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第81話 不発

 秀矢は日下部の事を無視して、レティクルを再び頭部に重ねようとした。


 ――が、しかし、刃機を握る腕が思うように動かない。


《先輩の言うことには、素直に従いなさい》


「んな事、言ってる余裕ないだろ。今、打ち込まれたら相手の思うつぼだ」


《ゲームや戦闘のセンスなら秀矢の方が上かもしれないけど、奈央姉は2年多くダンジョンに潜ってるのよ。それもお金のために。そんな人が出来もしない事を口にして、命を投げ出すようなマネするわけないでしょ。……秀矢と違って》


「人を自殺志願者みたいに言うな」


「あみちゃんの言い方はともかく、ここでは私が2年先輩なの。だから師匠、たまにでいいから、私の事をアテにして」


 日下部が跳躍する。


 そして、ハンマー型刃機を白い球体に目掛けて振り下ろした。


 敵の攻撃を相殺する日下部のウルト、鎚消滅(デストラクションゼロ)が繰り出された。


 一瞬の明滅。


《高エネルギー反応、消失。うまくいったようね。秀矢!》


疾風刃(しっぷうじん)!」


 次の瞬間、空に浮かぶ獣の悪魔の首を秀矢が刃機で刺し貫いた。


 疾風刃――神速の突きを繰り出す剣スキル。


 離れた敵でも瞬く間に詰め寄る高速移動と堅牢な外装をも容易く貫く突き技。


 遠くにいる敵に対し非常に有効な択の一つだが、今の秀矢にはウルト無しでは使えない。


 今回、この技を使用した理由は二つ。


 一つは、エネルギーの倹約。


 秀矢が保持するエネルギーは主に、刃機に搭載されてるウロボロスゲージ、人間が誰しも持つスタミナ、最後に秀矢自身が所有するユニークエネルギーのエーテル。


 しかし、無属性の剣スキルは、主にスタミナで他の二つと比べて、時間経過による回復量が多いのがメリット。


 そして、英雄叙事詩(ウルト)の稼働時間を少しでも長くしたい場合は、ゲージまたはエーテルの消費量が少ないスキルを使い続けることが肝要。


 もう一つは、確実に仕留められるスキルだから。


 刃機による斬撃が有効なのは既に実証済みなので、後は急所と思しき所に剣を突き立てるだけ。


《生体反応の消失を確認。急所は人間とほぼ同じと見て良さそうね》


「そうだな……次は――」


 空中で視線を獣の悪魔と対峙してる長光の方に向けた。


 高エネルギー反応はない。


 どうやら、サイコキネシスで抑え込んでるようだ。


(この距離なら問題ない)


 秀矢は自然落下が開始する直前に、疾風刃(しっぷうじん)を使用することにした。


 無論、地上なら両足で地面を蹴りだすことで推進力を生み出せるが、空中はそうはいかない。


 では、どうするのか?


 答えは、一瞬だけゲージを消費して、刃機からジェットエンジンのような推進力を生み出すのだ。


 秀矢は空中から一瞬で、地上にいる獣の悪魔に詰め寄り、喉に刃機を突き立てた。


「助かったよ、時田くん」


「どういたしまして。長光さん、これで取り巻きは全滅です」


《増援の気配もないし、後は荒川次第ね》


「わかった。荒川くんも気づいてると思うけど念のため、準備が整ったことは僕から連絡を入れておくよ。……連絡は完了。僕たちは、ボスに注意を払いつつ、増援の警戒にあたろう」


 秀矢たちは、ボスのいる位置まで戻った。


 凄まじい気迫でボスと相対する荒川。


 近くには、日下部がいる。


 余計な手出しをするつもりはないようだ。


「時田くん、加勢したい気持ちはわかるが堪えてほしい。今回のボスは、モンスターを召喚する能力を持ってる。うかつに手を出したから、彼の足を引っ張るだけでなく、無駄なエネルギーを消耗するだけだ」


「わかってます。……無策で火中に飛び込まないこと。戦術の鉄則ですから」


《秀矢、増援の警戒は私にまかせて》


「ありがと」


 秀矢は、ボスと荒川の戦いを注視した。


 荒川はとにかくボスに向かって、拳と蹴りを繰り出してる。


 ただ素人目でもわかる位、一挙手一投足が洗練されており、ボスを肉薄してる。


 ボスの方は、荒川が詰めて来たら、即座に離れて魔法を繰り出してばかり。


 ただ今までの戦いと違い、今回はボスの魔法がこちらに飛んでくる頻度が極端に少ない。


 気掛かりだが、その理由までは見当がつかない。


 付いては離れるを繰り返す攻防の最中、荒川が仕掛けた。


 両足を地面につけ、上半身を捻り、引き絞った右腕。


 今まさに渾身の正拳突きを放たんとする構え。


 有効範囲は完ぺき。


 後は、右ストレートをボスの弱点に当てるのみ。


 ログに、三千世界無双拳(フィニッシュブロー)の使用が表示された。


 直後、荒川の右ストレートが放つ。


 繰り出された拳がボスの腹部にめり込む。


 ――が、それまでだった。


 荒川の焦りが顔に滲み出る。


(不発……外したのか? しかし――)


 拳が当たる瞬間の映像に、引っかかりを感じる。


 それが何なのか、解明しようと思索しようとした瞬間、荒川の様子が急変した。


 両手を自分の首に添え、大きく開いた口が魚のようにパクパクと開閉する。


 苦しみを体で主張してるようだ。

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