表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/165

第82話 適応

 しかし、次の瞬間、荒川の体がこちらに向かって飛んできた。


 荒川の体は、長光の近くに来るとピタっと止まり、ゆっくりと地面に落ちた。


 どうやら長光のサイコキネシスで引っ張り上げたようだ。


「大丈夫かい? 荒川くん」


「がっ……は……」


 荒川は懸命に呼吸を整えようとしてる。


「魔法で汚染された空気で、呼吸器がやられたみたいだ。日下部さん」


「任せて」


 日下部が右手でハンマー型刃機を振り上げた。


「サクナ! そんなもの振り上げて、何するつもりだよ!」


「こうするの」


 のんびりとした口調で答えた日下部は、何のためらいもなく荒川に目掛けてハンマー型刃機を振り下ろした。


 ハンマーの平らな面が荒川に接したところでピタっと止まる。


「助かったぜ、姐さん」


「どういたしまして」


 日下部はハンマーを持ち上げながら言った。


 荒川が立ち上がる。


「サクナ、病気治せるのか?」


「だいちゃんのはエーテルが原因だからね。だから、打ち消せたの」


「ウルトの特性を利用しただけで、治療じゃないんだな」


「うん。だから、細菌やウイルスに癌細胞、遺伝や免疫不全が原因の症状は治せないの。私がやったのは、治療じゃないから」


 荒川の命が助かったことに安堵する。


 その直後、全身に凄まじい威圧感が圧し掛かる。


 続けて、メッセージに増援の知らせる警告文が出てきた。


 ボスの周囲に、巨躯の悪魔、獣の悪魔、吸血鬼が現れた。


 数は先ほどよりも多い。


《振り出しに戻っちゃったね》


「すまねえ、みんな。俺のせいで……」


 荒川が申し訳なさそうに言った。


《仕方ないわよ。さっきのは、相手の方が一枚上手(うわて)だっただけ》


「空閑さん、何かわかったのかい?」


《私の予測だけどね、こいつ――荒川が右ストレートを撃った瞬間、狙いすましたかのように一歩踏み出したの。今、その部分を切り取った動画を送ったから》


 1枚のウィンドウが開き、尺が約1秒の動画が再生開始する。


 亜由美の言う通り、荒川がウルトを使った瞬間、避けるどころか上体がやや前のめりの姿勢になってる。


 荒川のウルトが最大効果を発揮する要因は力加減、弱点、チャンスの3つ。


 その内、力加減とチャンスの発見は本人次第だが、弱点だけは相手に依存する。


 ボスが前のめりの姿勢になったのは、おそらく弱点を守るため。


 秀矢の中であらかた整理がついた時、長光が口を開いた。


「学習は、僕たちの専売特許――そう思ってたんだけど、その認識は改めた方がよさそうだ。この2か月間、相手も同じように学習してたみたいだね。ほら、三千世界無双拳(フィニッシュブロー)を使ったのは今日が初めてじゃないだろ?」


「まあ、何度も使ったな。当たんなかったけど」


《当たらないのは、ロマン砲の宿命ね》


「――で、おそらくボスは、三千世界無双拳(フィニッシュブロー)の特性を、度重なる荒川くんとの戦いの中で見抜いたんだ」


「そんなバカな話が……だって荒川さんのウルトは、ちゃんと当たらないと効果がないんですよ?」


「ウロボロスゲージ――お館様の話では、そのエネルギーを貯蔵する機関の材料一部に、ダンジョンの鉱物が使用されてるとのこと。つまり原住民であるボスなら、僕たちの刃機を見て、それとなく察して、何をもたらすのか予測がついて、注意を払うのは当然だろう。僕たちがガスの匂いを嗅ぎ取ったら爆発の危険性を連想して、窓を開けて空気を入れ替えたり、換気ができないなら、その場所から離れるようにね」


「それじゃあ魔法攻撃が控え目なのは、荒川さんのウルトを警戒してた、という事ですか?」


「可能性は大いにある。人型なのは、見掛け倒しじゃないってこと。血の色が黒いのに、学習意欲が高いようで。現にほら――」


 長光の視線がボスに向く。


「敵は、待ちの姿勢に変えたようだ」


 今更ながら戦闘中なのに、こんな悠長に話をする時間がある事の異様さに気づく。


 あれだけの手勢がいるのに、何も仕掛けてこない。


 もし相手が、こちらの手札を把握してるなら、待ちの姿勢も戦局を有利にするために違いない。


「確かに厄介ですね。俺のウルトの弱点まで見抜かれてるみたいです」


《秀矢の弱点?》


「時間だよ。ほら、今までのボス戦は、長くても5分くらいしか戦ってないだろ?」


《そっか、秀矢のウルトは最大で3分だから》


「ボスは長期戦に持ち込めば、俺達に勝てると踏んでるに違いない」


「そうはいっても、僕たちのやる事は変わらない。ボスが荒川くんのウルトを警戒してるということは、作戦の有効性を示してるからね」


《当の本人は相当、凹んでるみたいだけど》


「荒川くん、気に病むことはない。――1回でダメなら10回、10回でも足りないなら100回、それでも失敗するなら勝つまで続けるだけ……いいね?」


「あ、ああ……」


「長光さんってクレバーだと思ってたんですが、意外と思いやりがあるんですね」


「今の言葉は、時田くんの動画から引用しただけだよ」


「……え!? 俺、そんな事、言ってたっけ?」


《言ってたわよ。ちなみに、引用元のセリフを言ってる動画のタイトルは――》


「言わなくていいよ! 恥ずかしいから!」


「時田くんの事情は置いといて、とにかくチャンスは僕たちがいくらでも作る。だから荒川くん、失敗を恐れずに何度もトライしてほしい」


「ああ。今度こそ仕留めてやるよ」


 荒川が精悍な顔つきでハッキリと答えた。


「そうちゃん、師匠。私達は、邪魔者を退治しましょ」


「でもサクナ、腕は大丈夫か?」


 日下部の左腕には、見るに堪えない多くの痣がある。


「師匠、何のために腕が3本があるか知ってる? それはね、片方がダメになっても大丈夫なようにするためよ」


 日下部は得意満面の笑みを浮かべつつ、右手1本でハンマー型刃機を軽々と担ぎながら言った。


(さすが、サクナ。2年先輩なだけあるな。……それに引き換え俺は、まだまだだな)


 日下部のウルトの正確な特性は相殺に失敗した時、反動はハンマーから腕、体に伝うこと。


 この特性を理解すれば自ずとリスクの軽減方法が導き出せる。


 それはつまり、片手でウルトを使うこと。


 ハンマー型刃機を片手で振り回せるなら、リスクを片方に寄せた方が戦闘能力への影響が少ないと判断したのだろう。


《秀矢、ウルトの残り時間は40秒よ》


「それだけあれば十分だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ