは必須。


 モンスターの数と実力を考慮すれば、ウルト発動中の秀矢なら一人で応戦可能と判断したのだろう。


 ならば、荒川の護衛と取り巻きの駆除を分担する方がありがたい。


 戦闘中に、余計な気を回さずに済むからだ。


 気を取り直し、モンスターに向き合う。


 超能力で敵を翻弄できる長光とあらゆる攻撃の相殺を得意とする日下部が護衛につくなら、フレンドリーファイアを気にせず多様なエーテル弾を使用可能と見ていいだろう。


 脳内から護衛を切り離し、邪魔者の排除に集中する。


 刃機のグリップを握り、引き金に指をかける。


浄化散弾(ディバインライト)!」


 先端からの銀色の砲弾が射出され、即座に炸裂。


 極微小のきらめく粒子がモンスターの群れに迫る。


 横殴りの粒子に見舞われたモンスターの群れが一斉に怯む。


 聖属性との相性は良さそうだ。


 粒子はボスも巻き込んではいるが反応がない。


 やはり前半戦同様、ボスには属性攻撃が効かないようだ。


「グルルルゥォオオオオオオオオオオオオ――!」」


 獣の悪魔が吠える。


 直後、嫌な気配を感じた。


《高エネルギー反応を検知! 秀矢! 絶対に避けて!》


 獣の悪魔が両手を前に突き出す。


 それは幾度となく目にした、言語を持たないモンスターが魔法を繰り出す所作。


 鳥の足のような手の先に、ゴルフボールサイズの白い球体が現れた。


 画面には『正体不明の高エネルギー反応を検知。回避行動を推奨』と警告文が表示。


「あの発光体から離れて!」


 長光が強い口調で言った。


 白い球体がこちらに向かって、放たれた。


 秀矢は、白い球体から逃げるように離れた。


 全員が部屋の端に到達した瞬間、目の前が真っ白になる。


 耳を劈く爆音。


 衝撃と音圧が全身を震わせる。


 理解した事は、凄まじい爆発が起こった事。


 光で眩んだ目が痛い。


 こうしてる間にもボスの魔法が絶え間なく迫りくる。


《ボスの攻撃は私が何とかするから、秀矢は目の回復に集中して!》


「わかった」


 アイボーがナノマシンを介して肉体に直接指令を出すことで、魔法を回避する。


 他の三人も同様で、既知の攻撃なら目が見えなくとも任務に影響はない。


「リーダー、すまないが今の爆発を何とかしねえと、ボスを抑えられねえ! 止められるか?」


「片手間だとキツイ。さっき試しけど、ちょっとやそっとの力ではビクともしなかったよ」


 超能力による詠唱の妨害は既に試みたようだ。


 だが長光が退避を周知した時点で、失敗に終わったのだろう。


「姐さんは、今の爆発を消せるか?」


「エネルギー量自体は問題ないけど、あの魔法の特性が明らかにならないと確実とまでは言えないわ。こればっかりは、試行回数を重ねるしかないわね」


「ただでさえボスの攻撃が厄介なのに、あんなものが何発も打ち込まれたら手も足も出ねえぞ」


「ここは一つ、師匠に頑張ってもらうしかないかな」


「俺?」


「そうだね、心苦しいけど、時田くんに更なる負担を押しつけるしかないね」


「俺の担当は、変わらないですよね?」


「うん、引き続き、取り巻きの排除に専念してもらう。ただ僕と日下部さんは、爆発の対策にリソースを割くことになる。他の攻撃はどうとにでもなるけど、あの爆発はいちいち回避してたら時間がいくらあっても足りないからね」


《そうね。戦いの基本は、相手のやりたい事を封じて、自分のやりたい事を押し付けること。だから、あの爆発は止められるなら止めた方がいいわね》


「次の詠唱の時は、出力を上げるよ。その代わり、付きっ切りになるから、僕の超能力(ちから)は他に回せなくなる」


「私も、あの爆発に警戒を強めないといけないから、大きい悪魔と吸血鬼に構ってる余裕がなくなっちゃうかな」


 爆発の威力もさることながら、最大の問題点は爆発の範囲だろう。


 部屋のマップと爆発の範囲を照らし合わせると、部屋の容積の約半分を占めており、爆発が生み出すエネルギー量は当然、致死量を優に超えてる。


「まあ、撃たせる前に倒せばいいさ。一匹ならどうとにでも――」


 態勢を整えようとした、その時――腹立たしくなる光景が目に飛び込んできた。


《あの増援は、今さっき、現れたばかりよ》


「マジかよ……」


 先ほどまで3種類のモンスターが各1匹ずつだったのが、今は目につくだけでも10は超えてる。


 ゲージの残量からして、英雄叙事詩(ヒーローモード)の残り時間は約2分


 もはや猶予はない。


 とにかく可及的速やかにモンスターを倒さねば、戦況は悪化の一途を辿るのみ。

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