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第77話 荒川大樹の欠点

 荒川の目つきが鋭くなる。


 図星のようだ。


 しかし、矛先は長光に向いた。


「リーダー、時田に話したのか?」


「……もしかして、荒川くんがサムライになった経緯の事?」


「そうだ」


「話してないよ。僕に、他人のプライベートを触れ回る趣味はない」


「それじゃあ、空閑か?」


《私はあくまで秀矢のアイボーよ。ステータスやスキルは見れても、他人の個人情報を閲覧する権限は無いわよ》


「姐さん……は、違うか」


「まあ、私には、そういった権限はないからね」


「……」


「ひとまず、師匠の話を最後まで聞いてみましょ。こういう時の師匠は、きっとためになることを言うから」


《え? 何、秀矢のこと知った風な口聞いてんの?》


「いやあ私、小学校の頃、師匠とチーム組んでたし――」


《きいいいいいいいいい! 何よ、その幼馴染面! 私の方が秀矢と一緒に組んだ時間、多いんだからね!》


(コラボのための即席チームだけどな)


「フン、だ! 私はあみちゃんと違って、リアルで師匠と一緒に大会に出場して、優勝までしたんだからね!」


「……悪い、時田。とりあえず何でそう思ったのか、その根拠を聞かせてくれ」


「わかりました。俺が最初に引っかかりを覚えたのは、2週目のボス戦。荒川さんは、ボスに近づくまでは順調だったのに、何故か攻撃がワンテンポ遅かったように見えたんです。当初は、ボスの動きが早いのかな? と思ってたんですが、次に荒川さんがボスに詰め寄った時は、すぐさま攻撃を繰り出した。何でこんな違いが生まれたのか? この時は、誰にでもよくある不安や緊張の類だと思ってました。――でも、確信したのは一か月前、治療がてら屋敷に泊ってた時に、俺がみんなの戦闘ログを見返した時です」


「一か月前というと、お前がヘマして怪我した時か」


「あの時は、本当に焦ったよ。時田くん」


「ダメだよ、師匠。役割を無視して、勝手に突っ走ったら危ないんだからね、メッ!」


《そうそう、みんな。もっと言ってやって》


「ダンジョンよりも深く反省してますって、そんな事より今は俺の事は放っておいてください。――話、続けますよ。一か月前に見て確認に変わった戦闘ログは、俺の2回目の任務――つまり荒川さんがソロで2階で戦ってた時のログです。人型モンスターのローグには鳩尾に一発軽く入れただけに見えました。しかし、それ以外のモンスターは姿形が変わる程、容赦なく叩きのめしてるんです。俺からすれば、あの時の荒川さんの勢いなら、ローグ相手でも思い切り叩き伏せる方が普通なんです」


「……」


 荒川は、否定も肯定もしない。


 長光と日下部は、まるで真相を知ってると言わんばかりに、目を見開いてる。


 事情はある。


 しかし、誰も口にしない。


 それはすなわち、事の深刻さを表してる証左。


《あー、言われてみれば確かに、私もそういう場面、何度か見たことあるかも。でも、仕方ないんじゃない? 荒川は空手の経験者――つまり日頃から人間相手に蹴る殴るしてたわけじゃない?》


「空閑、武道を何だと思ってんだ!?」


《まあまあ落ち着いて……私が言いたいのは、なまじ競技で人間を殴ったり蹴ったりしてた方が、いざという時に躊躇しちゃうんじゃないかなってこと。ほら、達人は手加減できるけど、素人は加減を知らないでしょ? 昔のニュースサイトで、プロの格闘家が素人に襲われた時、自分が手を出すと大事になるからって、素人に一方的に殴られ続けた話を見た覚えがあるわ》


「空閑のくせに真っ当なことを言ってやがる……死んだおかげか?」


《何? 私がバカとでも言いたいの?》


「はいはい、だいちゃん、あみちゃん……二人とも落ち着いて」


「勘違いしてほしくないのは、俺は荒川さんの事情は知らないし、今更どうこう口出しするつもりはありません。人間、誰しも長所と短所、得意不得意がありますから。――大事なのは、その先です。荒川さんが人間――人型モンスターに思うところがあるなら、それを作戦に織り込む必要があると考えてます。不安要素は可能な限り、言語化して共有した方がいいですから」


「さすがランペイジの世界王者。チーム戦には、一日(いちじつ)(ちょう)があるみたいだね」


「今回のボス戦では、俺に出来ない事が多いので……」


「荒川くん、時田くん、そんなに落ち込まないでくれ。さっきは、荒川くんのウルトを主軸にする話をしたけど、これはあくまで現段階の話。ボスは、前半と後半でまるっきり別物になる。もしかすると再生能力が消えるかもしれない。――そこでだ、基本的な動きは、さっき言った通りで行くとして、ダメージソースについては、崩壊の兆し(デッドリービジョン)で死んだ人間が担当する、という事にしようと思う」


 崩壊の兆し(デッドリービジョン)の特性を思い出す。


 ――パーティの最重要メンバーが死ぬ映像。


 後半戦で相手が別物となるなら、ダメージソースが変わる可能性は十分にある。


「異議なし。わかりやすくて助かります」


 いの一番に秀矢が声を上げた。


「うん。私もそうちゃんの提案に一票」


「リーダーの案にのった」


「ありがと。本音を言えば、もっと先延ばししたかったんだけどね。本番は、ボスと対面した時に崩壊の兆し(デッドリービジョン)が発動しないこと。これ、お館様も承知してるからね――」


 長光がスマホの画面を提示する。


 画面にはメッセージが映し出されてる。


『こちらで戦闘ログで長光のアルティメイトアビリティが発動しなかった事を確認した。サムライ衆の諸君、法龍院家現当主より告げる。次週、第6階層の番人を討伐せよ。不参加を希望する者は、すべからく士道不覚悟と見なす。以上』


《秀矢、こっちにもじっちゃんからメッセージ来てたよ》


「今、見たからいいや」


「後半戦については他にもあって――」

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