第80話 総力戦
「あの数じゃあ、敵を選んでる余裕がねえ。長光さん、サクナ……とにかくライオン頭の魔法は、何としてでも止めてくれ!」
秀矢は返答を待つことなく、モンスターの群れに飛び込んだ。
「無刃残月!」
無数の分身の秀矢が映し出される。
ホログラムは、今にも斬りかからんばかりに刃機を構えてる。
モンスター達は動揺してるのか、一様に首を振ってる。
《あいつらは視覚に頼るみたいね》
仕向けられてたヘイトが薄くなる。
敵の動揺に乗じて、無数の分身に紛れ、斬りかかる。
最初に刃を向けたのは、獣の悪魔。
属性をまとってない刃機の刀身が、獣の悪魔の皮と肉を斬る。
傷口から黒い血があふれる。
しかし、骨の切断までは至らない。
無刃残月――分身でヘイトを分散しつつ、渾身の斬撃を繰り出す剣スキル。
視覚に依存する敵には効果てきめんだが、今の秀矢にはウルト無しでは使えない。
(致命傷ではないが無属性でも手応えがある。これは大きな収穫だ)
普通の剣スキルが通用するか否かは、秀矢にとって戦いの大きな境目となる。
何故なら、属性攻撃にはスキルを使う必要があるけど、無属性攻撃は最悪スキル無しでもダメージを与えられるからだ。
立て続けに巨躯の悪魔、吸血鬼にも斬撃を浴びせる。
どちらも無属性の刃が通る。
この間、約5秒。
続けて、確実にモンスターを斬り伏せる事に注力する。
分身によって動揺したモンスター達が、態勢を立て直す前にケリをつけるためだ。
先ほど放った浄化散弾のおかげで、聖属性が有効なのは検証済み。
時間経過で分身が消える。
敵の動きが一瞬だけ止まる。
その隙を見計らうように、長光と日下部が巨躯の悪魔の前に立つ。
サイコアームズの巨腕が、巨躯の悪魔を力業で抑えつける。
獣の悪魔の爆発に注意を払うことは、決して他の事をおろそかにするわけではない。
二年にのぼる実戦経験の成せる所業だろう。
「光魔斬!!」
巨大な光の刀身が獣の悪魔を切り裂いた。
上半身と下半身、それぞれの断面から黒い血が止め処なく吹き上がる。
迫りくる吸血鬼達。
秀矢たちから距離を置くように離れる獣の悪魔達。
一匹は上空に飛び上がり、もう一匹は奧の階段の方に引いた。
巨躯の悪魔達と相対してた長光と日下部の両名は、意識だけでなく持ち場を獣の悪魔達に移す。
日下部はブーツ型刃機を活かした超人的な跳躍力で飛び上がる。
長光は、奧に退いた獣の悪魔の方に向かった。
秀矢は、向かってくる吸血鬼達に向けて、一人ずつ巨大な光の刀身で斬り伏せた。
敵のデータが不足してる中、確実に致命傷を与えられる圧倒的な火力でもって吸血鬼を撃退。
一体の半身が秀矢のもとに飛来し、吸血鬼の魔の手が秀矢の体に触れる。
その瞬間、全身に重りを括りつけられたような倦怠感に見舞われた。
ゲージの減少幅が一瞬だけ増えたのが目に映る。
吸血鬼の手が触れたのは一瞬だけで、上半身はすぐに地面に落ちた。
体が軽くなる。
《次から吸血鬼は射撃で応戦ね。ミスるとゲージと生命力を持っていかれるわ》
「次がないことを祈るよ」
秀矢は、周囲を観察した。
二匹いる獣の悪魔には、長光と日下部が応戦する段取り。
ボスは荒川がひきつけてる。
ボスのローブに黒い染みが散見される。
戦いの様子を見るにボスの魔法の大部分は、荒川の方に仕向けられてる。
(どおりで、こっちに飛んでくる魔法が少ないわけだ)
吸血鬼は三体とも先ほど倒した。
だから次は、巨躯の悪魔に狙いを定める。
三体いる巨躯の悪魔は、いずれも荒川に視線を送ってる。
一体が冷気の魔法を放とうとしてるのが見えた。
「火葬散弾!」
刃機の引き金を引く。
先端から赤熱の砲弾が射出。
砲弾が炸裂し、極微小の赤熱の粒子が三体の巨躯の悪魔に降りかかる。
体を押し潰すような禍々しい殺意を浴びる。
巨躯の悪魔のヘイトが秀矢に向いたようだ。
火葬散弾で生じた一瞬の隙を突いて、巨躯の悪魔達の中心部に飛び込む。
「銀華一刀!」
秀矢の中心に、白く輝く大きな円盤が現れ、巨躯の悪魔達の胴体を斬り飛ばす。
円盤の正体は、刃の軌跡。
銀華一刀――自分の周囲にいる敵勢を一掃する神速の横薙ぎ。
本来は無属性の剣スキルだが、今回は敵勢に飛び込む際にあらかじめ聖なる力で聖属性をまとわせたため、刃の軌跡が白い円盤を創り上げる形となった。
一振りで複数の敵をまとめて倒すには、うってつけの剣スキルだが、秀矢にはウルト無しでは使えない。
ましてや聖なる力と合わせるのは以ての外。
《うん、エネルギーの消費は大分抑えられてるわ》
「さっきの戦いで巨躯の悪魔の大よその生命力を算出してくれた亜由美おかげだ。まさに相棒様様だ」
《えへへ、どういたしまして》
すると、上から光が照らされた。。
同時に、秀矢の近くに日下部が降りてきた。
それだけで、光の正体を察した。
秀矢は刃機のグリップを握り、刃機の先端を上に向けた。
レティクルを頭に寄せる。
頭に狙いを定めた理由は、秀矢には爆発に対抗する属性スキルがないため。
通常のエーテル弾は無属性で、それを詠唱中の白い球体に当てることも考えたが、魔法に対して下手にエーテル弾を当てることで爆発を促進し、同僚を巻き込むリスクを考慮して止めた。
《照準オッケー》
空を飛ぶ獣の悪魔の頭部にレティクルが重なる。
刃機の引き金を引く。
「浄化砲!」
先端から白く輝く光線が発射され、狙い通りに獣の悪魔の片腕に直撃する。
直撃した腕の表皮に、焦げ跡のような黒い模様を描く。
悪魔の弱点と思しき聖属性。
ダメージは通ってるようだ。
しかし、詠唱が止まる様子はない。
「抑えて、師匠。無駄撃ちしたら、エネルギーが勿体ないよ」
「今、あれを撃たれたら――」
「大丈夫、アレは私が責任をもって処理するから。その代わり、トドメはお願いね」




